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とある異形少女と番いと果実の契約~心幼き異形少女と復讐者~

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 わたしはとあるじけんをおっていた。
 そこでであったたくさんのものをうしなったおにいちゃん。
 わたしはそのおにいちゃんをたすけたかったから、かじつ・・・を渡した。
 そうすればいぎょうはおにいちゃんをころせないから。
 わたしはかわいそうなおにいちゃんをたすけてあげたかった。
 でも……




 ぬくもりを持った思い出は、真っ赤な血とどす黒い憎悪に塗り替えられた。
 大切な父母、妹、そして友人達は、肉片となって転がっていた。


 血に染まった夢から、男は目覚めた。
 男は堅いベッドから起き上がり、舌打ちしてから壁を殴る。
 同じような事が幾度もあったのか、壁には拳の痕が残っていた。
 傷跡だらけの体を隠すように黒いスーツを羽織る。
 小型の通信器機を起動させて、指で画面をスライドさせながら表示されている情報を見る。
「……まだ見つからないのか……!」
 男は再び舌打ちし、通信器機をスリープ状態に移行させて部屋の外へ出て行った。


 男が今いるこの町では、猟奇殺人事件が頻発していた。
 どれも、人間のものとは思えない程酷い状態で死体が発見されていた。

 前日までは生存していたのに、発見時は半年以上放置されたかの様な腐敗死体として見つかる。
 臓器が無く、皮膚と骨だけが残されて見つかる。
 何度もたたきつけられたかのような肉片状態となって見つかる。

 どれも、人間がやったとは思えないような状態の死体で見つかっているのだ。
 殺された人間には共通点などはなく、警察による捜査は難航していた。
 その上警察側も捜査に及び腰になっていた。
 結果、現在この町では夜間の外出は基本禁止されており、人々はそれを守ることで身を守ろうとしていた。
 また、だからこそ日中は今まで以上に活発になっており、人々が行き来していた。



 昼、死体が発見された現場を歩いて回っていた。
 警察は立ち入り禁止にしているものの、見張りを付けないというずさんな状態にしていたため、立ち入ることは容易だった。
 最も町の人々はそのようなおぞましい死体があった場所に立ち入ろうとすることはなかったため、独自に調査もしやすかった。

 発見現場の物陰を調べていると、変色した紙切れを見つけた。
 男はソレをピンセットでつまむ。
 血が付着し、何か文字が書いてあるのを確認すると男は鉄のケースにそれを閉まった。
 そしてすぐさま、通信器機を使う。
「――私だ、予想通り連中がここに来ている。しかも丁寧に証拠まで残している。現場を調査し、いつも通り準備を行え」
 男は言い終わると通信機をきり、そのまま発見現場を後にした。

 人気がややまばらな広場に脚を運び、ベンチに腰をかけ胸元のポケットからたばこを取り出し火を付ける。
 紫煙をはき出し、息をつくと目の前に影ができたのに気がついた。
 視線を上げれば、白いレースの日傘を差し、真っ白なワンピースを着た、白い肌に真っ黒な目と髪の毛をもった14歳程の少女がいた。
 少女はにこりと笑ってから、傘をとじ、男の隣に腰をかけた。
 そして、もっていたバッグから赤い果実を取り出し、そのままかぶりついた。
 白い腕を蜜色の汁がつたって、ワンピースに染みを付けた。
 男は其れを見て舌打ちし、ズボンからハンカチを取り出し少女の膝の上にかけた。
 少女は目を丸くして男を見る。
「せっかくの服が汚れるだろう」
 男がそういうと、少女は再度にっこりと笑ってそのハンカチの上に食べかけの果実を置いてから、バッグから同じ赤い果実を取り出し男の目の前に差し出す。
「…くれるのか?」
 男の質問に少女は笑顔のまま首を縦に振る。
 男はその少女の様子にため息をつきながらも、少女の手から赤い果実を受け取った。
 そしてその果実をそのまま口にする。

 しゃり、と音を立てて口にすると、少しだけ男の口元に笑みが浮かんだ。
「…美味いな」
 男のその言葉に、少女は嬉しそうな顔をする。
「…お嬢ちゃん、しゃべれないのか?」
 男は少女に対して再度問いかけると、少女は少しだけ困った顔をした。
 男はそれを「肯定」と受け取った。
 そして果実を食べきると立ち上がり少女の方を見る。
「そのハンカチはかえさなくていい、あと町の住人じゃないようだな。だったら早くこの町からは出て行った方が良い。危険だからな」
 男は少女にそういうと、そのまま立ち去った。
 少女は首をかしげながら男を見送った。


 一週間後、猟奇殺人事件はまだ続いていた。
 男は情報収集のため、町を歩き回っていたが、めぼしい情報は得られないまま以前少女と出会った広場に再び脚を運び、ベンチに腰をかけてため息をついた。
 この一週間ろくに休んでいないのか無精髭が目立ち、目の下にもクマがついていた。
 ぶつぶつと呟く男の体を、傘の形をした影がおおう。
 視線を上げると、一週間前あった少女が不思議そうな顔をして男をのぞき込んでいた。
 少女は一週間前と同じように隣に腰をかけた。
「…お嬢ちゃん、危ないからさっさと――」
 男が最後まで言い切る前に、少女は笑顔でハンカチを差し出した。
 それは男が少女に渡したものだった。
「ちゃ、んと、かえ、しな、さいッテ、おねェ、ちゃん、タチが」
 辿々しいが、とてもすんだ声色で少女は言葉を口から吐き出した。
「ボク、マヨイって、イウの。おにい、ちゃ、ンは?」
「――隼斗だ」
 男は――隼斗は自分の名を口にした途端、口を手のひらで覆い狼狽えた。
 何故、言ってしまったのか、と。
「隼斗、さん。おぼ、エタよ!ハンカチ、ありガとウ!うれし、カッタよ!」
 少女はそう言ってから、隼斗の頭をぽんぽんと撫でた。
「ムリ、しない、デね」
 そして隼斗の手に赤い果実をのせると、手をふり日傘をさしてその場所を後にした。
 隼斗は、少女――マヨイの後ろ姿が見えなくなるのを見つめた。

 その夜、隼斗は寝室に戻りベッドに腰をかけ、テーブルの上にある赤い果実を見つめた。
 しばらくその果実を見つめてから立ち上がり、それを口にする。
「……」
 芯だけになるとゴミ箱に投げ入れ、その場所を離れた。


 隼斗が、コンピュータールームに脚を運ぶと同時に警報が鳴り響いた。
「司令!連中に此処が見つかりました!!調査班が付けられたようです!」
「何だと!直ちに迎撃を開始しろ!研究班は今すぐ脱出経路を使用しろ!私も後から行く!」
 隼斗の命令に、室内にいる者達は即座に行動を開始した。
 隼斗自身も、隠してある銃を手に持ち、即座にその場を離れた。

『司令!だ、脱出経路まで回られてます!!』
「何だと!!あそこは連中用の術を使用しているはず…」
 通信器機から耳につくような悲鳴が上がり、通信が途切れた。
 隼斗は舌打ちすると部屋の中に侵入してきた、どこか真っ黒い鬼のような化け物の額を銃で撃ち貫く。
 化け物は額を押さえながら雄叫びをあげ、そのまま砕け散り破片を飛び散らかせる。
「一体どうやって脱出経路全部洗い出した…?!」
「その為の『猟奇殺人』ですよ」
 嗤うような声に隼斗が振り向くと、燕尾服を着た華奢な青年が其処にいた。
 不気味な目で笑いながら青年はいう。
「この町の至る所で起こしましたからね、結果貴方達ご自慢の結界は役に立たないものになったのですよ、血によって『汚され』てしまってますからねぇ。人間の結界なんて脆い脆い」
 青年の言葉に隼斗は言葉を失う。

 つまり、全部自分達を殺すための下準備だったのだ。
 それに気づかずまんまと罠にはまっていたのだ。

 隼斗はありったけの憎悪を打ち込むように、青年に弾丸を撃ち込んでいった。
 青年の顔や体は穴だらけになったが、瞬時に再生し元に戻った。
「ひどいですねぇ、せっかくの一張羅が台無しじゃないですか」
 青年はけらけらと笑いながら隼斗を見る。
 その様に隼斗は言葉を失った。
「残念ですが、貴方達が殺してきた連中と私は次元が違うんですよ。パチンコ玉で戦車が倒せますか?そういうことですよ」
 隼斗が言葉を失い、動けずにいる中黒い触手のようなものが隼斗を貫こうとした、が触手は隼斗に触れる前に砕け、溶けてしまった。
 それを見て、隼斗だけでなく、青年も驚愕した。
 青年は歯ぎしりをし、苛立った声を上げた。
「何か嫌な匂いがするとおもったら!連中か!!」
 苛立つ青年の状態と、現状に隼斗の思考は麻痺していた。

 どうやって脱出する?
 仲間は??
 何故俺はさっき助かった??
 あいつは何に苛立っている??

 青年は地団駄を踏んでいたが、何かを思い付いたのかケラケラ笑い始めた。
「そうだ!殺せなくても、遊べるじゃないか!!」
 青年がそう嗤うと同時に、先ほどの触手と同じものが隼斗の体を締め上げた。
「ぐっ…!!」
 ギリギリと触手が隼斗の体を締め付け、隼斗はそれに耐えきれず銃を地面に落とした。
 触手が隼斗を床にたたきつけるように落とす。
 全身の痛みに隼斗は鈍い声を上げる。
「顔とか傷だらけだけど、わりと嫌いじゃ無いしねこういうタイプは」
 青年が嗤うと同時に、彼の体の一部がでろりと溶け、触手と同化する。
「これ、私の一部なんだよねぇ」
 青年はケラケラと笑いながら、触手を撫でる。
 そして全身触手と同化した途端、隼斗を押し倒すような形で再度姿を現した。
「つまらないのはいやだから、楽しませてねぇ」
 青年がそういうと同時に、隼斗の全身に灼けるような痛みが走る。
「あぐっ……!!」
「あは、いたい?いたいよねぇ?」
 青年はケラケラ笑いながら触手をどかすと、赤くなった隼斗の皮膚が現れた。
 服を融かしたのだ、同時に皮膚にも痛みを与える程度に皮膚を融かしたのだ。
 傷だらけの赤くなった隼斗の体に舌を這わせる。
「ふざけるな化け物め……!」
「そういう台詞は嫌いなんだよねー。命乞いとか喘ぎ声とかはいいんだけどぉ」
 そういった直後に、触手が隼斗の喉を犯すように口に入り込む。
「んぐぅ?!」
「はは!そうそう!そういう声!!」
 全身を拘束されているような状態の隼斗に硬い触手を排除する方法はなく、口内を犯される度にうめき声を上げた。
 青年は服が無くなり陵辱を開始した。
「んぐう゛ぅう゛!!!」
 喉を蹂躙されたまま、隼斗は苦鳴を上げた。
 青年は隼斗の首を掴んだ。首に何かの模様が記されると同時に触手が隼斗の口から出ていった。
「楽しくなってきたからねぇ、自害なんてさせないよ?」
 青年は笑みを浮かべながら隼斗の顔を撫でる。
 内部を蹂躙し、陵辱していく。
「あ、がっ!ぎぁっ!?」
「大丈夫だよ、傷ついても治るようにしてあげてるから。ね?」
 生殖器の所為で膨らんだ腹部をなぞりながら青年は声をかける。
「そうだ、お友達も呼んであげたよ?だから楽しんでね?」
 青年が隼斗の耳元で囁くと扉から歪な化け物がぞろぞろと姿を現した。
「な……あ……」
 隼斗はその化け物達を見て目を疑った。
「そ、君の元お仲間。今は僕のお友達なんだ」
 自分の部下達が化け物に取り込まれた姿だった。
「と、言ってももう彼らには君の部下だったときの意識なんてないんだけどねぇ。死んでるしねぇ」
 青年はくすくすと嗤って、呆然と涙を流す隼斗の目元を舐める。
「生まれ変わった彼らを祝福してあげなよ。君の体で」
 青年が指を鳴らすと、異形と化した部下達が、隼斗の体に群がる。
「んぶ……!!やめ……ひぃ?!」
 容赦なく全身を蹂躙される。
 化け物は入れ替わり体を蹂躙していく。
 顔にもどろどろとした液体をぶちまけられる。
 逃れようとすれば、触手が体をより陵辱する。
 歪な快楽の熱に、隼斗は深い絶望を感じた。
「いやぁ、たのしいなぁ。そうだ、次は僕の子どもを産んで貰おうかなぁ」
 青年は愉快そうに腹を抱えて嗤う様を見て、自害できぬ状態にされ、殺されもしない己に絶望した。

「何を、してるノ?」

 歪んだ快楽に蹂躙された隼斗の耳に、聞き覚えのある澄んだ声が届いた。
 なんとか視線をやれば、そこには昼間みかけたワンピースの少女――マヨイがいた。
 日傘をさしたままマヨイは青年を見つめていた。
 青年は、マヨイの姿を認識するやいなや表情を憎悪に染めた。
「落とし子共め……やはり来ていたのか……!!」
「……あなた、そのひとに、なに、したの?そのひと、わたしの、まよいの、だいじな、ひと、さわらない、で」
 聞いた時とは少し異なる口調でうつむきながらマヨイは言葉を紡ぐ。
 そして、顔をあげると、マヨイの目は空洞があるかのように真っ黒になっていた。
 地面にはいずるような格好になると同時に、口から長く太い舌が出現し、口から咆吼があがる。
 咆吼に答えるかのように、触手を食い破って牙がはえた口をもった巨大なミミズのような生き物が多数現れた。
 ミミズの化け物が、異形と化した部下達を払いのけると同時に異形の少女が這いずりながら隼斗にかけより体を抱きかかえる。
「あ゛──う゛ぁ゛──」
 空洞のような目から涙を流しながら、異形の少女は隼斗を大切そうに抱きしめる。
 嗚咽を漏らしながら、声を上げる少女を隼斗はぼんやりと見つめた。
 涙が喉に当たれば、紋章は消え、灼けた皮膚も少しずつ再生していった。

――ごめんなさい――
 ――なにもできなくてごめんなさい――
――いたいおもいをさせてごめんなさい――
 ――なかまをたすけれなくてごめんなさい――
――ごめんなさい、ごめんなさい――

 獣の叫びともとれるような声が、まるで自分への謝罪のように聞こえた。
 隼斗を蹂躙した異形の親玉はミミズの化け物の餌と変わり果てていた。
 けれど、部下達は異形の状態のままこちらを見ている。
「――マヨイ……部下を……彼奴らを……殺してやってくれ……」
 隼斗が声を絞り出しながらいうと、異形の少女――マヨイは、少し躊躇うような仕草を見せたが、やがて静かに頷いて声をあげた。
「あ゛――――!!」
 化け物達が、一瞬で部下達たたきつぶしていった。
 一瞬でぐちゃぐちゃの肉片に変わり果て、二度目の死を迎えた。
「う゛――……ヴ――……」
 マヨイは何かいいたそうに声をあげてから、何度か舌を動かし舌だけをひっこめた。
「……隼斗さん、ごめんなさい……」
 澄んだ声が隼斗の耳に届く。
「連中、いるのしってた、目的わからなかった、でも、隼斗さんねらってる気がした、だから、あげたの、果実。あの果実食べた人、連中殺せないから」
 ぼろぼろと涙を流しながらいう、マヨイの言葉に納得がいった。
 だから、自分を殺せなかったのだと。
「連中、ほかのばしょでも、ひところそうとしてて、わたしそっちいっててここ、くるのおそく、なっちゃった、もうすこし、はやくこれたら、はやくこれたら、ごめんなさいごめんなさい……」
 マヨイはめそめそと泣く。
 ミミズのような化け物――おそらくマヨイの使い魔達は、マヨイの泣く様に動揺し、必死にマヨイを慰めようとマヨイに体をこすりつけたり、頭を撫でたりしていた。
 一方で、隼斗の傷を癒そうと、体を撫でて皮膚を修復したりしていた。

 隼斗は、泣くマヨイが自分が憎んで殺してきた異形連中と同じには見えなかった。
 それどころか、憎悪だけで突き動かされてきた自分よりも、酷く人間らしく、また幼子のように見えた。
 多数の犠牲を出し続けてきた自分の方が化け物のように思えた。

 めそめそ泣き続けるマヨイの頭を、隼斗はそっと撫でる。
「……いいんだ、俺が全部しくじったから起きたことだ……お前のせいじゃない」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「……そこまでいうなら……俺を殺してくれないか?」
 隼斗の言葉に、マヨイは顔を上げて狼狽えた。
「……生きてる理由がもうない、復讐しつづけた結果がこれだ……本当に、何もかもなくなっちまったよ……」
 隼斗はそういうと、自嘲の笑い声を発した。目からは涙が零れている。
「ははは……もう何もない……お嬢ちゃん、いっそ殺してくれよ……俺を殺せ……殺してくれよ!!」
 マヨイの肩を掴み、隼斗は悲痛な声色で訴える。
「二度目だ!此で二度目だ!!仲間もみんな殺された!!残ったのはまた俺一人……俺一人また残ったんだ……!!」

「殺してくれ!!もううんざりだ!!!このまま生きててまた奪われたら俺はどうしたらいいんだ?!もういやだ!!また俺の所為でまわりが死ぬのはもういやだ!!!」

 隼斗は嗚咽を漏らしながら、マヨイにすがりつく。
 マヨイは、真っ黒な目で隼斗を見つめながら、彼を抱きしめた。
「……だいじょうぶ、マヨイはいなくならないから。だから、しなないで。マヨイのそばにいて。おねがい、だからしなないで、いきて。」
 マヨイはそう言って、泣き続ける隼斗の抱きしめ、頭をなで続けた。


 翌日から、町の猟奇殺人事件は発生しなくなった。
 そして、町から『隼斗』という名前の一人の男が姿を消した。





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