魂売りのレオ

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第二十話 アルテルフ二十四時

アルテルフ二十四時 六

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 まったくあいつらときたら冗談が過ぎるわよ。
「ごめんごめん。アルテルフちゃんがかわいくて、ついからかっちゃった」
「本気であせるアルテルフちゃん、かわいかったよ~」
 かわいかったじゃないっつーの。危うくマジになるとこだったじゃない。こちとらレオ様の使い魔なんだから。あたしが男より女を好きなの知ってるでしょーが。まー、それを知っててふざけたんだろーけど。
「それじゃ、またあしたね」
「おやすみ~」
 夜十時、スードとメリクは客室に入っていった。といってもたぶんまだ寝るわけじゃない。どーせあいつらのことだから、夜中レオ様の寝室にアクア様と突入して、アーサー様に襲いかかるに決まってる。
 あたしもまだ寝ない。ふだんなら就寝の時間だけど、今日は来客の忙しさで夕食前のミーティングができなかったから、急遽きゅうきょこれから行う。
「おまたせー」
 あたしはミーティングルームに顔を出した。室内にはすでに三匹が待機しており、所定の席に座ってテーブルを囲んでいる。
「アルテルフ、コーヒー飲むか?」
 さすが気の利くレグルス。ストーブに火を入れ、ポットをあたためておいてくれた。この子とデネボラは砂糖ミルクの入ったホットコーヒーを飲み、ゾスマは寝れなくなるからとココアを口にしていた。
「そーねぇ……お願いしようかしら」
 今日はあたしもいただくことにした。いつもはこの時間にお茶類は絶対飲まないんだけど、今夜は別。ちょっと夜更かししてやりたいことがある。
「ブラックだよな?」
「うん、濃いめでお願い」
 あたしは席に着き、細挽ほそびきのコーヒーをドリップする芳醇ほうじゅんな香りにうっとりしながら、さて、と言った。
「それじゃ、遅くなったけど夜のミーティングはじめるわよー」
 はーい、とゆるい返事が返ってくる。あたしは差し出されたカップを「ありがと」と受け取り、ひと口すすって、
「まずあたしから報告。今日はドタバタしたせいもあってか、買い物でトラブっちゃった。とくに食料品がかなり違ってたと思う。ごめん」
「あぁ、だいぶ違ってたわよねぇ」
 デネボラがクスリと微笑むような苦笑い。食材関係はほぼほぼこの子の担当。
「急いでるとどーしても間違いが起こるからね。自分がミスったのにこーゆーのもなんだけど、みんなも急いでるときこそキチンと立ち止まって、間違いがないかしっかり確認すること。まだ買い物だから笑って済ませられるけど、これが魂売りの業務だったら笑えないから」
 おのおの、小さくうなずく。あたしはみんなの反応を確認してから、
「それと、これはあたしの方からアーサー様に言っとくけど、字を書くときは他人が読めるように丁寧に書くこと。あいつのおかげで砂糖をクソほど買ったわ。ま、腐んないからいーけど」
 と言った。これはどっちかってゆーとグチ。うちの使い魔で字を書くのはあたしとゾスマだけだしね。
「アーサー様よりレオ様かゾスマちゃんにお願いした方がいいかしら?」
「ううん、とりあえずはいい。でも続くようなら考えるから」
「はぁい」
 よし、言ってやった。ちょっとはスッキリしたわー。それに実際、問題だしね。こーゆー些細ささいなことも、積み重なると事故の元になる。
「あたしの報告は以上。レグルスはなんかある?」
 あたしはテーブル真ん中に置かれた菓子盆かしぼんからチョコをつまみ、言った。
「ああ。わたしも今日は失敗してしまった」
 あら、レグルスも?
「実はあとから気づいたんだが……間違って新しい水を使ってしまった。タグをちゃんと見てなかったんだ」
 あー、そーいやそんなこともあったねー。
「急いでお風呂を入れないといけなくて……気をつけていれば起きないミスだった。申し訳ない……あした川まで行ってくる」
 あららら、ずいぶんしょぼくれちゃって。この子真面目過ぎてちょっとしたことでもどっぷり落ち込んじゃうのよねぇ。大した問題じゃないのに。
「いーよいーよ、水は多めに保管してあるんだから。せっかくの休みなんだからゆっくりしなさいよ」
「でも……」
「取り返しのつかないミスでもないんだから、そんなに気負きおわないで肩の力抜きなさい。そんで来週、今日使った分も入れてこよ」
「……すまない」
 レグルスは笑みを浮かべつつも目の色がかげっていた。もー、固いじゃないのー。ほれ、チョコ食えチョコ。甘いもん食べると元気出るぞー!
「まってくれアルテルフ! そんなに口に放り込まれても、モゴモゴ……!」
 あははは! やっぱかわいいわねーこの子。い目のせいか抵抗しなんだもの。いじめがいがあるわー。
 ……さて、気を取り直して、
「そしたらゾスマはなんかある?」
「うん、あるよ」
「なーに?」
「アルテルフのやり方には無理があるから変えなきゃダメだよ」
「……は?」
 あたしは一瞬ぼーっとし、
「なにそれ」
 ついムッとなってしまった。
 だって、あたしはしっかりやってる。ちょうとして責任を持ってレオ様のお世話をしてる。館が問題なく回るのは、あたしがこのやり方を決めたおかげ。
 それにケチつけるっての?
「そうだよ」
「へー、どこがダメだって言うの? 言ってみなさいよ」
 あたしは投げ捨てるように言ってやった。まぶたは半目になってる。気に入らないと、どうしてもこうなる。あたしのやり方になんの文句があるっつーのよ!
「アルテルフが疲れちゃうよ」
「え?」
 ……あたしが疲れる?
「アルテルフ、いつも我慢してるよ。とくに週末はピリピリして、毎週大変そうだよ。このままだと限界が来ちゃう。だから週末の忙しいのはやめないとダメだよ」
「べ、別にあたしは疲れてなんか……」
「嘘。アルテルフ無理してる。わたし、お風呂の火を見に行ったとき、聞いちゃったんだよ」
 あっ……
「聞こうと思ったわけじゃないけど聞こえちゃったよ」
「……」
 ………………そっか、聞かれちゃったんだ。あたしが泣いてるとこ……あたしがレオ様になにを思ってたか漏らしてるとこ……
「ゾスマちゃん、なに聞いたのぉ?」
 デネボラが不安そうに訊いた。でもゾスマは黙ってじっとしてた。いつものへらへら顔で、あたしがプライド高いの知ってるから……
「長だからって背負い過ぎ。わたしたちは仲間なんだよ」
「ゾスマ……」
 ………………そうだね。あたし、ちょっと気を張り過ぎてた。だから不満抱えたり、あんなヤなこと考えるようになってたんだ。
「……少し考えようかしら」
 あたしはちょっぴり落ち込むような笑みで、ため息混じりに言った。
「それがいいよ」
 そう言ってゾスマは親指を立てたグーを突き出した。この子は表情こそ一律だけど、実はすごく感情的で、思いっ切り表現する。バシッと出すサムズアップは最高の笑顔を意味してる。
「わたしもそう思うぞ」
 そう言ってレグルスがゾスマのサムズアップに、褐色のサムズアップをコツンと当てた。
「わたしもぉ」
 デネボラも白い手で重ねた。
 あははっ。デネボラあんたよくわかってないでしょ。ちょっとトロいからねー。
 ……でもうれしいな。みんな団結して、あたしのために手をひとつにしてさ。なんか泣けてきそう。
「ありがとっ」
 あたしは三匹の拳にできた最後の隙間にピースをはめ込んだ。四つのサムズアップはみんな色が違くて、大きさも、硬さも質感も、おなじものはなかった。
 だけどこころはいっしょ。目に見えるかたちはでこぼこだけど、あたしたちの手は隙間なくぴったり埋まるまん丸をえがいていた。
「来週からどうするか、あとで考えようね」
 とゾスマが言った。
「みんなでいっしょにな」
 とレグルスが笑った。
「そのときは甘いもの用意しましょお」
 とデネボラが肩をゆすった。
「うん、みんなよろしくね」
 あたしはそう言って手を戻し、コーヒーをすすった。カップはまだ熱かったけど、それよりみんなの手の方があったかかった。
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