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自分の加護について嘗ての「仲間」について~解説~
しおりを挟む「……そうだな、其方の加護についてどういうものかしか説明しておらなんだ。すまぬ」
「い、いえ……」
ストレチアを椅子に座らせ、向かいあうようにアザレアも椅子に腰を掛けてテーブルの上で腕を組む。
「それにしても、どうして今加護について聞きたくなったのだ?」
「……その、色々と気になることが……あり、まして……」
「ほう?」
アザレアは茶を持ってきたメイドが部屋から出て二人きりになるのを待った。
「……ダチュラの聖女の力というのと、私の加護というのは一体どう、違うのでしょうか?」
「あの雌と其方のは比較対象にすらならんぞ。まぁ、共通している事は処女でなくなっても問題ない、という一点のみだ」
「は、はぁ……」
ストレリチアは良く分かっていないような顔をしている。
「それにダチュラはこの国では聖女とは呼べん」
「え?」
アザレアの言葉に、ストレリチアは驚いた表情になった。
「では問おう。リチア、其方は聖女と呼ばれると、どのような女を連想する?」
アザレアの問いかけに、ストレリチアは考え込み始めた。
「アルストロメリア神へ強い信仰心を持ち、慈悲深い方……」
「ほう」
「奇跡を起こす事のできる方……」
「ふむ」
「……国に貢献し、弱き民に優しい方」
「まぁ、一般的にはそうなるだろうな」
ストレリチアの答えに、アザレアは正解であることを伝える。
「でだ、あの雌。どれに当てはまる?」
アザレアは我ながら意地の悪い質問だと思いながら、ストレリチアに問う。
ストレリチアは必死に何が当てはまるか探そうとして、頭をひねっている。
「……奇跡?」
「あの雌の術は奇跡ではない、治癒術や補助術と少し違うだけだ」
「で、でも実際、神殿では、病を治してたり……」
「それはそうだ、アレは神の奇跡の残滓。それ位はできる。というかあの雌の性格ではそれ位しかできんのだ」
「奇跡の……残滓?」
ストレリチアは初めて聞く言葉なのか首をかしげている。
「アルストロメリア神は常に奇跡によってこの世界を成り立たせている。その奇跡の残滓が稀に創造物に宿ることがある。主に知能、心を持った存在に」
「……」
「アルストロメリア神の奇跡の残滓故に、その存在のありようによって差が出てしまう。其方が言うような存在であるならばまさしく聖人、聖女として力を使える。だが、残滓の力は他者を傷つける事に用いることはできぬ」
「ど、どういう事です?」
「私の命を狙った者達が、私にそれを行使した時点でその力は劣化するのだ」
ストレリチアは再び分からないと言わんばかりの表情を浮かべている。
「どうして、なのですか?」
「それはそうだ、私はアルストロメリア神の加護によって守られている」
「?! え、その、どういう……?!」
混乱している可愛らしい妻に、アザレアは笑みを浮かべて答える。
「早い話『魔族』という種族などおらんのだよ。私達は愚者共に『魔族』と一括りされているが――れっきとしたアルストロメリア神の被創造物。良きとされて生み出された存在なのだが、少々他と異なる故に、迫害され――それをどうにかする為に私は加護を授かり、同胞を守り、そしてこの国の王として君臨しているのだ」
アザレアの言葉に、ストレチアは呆然としている。
それもそうだろう、何一つ知らなかった事を知ることになったのだから。
「……では、貴方方はなんとお呼びすれば宜しいのでしょうか」
「それがだなぁ、向こうが『魔族』って言ってるからそれでいいんじゃないかと殆どの者が投げやりになっている、私も特に何か思いつくというものがない」
「……はぁ」
「――ちょうどいい、リチア。何か思いつくものはないか?」
「え?!」
「何、気軽に申して見よ、良さそうなら配下達と話し合うだけだからな」
かなりの無茶ぶりだと思うが、ストレリチアは考え始めた。
この善性がアザレアはたまらなく愛おしかった。
「…ヴァチュア?」
「ほぉ、善き者か。随分と古い言葉だが、何故これを?」
「……その、見目では確かに一括りにはできませんが、此処では皆私にとても良くしてくださってました……旅の途中『魔族』と呼ばれる方々と戦った事があります、でも思い返せば……命を奪われそうになって自身を守る為に無意識に変異して自我を失った方……この国に明らかに敵対行動をとっていた故に、それからこの国を守るために戦った方……そういう方ばかりでした……」
ストレリチアは酷く暗い表情でそう口にした。
アザレア達のような存在は特殊だ。
他の種族のように親から生まれる場合もあれば、突如何もない場所に自我を持った状態で出現する場合もある。
魔物と似た要素も持つだけでなく、自我を失った時魔物よりも脅威になる。
それ故、アザレア達は「魔族」と呼ばれていた。
ただ、他の種族は分かっていないが、自我を失って変異するのは幼少時、もしくはこの世に生を受けてしばらくの間だけで、大人になればそのような変異はしない。
仮に変異をしても自我を持つし、戻ることも可能だ。
どちらにせよ、他の種族から見れば脅威だったろう。
それ故、変異する前に、見つかれば殺そうとされる。
アザレアの民全てが戦えるわけではない、他の国の民と同様、力を持たぬ者が殆どだ。
変異も、親から生まれた子、そういう者達は上手くできないし、変異しても戦力にならない場合が多い。
見目が他と違い、性質が他と異なる、他から見たら「異常」とされる。
それもアザレア達が「魔族」と呼ばれる理由でもあった。
だが、アザレア達とて、好き好んでそのような見目をしてるわけではないし、そのような性質を持っているわけではない。
そして、もう一つ、魔物を使役する能力も同様にだ。
他の種で使役者と呼べる者達も魔物を使役できるが、使役できる魔物は比較的温厚な魔物に限られる。
アザレア達はどんな魔物であっても使役できる、それも「魔族」と呼ばれる理由の一つだ。
最初の頃は、何故自分達はそのような力があって、そして他の種と異なるのか分からなかった。
もっと、分からないのはそれだけで自分達を「魔族」と呼んで虐殺しようとした他の種族達である。
アザレア達は何もしなかった、なのに「異物」として他の種族はアザレア達を排除しようとした。
殺されていく同胞達。
アザレアは望んだ、ただ生きたいと、虐げられることなく生きたいと。
その時、見たのだ。
眩しくて見えなかったが、見たのだ。
自分達を守ろうとする存在を。
その存在――かの御方が何か呟いたのを。
「――アザレア様?」
ストレリチアの声にアザレアは我に返った。
「すまん、少し昔を思い出していた。そう、呼び名だったなヴァチュア。うむ、悪くない、後で配下達と話合ってみよう」
「あ、有難うございます……」
「さて、では話を戻すか。其方の加護についてだ」
「え、あ、はい。どうして誰も気づかなかったのでしょうか……」
「あ゛――それはだな」
アザレアは金色の髪の毛を弄りながら呆れたように呟いた。
「……まぁ、向こうが気づいてないがアルストロメリア神の意思に殆どの連中が背いてる結果、加護を認識できなくなっているのだ」
「え、えーと、その意味が分からないのですが……」
「つまりだ、アルストロメリア神は私達と他の種族、他の国々が争う事を望んでおらぬ」
アザレアの言葉に、ストレリチアは困惑した表情を浮かべている。
「で、では、勇者とは何なのです?!」
その通り、ならば勇者は何故選ばれる。
という疑問がストレリチアが抱くのもアザレアは理解できていた。
アザレアは一本の剣を出現させ、それをストレチアに見せる。
彼女には見慣れた剣だろう。
「こ、これは……」
「聖剣ウルフスベイン――と呼ばれている剣だな。勇者に与えられる剣――」
「は、はい」
ストレリチアは困惑しながら机の上の剣を眺めている。
アザレアは鞘から剣を抜くと、刃になっている箇所をなぞった。
「あ、アザレア様!! 危険ですそれは!!」
ストレリチアが真っ青になって手を伸ばした。
その瞬間、白銀の剣から黒い瘴気のような物が噴き出した。
「?!」
黒い瘴気は形を作った、それはまるで苦悶の表情を浮かべている様だった。
「……やはり最初の勇者が来たとき破壊しておくべき――否、どうせ奴らは何度でも作っていただろう、その際に犠牲になる同胞が哀れだ」
アザレアはそう言って黒い瘴気に手を伸ばした。
アザレアが触れるとソレは消え失せた。
「アザレア、様、今の、は?」
「聖剣――いや魔剣を作る際に犠牲になった同胞たちだ。これは向こうからすると多くの『魔族』を殺すために『魔族』の命を喰らわせた物だ。まさしく私達を殺すためのおぞましき剣だ」
アザレアはそう言って剣を鞘に納める。
「……そ、そんな恐ろしい物を持ってどうして無事だったのです……あの――」
「無知だったからだ」
ストレリチアが最後まで言う前に答えた。
「え?」
「あの雄は心の底から『魔族』は悪と信じ切り、そして自分は何も間違っていないと信じていたからだ。愚直な正義――無知がこの剣を持つ者には必要だった。ストレチア、其方はこの剣を持ちたいと思った事がないだろう?」
アザレアの問いかけに、ストレリチアははっとした表情になった。
「あの雄が勇者に選ばれたのはその無知の中から偶々選ばれた――のだろうな」
「……」
複雑そうな表情を浮かべるストレリチアを見て、アザレアは剣をテーブルに置いて、彼女の頬を撫でた。
「やはり、まだ未練はあるか?」
「――いいえ」
ストレチアは顔を上げ、アザレアの目を見つめてはっきりと否定の言葉を口にした。
その目には迷いはない。
アザレアは心の中で笑みを浮かべた。
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