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ダンピールのハンターと闇の城

闇の城へ

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 深夜――ディストは夜の街を駆け抜けていた。
 逃亡を図っている獣のような魔族の後を追っているのだ、魔族の足は速いが、ディストの足の速さの方が勝っていた。
 距離は縮まり、そしてディストはその魔族の首を切り落とした。
 頭部が塵にかえると、残った体が変形ぼこぼこと不気味な肉塊になっていった。
 ディストはむき出しになったコアを剣で突き刺し真っ二つにする。
 肉塊は血を吹き出しながら塵になった。
 ディストは血で汚れた剣を拭うと、その場から離れようとしたが殺気を感じ、剣を構える。
 赤い目の光が無数にディストを見つめていた。
 そして一斉に襲い掛かってきた。
 ディストはためらうことなく、一閃でその襲い掛かってきた連中の首を切り落とすが、落とした首は再生した。
 それで何かを察したディストは襲い掛かってきた連中の心臓を狙った。
 心臓を剣で切り裂かれると、叫び声をあげ血を噴き上げ、塵に帰っていった。
 他の連中も同じように、心臓を狙って銃を撃ち、剣で突き、心臓を破壊して塵に返していった。
 最後の一人を塵に返すと、ディストは口を開いた。
「……下級のヴァンパイアが何故今頃……?」
 そう呟いていると、クロウがやってきた。
「ハニー何かあったのかい?」
「下級のヴァンパイアが姿を現した」
「は? なんで今頃ヴァンパイアが? 連中基本姿隠して出てこないだろう?」
「しかも下級だ、意思らしい意思がほとんどない」
「……姿を隠してる連中が急に人を襲うのはあり得ないな……何かあったのか?」
 クロウは首を傾げた。
「まぁ、とりあえずマリーに報告してから家に戻るか」
「ああ」
 クロウは空間の穴を開けて、ディストと共にその場から姿を消した。

 マリーに報告し、家に戻ると、ヴァンパイアの件が気になっているディストを見てクロウが口を開いた。
「あー俺、ちょっとヴァンパイアの隠れ里に行ってくるわ」
「……俺は行かないほうがいいだろうな」
「あー……うん、だろうな。じゃ、留守番頼むわ」
 クロウは空間に穴を開けて移動し、穴を消した。
 暗闇に包まれたそこでは、顔色の悪い者達が歩き回っていた。
 皆目が赤い。
「ん……破壊者のご子息が来たぞ!!」
「本当だ。何かしら」
 ざわざわと皆騒ぎ出した。
 クロウは頭をバリバリと掻きながら住民に声をかける。
「悪い長老に会わせてくれ、ちょっと野暮用でな」
 クロウがそういうと青年の姿をした人物が姿を現した。
「クロウ様、これはどういった御用で?」
「街で下級のヴァンパイアが姿を見せた、心当たりはないか?」
「ない――とおっしゃれたら良いのですが実はあります」
「マジか」
 渋い表情の長老らしき人物を見て、クロウは再び頭をバリバリと掻く。
「つい最近、『人間は我らを狩ろうとしている、だからこちらから全て下僕にしてやろう、奴隷にしてやろう、我らにはそれが許されている』といったような事を言いに来たヴァンパイアがおりました……見たところ力も強い、血の気の多い若者が何名かその者に着いて行ってしまいました」
「……あれ、おかしいなぁ、ここ人間のところと空間がずれてるから普通は狩りに来るなんて教会連中でもできないんだけどな……何かあったのか?」
「外の世界の事は私共には分りかねます」
「……ちょっと教会連中も調べないといけないなぁ……こいつは……」
「本当厄介ごとは勘弁願いたいです……」
「確かにな」
 クロウは話を終えると、そのままマリーの元に向かった。

 空間に穴を開けていつものようにやってきたクロウを、マリーは当然のように出迎えた。
「ディストさんは?」
「今日は情報収集だ、ヴァンパイアを狩れって依頼書は出てないよな?」
「……出てませんね」
 マリーは依頼書全てに目を通すとそう答えた。
「教会で何か動きがあったか?」
「……教会ならありますね、一部の情報では真祖クラスのヴァンパイアと戦闘したとか」
「それだな。教会の連中とそいつらとの争いか、じゃ俺はしばらく情報待ちするわ」
「何かあったら連絡します」
「おう」
 クロウは空間の穴を開けてその穴を通って家に戻った。

 家に戻ると、ディストがソファーに座り込んで何か考えていた。
「……」
「ディスト聞いてきたぞ」
「どうだった?」
「どうやら教会の連中と人間界にいる吸血鬼の間で何かあったみたいだ。詳しくはわかんねぇけどな」
「……介入するべきか?」
「うーん、今は依頼も何もねぇし放置でいいんじゃないか。俺ら慈善団体じゃないんだしな」
「それもそうだが……」
「やっぱり近しい存在を殺したのは少し気分が悪いか?」
「……ああ」
 ディストは、クロウの頬を撫でて口づける。
「無関係な人間に手を出す前になんとかできたんだ、人間に被害で出るとハニーまで風評被害喰らっちまう」
 そう言って、クロウはディストを抱きかかえるとベッドに連れて行き、ベッドの上に座らせる。
「俺はいつだってハニーが不足してるんだ、いいだろう?」
「……好きにしろ」
 ディストがそういうと、クロウはディストの服を嬉々として脱がせ始めた。
 美しい裸体があらわになる。

 クロウは裸のディストをベッドに押し倒して、胸の先端を甘く噛む。
 ローションで濡らした手でぐちゅぐちゅと後孔をほぐす。
 口づけをしながら、舌を絡ませ、ほぐれた後孔にクロウは男根を突っ込んだ。
 ディストの背がのけ反り、びくびくと絶頂し、ぎゅうぎゅうとクロウの男根を締め付ける。
 口を開放すると荒い呼吸をする。
「はぁ゛……!!」
 濁ったような掠れたような喘ぎ声をあげる。
 ディストはクロウの背中をガリガリとひっかき、絶頂をし続けているのを無意識的に訴えているようだった。
 クロウはディストのその姿がたまらなく好きで、より愛撫し、腹の奥をついて絶頂へと昇らせ続ける。
 腹の奥に欲を吐き出し、それを潤滑剤としてより突き、絶頂に上っているディストをさらに絶頂に上らせた。

 ごぷりと精液が零れ、意識を失ったディストがベッドで眠っていた。
 クロウは意識を失ったディストを抱きかかえてバスルームへ連れて行く。
 そしてシャワーで自身とディストの汚れを落とす。
 ディストのナカにある自身の精液をかき出す。
「ん……あ……」
 ディストの口から甘い声が上がる。
 クロウはその声にぞくりとしたが、ただでさえ意識を失うまで抱き続けたのだ、これ以上抱き続けるというのは少々無理をさせすぎていると。
 そう考えぐっとこらえることにした。
 汚れを落とすとタオルで体を拭いてバスルームを後にする。
 一度ベッドに寝かせてからディストに服を着せてから、自分も服を身に着け、隣に横になった。


 朝、耳に届く程大きなノック音でクロウは目を覚ました。
「んだよ……こんな朝早くから……」
「クロウ!! 緊急依頼です!!」
「マリーかよ、ついに魔界の門でも開いたか? それなら俺じゃなくてマリーの担当……」
「『闇の城』が出現しました!!」
「……は?」
 マリーの声に、クロウは耳を疑い、扉を開けると、依頼書と情報が入ったキューブを持ったマリーが寝室の前に立っていた。
「待てよ、盟約で『闇の城』は立てない方針になったんじゃなかったのか?」
「残り三人の内一人の真祖が人間に宣戦布告したそうです!!」
「は?」
 情報がごちゃごちゃになっているのと、寝起きということも相まってクロウの頭にすんなり入ってこなかった。
 クロウはとりあえず情報のキューブを手にし、目を黒く染めて情報を一気に自分の中に収めようとした。
 すこしの間キューブを見つめてから、クロウは呆れのため息を吐く。
「……教会の過激派の奴が真祖の奥方殺したのが原因だなこれ、それにキレた真祖が教会だけに宣戦布告すればいいのに、人間全部に宣戦布告しちまっている」
「……毎回思いますが、キューブ見るだけでそこまでわかるの凄いわね」
「まぁな」
「おい」
「どわぁ?! ハニー!? いつ起きた?!」
 寝起きの恰好のディストがクロウに声をかけてきた、完全に寝ていると思い込んでいたため、クロウは珍しく驚く羽目になった。
「色々聞きたい事はあるが『闇の城』とはなんだ?」
「あーハニーは知らないよな、大昔にヴァンパイアと教会は争ってたんだがその……破壊者って奴の仲介で双方今後喧嘩しないことを取り決める際に、魔物とかを生み出して周囲をちょっと魔界と近くしちまう『闇の城』ってのに真祖は住まっていたんだが、人間界では『闇の城』を今後出すことなく静かに暮らさせるというのを取り決めたんだ……まぁ、今回教会側が破ったからヴァンパイアの真祖の一人がそれを破って『闇の城』を立てた……」
「……なるほど、でどうする?」
「教会だけに喧嘩売るなら俺らはスルーなんだが、どうやらもう無差別に人間を襲い始めてるらしいな、この間ハニーが退治した奴らもそれの犠牲者だ」
「つまり――」
「……行くしかねぇよなぁ……真祖レベルじゃ他のハンターは動けないだろうし、ダンピール連中は動きづらいだろうし、ヴァンパイアの連中も同様だ、だからハニーは留守番――」
「俺も行く」
「は……?」
「え……?」
 ディストの言葉にクロウとマリーは戸惑いの声を上げる。
「……何故かそうしなければならない気がする」
「……分かったよ、まぁいつも通り無理はするな」
 クロウはため息をついて頭を掻くとディストは頷き、準備を始めた。
「ところで教会の方はどうするんですか?」
「この件が終わったら俺が落とし前つけにいってくる、破壊者の息子としてな」
 ディストに聞こえない様にクロウとマリーは会話をし、クロウも仕事の準備を始めた。
 店の前に「当分臨時休業」と板を出して店を閉め、服を仕事用の服に着替える。
 そして、倉庫から武器を取り出し、空間に穴を開ける。
「うおー……夜になってんなこの場所の空間がねじ曲がってやがる」
 クロウはそう言って空間の穴を通る。
 ディストも何も言わず通った。
「クロウ、ディストさん、無理はしないで。危険そうなら撤退を」
「ハニーは危険そうならそうさせるが、俺は大丈夫だから安心しな」
 クロウはそう言って空間の穴を閉じた。

 誰もいなくなった店の中でマリーは何とも言えない表情を見せる。
「……どうしてこんなことになったのかしら……」
 悲しそうな表情でマリーはソファーに腰を掛けた。
「今までなんとか折り合いつけてきたじゃない……なのに……破壊者がいなくなったのと、教会が魔族に襲撃されたというだけでまた昔の状態に戻るの……? 破壊者の仕事はクロウが次いでくれてるわ……でも魔族とヴァンパイアは似ていて違うものなのにどうして、どうして? よりにもよって真祖の愛した『人間』を殺してしまったの……?」
 マリーはこの状況をいまだ受け入れられないように、悲痛な息を吐いた。


 周囲が夜の闇で包まれ、巨大な城がそびえる城下にクロウとディストは立っていた。
「うーん、実際見たのこれが初めてなんだよなぁ」
「そうなのか?」
「マリーと……まぁクソ親父から話を聞かされてた程度だよ。しかし確かにこれは……」
 銃の引き金を引いて何かを撃つ。
 獣のような魔物の頭部が破壊され、水路に落ちた。
「人間には脅威だなぁ」
「周囲の人間は……」
「……もう全員餌食になったとさ」
 目を黒くして、情報を引き出し、少し言いづらそうにクロウは口を開いた。
「……そうか」
 ディストは少しばかりいつもより暗い面持ちになって呟いた。
「いや、本当、今回はハニー休んでていいよマジで!!」
 そんな様子のディストを見てクロウは慌てた。

 実際、その気持ちが強い。
 ディストはダンピールだ、今回の件では被害者側に属する立場に種族的にはある。
 それなのに、同じ被害者を狩らせるというのは少々クロウの良心をとがめた。

「……同胞側だから、か気にしてるのか?」
「そりゃ、まぁ、そう、だな」
 ディストの言葉にクロウは詰まるように答えた。
「……父が生きていたなら止めに行っただろう、止めるのが無理なら命を懸けてでも倒そうとするだろう」
「……確かにお前の親父さんならそうするな、分かったそこまで言うなら俺はダンピールだからヴァンパイアだからどうこうは言わねぇ、行こう」
 クロウの言葉にディストは頷き、二人は城へと向かっていく。

「……情報見た限りでは、既に派遣された連中がいるみたいだな、だけど全員――」
 クロウが最後まで言うまでに、ディストは自分のみに向かってされた攻撃をよけた。
 それは硬化された羽だった。
「このヴァンパイアに門前払いを喰らったみたいだな!!」
 クロウが剣に手をかけると、その人物――ヴァンパイアはクロウに向かって手を前に出した、攻撃を止めるように。
「破壊者<ブレイカー>クロウ、私は貴方を通します。私は力量を図っているだけです」
「は?」
 クロウはその黒い翼をはやしたヴァンパイアの言葉を目を黒くして真実かどうか把握する。
「……みてぇだな。ハニー」
「力を示せばよいのだろう、構わん」
 ディストは剣を手に取っていた。
「よい覚悟です」
 ヴァンパイアは羽根を周囲に散らした。
 羽根は空中に静止したと思うと一気にディストめがけて移動してきた。
 黒光りしていることから、硬化している。
 四方から羽根はディストめがけて飛んできているので避けるのはまず無理だった。
 ディストは剣の衝撃波で羽根を全て叩き落した。
 さらに羽根が飛んでくるが、ディストは移動しながら、羽根を避け、ヴァンパイアの元へと近づく。
 ヴァンパイアはサーベルを取り出し、ディストと剣を交わす。
 人間の目には映らぬ、剣のやり取りが繰り広げられる。

 クロウは、手を出したいのをこらえて見守っていた。

 鋭い音が響き、ヴァンパイアのサーベルがヴァンパイアの手からはじき飛ばされ、ディストの剣がヴァンパイアの胸元に突き刺さるところまで行く。
「合格です」
 ヴァンパイアはそういって姿を霧に変えて門の上に戻った。
「どうぞ、お進みください」
「……お前は何故そんな事をしている」
 ディストは黒い翼をもつヴァンパイアに問いかける。
「私は――奥方様の最後の言葉をご子息と共に聞いたのです、だからその為に此処にいます。破壊者クロウ、どうかあの御方を御止めください、あの御方の命を奪う結果になるかもしれませんがそれも仕方ありません」
「……なるほど、お前にも色々あるのか、よしディスト行くぞ」
「分かった」
 クロウとディストは門を通り、城内へと入っていった。

「……ダンピールのハンターと、破壊者の子息のコンビか……」
 ヴァンパイアは呟いた。
「アレフィード様を救い、あの御方を止める、もしくは魂を救えるかもしれない……それでいいのですよね……奥方様……」
 そう呟いてヴァンパイアは姿を消した。


 夜に包まれた「闇の城」。ヴァンパイアと人間の争いをディストとクロウは止められるのか――




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