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謎だらけの夫
しおりを挟む「……ん」
サフィールは目を覚ました。
心地の良いベッドと、ちょうど良い枕、肌触りの良いシーツ、心地の良い上質な毛布の感触。
起き上がると、ベッドの上で眠っていたことに気づく。
サフィールは手を見た、少しだけ伸びていた両手は綺麗に爪を整えられ、傷一つない白い手をしていた。
昨夜の事は覚えていた。
暴力的で、弄ぶような行為であの異形は――ニエンテはサフィールの体を嬲ってきた。
その際爪が指がボロボロになるほど体らしいソレを引っかいた記憶がある。
それが綺麗に無くなっていたのだ。
「……」
暴力的な行為だったが、途中から真逆になった、哀れむような声が聞こえてから。
声も口調も変わった、まるで弄ぶような男の声だったのが、優しい甘やかすような男性の声に変わった。
柔らかく体を触るだけになり、でもそれでは物足りなかった。
どれ程ぶりだろう望む言葉を口にしたのは。
ニエンテは嗤う事もなく、優しい甘やかすような声と口調で、優しくそれに応えてくれて性器や敏感になった箇所を振れるようになった。
それでも足りなくて、強請ると、ぐずぐずになって欲しがってる二つの箇所に男根らしきものがゆっくりと入って来た。
痛くないかと優しく問いかけ、甘やかすその声、初めて貫かれた膣内は少しだけ痛かったけど、嘘をついた。
きっと「痛い」と言ったら動かしてもらえない、そう思ったから。
異常なまぐわいなのに、蕩けるような甘い快感と絶頂感の余韻がサフィールの体に残っていた。
優しく甘い声の囁きも耳の奥に残っている。
――どちらが本当?――
ぼんやりとサフィールが考えていると扉をノックする音が聞こえた。
「――誰、だ?」
扉が開き、メイドが入ってくる。
「奥方様、お目覚めになられましたか? お体の方に何か不調等はございませんか?」
相変わらず無機質的で「人形」のようにメイドは表情を変えず訊ねてきた。
「……いや、ない」
メイドがかつかつと近づいてきた。
「失礼いたします」
サフィールの額と、服越しに胸を触ってきた。
「?!」
「――体温が少しばかり高め、それ以外は特に異常は無いようです。失礼いたしました」
メイドはそう言って離れ、頭を下げた。
他のメイド達が服などをもって部屋に入ってくる。
「ニエンテ様が食堂でお待ちです、『嫌でなければ一緒に食事をしたい』とおっしゃっておりました」
サフィールは少し考えてから、メイドを見る。
「分かった、案内を」
「畏まりました、その前にお着換えの方を――」
メイド達が近寄りサフィールの着替えや、顔を拭く、髪をとかす等の身なりを整える行為を行った。
今日着せられた服も、屋敷で着ていた服ではなかった。
屋敷で着ていた服の方が質が下なので汚れなどを気にする必要がないのだが――色々と思い出して苦しくなるので、今は別の物を態々用意してくれるのがサフィールには有難かった。
汚してしまったら、と考えると怖くなったが。
「奥方様、こちらです」
サフィールはペンダントを首から下げ、ブレスレッドを腕に着けると、メイドに案内されるがままに扉の中に入った。
食堂に移動し、椅子に腰をかけて視線を向ければ、灰色がかった銀髪の長い髪の、顎から品の良い形の髭を生やした、褐色肌の青い目の人なら40代位の男性が、仕立ての良い衣服に身を包み、前にナプキンをかけて、赤紫の液体の入ったグラスを口にしていた。
――誰、だ?――
男性はグラスを置くと、にこりと穏やかで優しい表情を浮かべて口を開いた。
「サフィール、良く寝れたかい?」
優しい甘やかすような声で気づいた、この男性は――ニエンテだと。
ぞわりと、体が「熱」を発して、疼きだす。
サフィールは下腹部を押さえながら、口を開く。
「え、ええ……」
先ほど見れたはずの顔が、もう直視できず視線をそらしながら答える。
目の前に食事が並べられる。
「奥方様どうぞ召し上がってくださいませ」
「ああ……」
正直食欲は今もあまり無い、昨夜感じた「甘い」という感覚は偶然もしくは錯覚だったような気もするからだ。
恐る恐る、琥珀色のスープを口に運んだ。
「?!」
味がした。
野菜や肉、塩などの調味料も含めた味が感じ取れた。
「奥方様、何かございましたか」
「い、いや、何でもない……」
「最近食事を取っていないのだろう、ゆっくりと取るといい」
「……はい」
ニエンテの言葉にサフィールは小さく返事をすると、ゆっくりと手を動かして食事を再開した。
出された食事の量は屋敷で食べていた時よりも少なめだったが、サフィールに取っては有難かった。
味を感じられるようになったが、食欲はそこまで戻ってないからだ。
それでも少ない量で栄養が取れるように考えて出された食事であることは理解できた。
ニエンテの方は――とても美しい所作なのだが、食べる量がすごかった。
恐る恐る何故そんなに食べるのかと聞いてみたら。
『君が眠った後、少々大きな仕事が入ったので。普段はそれほど食べないのですが』
と穏やかに微笑んで、答えてきた、甘く蕩けるような声で。
その声に体が熱を持ち、疼きが酷くなるのがサフィールには苦しかった。
少し風に当たるなり、距離を取ることを考えたが、昨夜の記憶が確かなら「ニエンテは自分をこの城から出すことはできない」ということを思い出した。
どうしようかと悩んでいると、ニエンテの方から穏やかに提案してきた。
『城の中に庭がある、壁があるが外の空気とほとんど変わらないから行ってみるといい』
ニエンテの言葉に、意味が分からず、とりあえず頷いてみたら、メイドが案内した。
『私はもう少し食事を取っているから、ゆっくり気分転換をするといい』
そう言ってきたので、サフィールはメイドに案内されるがまま扉をくぐった。
「……?!」
見たことのない蝶が飛んでいる、美しい庭園がそこにあった。
上を見上げれば日の光のようなものもある少しばかり日の光が痛くそして何処か苦しく感じた、見たことの無い美しい青い空には白い雲が流れているような動きがある。
空気の心地も、城の中とは明らかに違った。
どういう構造の城なのかサフィールにはますます分からなかった。
柵で覆われている、柵の箇所まで行き、手を伸ばすと見えない壁があった。
だが見えない壁の向こうにも景色は広がっていた。
仕組みが全く分からなかった。
風が吹いている、人工的な物ではないし、魔力的な物とも何か違う。
「一体どうなっているのだ……?」
「この部屋はニエンテ様が見たという大戦前の庭園の一つを再現した物です、他にも同じような部屋がいくつか」
メイドが近づいてきて、日傘をさしてサフィールが直接日の光らしき物を浴びないようにしてながら説明をしてきた。
「……大戦?」
サフィールは首を傾げた、大戦と聞いても四大真祖等の現在の統治者たちが世界を統治して以来、戦争らしい戦争は起きたなど聞いた事が無いからだ。
「天使が世界を焼き払おうとした時のことです」
「――!!」
サフィールは驚愕した。
世界が統治される以前の話だからだ、サフィールが生まれる前などではない、五千年以上――そう大昔と言ってよい程昔の話。
では、かつては日の光はこのように日の光に耐性を持つ自分でも痛みを感じ、空もこのような色をしていたのかと。
サフィールはちらりと日の光らしき物を再度見る。
「……!!」
目が焼けるように熱い、痛みを感じた。
目をおさえて日傘の影に入りうつむく。
「奥方様は庭に関しては今後夕方以降訪れるのが良いかと思います、奥方様には庭の『日の光』は毒です、ニエンテ様の配慮が足りないようでした、申し訳ございません」
「いや、いい……日傘があれば……なんとか平気だ」
「では日中は必ず私共の誰かを呼んで一緒に訪れてください、でなければ何かあった時対応できません」
メイドは何か薬液らしき物で浸した布をサフィールの目に当てた。
残っていた痛みや焼けたような感覚が引いていく。
「……何故ニエンテは再現しようと?」
「『忘れ去られるのは寂しいから』とおっしゃっておりました」
サフィールの目の負傷が治癒したと感じたのか、メイドは布を仕舞った。
「……」
サフィールは額に手を当てて、その景色を見る。
よく見れば植物もどれも見たことがないものだった――
――ではこの植物たちは――
「……すまない、花か何かを一輪摘んできてはくれないだろうか」
「畏まりました、では日傘の方を……」
サフィールはメイドから日傘の持ち手を受け取り掴む。
メイドは少し歩いて、赤い花を一輪摘んで、戻ってきてサフィールに差し出してきた。
「……」
サフィールは恐る恐る手を伸ばし、その摘んだ花に触った。
瑞々しい花はサフィールが触れると枯れてしまった。
「!?」
サフィールの表情が再度驚愕の色に染まる。
遥か昔――植物は吸血鬼やその血を引く者が触れると枯れた。
だが、大戦後、世界は大きな変化を遂げ、吸血鬼等が触れると枯れるような「弱い」植物は姿を消し、枯れぬ植物へ変化をしたり、枯れぬ新種の植物が生まれるようになった。
また、日の光も大戦後は変化し、それらに弱い者達でも日中を歩けるようになった。
その大戦は、最初は天使達に蹂躙されるだけだった。
今の統治者たちでさえ、防戦もままならなかった。
だが――ある日「喰らう者」が現れた。
それは天使達や天の生き物を喰らいつくしていった。
最後に天に昇り「何か」を喰らいつくした途端、世界は大きく変化を遂げた――
サフィールは御伽噺のような内容の出来事、かつて読んだ本の内容を思い出しながら、困惑した。
ニエンテはその頃からサフィールの父達同様生きていたということになる。
あの大戦では人も人ならざる者達も多くが死んだという。
それほど酷かった中で生きているということは、ニエンテはとんでもない存在なのかもしれないと思った。
「……ニエンテは何処かを統治してるのか?」
「――していると言えばしておりますが、していないと言えばしておりません」
「??」
「ニエンテ様曰く『俺は名ばかり統治者、だから統治者って扱いだけどそういうお仕事してない、まぁ仕事は来るけどね、でも他の統治者みたく税金とか福利厚生とかまぁそういう細かいところのあれこれしてないもん俺』とのことです」
メイドの言葉に、サフィールはニエンテという存在がますます分からなくなり、同時に何故そんな存在に父が自分を嫁がせたのか、ますます分からなくなった。
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