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一途な御曹司は欲しいものを逃さない~恋は盲目~
しおりを挟む「はろるど、ぼくははろるどがすきだよ」
「坊ちゃま、有難うございます」
他愛のない、幼い故の愛情だと思っていた。
だから、それに相応に返した。
いつか、思い出として忘れ去れても構わないように。
なのに――
「ハロルド、愛している。世界中の誰よりも」
「ラフィエル様、そのようなお言葉はお止め下さい……私には応えられません……」
坊ちゃま――ラフィエル様は18歳になった今でも、人目を忍んで私に愛を囁きに来るのです。
私がそれを完全に拒否できれば良いのですが、私はそれができません。
凛々しく、美しく成長したラフィエル様に私もいつしか恋慕の情を抱くようになったのです。
それが良くない事だと、重々承知していました。
だから私は――
ラフィエル様の御傍を離れる事にしました。
ラフィエル様には何も言わず――
「父上、何故ハロルドが居なくなったのです?!」
「ラフィエル、彼はお前の為を思って辞めたのだ、それを理解しなさい」
父の言葉に、私は納得できなかった。
――私の為を思って?――
冗談じゃない!!
私が傍にいて欲しいのは、ハロルドだけだ!!
ハロルドがいてくれるなら私は……
「婚約者がいる身なのだぞ、お前は」
婚約者?
あんな女が?!
影で色々と噂があるが名家の令嬢、それだけで私は婚約させられたというのに!!
私はだからこそ、目論んだ。
家も、何もかも自分の手にしてやると。
まず、婚約者の裏でやっていることと、婚約者の家が裏でやっている事を全て調査した。
また、我が家の秘密も全て調べ上げた。
二年でやってのけた。
そして婚約者が男としけこんでいる所へと入っていった。
「ジェシー! これはどういう事だ?! 私以外の男の相手をしているなんて!!」
演技に見えない様に努力した。
「違うの、違うのですラフィエル様!!」
「その名で私を呼ぶな!! お前の様な女とは婚約破棄だ!!」
そう言って部屋を出て、すぐさま元婚約者の家に資料を送る。
このような理由で婚約を破棄させてもらう。
また、従わない場合はこの内容を国王陛下に報告する、と。
向こうはすぐさま降参した。
次は父上だった。
家の秘密――嘗てやっていた違法行為を公にするといい、私が死ぬ、もしくは行方不明になったら知り合いに公開してもらうと言う約束をしたと嘘をついて父上から当主の座を奪い取り、当主の座に就いた。
父は監禁させてもらうことにした。
決して外には出さない、嘗て貴方がしたことのように。
妹がいたが、妹の子に継がせるから結婚を頼むというと、妹は私のハロルドへの思いを理解していてくれたため快諾してくれた。
後はハロルドを呼び戻すだけだ。
他の者に行かせるつもりはない、私が直に会いに行く。
故郷のないハロルドは、私の領地の片隅で暮らしていた。
美しい壮年の男性になっていたハロルドに私は笑みを浮かべる。
「ハロルド!!」
ハロルドは目を疑ったような顔をしている。
「ラフィエル様……? どうして……?!」
青い目が見開かれるのが美しかった。
もう、二度と会うまいと決めていたのに、ラフィエル様から私に会いに来た。
場所は御父上しかしらないはずなのに一体何が――
「ハロルドの為に、私が当主になった。ハロルドに会うために」
その言葉にご結婚されたのだと安堵した。
心がずきんと痛んだけれども。
「――ご結婚おめでとうございます」
「何を言う、私は独身だ!! お前の為に家を乗っ取った!!」
「?!」
突拍子のない言葉に私は困惑する。
「さぁ、帰ろうハロルド、私の屋敷」
「ラフィエル様、それはできません、私は――」
「ハロルド、愛している」
唇を奪われました。
どうして私の様な男を――
「だいたい、跡継ぎはどうなさるのです!!」
「妹の子に後を継がせる、なに妹も了承済みだ」
抵抗したのを無理やり引っ張り馬車に連れ込んで出させると、ハロルドは諦めたような顔をしたが、私の発言であんぐりと口を開けた。
「父上は私に弱みを握られているからな、別所で監禁しているとも」
「御父君に何と言う事を……!!」
「全てはハロルド、お前と一緒にいる為だ」
「ご婚約者様はどうなされたのです?!」
「破棄した、あの女は誰にでも股を開く様な女だったからな、それと家の方の弱みを握って婚約破棄を正当なものとした」
「ハロルド様、何故そこまで……それに私と貴方は年が離れているのですよ?!」
「構うものか」
困惑しているハロルドにそう言い切る。
――あの日からずっと愛してやまないお前を手放す事など誰ができるものか――
幼い頃、ひだまりで見た青白い月のように輝く銀色の髪に、陽光の温かさを持った褐色の肌、宝石のような青い目――どれも私にはないもの。
美しいと思った。
――それを誰が手放す物か――
屋敷に戻り、夫婦が使うべき部屋へと向かう。
ハロルドはそれでも抵抗した。
『自分のような身分の者が貴方様の傍にいてはいけない』
と頑なに抵抗しつづけた。
だから気が進まなかったから枷をはめて部屋から出られないようにし、我が家に遭った「自害」を禁じる首輪をつけた。
最初は悪趣味な首輪だと思ったが、今思えば使い道を考えれば良い首輪だと思える。
ハロルドは、酷く頑固だ、それ位しないと逃げ出してしまう。
そう私は理解している。
「ラフィエル様、お考え直しください。こんなのは間違っています」
「いいや、間違ってなどいない。間違っていたなら、それはお前が私の元を去った事だ」
「それはラフィエル様の為を思って……」
「私の?」
思わず笑ってしまう。
「私の為を本当に思うなら、お前は私の傍にいるべきだった。それならあの女と結婚しても構わなかったが、お前は居なくなった」
私の言葉に、ハロルドは視線をさ迷わせた。
「ハロルド、あの日からお前に恋焦がれてやまなかった私から離れるというのは、そういう事なのだろう?」
「ラフィエル、様」
ハロルドは言葉を詰まらせる。
青い目が揺らぐ。
「愛している、ハロルド」
「わ、私は……」
「何、時間はたっぷりある、ハロルド。愛している」
私はそう言って彼の手の甲に口づけをする。
「……」
ラフィエル様の事を思うと胸が張り裂けそうで、けれどもラフィエル様の為にならないから逃げないとと思っていると──
「ハロルド、言っておくが逃げるのは無しだぞ。どこまでも追いかけるからな」
私の考えを見透かすように、ラフィエル様は笑いました。
ああ、どうしてこうなったのか。
兄様とハロルドが再会して今日で一年。
やっとハロルドが少しだけ折れてくれた。
兄様の恋を応援するのが妹である私の勤めですから。
「マリベル様……何故ラフィエル様をお止めにならなかったのですか……」
昨晩元気になりすぎた兄様のおかげで、少々よれよれになったハロルドが私に助けを求めるように言ってきた。
「だって、兄様はずっとハロルドに恋をしてたのよ。責任はちゃんととるべきだわ」
「せ、責任とは……」
ハロルドの言葉に、私ははっきりと言う。
「ハロルド、貴方兄様が小さい頃の言葉に『ありがとうございます』『私も好きですよ、ハロルド様』とか返してたじゃない、兄様は一途だからそれからずーっと私に対して『私はハロルドと結婚するから、跡継ぎはお前の子に任せる』って言ってたのよ」
「ら、ラフィエル様……」
ハロルドは再度突っ伏した。
「マリベル、我が伴侶に何をしている?」
「ごきげんよう兄様。ハロルドが未だに兄様の事受け止めきれないんですって」
「ま、マリベル様!!」
私が正直に答えてあげると、ハロルドは血相を変えて顔を上げた。
「何? よし、では早速先ほどの続きと以降ではないか」
兄様は笑って、ハロルドの事を担いだ。
「ら、ラフィエル様……!?!?」
「愛しているとも、ハロルド。だから体で示そう」
「ラフィエル様ー?!」
兄様に連れて行かれたハロルド。
あーあ、大変なハロルド。
でも、兄様に愛されちゃったから仕方ないわよね。
恋は盲目と聞くけど、あの二人にぴったりな言葉。
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