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第十三話 急がば近道
急がば近道 六
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三日目のアルゴルはまた顔が変わっていた。こんどは目がつり上がり、
「昨日より強くなっているのがわかるぜ。今日こそおまえを倒してあげますぞい」
と、なんだか口調がぐちゃぐちゃしていた。ふたりの魂を取り入れた影響で、人格が混ざりに混ざっている。
ともかくぼくらは戦った。そしてかなり苦戦した。
昨日は丁寧な戦い方一本だったけど、今日は姑息かつ強引な攻めが多かった。たかだか腕試しだってのに、土を蹴り上げて目潰ししてきたときは驚いちゃったよ。まあ、ぼくは目をつぶっていても、音と気配で戦えるからなんとかなったけどさ。むしろそこで生まれた相手の慢心を突いて返り討ちにしてやった。
「ちくしょう! まだわたしじゃ勝てねえっていうのか!」
アルゴルは荒々しい声を上げた。かと思えば、
「君は強いんだねぇ。力はわたしの方が上だというのに」
と、おだやかに話したりする。こんなのと会話してると頭が変になってくるよ。まるで二、三人いるみたいだ。
でもぼくはたのしかった。だって、どんどん強くなって、戦いがいがあるんだ。今日これだけ苦戦したのなら、明日はとうとう負けてしまうかもしれない。強者を相手取るのはわくわくするなあ。
やがてアルゴルはパンを食べ、また出て行った。そして翌日もおなじように変化した彼と戦った。
この四日目は本当にギリギリだった。どうやらかなり場数を踏んだ猛者の魂を取り込んだらしく、目つきだけで恐ろしい相手だとわかった。
勝負は一時間にもおよんだ。なにせ鉄壁の守りなんだ。ぼくがどんな方法で崩そうとしても咄嗟に対応し、それは予測しているというより、目で見てから「このわざは知っている」という感じで受けられた。
攻めも鋭く、まっすぐ来たかと思えばイレギュラーな手を使い、丁寧かつ大胆な剣さばきを見せた。こんなに苦戦するのは人外のレグルス以来だった。
とはいえぼくは勝利した。多様な戦術とはいえ手数には限りがある。最終的にはすべてを見切ったぼくがわざを受け切り、一瞬だけ生まれた針の穴よりも細いわずかな隙に打ち込んだ。
そうしてその日もアルゴルはパンを食べ、出て行った。ひさびさに手応えのある戦いをして、ぼくは快感に満ちあふれていた。しかもそこでレオが、
「やはりおまえは剣に関してだけは天才だな」
なんて褒めるもんだから、もう気分が上がりすぎて抑えきれず、木剣を左右に広げてわーわー走り回ったりした。廊下でだれかと出会ってもお構いなしだ。いまのぼくはだれにも止められない。途中アルテルフがぎょっとした顔をしていたけど、あえてぼくは鷹のように、
「ぴょおー!」
と大声で叫んで通り過ぎてやった。いやあ、おもしろかったなぁ。彼女、面食らってたよ。
それにしても明日はどうなっているんだろう。今日でほぼ互角だから、もしかしたら本当にぼくより強くなっちゃったりして。ううん、それでもぼくは勝つよ。ぼくは最強だからね! やっほー!
そんなこんなで五日目が来た。ぼくはアルゴルが来る前につけひげを用意し、紳士として最高の礼儀を尽くそうとした。
え、つけひげのなにが紳士なのかって? あたりまえじゃないか。ひげは紳士のたしなみだ。君はひげを生やしていない紳士を見たことがある? ぼくはない。ひげは紳士の証であり、紳士はひげを整えているものだ。まあ、世の中には剃ってしまう紳士もいるかもしれないけど、それは紳士ぶっているだけで、実際はクソやろうだ。生きている価値がない。
ちなみに今回ぼくが選んだのは、鼻とくちびるのあいだをぴっちり埋めるシンプルスタイルだ。本当はもっと派手なのを選ぼうかと思ったけど、あんまり格好つけるとはしゃいでるのがバレて恥ずかしいから、謹んでこれにした。
ぼくは彼にひげを見られるのをたのしみにしていた。しかしいつもの時間になってもなかなか来ないので、鏡を見てなんどもひげの具合を確かめていた。それを見てレオは、
「一本一本細かく直したりして、なにも変わらんぞ。それに似合わん」
とバカなことを言った。これが女が低俗と言われるゆえんだ。たとえレオがどれほど強く美しく、知的で賢かろうと、しょせん女だ。最も大事なところでものの良し悪しがわからない。まったく、これだから女は。
やがて、一時間も経つころだろうか。やっとアルゴルが現れた。
「遅いよ! ずいぶん待ったよ!」
「あははははは! 遅くなってすんません、すいません、ごめんな、遅くなって。わははは!」
「へ?」
なんだそのしゃべり方。これまでもおかしくはなっていたけど、今日は一段と変だぞ?
彼は森の小道から顔を出し、笑いながらふらふら歩いてきた。
ぼくはかっこいいひげ姿を見せようと、ビシッと立って待った。が、彼の姿を見て愕然とした。
「あああっ! アルゴル、その顔は!?」
ぼくはこころをぶん殴られたような気持ちで叫んだ。なんと彼はひげをきれいに剃っていた。
「顔? あははははは! 顔が? 顔? 顔?」
アルゴルはぼくの前に立ち、自分の顔をぺたぺた触った。
「ひげだよ! あのかっこいいひげ! どうして剃っちゃったのさ!」
「あはーははは! ひげ剃ったかね? ああ、剃ったぜ。ふふ、あっはは! 恥ずかしいひげだからね。剃った。恥ずかしいから。あははは!」
あ、あ、あ……
「レオ! 彼おかしくなってるよ!」
ぼくは泣きそうになりながらレオのそでを引いた。なにせアルゴルはあんなにかっこいいひげを、恥ずかしいからと剃ってしまった。そもそもしゃべり方もおかしいし、なぜか笑っているし、挙動も視線もぎこぎこ動いてどう見ても変だ。
「ねえ、彼どうしちゃったの!?」
と、ぼくが訊くと、レオはフフフと笑い、
「これでよくここまで来れたな」
「え!?」
「しかしどうやらもう限界のようだ」
レオがそう言うのと同時に、
「わははは! あっ! あっ! あははー!」
アルゴルが目を見開き、瞳をぐるぐるさせた。
「アルゴル!」
「わはー! わはー!」
彼はぎこっ、ぎこっ、と体を動かし、やがて直立したままビクビク縦に震えはじめた。明らかにやばい。ぼくは心配しながらも怖くて近寄れなかった。
そして、
「うーーーーっ!」
なんと彼の鼻からどろっと黄色い液体が出て来た。
「アルゴルー!」
「んうーー! んうーー!」
それは鼻水ではなかった。透明度がなく、たとえるならカスタードクリームに似ていた。それが、ところどころ血のようなものが混じってとめどなく出てくる。
やがて、彼の足元にどっぷり溜まり、止まった。
そして彼は仰向けにバッタリ倒れ、そのまま動かなくなってしまった。
「ああっ! だ、大丈夫!?」
ぼくは駆け寄り、肩を揺すった。しかしレオが、
「ダメだ。もう死んでる」
と、うれしそうに言った。
「そんな! どうして!?」
「おそらく脳みそが溶け出てしまったのだろう」
「ええっ!?」
ぼくは慌てて身を退いた。の、脳みそだって!? うわあ、気持ち悪い!
「で、でもどうして脳みそがこんな液体に?」
「おまえ、人間が人間を食うとどうなるか知ってるか?」
な、なにを言ってるんだ? そんなの知るわけないよ。
「なんでも脳みそがおかしくなるらしい」
「脳みそが?」
「わたしも実際に見たわけじゃなく、本で読んだだけだから、くわしい理由は知らん。ただ、予想はした。おそらくこうだ。人間を食えば、他の人間の魂を取り込むことになる。するとどうしたって意識が混じる。人間は脳みそに意識や記憶を保存するそうだが、もしそこに何人もの意識を保持したらどうなるかな?」
「それは……おかしくなりそうだね」
「だろう。それで今回試してみたんだ」
「はあ!?」
「複数の魂を丸ごと取り込んだら人間がどうなってしまうのか、こいつで実験したんだ」
「な、なんだって!?」
ひどい! なんでそんなことを……
「かつてわたしは死の危機に瀕したとき、アクア様に大量の”秘薬”を飲まされ、一命をとりとめた。しかし秘薬の原材料は魂だ。もちろん害がないよう調整してあるが、それでも大量の魂を取り込むことには変わりない。いつか実験してデータを取りたいと思っていたんだが、なんとまあちょうどいい実験台が来てくれたものだ」
そう言ってレオは笑った。それは決して残酷な笑みなどではなく、ウィスキー片手にお笑いショウを見ているときとおなじだった。
「しかし予想通りだったなぁ。本を読む限り、四つも食わせれば十分だろうと思っていたが、ちょうどぴったりだ。もちろんこれで狂わなければまだまだ食わせるつもりだったがな。それにしても、脳みそがおかしくなるとは聞いていたが、まさか溶けて鼻から出てくるとはなあ。あははははは!」
な、なんてひとだ。彼女が最悪なのは前からわかってたけど、生きた人間を実験台にするなんて!
「ひ、ひどいよ!」
「ああ、ひどいさ。それがどうした」
「ひとを殺しておいてよく笑ってられるね! それにこんなことして魂売り失格じゃないか!」
「なに?」
レオは笑いながらも眉をひそめた。
「どこが失格なんだ」
「だって、依頼をこなせなかったじゃないか!」
「なにを言っている。わたしはしっかりやりおおせたぞ」
「このひとを剣術大会で優勝させるはずでしょ! それなのに死なせちゃって、失敗だよ!」
「おいおい、アーサー。わたしはそんな約束してないぞ」
「へ?」
「わたしはこいつを強くしてやると言ったんだ。優勝させるなんてひとことも言ってない」
「そ、そんな!」
「昨日あれだけ強かったんだ。今日はきっと世界最強になっていたに違いない。あっはっはっはっは!」
さ、最悪だ! たしかにそうかもしれないけど、死んじゃったらどうしようもないじゃないか!
「まったく、わたしを小娘などと呼ぶからだ。どんなに謝ろうとわたしが許すはずがなかろう。ま、実験に協力してくれたし、みっともないひげも剃ったし、そろそろ許してやるとするか。おっと、その許されるいのちがないんだったな。わははは! わははははは! わーっはっはっはっはっはっはっはー!」
「昨日より強くなっているのがわかるぜ。今日こそおまえを倒してあげますぞい」
と、なんだか口調がぐちゃぐちゃしていた。ふたりの魂を取り入れた影響で、人格が混ざりに混ざっている。
ともかくぼくらは戦った。そしてかなり苦戦した。
昨日は丁寧な戦い方一本だったけど、今日は姑息かつ強引な攻めが多かった。たかだか腕試しだってのに、土を蹴り上げて目潰ししてきたときは驚いちゃったよ。まあ、ぼくは目をつぶっていても、音と気配で戦えるからなんとかなったけどさ。むしろそこで生まれた相手の慢心を突いて返り討ちにしてやった。
「ちくしょう! まだわたしじゃ勝てねえっていうのか!」
アルゴルは荒々しい声を上げた。かと思えば、
「君は強いんだねぇ。力はわたしの方が上だというのに」
と、おだやかに話したりする。こんなのと会話してると頭が変になってくるよ。まるで二、三人いるみたいだ。
でもぼくはたのしかった。だって、どんどん強くなって、戦いがいがあるんだ。今日これだけ苦戦したのなら、明日はとうとう負けてしまうかもしれない。強者を相手取るのはわくわくするなあ。
やがてアルゴルはパンを食べ、また出て行った。そして翌日もおなじように変化した彼と戦った。
この四日目は本当にギリギリだった。どうやらかなり場数を踏んだ猛者の魂を取り込んだらしく、目つきだけで恐ろしい相手だとわかった。
勝負は一時間にもおよんだ。なにせ鉄壁の守りなんだ。ぼくがどんな方法で崩そうとしても咄嗟に対応し、それは予測しているというより、目で見てから「このわざは知っている」という感じで受けられた。
攻めも鋭く、まっすぐ来たかと思えばイレギュラーな手を使い、丁寧かつ大胆な剣さばきを見せた。こんなに苦戦するのは人外のレグルス以来だった。
とはいえぼくは勝利した。多様な戦術とはいえ手数には限りがある。最終的にはすべてを見切ったぼくがわざを受け切り、一瞬だけ生まれた針の穴よりも細いわずかな隙に打ち込んだ。
そうしてその日もアルゴルはパンを食べ、出て行った。ひさびさに手応えのある戦いをして、ぼくは快感に満ちあふれていた。しかもそこでレオが、
「やはりおまえは剣に関してだけは天才だな」
なんて褒めるもんだから、もう気分が上がりすぎて抑えきれず、木剣を左右に広げてわーわー走り回ったりした。廊下でだれかと出会ってもお構いなしだ。いまのぼくはだれにも止められない。途中アルテルフがぎょっとした顔をしていたけど、あえてぼくは鷹のように、
「ぴょおー!」
と大声で叫んで通り過ぎてやった。いやあ、おもしろかったなぁ。彼女、面食らってたよ。
それにしても明日はどうなっているんだろう。今日でほぼ互角だから、もしかしたら本当にぼくより強くなっちゃったりして。ううん、それでもぼくは勝つよ。ぼくは最強だからね! やっほー!
そんなこんなで五日目が来た。ぼくはアルゴルが来る前につけひげを用意し、紳士として最高の礼儀を尽くそうとした。
え、つけひげのなにが紳士なのかって? あたりまえじゃないか。ひげは紳士のたしなみだ。君はひげを生やしていない紳士を見たことがある? ぼくはない。ひげは紳士の証であり、紳士はひげを整えているものだ。まあ、世の中には剃ってしまう紳士もいるかもしれないけど、それは紳士ぶっているだけで、実際はクソやろうだ。生きている価値がない。
ちなみに今回ぼくが選んだのは、鼻とくちびるのあいだをぴっちり埋めるシンプルスタイルだ。本当はもっと派手なのを選ぼうかと思ったけど、あんまり格好つけるとはしゃいでるのがバレて恥ずかしいから、謹んでこれにした。
ぼくは彼にひげを見られるのをたのしみにしていた。しかしいつもの時間になってもなかなか来ないので、鏡を見てなんどもひげの具合を確かめていた。それを見てレオは、
「一本一本細かく直したりして、なにも変わらんぞ。それに似合わん」
とバカなことを言った。これが女が低俗と言われるゆえんだ。たとえレオがどれほど強く美しく、知的で賢かろうと、しょせん女だ。最も大事なところでものの良し悪しがわからない。まったく、これだから女は。
やがて、一時間も経つころだろうか。やっとアルゴルが現れた。
「遅いよ! ずいぶん待ったよ!」
「あははははは! 遅くなってすんません、すいません、ごめんな、遅くなって。わははは!」
「へ?」
なんだそのしゃべり方。これまでもおかしくはなっていたけど、今日は一段と変だぞ?
彼は森の小道から顔を出し、笑いながらふらふら歩いてきた。
ぼくはかっこいいひげ姿を見せようと、ビシッと立って待った。が、彼の姿を見て愕然とした。
「あああっ! アルゴル、その顔は!?」
ぼくはこころをぶん殴られたような気持ちで叫んだ。なんと彼はひげをきれいに剃っていた。
「顔? あははははは! 顔が? 顔? 顔?」
アルゴルはぼくの前に立ち、自分の顔をぺたぺた触った。
「ひげだよ! あのかっこいいひげ! どうして剃っちゃったのさ!」
「あはーははは! ひげ剃ったかね? ああ、剃ったぜ。ふふ、あっはは! 恥ずかしいひげだからね。剃った。恥ずかしいから。あははは!」
あ、あ、あ……
「レオ! 彼おかしくなってるよ!」
ぼくは泣きそうになりながらレオのそでを引いた。なにせアルゴルはあんなにかっこいいひげを、恥ずかしいからと剃ってしまった。そもそもしゃべり方もおかしいし、なぜか笑っているし、挙動も視線もぎこぎこ動いてどう見ても変だ。
「ねえ、彼どうしちゃったの!?」
と、ぼくが訊くと、レオはフフフと笑い、
「これでよくここまで来れたな」
「え!?」
「しかしどうやらもう限界のようだ」
レオがそう言うのと同時に、
「わははは! あっ! あっ! あははー!」
アルゴルが目を見開き、瞳をぐるぐるさせた。
「アルゴル!」
「わはー! わはー!」
彼はぎこっ、ぎこっ、と体を動かし、やがて直立したままビクビク縦に震えはじめた。明らかにやばい。ぼくは心配しながらも怖くて近寄れなかった。
そして、
「うーーーーっ!」
なんと彼の鼻からどろっと黄色い液体が出て来た。
「アルゴルー!」
「んうーー! んうーー!」
それは鼻水ではなかった。透明度がなく、たとえるならカスタードクリームに似ていた。それが、ところどころ血のようなものが混じってとめどなく出てくる。
やがて、彼の足元にどっぷり溜まり、止まった。
そして彼は仰向けにバッタリ倒れ、そのまま動かなくなってしまった。
「ああっ! だ、大丈夫!?」
ぼくは駆け寄り、肩を揺すった。しかしレオが、
「ダメだ。もう死んでる」
と、うれしそうに言った。
「そんな! どうして!?」
「おそらく脳みそが溶け出てしまったのだろう」
「ええっ!?」
ぼくは慌てて身を退いた。の、脳みそだって!? うわあ、気持ち悪い!
「で、でもどうして脳みそがこんな液体に?」
「おまえ、人間が人間を食うとどうなるか知ってるか?」
な、なにを言ってるんだ? そんなの知るわけないよ。
「なんでも脳みそがおかしくなるらしい」
「脳みそが?」
「わたしも実際に見たわけじゃなく、本で読んだだけだから、くわしい理由は知らん。ただ、予想はした。おそらくこうだ。人間を食えば、他の人間の魂を取り込むことになる。するとどうしたって意識が混じる。人間は脳みそに意識や記憶を保存するそうだが、もしそこに何人もの意識を保持したらどうなるかな?」
「それは……おかしくなりそうだね」
「だろう。それで今回試してみたんだ」
「はあ!?」
「複数の魂を丸ごと取り込んだら人間がどうなってしまうのか、こいつで実験したんだ」
「な、なんだって!?」
ひどい! なんでそんなことを……
「かつてわたしは死の危機に瀕したとき、アクア様に大量の”秘薬”を飲まされ、一命をとりとめた。しかし秘薬の原材料は魂だ。もちろん害がないよう調整してあるが、それでも大量の魂を取り込むことには変わりない。いつか実験してデータを取りたいと思っていたんだが、なんとまあちょうどいい実験台が来てくれたものだ」
そう言ってレオは笑った。それは決して残酷な笑みなどではなく、ウィスキー片手にお笑いショウを見ているときとおなじだった。
「しかし予想通りだったなぁ。本を読む限り、四つも食わせれば十分だろうと思っていたが、ちょうどぴったりだ。もちろんこれで狂わなければまだまだ食わせるつもりだったがな。それにしても、脳みそがおかしくなるとは聞いていたが、まさか溶けて鼻から出てくるとはなあ。あははははは!」
な、なんてひとだ。彼女が最悪なのは前からわかってたけど、生きた人間を実験台にするなんて!
「ひ、ひどいよ!」
「ああ、ひどいさ。それがどうした」
「ひとを殺しておいてよく笑ってられるね! それにこんなことして魂売り失格じゃないか!」
「なに?」
レオは笑いながらも眉をひそめた。
「どこが失格なんだ」
「だって、依頼をこなせなかったじゃないか!」
「なにを言っている。わたしはしっかりやりおおせたぞ」
「このひとを剣術大会で優勝させるはずでしょ! それなのに死なせちゃって、失敗だよ!」
「おいおい、アーサー。わたしはそんな約束してないぞ」
「へ?」
「わたしはこいつを強くしてやると言ったんだ。優勝させるなんてひとことも言ってない」
「そ、そんな!」
「昨日あれだけ強かったんだ。今日はきっと世界最強になっていたに違いない。あっはっはっはっは!」
さ、最悪だ! たしかにそうかもしれないけど、死んじゃったらどうしようもないじゃないか!
「まったく、わたしを小娘などと呼ぶからだ。どんなに謝ろうとわたしが許すはずがなかろう。ま、実験に協力してくれたし、みっともないひげも剃ったし、そろそろ許してやるとするか。おっと、その許されるいのちがないんだったな。わははは! わははははは! わーっはっはっはっはっはっはっはー!」
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