29 / 120
第二章:エドガルド、自分、そして──
愛しているから~解決したということはつまり?~(side:フィレンツォ)
しおりを挟むダンテ様と共に、ダンテ様のお部屋に戻ると、私達は硬直しました。
メイド達が倒れている、物があたりに散らばっている、カップは壊れている。
エドガルド殿下は毛布をかぶって部屋の隅で震えていらっしゃる。
――一体、何が――
「フィレンツォ、メイドの方達を頼みます!」
私はメイド達の方を介抱しながらエドガルド殿下に駆け寄ったダンテ様を見ました。
エドガルド殿下はダンテ様の顔を見ると破顔し、そしてすすり泣くのが分かりました。
「大丈夫です、大丈夫ですから……」
ダンテ様は何度も言い聞かせているようでした。
エドガルド殿下をベッドに寝かしつけられたダンテ様は息を吐きました。
「一体何があったんですか?」
意識を取り戻したメイドの一人にたずねられます。
「エドガルド殿下は、ダンテ殿下がお部屋を出てしばらくの間、とても静かだったのです……静かにお茶をお飲みになられていて、ティーカップが空になったので『お飲みになられますか?』と聞いて『頼む』と言われましたのでお茶を入れようとした途端、急に頭を抱えて、叫び声を上げて……」
「暴れた……と。その時兄上は何か言ってませんでしたか?」
「はい……『私に触るな』と言った内容の言葉を……」
ダンテ殿下はため息をつかれました。
「……兄上に薬飲ませたりした奴らを拷問したくなった」
「「「ダンテ殿下?!」」」
メイド達は明らかに普段と異なる言葉を言うダンテ様に驚いています。
まぁ、そうでしょうね。
「静かにしてください。エドガルド殿下が起きてしまいます」
私は静かにメイド達に注意しました。
「貴方達は、念のため医療室に行ってみて貰って下さい」
そう言ってメイド達に部屋を出てもらうと私は息を吐きました。
「ダンテ様、お気持ちは分かりますが普段の貴方様しか知らぬメイド達が聞いたら驚いて当然ですよ」
「いや、すまない。我慢が出来なかった」
ダンテ様は椅子に腰をかけて、手を組まれました。
「うーん、結構不味い事態かもしれないなぁ」
「どういう意味ですか?」
「療養させるにも、兄上はおそらく医者も触れない位の精神状態に今ある。家族の中の誰かが見ていれば多少我慢できるだろうけど、そうなると私が適役なんだと思うんだ」
「何故?」
「父上と母上に関してはこうなってしまったという自責の念で悪化する可能性もある。第一兄上は苦しんでいる時、私に助けを求めてきた、だから私が適任かなと」
ダンテ様のお言葉はもっともだ。
「……成程、ですが。ダンテ様、貴方様の留学は後二年後に迫ってますよ? 勉強――……失敬、之は愚問でしたね」
「うん、城の中で、もう私に勉強を教えられる人はいないからね。それ位努力したんだよ? ほら、ほら、褒めてくれないかなぁ?」
「……無理して何度も部屋にぶち込まれたのは何処の何方様でしたっけ?」
「アーアーキコエナイー」
これ!!
この無茶する癖をどうにかして欲しいのですよ本当に!!
「分かりました、ではエドガルド殿下の容態を陛下にお伝えしてきます。くれぐれも無理なさらないでくださいませ」
「わかってるよ」
私はそう言って部屋を後にしました。
ダンテ様のお言葉をお伝えした結果、エドガルド殿下の治療は城内で行われる事となり。
また、ダンテ様と一緒にお過ごしになられることとなった。
独りにしておくのは不味いということもあり、共同部屋でダンテ様と一緒にお過ごしいただくことになりました。
その間、私はエドガルド殿下の執事も兼任することになりました。
信任していた執事の後任があんなのだったため、信頼できる私、という事になりました。
私達と前任の方の苦労を台無しにして!
「ダンテ様、エドガルド殿下に何か異変などはございましたか?」
「いや、全く」
エドガルド殿下とダンテ様が同室生活を始めて二週間が経過しました。
エドガルド殿下は今までの反動かよく眠る反面、ダンテ様が傍にいないとすぐ目を覚まし不安定になってしまうようになっていました。
この時はエドガルド殿下はお眠りになられていたのでダンテ様におたずねしました。
「というか気になったことはその都度伝えているじゃないか」
「申し訳ございません、それでも気になったのです」
「まぁ、いいけどさ……」
「兄上はゆっくりと休んで、誰かに頼るという事を覚えるべきなんだよ。今はそのための時間だと私は思ってるしね」
「……それはダンテ様も同じでは」
「私が無理したらお前が容赦なく休憩しろって、ベッドに叩きつけるだろう?」
「分かってるなら、事前にそうしてください」
「ははは、私なりの信頼だよ」
ダンテ様のお言葉に私は呆れるしかありませんでした。
――全くもう!!――
「ところで、ダンテ様」
「ん?」
「ダンテ様がエドガルド殿下に何かしてるとかはないですよね?」
ふと思ったので聞いてみました不敬ながら。
何かエドガルド殿下とダンテ様のご関係が仲良い兄弟を超えているように見えたので。
ダンテ殿下は茶が気管に入ったのか何度か咳き込んでじと目でこちらを視ます。
「……フィレンツォ冗談でもそういう事をいわないでくれ。というかお前は私をそういう目で見ていたのか?」
「いえ、エドガルド殿下と同室でお過ごしになられるようになってから、ダンテ様はやけにエドガルド殿下に甘いので」
「んー……なるほど、そういうことか。でも言っただろう、私は傷ついてる兄上が心配で、そしてこれ以上傷つかないでほしいだけなんだ。そして良くなってもらいたい」
「昔から見ていただろう、私は兄上の事が大切なんだよ」
ダンテ様がそいういうならそういう事にしておきましょうと、私は心の中で納得して頷きました。
「甘い……」
エドガルド殿下は液体状の薬を飲んでそう呟かれました。
「でも、兄上。それなら何とか飲めるのでしょう?」
「……」
ダンテ様のお言葉に、エドガルド殿下はこくりと頷かれました。
「本当、厄介な薬を使ったものです、あの輩は」
私は空になったカップをエドガルドから受け取ると、カートにのせながらぼやきます。
エドガルド殿下は飲まされていた薬を飲まなくなった副作用で、味覚に異常が発生しました。
多くの飲食物に毒と錯覚するような苦みを感じるようになったのです。
その薬――基毒は非常に厄介だったらしく、城の薬師と魔術師も頭を抱えていたのを見て、ダンテ様がちょっと手を出されました。
あっという間に毒への特効薬が完成なされました。
執事である私もびっくりです。
まだエリクサーの作り方も知らないのに。
更に驚愕するべきはそれは万能薬でもあったのです。
効果については色々あり過ぎて割愛いたします。
調合に必要な薬草とか錬成に必要な魔力の割合とかそう言うのを全部書いて、薬もそこそこ作ったので城の薬師と魔術師で作れるようになったら一般向けにも広めて流通させようという話になりました。
しかし、不思議な味です、甘くて少しチョコとミルクの味のする謎の薬。
――もしやダンテ様天才?――
――いや、それは分かり切ってたことですね――
と自分にツッコミをいれました。
薬を飲み始めて、エドガルド殿下の精神は安定してきておりますし、ダンテ様がいなくても、他者と接することが徐々にできるようになってきてます。
「――それにしても、ダンテ様の御力には驚かされますね、昔から」
「そうかな?」
薬を飲んで、落ち着いたエドガルド殿をのベッドに寝かせ、すやすやと寝息を立てるのを見計らって私は話だしました。
「ええ、そうですよ。初めてお会いしたあの時からずっと」
私は懐かしそうに話します。
「別に特別なことをしたという感じではないよ、まぁ今回は兄上にしてくれやがった事が許せないから色々やっただけだし」
「……御后様がダンテ様をあまり今回の件に深入りさせないよう陛下に進言したのも納得です」
「母上が?」
私の言葉にダンテ様は驚かれたようでした。
「流石にエドガルド殿下の事なので母であらせられる御后様が此度の件を聞いた時即座に『ダンテにあまり深入りさせないように、あの子は怒らせたらおそらく大変な事になるから』と」
「……」
ダンテ様は少しだけ無言になりました。
「母上は他になんと?」
「そうですね……『ダンテはエドガルドをとても大切に思っているし、エドガルドも漸く自分に素直になれたのもあるから二人の時間をなるべく作ってあげて欲しい』とも」
「母上らし……い?」
御后様のお言葉、一見普通に見えますが、執事経験的に何かを感じます。
こうびびっと。
エドガルド殿下の治療が本格的に始まって二ヶ月が経過しました。
薬の効果もよく、また周囲の環境も落ち着いた環境であることもあってエドガルド殿下はダンテ様がいなくとも新しい執事とメイドの付き添いの元、医師の診察を受けたり、外出することができるようになってきました。
それと、エドガルド殿下の「元執事」の件もあり、執事とメイド等の身辺調査がかなり入念に行われましたた。
もちろん私も、まぁ何もないんですけどね!!
代々続いてきたカランコエ家の陛下たちからの信用を私の代で終わらせる気はありませんので!!
ただ、最初のエドガルド殿下の執事一家は無関係なのが分かったが親類が起こした事の大きさから、首都からは追放されることになった。
無関係なのに、親類の所為で信用を失うとは可哀想でならない。
その結果、アングレカム辺境伯の娘が嫁いだ先の下働きをするという仕事をする事になったそうだ。
周囲が監視できる環境でもあるので、まぁ何かあったらその時は、という感じでした。
今はそれよりも別の問題が起きています。
エドガルド殿下がダンテ様との同室生活を辞めるのを、ダンテ殿下が留学するまで拒否していること。
やはり、エドガルド殿下は――
ダンテ殿下を愛していらっしゃるから、女神インヴェルノに選ばれなかったのでしょう。
実の弟しか愛せない運命をしっていたこらかこそ、選ばれなかった。
だから、病んでしまわれたのでしょう。
ダンテ殿下は――おそらく、そのお気持ちを救いになられた……
ん?
それはつまり――??
私は混乱しましたが、ダンテ様があからさまな行動をとってないので言わないことにしました。
10
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました
志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」
そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。
その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。
罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。
無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。
そして、リシェリードは宣言する。
「この死刑執行は中止だ!」
その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。
白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる