49 / 96
はなよめの傷
からだがおかしいの ~発情~
しおりを挟むヴァイスはルリの頬に触った。
今までよりも何処か熱を帯びている。
医師に見せるべきかと思ったが、不死人の症状を見れる医者などこの国には居ない。
体の異変に怯えているルリを優しくなでて、抱きかかえ、ルリの部屋へと転移する。
ベッドに寝かせ、毛布をかけて、枕元にぬいぐるみを置いてやる。
ルリは体の異変が怖いのかぐずぐずと泣き始めた。
「こわいよぅ……」
「傍にいる、落ち着いてほしい」
ヴァイスは頬を撫でながら、涙をぬぐってやる。
「やっほールリちゃん……何、ヴァイスお前ルリちゃんに何しやがった?!」
転移魔術で部屋に侵入してきたグリースは笑顔を浮かべていたが、ルリの様子を見てヴァイスを睨みつけた。
「早とちりは止めぬか。……体がおかしいと言っているのだ、確かに熱も平常時より高い……」
「病気? いやおっかしいなぁ、俺の情報だと不死人は病気とは無縁なはずなんだが……」
グリースも近づき、ルリの体の状態を術で診る。
グリースの顔が引きつる。
「……」
「どうしたグリース」
「いや、あの、これ、マジ?」
「ルリ様お早うござい……真祖様、ご休憩の時間では? そしてグリース貴様相変わらず邪魔……ルリ様? どうなされたのです?」
アルジェントも部屋に入ってきた、この時間帯は棺の中で休んでいるはずの自分を心配して声をかけ、グリースを邪魔者扱いしようとした時、ルリの異変に近づき、かがんでルリの手を握る。
「……熱い……おい、グリース、貴様不死人は病気とは無縁と言ってなかったか?」
アルジェントは引きつった表情をしているグリースを睨みつけた。
「いや、これ風邪とかじゃなくて、その、いや、おれも、ちょっとその……」
「はっきり言え!! ルリ様が苦しんでおられるのだぞ!!」
アルジェントが怒鳴り、グリースの服の襟をつかむ。
「……怒るなよ?」
「アルジェント、グリースから離れよ。グリース申せ、怒りはせぬ」
ヴァイスはアルジェントに命令すると、アルジェントはグリースの服から手を離し、グリースから離れた。
グリースは非常に気まずそうな顔をしたまま、しばらく無言でようやく口を開いたかと思えばとんでもないことを言った。
「ルリちゃん、発情してる」
「「は?」」
思わずアルジェントと声が重なった。
「おい、グリース貴様ふざけてるのか?!」
アルジェントが怒りを隠さず、グリースを睨みつけるが、グリースはカチンときたらしい。
「嘘じゃねぇよ!! じゃあ、お前が調べろよ!!」
「ああ、そうさせてもらう」
アルジェントはルリに近づき、優しく額を撫でながら口を開いた。
「ルリ様、少し診させていただきますね」
「……うん」
ルリは弱弱しい熱っぽい喘ぎ声のような声を言いつつ弱弱しく頷いた。
アルジェントの青い色の目がわずかに光る。
「え……? そ、そんなまさか……?!」
「な、言ったろ」
アルジェントが狼狽えた声を上げる、どうやらグリースが診たのと同じ結果のようだ。
「……グリース、お前発情したことはあるのか?」
「二千年生きてるけど一度もねーぜ!! だから驚いてんだよ!!」
グリースは困惑した表情を浮かべながら答えた。
「……ちょっくら俺人間政府の研究機関侵入してある情報全部覚えてくる」
「すまん」
グリースは姿を消した。
目当て研究機関の場所は残念ながらヴァイスは見つけれていない、グリースは知っているようだが、教えようとしない。
教えたら戦争勃発になりかねないのを分かっているからだ。
ヴァイスはルリの頬を撫でつつ、息を吐く。
「真祖様、お休みになられた方がよろしいのでは……」
アルジェントが声をかけるがヴァイスは首を振った。
「ルリがこのような状態では休むに休めぬ」
「……しんそ、おじちゃん……」
「どうしたルリ」
「……おかあさんたちだいじょうぶかなぁ、ぶじ、かなぁ……」
ルリは自分の体の異常で苦しんでいる中でも、人間の国にいる家族たちを心配しているようだった。
人間の国にいる配下の情報では、政府が多少は監視しているようだが、様々な事が重なり、まともに監視できる状況ではなくなっているようだ。
ただ、金銭援助がされているだけという状態らしい。
家族に危害が加えられているという情報はない。
「……大丈夫だそうだ、無事だとも」
「なら……よかった」
ルリは声を絞り出すように言った。
再び辛そうな熱っぽい小さな、切なげな声がルリの口からこぼれる。
その様にぞわりと欲情しかけるが、ヴァイスは必死に押さえ込む。
今のルリは「性行為」は「怖いこと」なのだ、欲情のまま抱いてしまえば、ルリの今までの信頼を裏切ることになる。
何とか欲情を押さえ込みながら待っていると、げんなりした表情のグリースが姿を現した。
「どうだったのだ?」
「……まぁ、色々見たくない情報もみたけど、ぶっちゃけよう、発情はどうやら不死人の女だけの症状らしい」
「男にはないのか?」
「女だけみたいだ、まぁ、その女の不死人ルリちゃん以外に今のところ一人しかいないから百パーセントって言いきれないんだけどさ」
グリースはげんなりした表情のまま続ける。
「……不死人の女はどうやら孕む要素が強いらしい、人間は卵子製造には上限があるけど、不死人になった途端その上限が無くなる、常に妊娠しようと肉体は働くらしい。その反動で、性行為――つまり妊娠させるような行為が行われないと、体が発情すると思われる、ってのが俺が調べた調査内容の一部だ。推測しかできない、何せ不死人の女はこの世に現在二人しかいないんだ」
「……ルリ様と、人間の国にいる者ですか」
「そ、以前幼児退行したルリちゃんじゃなくてこちらにしないかーって言われてた奴」
「……その女がどんな実験をされているかはどうでもいい、ルリ様のこの状況をどうすればいいか答えがないではないか!」
「いや、察しろよ」
怒鳴るアルジェントに、グリースはげんなりとした表情で返した。
「……おい、まさか」
「やっと察したか」
「『性行為』することで発情は収まるんだよ」
グリースの発言に、周囲の空気がしんと鎮まり、ルリの熱っぽい喘ぎ声じみた声だけが耳に届く。
「できる訳がないだろう!!」
「俺だってやりたくねーよ!!」
アルジェントがグリースに噛みつくように言うと、グリースは噛みつくように反論した。
「時間経過で治ったという記録はなかったのか?!」
「残念ながらありませんでしたー!! あったらそっちも報告してるっつの!!」
噛みつく様な会話をしているアルジェントとグリースを見て、ヴァイスは額を抑えて盛大にため息をついた。
「……だが、このままだとルリはずっとこのままなのだろう?」
「まぁー現時点の情報だとね、もしかしたら例外があるかもしれないけどな」
「……一週間、一週間様子を見るとしよう」
「一週間ですか?」
「ああ、状態がよくなれば手を出さず見守る、だがそれで状態が悪化した場合は……」
「……この中の誰かがルリちゃんに『怖いこと』をする、と」
「「「……」」」
部屋の空気が再び鎮まり、ルリの喘ぎ声のような声だけが響く。
「やべぇ、今回俺立候補できる気がしねぇ、中身が幼女だもん」
グリースが頭を抱えた。
「貴様が嫌われ役になればいいと思うが、貴様がルリ様を抱くというのも非常に不愉快だ!!」
「……私が」
「ヴァイステメェは立候補すんな!!」
「真祖様、貴方様はこの嫌われ役になるのをやるのはお止め下さい!!」
「……何故だ」
「言っちゃ悪いがお前この三人で一番好感度低いんだぞ、余計下げてどうする」
「真祖様が嫌われるようなことがあれば困ります!」
「……だが、お前たちはどうやってやるのだ」
ヴァイスの言葉に、グリースは少し考えて答えた。
「ルリちゃんは術にはかかりやすい、だから眠ってもらうかなり深めにな」
「……それならルリ様が怖がることもない……!!」
「まぁ、万が一目を覚ました場合も考えてヴァイス、お前は止めておけ」
「……」
「で、問題は俺とアルジェント、どっちがその役目をやるかだ」
「私がやる、貴様にルリ様を抱かせるのだけは断固反対だ」
「おーありがてぇな、俺も中身が幼女だと抱ける気がしなかったんでな」
アルジェントの言葉にグリースは皮肉たっぷりの表情で返した。
アルジェントはグリースを睨みつけている。
ヴァイスは心の中で深いため息をついた。
ある意味蚊帳の外扱いになっているのが辛かったのと、グリースにルリからの好感度が一番低いという事実を告げられて落ち込んだのだ。
低いのに、運悪く目覚めて、また近づいてくれなくなるのは堪える。
元から許可を出していたアルジェントならまぁいいだろうと、自分を納得させた。
頭の中に、この状態のルリに、カルコスがまた危害を加えたらという考えが浮かんだ。
アレの忠誠心は歪すぎる。
未だに、ルリの事を軽んじているのだ、ヴィオレの罰を受けながら。
カルコスにはしばらくの間城の外の任務を命じようと、決めた。
「じゃあ、とりあえず、ルリちゃんの様子見な」
「分かっている」
「……治まればよいのだが……」
ヴァイスは祈るように呟いた。
一週間、三人はルリの様子を見守り続けた。
ルリの様子は一日経つごとに悪化していき、一週間経過する頃には――
汗で体が濡れ、並人間や吸血鬼では正気を失いかねない程のフェロモンを放ち、体の疼きのひどさにベッドから起き上がることもままならなくなっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる