106 / 178
第十五話 そうだ、温泉に行こう
そうだ、温泉に行こう 三
しおりを挟む
「レオ、いつまで選んでるんだよ」
「ううむ……もう少し、もう少し待ってくれ……」
レオはかれこれ一時間近くコートを選んでいた。はじめての温泉ということでかなり張り切っているらしい。襟がふわふわしてるヤツ、シュッとスマートなヤツ、全体がポワポワしてるヤツなど、いろんなものをクローゼットから引っ張り出しては、ベッドの上に撒き散らしている。
「どれも似合ってるよ。美人が着ればぜんぶ正解だよ。だからねえ、早く行こうよ」
「わかってる……わかってるんだが、ううむ……」
ぼくは羽織っていたコートを脱ぎ去り、ベッドにどさっと腰掛けた。は~あ、これだから女は。別になに着たっておんなしじゃないか。ぼくなんて目についたヤツをテキトーにひょいだよ。それかアルテルフみたいに合わせのパターンをあらかじめ決めておけばいいんだ。レグルスもけっこう悩んでたみたいだし、こう言っちゃなんだけど、ぼくは男に生まれてよかった。無駄が多くてしょうがないや。
結局決まるまで一時間半もかかった。寝巻きその他は宿にあるから持ち物は財布とバッグだけで済む。こんな簡単な支度がまさか夕暮れまで続くと思わなかったよ。
「いやあ、すまんすまん」
とレオはシックで落ち着いたコートをまとい、
「なにせ突然だったろう? ふだんなら前日までに候補を選んでおくんだが、急だとどうしてもな」
と髪をかき上げながら言った。……一時間半も悩んで、そんなふつうの格好するの? まあ、似合ってるしすごくきれいだからいいけどさ。
「遅いですよ~」
と玄関でブー垂れるアルテルフは、ダッフルコートにミニスカ黒タイツをコーディネートしていた。
「さすがレオ様、お似合いです」
体温の高いレグルスは上着を羽織らず、あたたかそうなタートルネックを着こなしていた。
「まったく……こんなに待つとは思わなかったよ」
ライブラは大きなため息を吐き、見送りのデネボラとゾスマに目を向け言った。
「で、あんたらは本当にいいのかい? 温泉だよ?」
「はぁい、わたしおデブちゃんだから行きたくないですぅ」
「だって、特別おいしいものないんでしょ? 温泉とかどーーでもいい」
「……そーかい。なら留守番してな」
実はレオが長々と服を選んでるあいだ、ライブラは二匹にも声をかけていた。連れていけばその分お金がかかるのに、
「こいつらだけ留守番じゃかわいそうだろ。あたしゃこう見えてやさしいのさ」
と気を遣ってのことだった。なんだか意外だなあ。もっとがめつくて、他人のことなんか考えないひとだと思ってたよ。案外善人なのかもしれない。
「とにかく行くよ。もう日が暮れちまうよ」
とライブラが言い、ぼくらは温泉旅行に出発した。行き先はかなり遠いが、神の小径というのを使えばすぐに到着するらしい。
そしてそれは館から徒歩五分、いつも森から出入りする道の途中にあった。
「さあ、ここだよ」
ライブラは歩道の脇を示した。それを見たレオは呆れるように、
「ふうむ……いつも通るのにまったく気づかなかった。言われてやっと感じられたよ」
「ま、あんたは魔術師だからね。どうしたって理屈でものを見ちまうのさ。その点あたしら呪術師は感覚がいのちだからねぇ。研ぎ澄ませば、この世界にないものも少しは感じられるのさぁ」
ううむ……なにを言ってるのかさっぱり理解できない。きっと難しい話をしてるんだろう。なんでもいいけど早く行こうよ。
「レグルス、ここに来な」
ライブラはレグルスを呼び、なにもないところでぐるりと手を回し、空中に縦長の楕円を描いた。
「ここに”扉”がある。そう信じて疑わず”開け”と念じてみな」
「は、はい……」
レグルスは緊張の面持ちで見えないものと相対した。固く拳を握り、ムムッと強く睨む。
すると——
「あっ!」
そこに楕円状の穴が生まれた。高さはぼくの身長よりやや低い程度、幅はちょうどひとひとり通れるほどの輪っかだ。中は白く染まっている。
「これが神の小径?」
「そうさね。だいぶ薄いけど、なんとか一往復するくらいは持ちそうだねぇ」
ライブラは姿を現したゲートのふちに手を触れ、なにやら呪文を唱えた。
「キヅ・カミルテホ・キヅ・カミ・バ・ケユビタ・リビン・ノリプ・タリタ・ユ」
——あれ? 呪術じゃない。
ぼくはレオと過ごす中でなんども呪いの言葉を聞いてる。だから多少は耳に慣れて、なんとなく呪術とそうでないものの区別がつく。これは明らかに違った。
のちにレオに尋ねると、
「あれは召喚術の逆だ。召喚術は特定のものを呼び寄せるわざだが、それを対象に使わせ、逆に自分を呼ばせるという高等技術だ。まさかこれができるヤツがいるとは……ライブラのヤツ、やはり只者ではない」
と、ひどく感心しながら教えてくれた。細かい理屈はわからないけど、とりあえずその召喚術の応用で行き先を選んだらしい。
「あ、中に景色が!」
呪文を唱え終えると、白かったゲートの中に暗い針葉樹林が映った。
「成功したね」
ライブラは上機嫌で振り返り、
「それじゃあみんな、レグルスにつかまりな。そうしてゲートをくぐるんだ。全員くぐり抜けるまで絶対に手を離しちゃいけないよ」
そう言ってレグルスと腕を組んだ。
「え、あ、あの?」
「ほら、みんな早くするんだよ。さっさとしないとゲートが閉じちまうからね」
レグルスはだいぶ困惑していたが、みんなライブラに急かされ、一斉にしがみついた。
「はわわ!」
レグルスは顔を赤くして変な声を出した。右腕にライブラが絡みつき、右手をレオが握り、左手をぼくが両手で握り、背中からアルテルフが「わーい」とおぶさって、はわわわ立ち尽くしている。
あはは、体じゅうくっつかれてびっくりしてるんだね。強くて真面目なレグルスだけど、こんな風に慌ててると微笑ましくてかわいいなあ。
と、ぼくはお気楽に笑っていた。アルテルフも喧騒をたのしみ、わざと子供っぽく振る舞っていた。が——
「おまえたち、体がぶった切れたくなかったらライブラの言う通りにするんだぞ」
とレオがキツく言って穴をくぐった瞬間、ぼくらは、
「ええっ!」
と、そろって青ざめた。か、体がぶった切れる!?
「はわわわわわ!」
「ちょっとレグルス! 叫んでないで早く行きなさいよ!」
「こらアルテルフ! 首を絞めるんじゃないよ!」
「はわわわわわわわわわ!」
「しっかりおし! 右足上げて! はい、頭突っ込んで……バカ! アルテルフが引っかかってるよ! もっと頭下げな!」
「はわわわーー!」
「やだーー! なんであたしがこんな目にあわなきゃなんないのよーー! もおーー!」
ぼくらはパニックにおちいっていた。なにせ失敗したら大変なことになる。まさか神の小径がそんなに恐ろしいものだとは思わなかった。
しっちゃかめっちゃかになりながらも、ぼくらはなんとかゲートを通過した。
「はあ~、怖かった」
ぼくは無事抜けたことを確認した途端へたり込んだ。レグルスとアルテルフも同様だ。ライブラもひたいの汗を拭っている。そんな中レオは樹に寄りかかり、ドッと疲れた声で言った。
「まったく、あんまり騒ぐからヒヤヒヤしたぞ。落ち着いて通れば怖くないものを」
「あんたがあんなこと言うからじゃないか!」
ライブラがぶつかった。
「黙ってればリラックスしてふつうに通れたんだよ!」
「迂闊に手を離して惨事にならんよう事実を話したまでだ。おまえこそ甘いことを言って事故でも起こしたらどうする」
「あんたは自分の使い魔も信用できないのかい!」
「あいにく魔術師でな」
「あんたねえ!」
レオとライブラは険悪に睨み合っていた。レオはあくまで静かに、ライブラは真っ赤に激しく、互いに真逆の意見をぶつけ、バチバチに視線を燃やしていた。
あーあ、せっかくの旅行なのにケンカなんてやだなあ。でもこうなるとふたりとも絶対に退かないからなあ……
と思っていたら、
「……バカらしい。やめた」
ライブラはぐるりと視線を上へ回し、
「もういいよ、みんな無事だったんだから。それよりさっさと宿に行こう。もう夜さね」
と、抗議の矛を収めてゆるく笑った。ぼくはもちろん、レオも驚いて目をパチクリさせていた。
ライブラが退くだって? あの傲慢で意地っ張りなライブラが?
「さ、あたしについてきな。十分もすれば街に出るよ」
ライブラはニッと笑い、スタスタと歩き出した。まるでケンカなんかなかったかのような振る舞いだ。
「ねえレオ。今日のライブラなんか変じゃない?」
「ふだんなら殺すのひと言くらい出てきそうなものだが……」
「なんか逆に怖いですねー」
「本当はおやさしい方なのでしょうか」
ぼくらは顔を見合わせ、ライブラの背中を見ていた。すると振り返り、
「おーい、なにもたもたしてんのさー! 温泉行きたくないのかーい!? 温泉だよー!」
とニッコニコで大手を振ってぼくらを呼んだ。ケンカとパニックで荒れた空気を明るく変えようとしている感じがする。やっぱりいつものライブラっぽくない!
「……まあ、行くとしよう」
レオは怪訝そうな顔をしながらも、ライブラの方に歩き出した。
「ここにいたってしょうがない。あいつがなにをたくらんでるのか知らんが、まさかわたしを敵に回せば大変なことくらいわかっているはずだ。それに我々は元々レグルスだけ連れて行くところに無理やり入ったんだぞ。罠をかけるならそのときに誘わなければおかしいだろう」
たしかに。じゃあ罠なんてないね。
「そうだ、安心してついて行けばいい。そうして宿の料理が注文制だったら、ありったけ高い料理をバクバク食え。この世にうまいものは数あれど、タダ酒、タダメシほどうまいものはない。ああ、たのしみだなあ!」
そう言ってレオはガハハと笑った。ああ、性格悪いなあ。たぶんさっきのケンカを引きずってるぞ。
……それにしてもそうだよね。ライブラがいつもと違うから、もしや悪だくみでもしてるんじゃないかと思ったけど、そんなわけないか。いやはや、ぼくもずいぶん疑い深くなっちゃっていやだなあ。
「ううむ……もう少し、もう少し待ってくれ……」
レオはかれこれ一時間近くコートを選んでいた。はじめての温泉ということでかなり張り切っているらしい。襟がふわふわしてるヤツ、シュッとスマートなヤツ、全体がポワポワしてるヤツなど、いろんなものをクローゼットから引っ張り出しては、ベッドの上に撒き散らしている。
「どれも似合ってるよ。美人が着ればぜんぶ正解だよ。だからねえ、早く行こうよ」
「わかってる……わかってるんだが、ううむ……」
ぼくは羽織っていたコートを脱ぎ去り、ベッドにどさっと腰掛けた。は~あ、これだから女は。別になに着たっておんなしじゃないか。ぼくなんて目についたヤツをテキトーにひょいだよ。それかアルテルフみたいに合わせのパターンをあらかじめ決めておけばいいんだ。レグルスもけっこう悩んでたみたいだし、こう言っちゃなんだけど、ぼくは男に生まれてよかった。無駄が多くてしょうがないや。
結局決まるまで一時間半もかかった。寝巻きその他は宿にあるから持ち物は財布とバッグだけで済む。こんな簡単な支度がまさか夕暮れまで続くと思わなかったよ。
「いやあ、すまんすまん」
とレオはシックで落ち着いたコートをまとい、
「なにせ突然だったろう? ふだんなら前日までに候補を選んでおくんだが、急だとどうしてもな」
と髪をかき上げながら言った。……一時間半も悩んで、そんなふつうの格好するの? まあ、似合ってるしすごくきれいだからいいけどさ。
「遅いですよ~」
と玄関でブー垂れるアルテルフは、ダッフルコートにミニスカ黒タイツをコーディネートしていた。
「さすがレオ様、お似合いです」
体温の高いレグルスは上着を羽織らず、あたたかそうなタートルネックを着こなしていた。
「まったく……こんなに待つとは思わなかったよ」
ライブラは大きなため息を吐き、見送りのデネボラとゾスマに目を向け言った。
「で、あんたらは本当にいいのかい? 温泉だよ?」
「はぁい、わたしおデブちゃんだから行きたくないですぅ」
「だって、特別おいしいものないんでしょ? 温泉とかどーーでもいい」
「……そーかい。なら留守番してな」
実はレオが長々と服を選んでるあいだ、ライブラは二匹にも声をかけていた。連れていけばその分お金がかかるのに、
「こいつらだけ留守番じゃかわいそうだろ。あたしゃこう見えてやさしいのさ」
と気を遣ってのことだった。なんだか意外だなあ。もっとがめつくて、他人のことなんか考えないひとだと思ってたよ。案外善人なのかもしれない。
「とにかく行くよ。もう日が暮れちまうよ」
とライブラが言い、ぼくらは温泉旅行に出発した。行き先はかなり遠いが、神の小径というのを使えばすぐに到着するらしい。
そしてそれは館から徒歩五分、いつも森から出入りする道の途中にあった。
「さあ、ここだよ」
ライブラは歩道の脇を示した。それを見たレオは呆れるように、
「ふうむ……いつも通るのにまったく気づかなかった。言われてやっと感じられたよ」
「ま、あんたは魔術師だからね。どうしたって理屈でものを見ちまうのさ。その点あたしら呪術師は感覚がいのちだからねぇ。研ぎ澄ませば、この世界にないものも少しは感じられるのさぁ」
ううむ……なにを言ってるのかさっぱり理解できない。きっと難しい話をしてるんだろう。なんでもいいけど早く行こうよ。
「レグルス、ここに来な」
ライブラはレグルスを呼び、なにもないところでぐるりと手を回し、空中に縦長の楕円を描いた。
「ここに”扉”がある。そう信じて疑わず”開け”と念じてみな」
「は、はい……」
レグルスは緊張の面持ちで見えないものと相対した。固く拳を握り、ムムッと強く睨む。
すると——
「あっ!」
そこに楕円状の穴が生まれた。高さはぼくの身長よりやや低い程度、幅はちょうどひとひとり通れるほどの輪っかだ。中は白く染まっている。
「これが神の小径?」
「そうさね。だいぶ薄いけど、なんとか一往復するくらいは持ちそうだねぇ」
ライブラは姿を現したゲートのふちに手を触れ、なにやら呪文を唱えた。
「キヅ・カミルテホ・キヅ・カミ・バ・ケユビタ・リビン・ノリプ・タリタ・ユ」
——あれ? 呪術じゃない。
ぼくはレオと過ごす中でなんども呪いの言葉を聞いてる。だから多少は耳に慣れて、なんとなく呪術とそうでないものの区別がつく。これは明らかに違った。
のちにレオに尋ねると、
「あれは召喚術の逆だ。召喚術は特定のものを呼び寄せるわざだが、それを対象に使わせ、逆に自分を呼ばせるという高等技術だ。まさかこれができるヤツがいるとは……ライブラのヤツ、やはり只者ではない」
と、ひどく感心しながら教えてくれた。細かい理屈はわからないけど、とりあえずその召喚術の応用で行き先を選んだらしい。
「あ、中に景色が!」
呪文を唱え終えると、白かったゲートの中に暗い針葉樹林が映った。
「成功したね」
ライブラは上機嫌で振り返り、
「それじゃあみんな、レグルスにつかまりな。そうしてゲートをくぐるんだ。全員くぐり抜けるまで絶対に手を離しちゃいけないよ」
そう言ってレグルスと腕を組んだ。
「え、あ、あの?」
「ほら、みんな早くするんだよ。さっさとしないとゲートが閉じちまうからね」
レグルスはだいぶ困惑していたが、みんなライブラに急かされ、一斉にしがみついた。
「はわわ!」
レグルスは顔を赤くして変な声を出した。右腕にライブラが絡みつき、右手をレオが握り、左手をぼくが両手で握り、背中からアルテルフが「わーい」とおぶさって、はわわわ立ち尽くしている。
あはは、体じゅうくっつかれてびっくりしてるんだね。強くて真面目なレグルスだけど、こんな風に慌ててると微笑ましくてかわいいなあ。
と、ぼくはお気楽に笑っていた。アルテルフも喧騒をたのしみ、わざと子供っぽく振る舞っていた。が——
「おまえたち、体がぶった切れたくなかったらライブラの言う通りにするんだぞ」
とレオがキツく言って穴をくぐった瞬間、ぼくらは、
「ええっ!」
と、そろって青ざめた。か、体がぶった切れる!?
「はわわわわわ!」
「ちょっとレグルス! 叫んでないで早く行きなさいよ!」
「こらアルテルフ! 首を絞めるんじゃないよ!」
「はわわわわわわわわわ!」
「しっかりおし! 右足上げて! はい、頭突っ込んで……バカ! アルテルフが引っかかってるよ! もっと頭下げな!」
「はわわわーー!」
「やだーー! なんであたしがこんな目にあわなきゃなんないのよーー! もおーー!」
ぼくらはパニックにおちいっていた。なにせ失敗したら大変なことになる。まさか神の小径がそんなに恐ろしいものだとは思わなかった。
しっちゃかめっちゃかになりながらも、ぼくらはなんとかゲートを通過した。
「はあ~、怖かった」
ぼくは無事抜けたことを確認した途端へたり込んだ。レグルスとアルテルフも同様だ。ライブラもひたいの汗を拭っている。そんな中レオは樹に寄りかかり、ドッと疲れた声で言った。
「まったく、あんまり騒ぐからヒヤヒヤしたぞ。落ち着いて通れば怖くないものを」
「あんたがあんなこと言うからじゃないか!」
ライブラがぶつかった。
「黙ってればリラックスしてふつうに通れたんだよ!」
「迂闊に手を離して惨事にならんよう事実を話したまでだ。おまえこそ甘いことを言って事故でも起こしたらどうする」
「あんたは自分の使い魔も信用できないのかい!」
「あいにく魔術師でな」
「あんたねえ!」
レオとライブラは険悪に睨み合っていた。レオはあくまで静かに、ライブラは真っ赤に激しく、互いに真逆の意見をぶつけ、バチバチに視線を燃やしていた。
あーあ、せっかくの旅行なのにケンカなんてやだなあ。でもこうなるとふたりとも絶対に退かないからなあ……
と思っていたら、
「……バカらしい。やめた」
ライブラはぐるりと視線を上へ回し、
「もういいよ、みんな無事だったんだから。それよりさっさと宿に行こう。もう夜さね」
と、抗議の矛を収めてゆるく笑った。ぼくはもちろん、レオも驚いて目をパチクリさせていた。
ライブラが退くだって? あの傲慢で意地っ張りなライブラが?
「さ、あたしについてきな。十分もすれば街に出るよ」
ライブラはニッと笑い、スタスタと歩き出した。まるでケンカなんかなかったかのような振る舞いだ。
「ねえレオ。今日のライブラなんか変じゃない?」
「ふだんなら殺すのひと言くらい出てきそうなものだが……」
「なんか逆に怖いですねー」
「本当はおやさしい方なのでしょうか」
ぼくらは顔を見合わせ、ライブラの背中を見ていた。すると振り返り、
「おーい、なにもたもたしてんのさー! 温泉行きたくないのかーい!? 温泉だよー!」
とニッコニコで大手を振ってぼくらを呼んだ。ケンカとパニックで荒れた空気を明るく変えようとしている感じがする。やっぱりいつものライブラっぽくない!
「……まあ、行くとしよう」
レオは怪訝そうな顔をしながらも、ライブラの方に歩き出した。
「ここにいたってしょうがない。あいつがなにをたくらんでるのか知らんが、まさかわたしを敵に回せば大変なことくらいわかっているはずだ。それに我々は元々レグルスだけ連れて行くところに無理やり入ったんだぞ。罠をかけるならそのときに誘わなければおかしいだろう」
たしかに。じゃあ罠なんてないね。
「そうだ、安心してついて行けばいい。そうして宿の料理が注文制だったら、ありったけ高い料理をバクバク食え。この世にうまいものは数あれど、タダ酒、タダメシほどうまいものはない。ああ、たのしみだなあ!」
そう言ってレオはガハハと笑った。ああ、性格悪いなあ。たぶんさっきのケンカを引きずってるぞ。
……それにしてもそうだよね。ライブラがいつもと違うから、もしや悪だくみでもしてるんじゃないかと思ったけど、そんなわけないか。いやはや、ぼくもずいぶん疑い深くなっちゃっていやだなあ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる