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二つのお別れ~約束~
しおりを挟むディランとテルセロは悪魔がひしめく病院へと突入していた。
「ドクターが言ったとおり、僕らだと悪魔達は弱まるね!!」
「その通りだな!」
そしておぞましい断末魔ともとれる悲鳴が聞こえる分娩室へと突入する。
悪魔を何度も生み出して広がった穴をさらしている女がいた。
金髪に青い目のマリーナとは違う色の女が。
だが、マリーナとどこか似ている女が。
「コイツがニナ?」
「だろうな」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! だずげで!! だずげで!!」
こちらを認識したらしい女にディランは銃口を向けた。
「すまない、それはできない」
ディランはためらいなく引き金を引いた。
女の上半身が消し飛び、やがて、下半身は塵と化した。
「すでに人間ではなくなっていたか……」
「ディランそんなこと言ってないで逃げるよ! 病院が崩れてる!」
「分かっている」
ディランはそう言ってテルセロと病院を脱出した。
「作戦は成功した」
通信機ごしに、伝えると沸き立つ声が聞こえた。
『よくやった、お前達はそのまま優月のいるアークに戻れ』
「ドクターは?」
『私はアークで脱出する資格はないよ』
「……」
黙ったディランはテルセロに言った。
「テルセロ、私はドクターを迎えに行く、先に優月のところにいってくれ」
「分かった」
『ディラン?!』
「悪魔が生まれたのは母さん、貴方の責任ではない」
ディランはそう言って通信を続けたまま、マリーナのいるところへと向かった。
「──と、言うわけでマリーナも連れてきた。義母との生活になるがすまない」
「い、いえ! それは気にしてませんが……」
「残ると言ったのに、お前ら総出で私を簀巻きにして、連れてくるとは……」
「ドクターだけ残すわけにはいかなかったんだよ、みんな本当は」
「……はぁ」
マリーナさんはため息をついた。
私は外の宇宙空間を見入っている。
無重力という感じはないけど、外の風景だけが地球からもう離れたんだと認識させた。
周囲には同じようにアークが移動しており、他のアークも地球から離れたのが分かった。
アークの下部にあたった部分に移動すると、地球が遠のくのが見える。
「これから、どうするんですか?」
「他のアークと合流し、まぁ、合体してさらに巨大な箱船になる」
「そうなんですか」
「俺は他の連中に新婚生活邪魔されるのが嫌で仕方ない」
「あははは……」
私は空笑いしてから、ディランさんの手を握る。
「ディランさん……」
「何だ」
「これからどうなるんでしょう?」
「……地球に残った者達から悪魔の出現情報などを聞いてそして出現がしなくなったなら地球に帰還──という流れらしい。それまではアークで地球の周辺を回って暮らすことになる」
「……やっぱり残った人はいるんだ」
「戦闘狂とか研究熱心な奴だけだがな、後は世話をするロボット達だけだ」
「……」
自分が生きている間に戻れる自信は無かった。
けれども、ディランさんが生きている間になら戻れるだろうと、そんな気がした。
「ディランさん」
「何だ?」
「……いえ、何でも無いです」
言うことはできなかった。
どれくらい月日がたっただろう。
ディランさんとの間に子どもが生まれてから、私は老化現象が人より遅くなっていた。
というか、見た目の老化はその年で止まってしまった。
子どもを生まれたのは嬉しかったというより驚きだった。
自分が子どもをもてるなんて思ってもいなかったから。
子育ては大変だったし、マリーナさんも「子育てほど手がかかるものはないぞ」と遠い目をしてぼやいていた。
テルセロ君は「おにーちゃんのいうことききなさい!」と娘を叱るが馬耳東風。
小さい頃はやんちゃな娘だった。
あのディランさんでも「子どもとは本来このような暴れん坊なのだな……」と疲れた風に言っていた。
間違っているけど、正しくもあり。
この子は、そういう子どもだったというだけの話。
私の娘だけど、私じゃない、そういうだけの事。
家族の時間は長く楽しいものだった。
いつまでも続くと錯覚してしまう程に。
けれど、それでも、寿命がやってきた。
「ディランさん……光月、テルセロ君……」
「どうした優月?」
「どうしたの、お母さん?」
「母さん、どうしたの?」
母の名をもじってつけた一人娘と、ディランさんとテルセロ君に囲まれながら私はベッドの上で横になっていた。
「……もし、地球に帰れたら──という場所に私と母の遺骨を埋葬して欲しいの」
「……分かった」
「お母さん、そんな事言わないでよ」
「そうだよ」
私は頷く夫と、私を咎める娘と「息子」の言葉を聞きながら、目を閉じた──
「……お休み、優月。私の所為で普通の人間と違う風にしてすまなかった」
「お母さん、死んじゃったの……?」
「ああ、今息を引き取った……」
号泣する娘とテルセロを私は見る。
私はまだ泣けなかった、彼女との約束を果たす為に。
漸く、地球に帰れる事ができた私達は、すぐさま、優月が言った花畑に向かった。
荒れていると思っていたが美しい花が咲き誇っていた。
ロボットが手入れをしているのが分かった。
「ここに埋葬したい骨がある、良いか?」
『はい、構いません』
ロボットの許可を取って、小さな墓を作った。
優月と優月の母親の墓を。
「これから、僕らどうすれば……」
「悪魔はいないんでしょう?」
「悪魔は居なくともやるべき事はある」
私はテルセロと娘にそう言って、歩み出した。
彼女の愛したこの世界を守る、それがこれからの使命だと自分に言い聞かせて──
End
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