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第十一話 悪徳! 海の家
悪徳! 海の家 一
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しあわせに生きているひとってどれくらいいるんでしょうか。
わたしは「いつか作家になって自由に暮らしてやる」という希望がこころの支えになって、日々のいやなことをなんとか耐えています。しかし目標がなかったら、はたして正気でいられたでしょうか。
生きる意味があればそれだけで救われます。たとえば子供の成長とか、この趣味がたのしいとか、出世したいとか、夢を追うとか、そういう支えがなければひとはただ生きるしかありません。
ただ生きるには才能が必要です。変わり映えのない毎日を改善しようとか、明日から変えようなどと考えず、よしなしごとに一喜一憂しながら死ぬまで生きる。それは目的地もなしに旅をするようなものです。
なんと難しいことでしょう。わたしには到底まねできません。しかしわたしは、それがこころからうらやましいのです。
第十一話 悪徳! 海の家
ぼくはアーサー。歳は十七。男にしてはなよっちい体で女みたいな顔だけど、代々近衛兵長を勤めた騎士の末裔で、父さんゆずりの剣の腕は天下に並ぶ者がないと思えるほど自信がある。
と言っても最近じゃ一切戦闘をしていない。なにせいまのぼくはレオの”ひも”だし、いざとなれば彼女がすべてを打ち負かしてしまうからぼくの出番なんてない。
レオは恐ろしく強い。膨大な魔力の持ち主で、魔法だけではなく呪術や幻術にも通じている。もし彼女がその気になれば、本職の魔術師団が束になっても敵わない。
しかも彼女は美しい。顔立ちはもちろん、その肉体は非の打ちどころがなく、芸術をはるかに超える究極の美女といっていい。
そんなレオが今日は水着姿を披露していた。
ぼくらは最寄りのビーチに来ていた。
夏も終わりが近づき、そろそろ仕事ついでに海水浴に行こうという話になり、ぼくらは馬車で一週間かけて海辺までやってきた。
ちなみに仕事とは「魂狩り」だ。
レオは魂売りをなりわいとしている。死者の魂を回収、保存し、それを客の要望に合わせて販売、またはそれに関わる魔術師業を働くことで大金を得ている。
しかし商品である魂を得るには他人の死と鉢合わせなければならず、それがこの商売の最もネックな部分だろう。
多様な客を満足させるには品揃えが必要だ。いくらレオが他人の死相が見える特異体質とはいえ、そう都合よく死と出会うことはできない。最近は薬師アクアリウスや呪術師ライブラといった固定客ができたから数も確保しなければならない。
そこでレオはかねてから計画していた「魂狩り」を実行することにした。
「海に行こう。水辺には霊が集まる。とくに海岸の崖ぎわなんかは最高だ」
なんでも自殺スポットにはひとびとの念が集まり、そこで悪霊たちがたむろしているという。
「その悪霊どもを捕らえる。質は悪いが数にはなるからな。それに悪霊は気の弱い人間をおびき寄せ自殺させるから、治安の改善にもいいだろう。まったく、わたしとしたことが仕事ついでに慈善事業までしてしまうのだから大したものだ。それに美人だしな。あっはっは」
そう言ってレオはぼくと使い魔全員に旅の支度をするよう言いつけ、師匠のアクアリウスに留守番を頼み、こうして海に来ている。
そして砂浜に立ち、色気のかたまりのような水着姿を見せていた。
「どうだ、美しいだろう」
レオは髪をかきあげ、扇情的なポーズをしてみせた。
「う、うん。すごく……」
ぼくはやっとそのひとことを言った。見とれるあまり呼吸が止まりそうだった。
美しいなんてもんじゃない。ふだんの裸体だってきれいなのに、こうして真っ赤なビキニを着て、鮮やかな海を背にまぶしい太陽を浴びると、夏のすべてが彼女を彩るためのものだとさえ思えてしまう。それほどに彼女は美しかった。
ぼくはあまりの美貌に息をのんでいた。すると横から、
「ねえねえアーサー様ー! 似合うー?」
とアルテルフがはしゃいで見せた。赤地に白い水玉模様のビキニと、腰に同色のパレオを着けており、フレッシュなかわいさにあふれている。
「うん、すごく似合ってるよ」
ぼくはお世辞抜きに言った。彼女の未成熟な体と茶色いツインテールにこれ以上の組み合わせはないと思った。
「かわいいー?」
「すっごくかわいいよ」
「わーい!」
そう言って跳び回ると、スカートのようなパレオがひらひらめくれてプリプリお尻が見え隠れした。
……お尻もかわいいなぁ。
おっと、いけない。妻以外の女性をいやらしい目で見るなんて騎士失格だ。レオを見てどんな気持ちになってもそれは自由だが、まさか使い魔の、それもこんな幼い少女のお尻を凝視するなんて絶対に許されない。
が、今日は視線の誘惑が多すぎた。
「あ、あの……変じゃないですか?」
そう言ってもじもじするのはレグルスだった。
彼女はやや筋肉の質感が浮かぶ褐色肌で、レオに負けないほどの色気を持っている。より女性的なレオと、健康的なレグルス。好みはひとによるだろう。
しかし彼女にはレオよりすごい部分がある。
それは胸だ。レオもそれなりに大きいが、レグルスはかなり大きい。片方の胸に赤ん坊の頭がすっぽり収まってしまいそうなほどだ。それが並の大きさの白ビキニに包まれているのだから、男なら当然視線が吸い込まれてしまう。
「や、やっぱり変……ですよね。わたくしのような野蛮人がこんなかわいらしい格好をして……絶対変です」
「ううん、そんなことないよ! すっごくきれいだ!」
「へえっ!? き、きれい!?」
「うん、すごく似合ってるよ!」
「はわわわ! アーサー様がわたくしめをおほめに……は、はひぃ!」
そう言ってレグルスは体を隠すように座り込んでしまった。顔は真っ赤で泣きそうになっている。
逆にショックだったのかな? なにせ彼女は生真面目で、性的なものが大の苦手だ。自分の体がきれいなんて言われたら恥ずかしいのかもしれない。
でもしょうがないよ。だって本当にきれいなんだもの。嘘はつけないよ。
しかし彼女以上に泣きそうな子がいた。
「やぁん、なんでわたしこんな水着なんですかぁ」
そうなげいているのはデネボラだった。
彼女は白と黒の牛柄の水着を着ていた。ほかの全員は自分で選んだのに、彼女のだけはレオが強制的に選んだものだった。
「おまえにピッタリなヤツだ。当日たのしみにしていろ」
と言っていたが、なるほど、ピッタリではある。なにせデネボラは牛のように胸が大きい。おそらくぼくの生涯で彼女より胸の大きな女性とは出会うことはないだろう。
そのかわりほかも大きい。全体的にぽちゃっとしていて、太っているとまでは言わないものの、腰をほんの少し横にかたむければわき腹に段差ができるほどポヨポヨだ。水着からこぼれそうな巨乳や全身の余計な肉を見ていると”だらしない”という言葉が頭に浮かぶ。
しかしその肉感はある種の魅力でもあり、男であればだれもがこころ奪われるだろう。もちろんぼくもだ。胸だけでなく、その全身に包み込まれたらどれだけやわらかくてプニプニするだろうと思わずにいられない。
ぼくは四人のすばらしい光景に背を向けた。これ以上見てたらひと前で欲情してしまいそうだった。
そんなぼくの視界にぽつねんと立つゾスマが映った。
よかった、助かった。こう言っちゃ悪いけど、彼女は欲望を刺激しない。細すぎる体は”肉欲”という言葉からほど遠いところにある。水着も上下一体型の紺色のもので、とてもかわいいが、いやらしくない。
そんなゾスマはしきりにわきをさすっていた。
「どうしたの?」
「ツルツルする」
ゾスマは相変わらずのヘラヘラ顔で言った。
「レオ様がわき毛と陰毛を剃れって言うから剃ったんだけど、すごくツルツルする。へへへ、おもしろい」
ああ、そうだね。ツルツルしておもしろいね。その感じよくわかるよ。なんせぼくも剃らされたからね。
まったく、なんで男のぼくがわき毛なんか剃らなくちゃいけないんだ。そりゃ女子は剃るだろうさ。ぼくは生えててもいいと思うけど、世間的には恥ずかしいことらしいし、まあ好きにすればいい。
だけど男は別だよ。むしろ剃る方が恥ずかしい。そもそも男が身だしなみを気にするなんてみっともないことだ。
男なんて最低限でいいんだ。ひと様と会ったときに恥ずかしくないようひげを整えたり、時と場合に合わせて服を正すのはマナーだけど、わきの毛なんて絶対にいじっちゃいけない。異性に見せるための努力なんてチャラチャラしたことをするのは男じゃない。髪は切っても自然体。眉毛を整えるなんてもってのほかだ。
それがわきや下半身の毛を処理して、そのうえこんな水着を着せられて……まったく、たまったもんじゃないよ。
それを隠すためにぼくはシャツと短パンを履いている。こんな格好でおもてに出たら、騎士である以前に男として生きていけなくなる。絶対に見せたくない。
それなのに、
「おい、おまえも早く水着になれ」
とレオがせかした。
「みんなはもう海に入る準備ができてるんだ。さっさと服を脱がんか」
そんなこと言われてもいやだ。だって周りを見てごらんよ。海水浴客がいっぱいだ。
家族連れ、カップル、若者グループ、いろんなひとたちが砂浜のところどころにシートを敷いてくつろいだり、海で水をかけ合ったりしている。
よくもまあこんなに暇なひとがいるよ。まあ観光地だから当然だけどね。
このあたりは漁港が連なっており、農家が少ない。畑仕事と違い、漁師は一週間すべてを仕事にあてなくていいから遊びに来れる。
それにここは行楽地として有名だ。この時期になると長期休暇を取った商、工、兵が集って旅行に来る。
だからひとが多い。夏に関しては都会よりも密集する。
こんな中で脱げるわけがない。
「だがおまえは賭けに負けただろう」
「あんなのずるいよ」
「ずるくない。確認しただろう」
ああ確認したさ。したともさ。
レオがぼくにこの水着を着てくれってしつこく迫って、
「じゃあこうしよう。コインを投げて絵柄の面が出ればわたしの勝ち。おまえはこれを着ろ。だがそうでなければわたしの負けだ。二日、風呂に入らないで、おまえの好きなようにされてやる。どうだ?」
「わかった。絵柄が出たらレオの勝ちだね。その勝負乗った!」
そうしてレオはコインを投げた。当然絵柄が出たよ。だってそのコインは両面とも絵柄がついてるんだからね!
「わたしはだましてなんかいない。絵柄が出たらわたしの勝ちと言っただけだ。いつわたしが嘘をついた?」
「そりゃ嘘はついてないけど……」
「なら早く水着姿になれ」
「だってあんなの……」
「ほう、騎士のくせに嘘をつくのか」
「えっ!?」
「そうかそうか、知らなかった。騎士というのは嘘つきだったか。騎士というのは約束も守れない卑怯者だったか。わたしは勘違いしていたよ」
そ、そんなことない! 騎士は高潔だ! 騎士は決してひとをあざむいたり、約束を破ったりしない!
「ならどうして服を脱がない。なに、いいじゃないか。いま我々には”顔を覚えられない魔法”がかかっている。他人からは顔はおろか服装さえ気づかれない。もしここで全裸になっても大丈夫だ。わたしにはそれほどの魔力がある。な、いいだろう。どっちにしたって約束なんだ」
「う、うう……」
ぼくは返す言葉がなかった。たしかに他人には見られないし、騎士である以上誇りを持って真実を貫かなければならない。
「あ、あんまり見ないでよ……」
そう言ってぼくは服を脱いだ。すると、
「おお! なんてかわいいんだ!」
レオがよだれを垂らしながら言った。
ぼくはピンクのビキニを着ていた。
上は縦長三角形ビキニで、下はけっこうなローライズ。剃らなければ下の毛が丸見えになっていただろう。
大事な部分は隠れるようになってはいるが、小さい状態でもその分モッコリするし、子種袋がはみ出さないようぎゅっと収めてるからキューキューする。
そんなぼくを見て、
「わあー! アーサー様かーわいーい! 女の子みたーい!」
とアルテルフが大はしゃぎした。やめて! 恥ずかしい!
「あっ、あああアーサー様、そんなお姿……は、破廉恥! 破廉恥です!」
とレグルスは顔を真っ赤にして両目を手で覆った。しかし指のあいだから黒目が覗き、ぼくの全身を上へ下へと舐めるように見ている。悲鳴を上げたいのはこっちだ!
「あらぁ、あらまぁ」
デネボラは片ほほに手を当て、微笑ましく首をかしげていた。目が困っているから、きっと哀れと思っているに違いない。
唯一ゾスマだけはいつもの調子で、
「どーーでもいい」
そう言って自身のわきをスリスリしていた。
「ああ、最高だ。この場で犯したいくらい似合ってるぞ」
レオはそう言ってぼくに抱きついたが、いまはやめてほしかった。こんなの男じゃないし、それに大きくなると絶対にはみ出る!
そんな美しい手足で触らないでくれ! そんな艶やかな体を押しつけないでくれ!
早く泳ごう! 早く水に浸かろう! じゃないとぼく、大変なことになっちゃう!
わたしは「いつか作家になって自由に暮らしてやる」という希望がこころの支えになって、日々のいやなことをなんとか耐えています。しかし目標がなかったら、はたして正気でいられたでしょうか。
生きる意味があればそれだけで救われます。たとえば子供の成長とか、この趣味がたのしいとか、出世したいとか、夢を追うとか、そういう支えがなければひとはただ生きるしかありません。
ただ生きるには才能が必要です。変わり映えのない毎日を改善しようとか、明日から変えようなどと考えず、よしなしごとに一喜一憂しながら死ぬまで生きる。それは目的地もなしに旅をするようなものです。
なんと難しいことでしょう。わたしには到底まねできません。しかしわたしは、それがこころからうらやましいのです。
第十一話 悪徳! 海の家
ぼくはアーサー。歳は十七。男にしてはなよっちい体で女みたいな顔だけど、代々近衛兵長を勤めた騎士の末裔で、父さんゆずりの剣の腕は天下に並ぶ者がないと思えるほど自信がある。
と言っても最近じゃ一切戦闘をしていない。なにせいまのぼくはレオの”ひも”だし、いざとなれば彼女がすべてを打ち負かしてしまうからぼくの出番なんてない。
レオは恐ろしく強い。膨大な魔力の持ち主で、魔法だけではなく呪術や幻術にも通じている。もし彼女がその気になれば、本職の魔術師団が束になっても敵わない。
しかも彼女は美しい。顔立ちはもちろん、その肉体は非の打ちどころがなく、芸術をはるかに超える究極の美女といっていい。
そんなレオが今日は水着姿を披露していた。
ぼくらは最寄りのビーチに来ていた。
夏も終わりが近づき、そろそろ仕事ついでに海水浴に行こうという話になり、ぼくらは馬車で一週間かけて海辺までやってきた。
ちなみに仕事とは「魂狩り」だ。
レオは魂売りをなりわいとしている。死者の魂を回収、保存し、それを客の要望に合わせて販売、またはそれに関わる魔術師業を働くことで大金を得ている。
しかし商品である魂を得るには他人の死と鉢合わせなければならず、それがこの商売の最もネックな部分だろう。
多様な客を満足させるには品揃えが必要だ。いくらレオが他人の死相が見える特異体質とはいえ、そう都合よく死と出会うことはできない。最近は薬師アクアリウスや呪術師ライブラといった固定客ができたから数も確保しなければならない。
そこでレオはかねてから計画していた「魂狩り」を実行することにした。
「海に行こう。水辺には霊が集まる。とくに海岸の崖ぎわなんかは最高だ」
なんでも自殺スポットにはひとびとの念が集まり、そこで悪霊たちがたむろしているという。
「その悪霊どもを捕らえる。質は悪いが数にはなるからな。それに悪霊は気の弱い人間をおびき寄せ自殺させるから、治安の改善にもいいだろう。まったく、わたしとしたことが仕事ついでに慈善事業までしてしまうのだから大したものだ。それに美人だしな。あっはっは」
そう言ってレオはぼくと使い魔全員に旅の支度をするよう言いつけ、師匠のアクアリウスに留守番を頼み、こうして海に来ている。
そして砂浜に立ち、色気のかたまりのような水着姿を見せていた。
「どうだ、美しいだろう」
レオは髪をかきあげ、扇情的なポーズをしてみせた。
「う、うん。すごく……」
ぼくはやっとそのひとことを言った。見とれるあまり呼吸が止まりそうだった。
美しいなんてもんじゃない。ふだんの裸体だってきれいなのに、こうして真っ赤なビキニを着て、鮮やかな海を背にまぶしい太陽を浴びると、夏のすべてが彼女を彩るためのものだとさえ思えてしまう。それほどに彼女は美しかった。
ぼくはあまりの美貌に息をのんでいた。すると横から、
「ねえねえアーサー様ー! 似合うー?」
とアルテルフがはしゃいで見せた。赤地に白い水玉模様のビキニと、腰に同色のパレオを着けており、フレッシュなかわいさにあふれている。
「うん、すごく似合ってるよ」
ぼくはお世辞抜きに言った。彼女の未成熟な体と茶色いツインテールにこれ以上の組み合わせはないと思った。
「かわいいー?」
「すっごくかわいいよ」
「わーい!」
そう言って跳び回ると、スカートのようなパレオがひらひらめくれてプリプリお尻が見え隠れした。
……お尻もかわいいなぁ。
おっと、いけない。妻以外の女性をいやらしい目で見るなんて騎士失格だ。レオを見てどんな気持ちになってもそれは自由だが、まさか使い魔の、それもこんな幼い少女のお尻を凝視するなんて絶対に許されない。
が、今日は視線の誘惑が多すぎた。
「あ、あの……変じゃないですか?」
そう言ってもじもじするのはレグルスだった。
彼女はやや筋肉の質感が浮かぶ褐色肌で、レオに負けないほどの色気を持っている。より女性的なレオと、健康的なレグルス。好みはひとによるだろう。
しかし彼女にはレオよりすごい部分がある。
それは胸だ。レオもそれなりに大きいが、レグルスはかなり大きい。片方の胸に赤ん坊の頭がすっぽり収まってしまいそうなほどだ。それが並の大きさの白ビキニに包まれているのだから、男なら当然視線が吸い込まれてしまう。
「や、やっぱり変……ですよね。わたくしのような野蛮人がこんなかわいらしい格好をして……絶対変です」
「ううん、そんなことないよ! すっごくきれいだ!」
「へえっ!? き、きれい!?」
「うん、すごく似合ってるよ!」
「はわわわ! アーサー様がわたくしめをおほめに……は、はひぃ!」
そう言ってレグルスは体を隠すように座り込んでしまった。顔は真っ赤で泣きそうになっている。
逆にショックだったのかな? なにせ彼女は生真面目で、性的なものが大の苦手だ。自分の体がきれいなんて言われたら恥ずかしいのかもしれない。
でもしょうがないよ。だって本当にきれいなんだもの。嘘はつけないよ。
しかし彼女以上に泣きそうな子がいた。
「やぁん、なんでわたしこんな水着なんですかぁ」
そうなげいているのはデネボラだった。
彼女は白と黒の牛柄の水着を着ていた。ほかの全員は自分で選んだのに、彼女のだけはレオが強制的に選んだものだった。
「おまえにピッタリなヤツだ。当日たのしみにしていろ」
と言っていたが、なるほど、ピッタリではある。なにせデネボラは牛のように胸が大きい。おそらくぼくの生涯で彼女より胸の大きな女性とは出会うことはないだろう。
そのかわりほかも大きい。全体的にぽちゃっとしていて、太っているとまでは言わないものの、腰をほんの少し横にかたむければわき腹に段差ができるほどポヨポヨだ。水着からこぼれそうな巨乳や全身の余計な肉を見ていると”だらしない”という言葉が頭に浮かぶ。
しかしその肉感はある種の魅力でもあり、男であればだれもがこころ奪われるだろう。もちろんぼくもだ。胸だけでなく、その全身に包み込まれたらどれだけやわらかくてプニプニするだろうと思わずにいられない。
ぼくは四人のすばらしい光景に背を向けた。これ以上見てたらひと前で欲情してしまいそうだった。
そんなぼくの視界にぽつねんと立つゾスマが映った。
よかった、助かった。こう言っちゃ悪いけど、彼女は欲望を刺激しない。細すぎる体は”肉欲”という言葉からほど遠いところにある。水着も上下一体型の紺色のもので、とてもかわいいが、いやらしくない。
そんなゾスマはしきりにわきをさすっていた。
「どうしたの?」
「ツルツルする」
ゾスマは相変わらずのヘラヘラ顔で言った。
「レオ様がわき毛と陰毛を剃れって言うから剃ったんだけど、すごくツルツルする。へへへ、おもしろい」
ああ、そうだね。ツルツルしておもしろいね。その感じよくわかるよ。なんせぼくも剃らされたからね。
まったく、なんで男のぼくがわき毛なんか剃らなくちゃいけないんだ。そりゃ女子は剃るだろうさ。ぼくは生えててもいいと思うけど、世間的には恥ずかしいことらしいし、まあ好きにすればいい。
だけど男は別だよ。むしろ剃る方が恥ずかしい。そもそも男が身だしなみを気にするなんてみっともないことだ。
男なんて最低限でいいんだ。ひと様と会ったときに恥ずかしくないようひげを整えたり、時と場合に合わせて服を正すのはマナーだけど、わきの毛なんて絶対にいじっちゃいけない。異性に見せるための努力なんてチャラチャラしたことをするのは男じゃない。髪は切っても自然体。眉毛を整えるなんてもってのほかだ。
それがわきや下半身の毛を処理して、そのうえこんな水着を着せられて……まったく、たまったもんじゃないよ。
それを隠すためにぼくはシャツと短パンを履いている。こんな格好でおもてに出たら、騎士である以前に男として生きていけなくなる。絶対に見せたくない。
それなのに、
「おい、おまえも早く水着になれ」
とレオがせかした。
「みんなはもう海に入る準備ができてるんだ。さっさと服を脱がんか」
そんなこと言われてもいやだ。だって周りを見てごらんよ。海水浴客がいっぱいだ。
家族連れ、カップル、若者グループ、いろんなひとたちが砂浜のところどころにシートを敷いてくつろいだり、海で水をかけ合ったりしている。
よくもまあこんなに暇なひとがいるよ。まあ観光地だから当然だけどね。
このあたりは漁港が連なっており、農家が少ない。畑仕事と違い、漁師は一週間すべてを仕事にあてなくていいから遊びに来れる。
それにここは行楽地として有名だ。この時期になると長期休暇を取った商、工、兵が集って旅行に来る。
だからひとが多い。夏に関しては都会よりも密集する。
こんな中で脱げるわけがない。
「だがおまえは賭けに負けただろう」
「あんなのずるいよ」
「ずるくない。確認しただろう」
ああ確認したさ。したともさ。
レオがぼくにこの水着を着てくれってしつこく迫って、
「じゃあこうしよう。コインを投げて絵柄の面が出ればわたしの勝ち。おまえはこれを着ろ。だがそうでなければわたしの負けだ。二日、風呂に入らないで、おまえの好きなようにされてやる。どうだ?」
「わかった。絵柄が出たらレオの勝ちだね。その勝負乗った!」
そうしてレオはコインを投げた。当然絵柄が出たよ。だってそのコインは両面とも絵柄がついてるんだからね!
「わたしはだましてなんかいない。絵柄が出たらわたしの勝ちと言っただけだ。いつわたしが嘘をついた?」
「そりゃ嘘はついてないけど……」
「なら早く水着姿になれ」
「だってあんなの……」
「ほう、騎士のくせに嘘をつくのか」
「えっ!?」
「そうかそうか、知らなかった。騎士というのは嘘つきだったか。騎士というのは約束も守れない卑怯者だったか。わたしは勘違いしていたよ」
そ、そんなことない! 騎士は高潔だ! 騎士は決してひとをあざむいたり、約束を破ったりしない!
「ならどうして服を脱がない。なに、いいじゃないか。いま我々には”顔を覚えられない魔法”がかかっている。他人からは顔はおろか服装さえ気づかれない。もしここで全裸になっても大丈夫だ。わたしにはそれほどの魔力がある。な、いいだろう。どっちにしたって約束なんだ」
「う、うう……」
ぼくは返す言葉がなかった。たしかに他人には見られないし、騎士である以上誇りを持って真実を貫かなければならない。
「あ、あんまり見ないでよ……」
そう言ってぼくは服を脱いだ。すると、
「おお! なんてかわいいんだ!」
レオがよだれを垂らしながら言った。
ぼくはピンクのビキニを着ていた。
上は縦長三角形ビキニで、下はけっこうなローライズ。剃らなければ下の毛が丸見えになっていただろう。
大事な部分は隠れるようになってはいるが、小さい状態でもその分モッコリするし、子種袋がはみ出さないようぎゅっと収めてるからキューキューする。
そんなぼくを見て、
「わあー! アーサー様かーわいーい! 女の子みたーい!」
とアルテルフが大はしゃぎした。やめて! 恥ずかしい!
「あっ、あああアーサー様、そんなお姿……は、破廉恥! 破廉恥です!」
とレグルスは顔を真っ赤にして両目を手で覆った。しかし指のあいだから黒目が覗き、ぼくの全身を上へ下へと舐めるように見ている。悲鳴を上げたいのはこっちだ!
「あらぁ、あらまぁ」
デネボラは片ほほに手を当て、微笑ましく首をかしげていた。目が困っているから、きっと哀れと思っているに違いない。
唯一ゾスマだけはいつもの調子で、
「どーーでもいい」
そう言って自身のわきをスリスリしていた。
「ああ、最高だ。この場で犯したいくらい似合ってるぞ」
レオはそう言ってぼくに抱きついたが、いまはやめてほしかった。こんなの男じゃないし、それに大きくなると絶対にはみ出る!
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