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第八話 聖者ははかなくも夢を語る
聖者ははかなくも夢を語る 七
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レオはあのひとたちの魂を回収しなかった。
「もしかしたら森の魔法はあの者たちの魂で維持されているかもしれんからな。下手に手を出さん方がいい」
ぼくには魔法のことはよくわからない。とりあえずレオがそう言うのならそうした方がいいのだろう。それにぼくもあそこには近寄りたくない。
ほかの遭難者の死体が見当たらなかったから、すべてがあそこに集まるわけじゃないのだろう。なにはともあれ一例を見ることができた。それでレオは満足していた。
翌朝、ぼくとレオはジェローム神父を見送っていた。
彼はひと晩館に泊まり、一宿一飯と、そして昨日のことに深々と頭を下げた。
「いろいろとありがとうございました」
「なに、われも勉強になった。それにボールも見つかったことだしな」
とレオはひとの頭ほどの大きさの、ネズミとチーズの模様のボールを持って見せた。
「しかし、まさかあんなことになっているとは残念だったな」
「はい……どうして彼らはあんなことをしたのでしょう。肉も菜肉も食べず、だれも傷つけぬと約束したはずなのに……」
そう言ってうなだれる神父に、レオはあっけらかんと言った。
「ま、状況だろうな」
「状況……ですか」
「あやつらは仕方がないと言ったが、まあその通りだろう。どうしても生き延びたいと願えばああするほかない」
「……そういうものでしょうか」
「かつて世界の様々な地域で飢饉が起きたが、そのときもずいぶん共食いがはやったそうだ。中には生きた人間を殺して食ったという話まである」
「おお、恐ろしや……」
「恐いだろう。だがな、汝もそうなってもおかしくはないのだぞ」
「わ、わたくしがですか?」
「そうだ。汝は生き物を傷つけぬなどと崇高な誓いを立てているようだが、そんな思想を持てたのは平和だからだ。農耕が広く普及し、またこの国は戦争も起きていない。そんな安寧の中にいるから綺麗事が言えるのだ。ひとたび情勢が変わればそんなことは言えなくなる。豆が手に入らなくなればどうしても肉を食わなければならない。最悪の場合、友の肉を食らうことさえあるやもしれん。あやつらのようにな」
そう言われ、神父はうっと嗚咽を漏らした。思い出したのかもしれない。あるいは彼らのことを悲しんでいるのかもしれない。
「よいか、食い物を選べるなど、これほど贅沢なことはないのだと知れ」
「はっ、おっしゃる通りでございます」
再び神父は深々と頭を下げた。
そして彼は旅立った。その別れ際にレオは言った。
「汝、この森は元々魔物の巣窟だ。我々が天上に戻ったあとは再び魔窟となる。二度と訪れてはならんぞ」
「はい、生涯の誓いとします」
「それからかならず日の出、食事、就寝の前には祈るのだぞ」
「はい、レオ様はこの世で最もお美しい!」
「うむ!」
またやってる。もうどうでもいいや。
そんなこんなでジェローム神父は森を出て行った。その背中は影を背負っているように見えた。
彼の姿が見えなくなり、レオは幻術を解いた。ぼくはやっと股間がスースーしなくなり、ふう、とため息を吐き、言った。
「ねえレオ」
「なんだ?」
「あのひとこれからどうするんだろうね」
「さあな。だがまあ、あの考えを広めていけば、いろいろあるだろうな」
「いろいろって?」
「特殊な考えというのは、本当に立派な人間と、ひどくねじくれた人間に好まれる。立派なヤツが気に入れば、その本質通りに生きるだろう。だがおかしなヤツが気に入れば、おかしな方向にねじ曲げて行くだろう」
「ふうん?」
「見たところあの神父はなかなかの傑物だ。きっと苦労して豆という答えを見つけ出したに違いない。顔に貫禄が出ている。だからきっと、あの思想はそれなりに広まるだろう。だがその先に幸福があるかどうかは別だ」
へえ? よくわかんないや。自分の考えが広まればいいに決まってるじゃないか。なんでそんな憂いを感じてるんだろう。
と、そんなぼくの背中から、
「おい、もうあれは帰ったっぺか?」
ウォルフが不機嫌そうに言った。
「おお、ウォルフか」
「まったくよー、昨日はヤツのせいで全然勉強できなかったっぺよ。明日にゃおれも帰んなきゃいけねえしよ、今日はたっぷり教えてもらうべ」
「フフフ……そうだな」
レオはニヤリと笑った。
「だがおまえが本当に教えてもらいたいのはこっちじゃないのか?」
「あっ」
レオはウォルフの背中を抱き、彼女のお尻をわしづかみにした。
「ば、バカ……なにするべ」
「昨夜はあの神父がいるからと言っておとなしく寝てしまったからなぁ。だが本当はおまえもこうしたかったんだろう?」
「ん、んなわけ、ねーべよ……」
「ほう? だがずいぶん息が荒いじゃないか。ほら、こうして乱暴に揉みしだかれるのが好きなんだろう?」
「ちが……あ……」
「ほら、どうした。魔法はかけていないぞ。抵抗すれば一発だ。どうした、ほら、どうした」
「やめろ……あ、あ……」
レオは意地の悪い声でねっとりとウォルフの耳元にささやいた。やめろと言いながらウォルフはされるがままにされている。ふたりとも息が荒い。
「ちぇっ」
なにさ、あんなにイチャイチャして。レオはぼくの妻だよ。ぼくだけのものだよ。それがあんなふうに独占してさ。
ぼくは館に戻ろうと思った。なにをするでもない、ただふたりが仲むつまじくしてるのを見るのがいやだった。すると、
「すまんな、アーサー」
「レオ」
ぼくは振り返った。レオはウォルフの服の中に手を突っ込みながら、
「これも状況だ。ウォルフは明日には帰ってしまうんだ。なら少しでも多く愛したいじゃないか」
「レオが愛してるのはぼくじゃないの?」
「ああ、おまえだ。だがこいつもかわいくてたまらんのだよ」
「わかんないよ」
「わからなくていい。だがこれだけは言っておく。わたしがこの世でなによりもだれよりも愛しているのはおまえただひとりだ」
「……」
じゃあウォルフから手を離せばいいじゃないか。ぼくだけを愛してるってんなら、ほかの女なんかに手を出したりしないはずだろ。
「アーサー、嫉妬しているな。うれしいぞ」
なにがうれしいだ。ぼくは悔しいよ。
「フフフ、心配しなくていい。おまえがそんなふうに嫉妬できるのは余裕があるからだ。なに、もう嫉妬などするヒマはない」
「へっ?」
と思った瞬間、
「わあっ!」
突然ぼくの両手足が巨大なイカの足に絡まれ空中に持ち上げられた。
「な、なにこれ!? 助けて!」
ぼくはわけもわからず悲鳴を上げた。いったいなにが起きてるっていうんだ!
「ウフフフ。お久しぶりです、アーサー様」
「その声は——!」
ぼくは地上数メートルまで持ち上げられたかと思うと、一気に地面すれすれまで降ろされた。そんなぼくの目の前で、青い半透明の美女が両手を五本ずつのイカの足に変え、にょろにょろとうねらせていた。
「ヴルペクラ!」
「ああ、お名前を呼んでいただけた。それだけでしあわせでございます」
ヴルペクラ——かつて男にもてあそばれ、にせものの悪魔にだまされ死んでしまったあわれな貴族の娘だ。しかしいまは悪魔パイシスの眷属となり、人類をはるかに凌駕する力を持つ一種のバケモノと化している。
そんな彼女はぼくを好いている。
「ああ、どれだけお会いしたかったことでしょう。どれだけあなた様のお顔を見たかったことでしょう」
「ど、どうしてここに……?」
「逢いに来たからでございます」
「そ、それはいいけど……突然こんな驚くよ」
「申し訳ありません。ですがもう我慢できないのです。なにせ気の遠くなるほど長い年月、あなた様のことだけを考えてきました」
「は?」
長い年月? なにを言ってるんだろう。だってぼくとヴルペクラは出会ってまだ数ヶ月しか経っていない。どういうこと?
と、気がつけばぼくの横に人間大のタコ——悪魔パイシスが立っていた。
「よお、アーサー」
「ぱ、パイシス」
「なあすごいだろ。ヴルペクラは触れるんだぜ?」
「えっ」
あ、そういえばそうだ! 彼女は死んで亡霊になって、それから悪魔の眷属になったから、つまり”かたちのないもの”だ。それがこうしてぼくに触れている。
「本当だ! どうして?」
「修行したのさ」
「修行?」
「ああ。どうにかして亡霊でありながら”かたちのあるもの”に触れられるようになるかなーって、いろいろとがんばってみたのさ。そしたらなんか知らないけどできるようになったんだよ。まあ、死ぬほど大変だったけどね。宇宙が七周するくらい時間かかっちゃったよ」
うちゅーがななしゅう? なんだそれ? 悪魔の時空は歪んでるからなぁ。でも口ぶりからして、かなり長い時間だってのは想像できる。
ヴルペクラは嘆くようなため息を吐き、
「途方もなく永く、そして一週間ほどでした」
と言った。ううん、よくわかんないなぁ。
「やっと……やっとお会いすることができました」
言いながらヴルペクラはうっ、うっ、と涙を流した。そして左右の触手を一本ずつ人間の腕に変え、ぼくに抱きついた。
「ああ、あたたかい……」
「ヴルペクラ……」
「アーサー様、抱いてください。もう耐えられません。渇いているのです。狂おしいほど焦がれているのです。どうか、どうかこのあわれな亡霊をなぐさめてください! どうか!」
そうして彼女はボロボロ泣き出した。こ、こんなの絶対断れないよ!
そんなぼくらを見て、レオが言った。
「フフフ。言っただろう、状況だと。人間など状況次第だ。おまえはヴルペクラを抱くが、わたしをだれよりも愛しているのだろう? わたしもおなじだ」
「うぐぐ……」
ず、ずるいや。そんなのずるいや! だけど、ああ!
「申し訳ありません! もう、お返事を待つこともできないのです!」
とヴルペクラが言った瞬間、
「わあっ!」
ぼくはどこかに行った。森でも館でもない、よくわからないところに浮いていた。
次の瞬間、十本のイカの足が服の中を這い回った。
「わあああー!」
それからしばらくしてぼくは館に戻って来た。そう、”しばらくして”だ。
時間jは十分も経っていなかった。ぼくはレオを見てこう言った。
「久しぶりだね、レオ……会いたかったよ」
「もしかしたら森の魔法はあの者たちの魂で維持されているかもしれんからな。下手に手を出さん方がいい」
ぼくには魔法のことはよくわからない。とりあえずレオがそう言うのならそうした方がいいのだろう。それにぼくもあそこには近寄りたくない。
ほかの遭難者の死体が見当たらなかったから、すべてがあそこに集まるわけじゃないのだろう。なにはともあれ一例を見ることができた。それでレオは満足していた。
翌朝、ぼくとレオはジェローム神父を見送っていた。
彼はひと晩館に泊まり、一宿一飯と、そして昨日のことに深々と頭を下げた。
「いろいろとありがとうございました」
「なに、われも勉強になった。それにボールも見つかったことだしな」
とレオはひとの頭ほどの大きさの、ネズミとチーズの模様のボールを持って見せた。
「しかし、まさかあんなことになっているとは残念だったな」
「はい……どうして彼らはあんなことをしたのでしょう。肉も菜肉も食べず、だれも傷つけぬと約束したはずなのに……」
そう言ってうなだれる神父に、レオはあっけらかんと言った。
「ま、状況だろうな」
「状況……ですか」
「あやつらは仕方がないと言ったが、まあその通りだろう。どうしても生き延びたいと願えばああするほかない」
「……そういうものでしょうか」
「かつて世界の様々な地域で飢饉が起きたが、そのときもずいぶん共食いがはやったそうだ。中には生きた人間を殺して食ったという話まである」
「おお、恐ろしや……」
「恐いだろう。だがな、汝もそうなってもおかしくはないのだぞ」
「わ、わたくしがですか?」
「そうだ。汝は生き物を傷つけぬなどと崇高な誓いを立てているようだが、そんな思想を持てたのは平和だからだ。農耕が広く普及し、またこの国は戦争も起きていない。そんな安寧の中にいるから綺麗事が言えるのだ。ひとたび情勢が変わればそんなことは言えなくなる。豆が手に入らなくなればどうしても肉を食わなければならない。最悪の場合、友の肉を食らうことさえあるやもしれん。あやつらのようにな」
そう言われ、神父はうっと嗚咽を漏らした。思い出したのかもしれない。あるいは彼らのことを悲しんでいるのかもしれない。
「よいか、食い物を選べるなど、これほど贅沢なことはないのだと知れ」
「はっ、おっしゃる通りでございます」
再び神父は深々と頭を下げた。
そして彼は旅立った。その別れ際にレオは言った。
「汝、この森は元々魔物の巣窟だ。我々が天上に戻ったあとは再び魔窟となる。二度と訪れてはならんぞ」
「はい、生涯の誓いとします」
「それからかならず日の出、食事、就寝の前には祈るのだぞ」
「はい、レオ様はこの世で最もお美しい!」
「うむ!」
またやってる。もうどうでもいいや。
そんなこんなでジェローム神父は森を出て行った。その背中は影を背負っているように見えた。
彼の姿が見えなくなり、レオは幻術を解いた。ぼくはやっと股間がスースーしなくなり、ふう、とため息を吐き、言った。
「ねえレオ」
「なんだ?」
「あのひとこれからどうするんだろうね」
「さあな。だがまあ、あの考えを広めていけば、いろいろあるだろうな」
「いろいろって?」
「特殊な考えというのは、本当に立派な人間と、ひどくねじくれた人間に好まれる。立派なヤツが気に入れば、その本質通りに生きるだろう。だがおかしなヤツが気に入れば、おかしな方向にねじ曲げて行くだろう」
「ふうん?」
「見たところあの神父はなかなかの傑物だ。きっと苦労して豆という答えを見つけ出したに違いない。顔に貫禄が出ている。だからきっと、あの思想はそれなりに広まるだろう。だがその先に幸福があるかどうかは別だ」
へえ? よくわかんないや。自分の考えが広まればいいに決まってるじゃないか。なんでそんな憂いを感じてるんだろう。
と、そんなぼくの背中から、
「おい、もうあれは帰ったっぺか?」
ウォルフが不機嫌そうに言った。
「おお、ウォルフか」
「まったくよー、昨日はヤツのせいで全然勉強できなかったっぺよ。明日にゃおれも帰んなきゃいけねえしよ、今日はたっぷり教えてもらうべ」
「フフフ……そうだな」
レオはニヤリと笑った。
「だがおまえが本当に教えてもらいたいのはこっちじゃないのか?」
「あっ」
レオはウォルフの背中を抱き、彼女のお尻をわしづかみにした。
「ば、バカ……なにするべ」
「昨夜はあの神父がいるからと言っておとなしく寝てしまったからなぁ。だが本当はおまえもこうしたかったんだろう?」
「ん、んなわけ、ねーべよ……」
「ほう? だがずいぶん息が荒いじゃないか。ほら、こうして乱暴に揉みしだかれるのが好きなんだろう?」
「ちが……あ……」
「ほら、どうした。魔法はかけていないぞ。抵抗すれば一発だ。どうした、ほら、どうした」
「やめろ……あ、あ……」
レオは意地の悪い声でねっとりとウォルフの耳元にささやいた。やめろと言いながらウォルフはされるがままにされている。ふたりとも息が荒い。
「ちぇっ」
なにさ、あんなにイチャイチャして。レオはぼくの妻だよ。ぼくだけのものだよ。それがあんなふうに独占してさ。
ぼくは館に戻ろうと思った。なにをするでもない、ただふたりが仲むつまじくしてるのを見るのがいやだった。すると、
「すまんな、アーサー」
「レオ」
ぼくは振り返った。レオはウォルフの服の中に手を突っ込みながら、
「これも状況だ。ウォルフは明日には帰ってしまうんだ。なら少しでも多く愛したいじゃないか」
「レオが愛してるのはぼくじゃないの?」
「ああ、おまえだ。だがこいつもかわいくてたまらんのだよ」
「わかんないよ」
「わからなくていい。だがこれだけは言っておく。わたしがこの世でなによりもだれよりも愛しているのはおまえただひとりだ」
「……」
じゃあウォルフから手を離せばいいじゃないか。ぼくだけを愛してるってんなら、ほかの女なんかに手を出したりしないはずだろ。
「アーサー、嫉妬しているな。うれしいぞ」
なにがうれしいだ。ぼくは悔しいよ。
「フフフ、心配しなくていい。おまえがそんなふうに嫉妬できるのは余裕があるからだ。なに、もう嫉妬などするヒマはない」
「へっ?」
と思った瞬間、
「わあっ!」
突然ぼくの両手足が巨大なイカの足に絡まれ空中に持ち上げられた。
「な、なにこれ!? 助けて!」
ぼくはわけもわからず悲鳴を上げた。いったいなにが起きてるっていうんだ!
「ウフフフ。お久しぶりです、アーサー様」
「その声は——!」
ぼくは地上数メートルまで持ち上げられたかと思うと、一気に地面すれすれまで降ろされた。そんなぼくの目の前で、青い半透明の美女が両手を五本ずつのイカの足に変え、にょろにょろとうねらせていた。
「ヴルペクラ!」
「ああ、お名前を呼んでいただけた。それだけでしあわせでございます」
ヴルペクラ——かつて男にもてあそばれ、にせものの悪魔にだまされ死んでしまったあわれな貴族の娘だ。しかしいまは悪魔パイシスの眷属となり、人類をはるかに凌駕する力を持つ一種のバケモノと化している。
そんな彼女はぼくを好いている。
「ああ、どれだけお会いしたかったことでしょう。どれだけあなた様のお顔を見たかったことでしょう」
「ど、どうしてここに……?」
「逢いに来たからでございます」
「そ、それはいいけど……突然こんな驚くよ」
「申し訳ありません。ですがもう我慢できないのです。なにせ気の遠くなるほど長い年月、あなた様のことだけを考えてきました」
「は?」
長い年月? なにを言ってるんだろう。だってぼくとヴルペクラは出会ってまだ数ヶ月しか経っていない。どういうこと?
と、気がつけばぼくの横に人間大のタコ——悪魔パイシスが立っていた。
「よお、アーサー」
「ぱ、パイシス」
「なあすごいだろ。ヴルペクラは触れるんだぜ?」
「えっ」
あ、そういえばそうだ! 彼女は死んで亡霊になって、それから悪魔の眷属になったから、つまり”かたちのないもの”だ。それがこうしてぼくに触れている。
「本当だ! どうして?」
「修行したのさ」
「修行?」
「ああ。どうにかして亡霊でありながら”かたちのあるもの”に触れられるようになるかなーって、いろいろとがんばってみたのさ。そしたらなんか知らないけどできるようになったんだよ。まあ、死ぬほど大変だったけどね。宇宙が七周するくらい時間かかっちゃったよ」
うちゅーがななしゅう? なんだそれ? 悪魔の時空は歪んでるからなぁ。でも口ぶりからして、かなり長い時間だってのは想像できる。
ヴルペクラは嘆くようなため息を吐き、
「途方もなく永く、そして一週間ほどでした」
と言った。ううん、よくわかんないなぁ。
「やっと……やっとお会いすることができました」
言いながらヴルペクラはうっ、うっ、と涙を流した。そして左右の触手を一本ずつ人間の腕に変え、ぼくに抱きついた。
「ああ、あたたかい……」
「ヴルペクラ……」
「アーサー様、抱いてください。もう耐えられません。渇いているのです。狂おしいほど焦がれているのです。どうか、どうかこのあわれな亡霊をなぐさめてください! どうか!」
そうして彼女はボロボロ泣き出した。こ、こんなの絶対断れないよ!
そんなぼくらを見て、レオが言った。
「フフフ。言っただろう、状況だと。人間など状況次第だ。おまえはヴルペクラを抱くが、わたしをだれよりも愛しているのだろう? わたしもおなじだ」
「うぐぐ……」
ず、ずるいや。そんなのずるいや! だけど、ああ!
「申し訳ありません! もう、お返事を待つこともできないのです!」
とヴルペクラが言った瞬間、
「わあっ!」
ぼくはどこかに行った。森でも館でもない、よくわからないところに浮いていた。
次の瞬間、十本のイカの足が服の中を這い回った。
「わあああー!」
それからしばらくしてぼくは館に戻って来た。そう、”しばらくして”だ。
時間jは十分も経っていなかった。ぼくはレオを見てこう言った。
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