魂売りのレオ

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第十八話 からくり少女の大きなお遊び

からくり少女の大きなお遊び 七

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 ノーマさんには目的がある。
 なにか理由があって秘密を見せている。
 そんじょそこらの秘密じゃない。国家機密だ。絶対に漏れてはいけない極秘情報だ。
 魔道具があればだれでも魔法が使える。それこそあくびするのとおなじくらいの手軽さで、一般では扱えない魔術師の秘技を片手で披露できる。
 しかも、熟練のわざだ。
 これを売るとなれば相当な利益が見込めるだろう。きっとだれもがほしがるし、暮らしはとんと便利になる。仕事で使えばかなり効率も上がるだろう。
 ぼくが国王なら独占を狙う。どうやるかは知らないが、魔道具の製作を自国のみに許可したり、全世界から税を取ろうと考える。
 だからこその秘密だ。だからこそまだ世間には知られていない。
 それを、ノーマさんは見せている。
 なぜ?
 なんのために?
 それは、次に見せた魔道具が教えてくれた。
「こちらをご覧ください」
 そう言ってノーマさんは、ぼくがかつてよく目にしたものを手で示した。
「……!」
 瞬間、ぼくは声を失いかけた。
 ——“砲”だ。
 頭がすっぽり入るくらいの金属の筒に、両脇に広い車輪がついている。どの軍隊にもある、ごく標準的なサイズの大砲だ。
 ただ少し違うのは、後部に導火線がなく、代わりに金属の箱がついている。よく見れば魔力吸入口と、魂を入れるカートリッジの差し込み口がある。
「砲か」
 レオがやや固い笑みで言った。
「魔力大砲といいます」
 ノーマさんは砲の背を撫でながら言った。
「これは鉄球ではなく、魔力の弾を射出します。すごいんですよ。距離は長いし、着弾したら爆発します。火薬玉を撃ち込むようなものです」
「それは恐ろしい」
「ええ、とっても」
 そう言ってノーマさんは笑顔を見せた。そこには先ほどまでの無邪気さはなく、奥歯の隙間にものが挟まるような、どこか苦々にがにがしい笑みだった。
 さらに、
「こちらは魔力小砲です」
 壁にかけてある杖のようなものを、ひとつ手にした。棒の部分は厚みのある木製で、先端から金属管が出ている。グリップは片側だけに伸び、人差し指で持つあたりに魔力吸入口がついている。
「小型版か? やけに細長いな」
「小型というよりまったく別のものです。こうして右手でグリップを持ち、左手で砲身を支えます。魔力を入れると中で圧縮され、高速で発射します。この弾は爆発しません」
「当たるとどうなる?」
「……まず、死にます」
 ノーマさんはフロアの隅にあった木ダルに砲口を向けた。そして、人差し指を折りたたんだ。瞬間、
 ——バツン!
 と、タルの一点がはじけた。木片が割れ、激しく跳ね飛んだ。弾は中間に巻いた鉄帯に当たったらしく、内側にねじ切れるように穴が空いていた。
「どうです? すごいでしょう」
 ノーマさんは小砲を元あった場所に戻し、振り返った。じわりとまぶたを細めていた。
「恐れ入った」
 レオはそれだけ言って口をつぐんだ。ノーマさんとおなじまなざしで、無言で見つめ合った。
 ぼくは真っ青だった。
 だって、簡単に殺せる。ちょっと砲口を向けて指を畳むだけで、鉄を貫通し、木をぶち破る弾丸を撃ち込むことができる。威力は見ての通りだ。
 ぼくは思わず後じさった。あまりに恐ろしかった。こんなものが隣国で作られていたなんて……
「やっとわかりました」
 ふと、背後から声がした。振り返ると、アルテルフが腕を組み、ふてくされるような悪態じみた目をノーマさんに向けていた。
「これを見せたかったんですね」
「ええ、そうよ」
 ノーマさんは低い声で答えた。アルテルフは続けた。
「これを知らせたかったんですね。だからあたしたちをここに案内したんですね。なぜなら、戦争を止めたいから」
 ノーマさんは小さくうなずいた。
 ぼくはガツンと重い衝撃を受けた。
 ——戦争だって!?
 そんな、大変だ! この魔道具を使えば簡単に皆殺しにできる! これに比べれば弓矢も砲もおもちゃみたいなもんだ! 侵略なんてすぐだろう!
 それを秘密にするって……まさか、この国は世界を支配しようと……!?
「兵器はこれだけじゃありません」
 ノーマさんは静かに言った。
「ほかにもたくさんあります。炎を撒き散らす兵器、雷を放つ兵器、針を降らせる兵器……どれもこれも、恐ろしく強力です。これらを片方の国だけが持っていれば、一方的な戦いになるでしょう」
 そうだろう。なにせ戦争において、魔術師の数はときに勝敗を決する。
 戦争に参加する魔術師はごくまれだ。彼らは身の危険を極力避ける。戦争では真っ先に魔術師が狙われるから、よほどの利益か目的がなければ参加しない。それにいくら魔法がすごくても銀の剣や盾で簡単に防がれてしまうし、銀の矢を受ければ魔法では防げない。
 そもそも戦争は軍がするものだから、市民はおかみが変われば納税先が変わるだけで、勝敗なんて気にしない。略奪行為が許されていたむかしならともかく、いまとなっては法のゆるい国に侵略してほしいなんて声もあるくらいだ。
 だからこそ魔術師が重要になる。直線的な弓矢と違って広範囲を襲う魔法は、うまく使えば一瞬で三軍を消し飛ばすこともできる。
 それを大人数が使えるようになるんだ。奇跡が起きても戦況はくつがえらないだろう。
「なあ、アルテルフ。もしわたしがこのことをだれかに話したらどうなる?」
 レオは言った。
「魔法を機械で発動するなんて発想は世間にはない。もしうちの国のどこかで、魔道具なんてものがある、魔法は力や熱に変換できると噂を流したら、どんなことになる?」
「……たちまち研究されるでしょう」
「その通りだ」
 そこまで聞いてぼくもやっと理解した。ノーマさんは広めたかったんだ。
 魔道具がこの国の独占じゃなくなれば、安易に侵略なんてできない。返り討ちのリスクがあれば躊躇ちゅうちょする。父さんもむかし言ってた。騎士団は奪うためでなく、護るためにあるんだって。
「つまり、ノーマさんは戦争を止めたかったんだね!」
 ぼくは嬉々として言った。それに対しノーマさんは、ニコリと曇りない笑顔を返してくれた。
 するとアルテルフがため息をついた。肩の力をだらんと抜き、呆れるようによれた声で、
「つまり——って、さっきあたしが言ったじゃないですか」
「あ、そうだっけ?」
「はぁ~、なんだか緊張して損しました。最初から言ってくださればいいのに。警戒しなければもっとたのしんでましたよ」
「ウフフ、ごめんなさい。兵器のことを話たら、魂を売ってもらえないかと思ったの」
 ノーマさんはいたずらっぽい顔で笑っていた。年齢の見えない、幼い気配が戻っていた。
 しかしこれを聞いたレオは「おや?」と眉を曇らせ、言った。
「なんだ、あなたは戦争を止めたいのではないのか?」
「ええ、もちろん止めたいわ。ひとが死ぬのは好きじゃないもの」
「ではなぜ魂をほしがる。研究が止まれば兵器も増えないだろう」
「そうね……でも、こう言ったらなんですけど、わたし作りたいんです」
「はあ?」
 ぼくら三人は首をかしげた。どういうこっちゃ?
「わたし、新しいものを作るのが大、大、大好きなんです。ちっちゃいころから、からくり人形とか、からくり時計とか、そんなのばっかりいじってて、とにかくほかのひとが思いつかないようなものを作ろうって、ずうっとそればっかりしてきたんです」
 聞けば、彼女は生まれついての発明家だった。父のからくり作りを三歳から手伝い、七歳ななつを過ぎるころにはすべての技術を習得、以降父でも思いつかない機構を開発しては、ひとに見せてよろこんでいた。
 そんな彼女が二十歳を過ぎたあたりで魔法に目覚めた。どうやら自分は魔術師の才があると知り、これをからくりに活かせないかと考えた。
 それから十年以上の歳月をかけ、初の魔道具、ライターを発明した。彼女は新発明をまず父に見せる。今回もそうした。すると、父は「これは世間に見せてよいものではない」と言って、信用のおける知り合いの軍師に秘密裏に話をした。
 その後、彼らがどんなやり取りをしたかはさだかではない。
 ひと月後、彼女は国に呼ばれた。彼女のための専属チームが組まれ、庶民には目のくらむ報酬でもって招待された。
「別にお金がほしかったわけじゃないんですけどね」
 彼女は大よろこびで話に乗った。というのも、金と設備ならいくらでも用意するから、ありったけ魔道具を開発してくれと言われたからだった。
「うれしかったなぁ。だって、大好きな発明が好きなだけできるんですもの。魔道具ってちょっと材料が高いんです。でもわたし、作りたくって、作りたくって」
 そう話すノーマさんは、ほほを赤く染めてふふふと笑っていた。
「毎日しあわせなんです。おっかないもの作ってるってわかってるけど、それでもアイデアがどんどん湧いてくるし、思いついたら作りたいし、だからやめられないんです。たとえそれが、ひとを殺す兵器だとしても」
 話を聞いて、ぼくはちょっと呆れてしまった。このひと、遊んでるんだ。仕事してるとか、それで世の中がどうなるとかじゃない。子供のころからやってる遊びを、大きな規模でずっと繰り返してるだけなんだ。
 なんだか拍子抜けしたよ。すごいひとだと思ってたけど、子供なんだなぁ。どうりで顔つきが幼いはずだよ。いや、やってることすごいんだけどさ。
「そういうわけなので、こっそり噂を流してくれませんか?」
 と、ノーマさんが若々しく言うと、
「ま、いいだろう」
 レオが鼻で笑って言った。
「ドンパチやられると邪魔だしな。ちょうどわたしの知り合いでふたりほど旅人がいる。魔道具を持たせたいから、手頃なものをいくつか盗ませてもらおう」
「それはいい考えです。でもわたしの見てる前でお願いしますね。作り直して補完しないと、盗まれたことバレちゃうので」
「大胆な盗みがあったものだ」
 そう言ってふたりは笑った。さもすれば世界を変える一手なのに、井戸端で長話してるご婦人みたいになごやかだった。「遊びじゃないんですけどねえ」とアルテルフが呆れ返っていた。
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