私の幸せな軟禁生活~夫が過保護すぎるのですが~

琴葉悠

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過去と今が繋がる

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「――10年以上前に、君から貰った物だ」

 男性の言葉に、私はぼんやりと昔を思い出す。




 私が生まれるよりずーっと昔に起きた大厄災がきっかけで、世界中に悪魔が現れるようになった。
 悪魔と表現しているけど悪魔なのかどうかわからない。

 神聖な言葉も、祈りを込められた物も、聖水も何もかも効かなかった。
 けれども人間を好んで喰らい、襲う存在。

 だから悪魔と呼ばれている。

 私は、幼い頃、母とデパートで買い物をしていた時、悪魔に襲われた。
 突然の事で訳が分からず動けない私を、母は抱えて逃げたが、すぐさま倒れてしまった。
 母は私を抱えて蹲った。

 その直後、酷い音が響き渡った。
 母は私を抱きしめたまま顔をあげて、私も音がした方を見ていた。
 そこに、一人の男性がいた。
 白銀色の髪の、刀を持った男性が立っていた。
 黒いコートのその男性はまるで、御伽噺の剣士や騎士のように見えた。
 同時に、幼い私には、王子様に見えた。
 それ位、美しかったのだ。

 男性は母と私に近寄って手を差し出した。
『怪我はないですか? 立てますか?』
 男性の言葉に母は足をひねって起き上がれない事を伝え、自分はいいからまだ幼い私を連れていってと頼み込むと、男性は母と私を抱えてその場から急いで離れた。
『此処迄来れば安全です、治療チームを呼びましたので来るまで私がいます』
 母は他の人はと尋ねた。
『もう避難済みです、残っていたのは貴方達だけです。ですので――……不快でしょうが、どうか我慢していただけると幸いです』
 男性はそう言った。
 私は意味が分からなかった。
 けれども母は首を振り何度も頭を下げた。

――有難うございます、私と娘を助けていただいて――
――何とお礼を言ったらいいものか……――
――どうすれば貴方に、感謝の気持ちを伝えられるか、分からないのです――

 男性はそれまでずっと無表情だったのに、初めて表情を変えた。
 驚いているようだった。
 母の腕の中で私は考え込む。
 感謝の気持ちになるものはないかと。
 そして思いついたのだ。
 母からもらった、ペアのぬいぐるみの片方と、お気に入りの飴をあげようと。
 私はカバンから青いリボンの方のぬいぐるみを出し、そして飴を取り出す。
 大好きな苺の飴。

――おにいちゃん、これ、あげるね、ままとゆづきをたすけてくれたおれい――

 二つを男性に渡した。
 男性は明らかに戸惑った様子でそれを受け取った。

『……良いのかい? これは君の大切なものだろう?』

――だから、あげるの――

『……有難う、こんなことは初めてだ。君の名前は?』

――ゆづきは、みそのゆづき、ままはみそのみつき――

『……有難う、私はディラン。ディラン・アンヘル』

――でぃらんさん?――

『……いつか、必ずこのお礼をしよう』

――何で?――

『それは――』




 私はふっと我に返る。
 私と母を助けてくれた男性の名前は「ディラン」だ。
 そしてこの男性の事をもう一人の男性は「ディラン」と呼んでいた。

 隣に座った男性の顔を見る。

 白銀色の髪。
 幼い頃に見た顔と同じ顔。

 あの日、母と私を助けてくれた人と同じ顔、同じ声。
 違うのは、髪の長さと恰好だけ。

――どうして?――
――どういうこと?――

 余計に訳が分からない。

「……」

 じっとぬいぐるみを見つめる。
 ぬいぐるみの黒い目は私をただ映している。

「やはり、説明不足か?」
「いや、アレでどこが説明足りてるんだよ? いつもの調子はどうした?」
「……何故か分からないが、上手くこう、言葉が出ない」
「いつもなら他の連中なら絶体絶命の状態でも冗談言うお前が?」
 二人の会話の意味が分かるようで、分からない。
「あ゛ー……仕方ない、俺が説明する」
 黒い髪の男性が私を見る。
「俺はアシェル・シェヴァト。ディランと同じWDCAのハンターだ」
「……」
 聞いたことがある。
 WDCA、確か「World Devil Countermeasure Agency」の略。
 世界悪魔対策機関、悪魔を狩る専門家、悪魔を研究する専門家、何故悪魔が出現したのかを研究する専門家等がいる。
 ハンターという事は、悪魔を狩る専門家。
 数少ない、悪魔への対抗手段である存在。

 ますます分からない。

 どうしてそんな大変な立場にいる人が、あの事を覚えていたんだろう。
 言われるまで、私だって忘れてたような事なのに。

「……」
「あーやっぱり何でって顔してるね。まぁ、ぶっちゃけるとWDCAのハンターは他の普通の人から見たら化け物――悪魔と大して変わんない扱いが今も普通なのよ。でも――」
「アシェル、いい。そこからは私が言う」
「……ちゃんと説明できんのか?」
 黒い髪の男性――アシェルさんは、そう言って白銀色の髪の男性――ディランさんに言う。
「……アシェルが言ったように、私は君と君の母親に会うまで一度たりとも『人』扱いもされず『礼を言われた』事もない。君と君の母親に初めて私は感謝されたのだ、心の底からの感謝はアレが初めてだった」
 ディランさんの言葉に何となく理解ができた。
 母はハンターの人達を悪く言うことはしなかった、けれど母が死んで悪意に塗れた世界で生きるようになると、ハンターの人達を殆どが「化け物」扱いし、忌避していることを知った。


 悪魔がいつ現れるか分からない世界になったというのに。

 どんなに対策をしてても、悪魔は突然現れる。
 世界のどこを探しても安全な場所なんてもう何処にもないのだ。
 人のいる場所も、山も、海も、砂漠も、そして――宇宙(ソラ)にさえも。

 悪魔は現れる。
 悪魔は人を襲う。

 確かに、そんな悪魔を殺せる数少ない存在だから怖いのだろう。
 でも、その人達は見も知らぬ誰かの為に、悪魔と戦っているのだ、死と隣り合わせの中で。
 そこまで悪く言う理由が私には分らない。


「……でも、それがどうして?」
「……君にはあまり聞かせたくない」
 ディランさんはそう言って無表情になって、ぬいぐるみを大切そうに鞄にしまっていた。
「待て、ディラン。そこを聞かせておくべきだ、聞かせたくない気持ちは分かるが、それを言わないと――」
「……父は……私を何処かに『売ろう』としてたんですね?」
 アシェルさんの言葉で何となく察した私は問いかける。
「……」
「……父は、私に『体でも売って金を家に入れろ、育ててやったんだ』と言ってました。ええ、確かに少しだけお金は出してくれましたよ父は、でも」

「母と違って私を愛して傍にいてくれることなど一度もありませんでした。アレは血が繋がってるだけの存在です、私は父とは思わない。後妻も、異母姉弟達も、私は家族と思ったことなど一度もない。私の家族は――」

「亡くなった母だけです。自分が死ぬかもしれない時でさえ、私の事を案じ続けた……母だけです――」

 そう、アレは家族なんかじゃない。
 だから、逃げることを選んだんだ。
 でも――

「――優月、だから私は君に伝えたい事がある」
 ディランさんが口を開いた。
「……何でしょう?」
「君を傷つける連中から、私は君を守る。だから――」

「私の、家族になって欲しい」





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