63 / 65
運命をつなぐファンレター
しおりを挟む
森野さんの言葉に胸が痛み、私は俯いた。
すると静かな声で、
「……軽蔑するか?」
不安に揺れる漆黒の瞳と視線がぶつかる。
「……軽蔑なんて、しません。
森野さんなら……女性が放っておかないのも、分かりますし……」
絞り出すように言った瞬間、
視線の強さに喉がきゅっと詰まった。
森野さんはふっと視線をそらし、再び夜空を見上げる。
「そんな俺が……立ち直れたきっかけは、お前だった」
一瞬、呼吸が止まった。
思わず顔を上げて森野さんを見ると、
月明かりに照らされた横顔がかすかに笑っていた。
「……お前さ。俺にファンレター、くれただろ」
「……えっ」
突然の言葉に、胸の奥で封印していた記憶が流れ込む。
両親の離婚、転居、知らない街。
泣きながら書いた長い長い手紙。
——“カケルさんの歌があるから大丈夫”
従姉妹に託した、あの幼い文字の手紙。
顔から火が出るほど恥ずかしくなって、私は両手で頬を覆った。
「一番荒れてた時期に、偶然……その手紙が出てきたんだよ」
森野さんは、懐かしいものを語るように続ける。
「分厚い封筒に、お前の気持ちがぎっしり詰まっててさ。
久しぶりに読んだら……
荒んだ生活をしてた自分が、急に情けなくなった」
優しく笑う声が、月光の中に溶けていった。
「え……?」
戸惑う私に、森野さんは視線を向ける。
「あの店ってさ。
出会った頃のお前みたいな子が、たくさん来るんだよ」
嬉しそうにキラキラと目を輝かせて、
おもちゃを抱えて笑う子供たち——。
「その度にさ、
“しっかりしろ”って……あの時のお前に背中押されてる気がしてた」
胸の奥がぎゅっと掴まれる。
「いつだって……俺はお前の存在に助けられてた。
あの店で働くようになって、
その“あの時の子”と偶然再会できた時……
胸を張れる自分でいようって、初めて思えたんだ」
「うそ……」
震えた声で呟くと、
森野さんはゆっくりと視線を合わせてきた。
「そしたらそのしばらく後に……
やたら生意気な女が現れてな」
そう言って私から視線を外し、
思い出したようにフッと微笑む。
その微笑みが、たまらなく優しくて、切なかった。
すると静かな声で、
「……軽蔑するか?」
不安に揺れる漆黒の瞳と視線がぶつかる。
「……軽蔑なんて、しません。
森野さんなら……女性が放っておかないのも、分かりますし……」
絞り出すように言った瞬間、
視線の強さに喉がきゅっと詰まった。
森野さんはふっと視線をそらし、再び夜空を見上げる。
「そんな俺が……立ち直れたきっかけは、お前だった」
一瞬、呼吸が止まった。
思わず顔を上げて森野さんを見ると、
月明かりに照らされた横顔がかすかに笑っていた。
「……お前さ。俺にファンレター、くれただろ」
「……えっ」
突然の言葉に、胸の奥で封印していた記憶が流れ込む。
両親の離婚、転居、知らない街。
泣きながら書いた長い長い手紙。
——“カケルさんの歌があるから大丈夫”
従姉妹に託した、あの幼い文字の手紙。
顔から火が出るほど恥ずかしくなって、私は両手で頬を覆った。
「一番荒れてた時期に、偶然……その手紙が出てきたんだよ」
森野さんは、懐かしいものを語るように続ける。
「分厚い封筒に、お前の気持ちがぎっしり詰まっててさ。
久しぶりに読んだら……
荒んだ生活をしてた自分が、急に情けなくなった」
優しく笑う声が、月光の中に溶けていった。
「え……?」
戸惑う私に、森野さんは視線を向ける。
「あの店ってさ。
出会った頃のお前みたいな子が、たくさん来るんだよ」
嬉しそうにキラキラと目を輝かせて、
おもちゃを抱えて笑う子供たち——。
「その度にさ、
“しっかりしろ”って……あの時のお前に背中押されてる気がしてた」
胸の奥がぎゅっと掴まれる。
「いつだって……俺はお前の存在に助けられてた。
あの店で働くようになって、
その“あの時の子”と偶然再会できた時……
胸を張れる自分でいようって、初めて思えたんだ」
「うそ……」
震えた声で呟くと、
森野さんはゆっくりと視線を合わせてきた。
「そしたらそのしばらく後に……
やたら生意気な女が現れてな」
そう言って私から視線を外し、
思い出したようにフッと微笑む。
その微笑みが、たまらなく優しくて、切なかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる