不死人になった私~逆ハーレムっぽい状態になるなんて聞いてないし愛ってなに?!~

琴葉悠

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おとずれた変化

私のせいで ~予想外~

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「――よっしゃ!! 壊れた!!」
 アルジェントにルリの事を任せて数分後、グリースは面倒な結界の破壊に成功した。

「――居たぞ!!」

 閉ざしていたはずの扉から武装集団テロリストがやってきた。
「……ヴィオレ、此処任せていいか? 俺はルリちゃんとアルジェントの所へ行く」
「いいでしょう。ルリ様の事お任せします」
 グリースはヴィオレにその場を任せて転移した。


「……」
 グリースはルリの部屋の前に来ると、扉は溶かされた痕跡があり、また部屋の前には死体が散乱していた。
「……あっちか!!」
 グリースは感知と音でルリ達がいるであろう場所を判断して向かった。


「いやああああああああああああ!!」


 ルリの悲鳴が聞こえた。

――まさか――

 グリースがルリの姿を視認できる場所についた時――

 ルリにもたれかかるように頭部がないアルジェントの体と、床に転がる頭が目に入った。
 グリースは舌打ちする。

――ああ、くそ、コレは不味った!!――

 グリースは急ぐあまりただ「聖なる物として判定」されるだけの物しかアルジェントに渡してなかったのだ、身代わりになる術なり何かをかけておけばよかったと遅すぎる後悔をする。

「何で不死人グリースが?!」
「あの結界は高位の魔術師でも壊すのに一時間以上かかると実験したはずじゃないの?!」
「知るか!? 幸い本命の不死人は動けなくなってる!! 早く女を捕まえて転移――」

「「――?!?!」」

 誰もが言葉を失った。
 アルジェントの体が動いたのだ。
 手が落ちた首を掴むと、元ある場所に置かれる。
 切断された痕が消えて失せる。
「……ルリ様」
 アルジェントがルリの顔についた血をぬぐい、そして頬を撫でている。
「……ある、じぇん、と?」
 ルリは呆然とアルジェントを見つめている。
 グリースからはどんな表情をアルジェントが浮かべているか良く見えなかったが、わずかに笑っているのが見えた。

「――ルリ様、少しだけ目を瞑り耳を塞いでください」

 アルジェントの言葉にルリが従うような行動をとると、アルジェントは武装集団を睨みつけた。

「ふ、不死人が他にもいるだなんて聞いてない!! 聞いてない!!」
「嫌よ!! こんなところで無駄死になんてぇ!!」

 慌てふためき逃げ出そうとする愚者達を見据えてアルジェントは口を開いた。

「ルリ様を傷つけた罰だ、苦しみぬいて――死ね」

 アルジェントが普段は使わないような、拷問魔術で――愚者達は耳障りな声を上げて絶命していった。

 むせ返る程の血の臭いと、嘗て人型だったと思わしき肉片や臓物等が散乱していた。

「……おい、アルジェント」
「……あ」
 グリースが声をかけると、アルジェントは自分の体を触りだした。
「私は――死んだ、はず、では?」
「……体はどうだ?」
「……脈は、体温も、傷痕は――な、い……ま、さか?」
 アルジェントは血相を変えて手で心臓をえぐり取った。
「お、おい!!」
 そしてぐちゃりと握りつぶした。
 傷痕はすぐさま塞がった、残ったのは服の穴が開いた箇所だけ。
 アルジェントは再度胸元に手を当てる。
「――今の私は……不死人……?」
「……そうみたいだな……」
 グリースは深いため息をついた。

――今回の件で問題がまた一つ出たぞ、どうするんだ、ヴァイス?――




「――ルリ様」
「ルリちゃん」
 アルジェントとグリースの声に、ルリは耳を塞いでいた手を下ろし、目を開けて顔を上げ二人を見る。
「……アルジェント……さっき、頭が、頭が……グリース、アルジェント、どうしちゃったの⁇」
「……ルリちゃん、アルジェントは君と同じく不死人になったんだ」
「え……?」
「……ルリ様」
「アルジェント……」
 何か言いたげなアルジェントをルリは見つめる。
「――っとこんな時、いや、こんな時だから呼び出しみたいだなアルジェント。仕方ないからお前等が帰ってくるまでルリちゃんの護衛しとく、いいな?」
「……わかった。ルリ様、しばしお待ちを」
 ルリはその場から立ち去ろうとしたアルジェントの服を掴んだ。
「……ルリ様?」
「アルジェント……居なくなったり……しない、よね?」
「――勿論です、ルリ様。私は貴方様にお仕えいたします」
 アルジェントは膝をつき、ルリの手を握って微笑んだ。
「……」
 ルリは何も言う事ができず頷くしかなかった。

 するりと手が離れ、アルジェントが姿を消した。

「……」
 ルリはそれを見送るしかできなかった。
「……一回部屋に戻ろっか?」
「……うん」
 グリースの言葉に、何とか答えると、グリースはルリを抱きかかえた。
 一瞬でルリの部屋に戻る。
「ほれよっと」
 グリースが何かしたのか溶かされた扉が元通りになる。
「……あんまり荒らされた後はないみたいだね、何かされた痕跡もないし」
 グリースはそう言ってルリをベッドに座らせ、隣に腰を下ろす。
「……ルリちゃん、君が気にしてるの。アルジェントが自分と同じ『不死人』になった事だろう?」
「……うん」
 グリースの言葉にルリは頷いた。

 今までの会話等で分かっている。

 この国では――不死人は良く思われていない。
 だから、不死人で、この国の王――真祖ヴァイスの妻である自分は快く思われていない。

 アルジェントは今までこの国の魔術が使える人間だった。
 ヴァイスに仕える忠実な存在――だけれども。

 不死人という存在になった。
 吸血鬼になるのではない、不死人というこの国では「忌避される」存在になったのだ。

 グリースから聞いた話では、強大な力を持つ不死人は現状グリースただ一人。
 ルリも多少力はあるが、それよりも不死人を産むことができるという異質性に特化している為、無防備な真祖を突き飛ばす程度の身体能力はお飾り。
 他の不死人はそのような力を持たない、だから誰も逃げられない。


 けれどもアルジェントは――

 不死人になる前から、魔術の才を持っていた。
 それ故、ルリが来るまでは魔術師として高い地位を与えられていた。

 そんなアルジェントが、不死人となったのだ。

 力を持った不死人、この国なら脅威とみなされかねない。


――あの時、私を、庇ったから――

 あれが無ければ、きっとアルジェントは人間のままだっただろう。
 だからルリは酷く怖かった。

 元々自分が原因でアルジェントへのヴァイスとヴィオレ以外のこの城の者達の評価は悪くなってしまっていると感じていた。
 それがさらに悪くなる原因を作ってしまったのだ。

――死んでほしくなかった、でも、どうして、こんなことに――
――不死人って、何なの?――

 ルリはただ、これからどうなるか分からない不安に押しつぶされそうだった。





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