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牢獄から『箱船』へ
しおりを挟むディランさんからの言葉に私の思考はしばらく停止した。
――家族に、なって、欲しい?――
漸く動き出した頭の中で、言葉を反芻する。
――でも、養子じゃないって……え?――
私はうまく働かない頭で、必死に考える。
――ディランさんは、私をあの男から「買った」んだ――
――家族になるでも、それは私を養子にするという意味じゃない、養子じゃない家族というと――
「――私のこれからの生の伴侶となって欲しい」
自分で答えを出す前に、ディランさんが口に出した。
「んーまぁ、男女だから夫婦、ってことだよ」
アシェルさんが補足するように言う。
「え……でも、私未成年……」
「そういう事も含めて、私は君の血の繋がってるだけの男に金を払った。契約書も作り、二度と君に関わらせないよう誓わせて、私は君を妻にした」
「……」
何と言えばいいか、分からない。
「身勝手なのは分かっている、だが先ほども言った通り、君を養子にしていずれ他の誰かに任せるなど私はしたくなかった。私は君を自分の手で守り、君に傍にいて欲しいと願った」
ディランさんは、自分のしたことが善意ではなく、自分の願望だと吐露した。
「まーつまりそういう事なのよ優月ちゃん。ディランの我儘だねぶっちゃけると。でもこれだけは分かって言わせて欲しい。ディランは君を守りたい、それだけは事実なんだ」
「……」
――私を守りたい?――
そんなことを言われても、私はどうすればいいのか分からない。
守るといっても、どう守るつもりなのかも、分からないし。
それに、どうあれ、ディランさんは私をあの男から「買った」のだ。
あの連中が、それで潤うのが許せない。
「――君を虐げていた連中は、もうじき破滅する」
「……え?」
ディランさんの言葉に耳を疑う。
「ど、どういう、意味、ですか?」
「……そのままだ、私は君がされてきた事、全て報告した。そして君を私に売った男が今までしてきた不正を全て伝えた。君を虐げていた連中の不正を、それを見ぬふりをしていた連中の不正を全て」
私は何も言えなくなった。
「出してくれ、早々にここから離れたい」
ディランさんはそうドライバーの方に言う。
「優月、シートベルトを」
「は、はい」
私は言われるままシートベルトを着ける、よく見たらディランさん達はすでにシートベルトを着けていた。
車が動き出す、静かに。
「……あ、あの私はこれからどう、なるんですか?」
「私が用意した住居で今後暮らしてもらいたい。外出は基本私が付き添っている時だけにしてほしい、欲しい物があれば君の護衛に買ってくるように言ってある。勉強の方は君の護衛もできる家庭教師を用意している。特別な高等学の卒業資格を取れるように教えて貰えるはずだ、君のいた高校ではそれが卒業すれば取れるはずだろう?」
「……あの、外出は基本禁止、という、ことですか?」
「そうなる。それと、君のスマートフォンを買い替えよう。だからバックアップやそういった類を取っておくとありがたい」
「わ、分かりました……」
私は半ばあきらめたように、言われた通りにする。
あの家にいた時より、マシであることを心の中で祈る事しか、私にはできなかった。
スマートフォンの契約等は既に切り替えてあった、契約者はあの男ではなく、ディランさんになっていた。
色んなスマートフォンがあった、ディランさんは一番性能が良くて頑丈で、そして緊急の連絡をすぐに取れる――便利だけど値段がスゴイ高いのを一括で買ってくれた。
少しだけ、これでSNSで有名なソーシャルゲームとかできるようになるかなとか、思ってしまった自分が何と言うか現金というか、子どもらしく思えた。
だって、私の今まで使ってたスマートフォンはメールと電話、緊急連絡、SNSで手一杯で、アプリ系の物は軽いものしか入らないあまり良いものではなかったから。
腹違いのアイツ等は新型の良いのを買ってもらって好きなだけ遊んでいたのに。
服とかも、ショッピングセンターで新しく購入してもらった。
安くて、すぐよれてしまう下着や服を着なくて済むんだと、安心してしまった。
ちゃんとした下着や、見てあこがれるだけだった服を買って貰えた。
嬉しいと、思ってしまった。
「――今日からここが君の暮らす場所だ」
「……」
最後に案内されてきた場所に私は言葉を失う。
各国に一つあるかないかと言われている建物。
悪魔がいつ出現するか分からないこの世界で数少ない「安全地帯」とされる建造物「アーク」だった。
政治家だってどんなお金持ちだって入れる保証がない建物だ。
「優月」
呆然とする私に、ディランさんが手を差し出してきた。
私は戸惑いながらその手を掴むと「アーク」の中へと案内された。
エレベーターに乗り込み、ディランさんが操作すると、すぐさまポーンという音がなり扉が開いた。
ディランさんに案内されるままエレベーターから出ると、広い玄関があった。
促されるまま、靴を脱いで上がり、扉を開けると、広い部屋がそこにはあった。
「……」
私はどうすればいいのか分からず、立ち尽くす。
この国に「アーク」があったなんて聞いたことがなかった。
「『アーク』の建築は大分前から着工されてたんだよ、そう簡単にできるものじゃないからね」
「あの、いつ、から?」
「10年前からだ」
ディランさんがそう答えた。
「どう、して……」
「……もし、君と君の母が何かあった時のシェルターとして、私が依頼したんだ。10年前から情報を遮断して進められていた」
「でも、情報遮断なんて……」
「――ここは悪魔出現時に人がほとんど住んでいない区域になった場所だ。それを全て権利者たちから買い取り『企業都市』の名目で工事を全て進めた、だから『アーク』の事が明らかになったのは先ほどだ。けれども政治家や資産家が入る余地をなくした」
ディランさんの淡々とした説明に私は訳が分からなくなる。
「どうして、そこまで……」
「あー……優月ちゃん分かんない?」
アシェルさんが苦笑している。
「――その、この『アーク』は元々優月ちゃんと優月ちゃんのお母さんの為だけの場所なんだ。勿論他の『アーク』同様緊急時の避難所としての機能とかはちゃんとある。でも、住むのは優月ちゃんと優月ちゃんのお母さんの事に重点を置いてたんだけど……まぁ、その色々あったらしいよ?」
アシェルさんは言葉を濁している。
全部は分かっていない、そんな感じだ。
「――優月、君は何も気にしなくていい。疲れただろう、先に入浴を済ませてくるといい。食事は準備しておくから」
「え、あの……」
「優月ちゃん、とりあえずお願いだからソイツのお願い聞いてあげて、頼む」
アシェルさんが手を合わせて申し訳ないような表情でこちらを見るので、私は買ってきた荷物の中から着替え類を取り出して視線をさ迷わせる。
「バスルームは向こうだ」
「は、はい」
ディランさんの指さす方向へ、私はぱたぱたと小走りで向かって言った。
「……ディラン、お前どういう考えしてんだ? いや、前はなんかオフの時は不思議天然な奴だったけど……今はその何と言うかその……」
アシェルは、既に食事を準備し、温めなおすだけの作業をしているディランを何とも言えない表情で見つめていた。
「――優月と彼女の母に会うまで、私はただの『ハンター』だった」
ディランは振り向かないまま口を開く。
「上の命令通りに悪魔を殺し、時には人も殺した。都合のいい道具、化け物、そういう扱いだった」
「……ディラン」
「けれども、あの日、二人と出会い、私は『人』になれた。もちろん私が『人』じゃない事は理解している。それでも、あの日私は彼女たちによって『人』になれた」
「……」
ディランは静かに、碧い目でアシェルを見つめる。
「本当は、美月さんも助けたかったが、それは出来なかった。だから優月だけでも守り通す、その為なら使える手は何でも使おう」
ディランの目は揺るがぬ決意で満たされていた。
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