不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

文字の大きさ
1 / 96
壊れゆく花嫁

私が不死人だとこうして分かったわけだがそんなのは聞いてない!

しおりを挟む

 横断歩道を渡ろうとしていた。
 信号は青。
 なのに、車は猛スピードで突っ込んできた。
 そして私は車に引かれた。
 ぶつりとそこで意識が途切れた。


 人だかりが集まる、警察がやってくる。
 警察はぶつかって止まった車から運転者を下ろした。
 救急車が来る、横たわる傷一つない少女を搬送しようとした。
 むくりと少女は起き上がった。
「……ん? 夢? 車に引かれた気がしたんだけど……」
 救急隊員が何かに気づいたのか連絡を始めた。
 少女の耳には「不死人の女性が見つかった」とだけ聞こえた。


「えーと、ルリさんですね」
 病院に連れていかれた少女――ルリは検査をひとしきり受けた後医師の診断を受けていた。
「年齢は20歳ですよね?」
「はい」
「性別は女性」
「はい」
「そしてスピード100キロ越えの車に引かれた」
「スピードは分からないけど車に引かれたのはあってます」
「痛いところは?」
「ありません」
 医師はレントゲンなどの資料を全て見ながら答えた。
「検査結果異常はありませんでした、貴方は健康体そのものです」
「事故にあったのに?」
 ルリは首を傾げた。
「……そのことなのですが、ルリさん貴方は人間じゃありません」
「は?」
「『不死人』です」
 医師の言葉に、ルリは頭の中の知識を総動員した。
「……えっと、確か『殺せず、死なず、老いず、排泄もせず、飢えもせず、吸血鬼のような弱点も何も持たない存在』ですよね」
「ええ、そして人間と吸血鬼の盟約をご存じですか?」
「えーっと、人間と吸血鬼が共存して生きる為の取り決めってくらいしか」
 医師は困ったような顔をして口を開いた。
「人間から次『不死人』見つかったかつ、その『不死人』が女性場合、真祖の妻にすることが盟約で決まってるんですよ」
「……は?」
 ルリは瑠璃色の目を丸くした。

 翌日から大忙しだった、家に人間と吸血鬼の役人が来て取り決めやらなにやらルリがよくわからないまま進められたのだ。
 ルリは拒否権はあるかと聞いたところ、そろって「ない」と即答して落胆した。
 母親は大泣きしてルリにすがり、兄は普通通りに見えていつもこなしている家事で料理を焦がしたり皿を割りそうになったり内心動揺しているのが分かったし、嫁に行った姉は卒倒して寝込んだと義兄に言われるし、祖母も寝込むと家の中は悲惨な状態になった。
 友達も家に押しかけてきてもう会えないのかなどと聞いてきた。
 それがわからずルリは答えられなかった。
「どうしてこうなった」
 今までなんとかなるの精神できたルリだが、この時ばかりは嘆いた。

 そしてついに、家を離れる日がやってくる。
 見送りはない、全員寝込んでしまったからだ。
 嫁に行く変わりに、この家は政府から大きな援助があるとのことだが、ルリは末の子、かなり可愛がられて育った、数年前に亡くなった父と祖父も大層可愛がり、嫁にはやらんとまでいっていたほどだ。
 ルリは全員の寝室を回り、挨拶をすませる。
 自分の荷物、ノートパソコンや本、服、ゲーム機そのほかもろもろは既に送った。
 残ってるのは自分の身一つ。
 吸血鬼の役人らしき男が魔法陣の前にいる。
「奥方様早くなさってください、真祖様がお待ちです」
「お願いだからせかさないでよ」
「「ルリー!」」
 夜だというのに、友達がやってきた。
「どうしたのみんな?!」
「見送りに来たの、また会えるよね?」
「うーん、わからない」
「limeで繋がってるから大丈夫だよね!」
「うん、それは大丈夫」
「何かあったら連絡してね!」
「うん、わかった、じゃあね」
 役人が咳をしてせかしてくるので、ルリはカバンを背負って魔法陣へと飛び込んだ。

 周囲の景色が変わる。
 都会、それもすごく発展している都会の景色に。
 そしてそれと真逆の巨大な城がそびえたっていた。
「わー……」
 吸血鬼の役人が案内する、また魔法陣で場所を移動する。
 広く豪奢なシャンデリアがつけられたテレビなどで見た王宮の一室のような場所だった。
「真祖様、『不死人』の者をお連れしました」
 役人はそう言うと姿を消した。
「ちょ、ちょっと」
 ルリは慌てる、こんな広い空間に一人取り残されても困る、と。

「ほう、お前が『不死人』か」

「わ、わかんないけどそうみたいですが?」
 突然聞こえる声に、ルリは変な口調になって答える。

「私は確かめるまでは信じぬ性質でな、確かめさせてもらうぞ」

「は?」
 首に牙が食い込む感触がした。

「ギャ――!!」

 ルリは絶叫した。
 自分の首に噛みついている何かを弾き飛ばした。
「な、な、な、な、な、何する……あれ? 噛まれた痕が消えてる?」
 ルリは首を抑えて戸惑った、確かに首に牙が食い込んだのだ、だがその痕跡はもうない、残しているのはわずかに服についた血の跡位だった。
 黒い影は人型になる。
 背の2メートルはあるだろうと思う程高く、顔色は蒼白、髪は闇色、目は真紅、顔つきは非常に整っていて、髭を生やしている壮年の男性だった。
「ふむ、血の味といい、噛まれた痕も残らぬか、間違いなくお前は私が求めた『不死人』そして――」
 男――真祖はルリを抱き寄せた。
「私が求めた花嫁だ」
 真祖はルリをじっくりと見つめる、品定めするように。
「ふむ、年齢と見た目が一致せぬが悪くない、髪も好みの黒だだが短いのが勿体ない。目はよい青色だ、宝石にも劣らぬ、見た目は私の好みだ、問題は性格」
「……マジで私嫁にする気ですか?」
 ルリは引きつった表情で真祖を見る。
 外見年齢だけで判断すると、ルリ的にはこの真祖と歩くと確実に補導されると思った。
「好いた男か女でもいるのか?」
「いや、特にはいないんですけれど……」
 ルリは心の中で汗をだらだらと流した。

 学校で習ったことがある。
 真祖――吸血鬼たちを統べる偉大そして恐るべき支配者。
 日光も、聖なる物も、白木の杭も流れ水も何一つ通じぬ恐るべき吸血鬼。
 彼の意思一つでまた戦争が起きかねない為、機嫌を損ねるような行為はしてはならない。
 と。

 そんな恐ろしい存在が目の前にいるのだ。
 大昔の戦争で人間はその当時の三分の一にまで減少したと言われている。
 何より謎なのはその戦争を終わらせた「不死人」という存在の嫁を欲しがる、ということである。
 ルリはどう考えても理由がさっぱり思いつかなかった。

 この真祖の機嫌を損ねたら、また戦争になるんじゃないかとルリは思った。
 そんなことになったら、文化とか魔術とかの発展が異常な吸血鬼に人間が勝てる要素なんてほぼない。
 今の人間は信仰心も薄いのが多い、ただ結果変な宗教がはやったことはある。
 聖なる物なんてほとんど残ってない、有効な手段といえば白木の杭だが真祖には効かない。
 ルリは察した、人類の運命は自分にゆだねられていると。

――無理だし無茶苦茶だ!!――

「いや、その考えなおしてくれません? 私不死人らしいけど20年しか生きてない小娘なんで」
「年の差が何だという」
「恋愛経験ゼロなんで男性づきあいはその……」
「それがどうしたというのだ?」
「いやー多分次の不死人の女性の方の方が美人かと……私美人じゃないんで」
「お前が好みだ」
「……諦めてくれる気はないんですか?」
「二千年、二千年まったのだぞ」
 ルリは察した、この真祖、ルリを花嫁にしないという選択肢を持ってないということを。

「媚びを売るという事をせぬのもよいな」
 真祖はじっとルリを見つめている。
 ルリは視線をそらしてそれに耐える。
「……嫁にならないとだめですか?」
 ルリは冷や汗をかき、視線をそらしながら問う。
「盟約通りならばな、お前に思い人がいるなら諦めよう、だが居らぬならば――」

「お前はこれより私の妻だ」

 ルリの顔を無理やり真祖の方を向かされ、口にキスをされた。
 ファーストキスは血の味がした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...