幸せの在り処feat.りんごちゃんねる様

古紫汐桜

文字の大きさ
3 / 6

名前は……野良猫のノラ

しおりを挟む
「よお!目が覚めたか?」
顔を覗き込むと、薄茶色の瞳が俺の顔を見て怯えた目をした。
「あ!怯えなくても大丈夫」
俺はそう言いながら、ゆっくりと後に下がって距離を取る。
腕に刺さっている点滴を目にして
「これは?」
ってそいつが呟いた。
「栄養失調だって言うから、医者が点滴したんだよ。もう少ししたら来るから、それまで我慢な」
俺はそう言ってキッチンへと歩き出してから
「あ!お前、なんか食う?」
と振り向くと、そいつは小さく笑って首を横に振った。
俺は自分の食事を作りながら、重湯を作って持って行く。
「少しでも良いから、口から飯を入れておけ」
と言うと、そいつは薄茶色の瞳でジっと俺の顔を見つめている。
「飯に毒なんか入っていないよ」
そう言って、そいつのそばに重湯を置くと
「また、死ねなかったな……」
と呟いた。
「あ“?何、お前。死にたかったの?」
そいつの枕元にヤンキー座りして聞くと
「分からない」
と呟いた。
「分からない?」
「俺には何にも無いんだ。生きたいのか、死にたいのか……それさえも分からない」
遠くを見つめる瞳が悲しかった。
「そっか……。じゃあ、取り敢えず生きてみろ」
「え?」
俺の言葉に、そいつは不思議そうな顔をして俺の顔を見上げた。
「お前、名前は?」
と聞くと、戸惑う顔をして口を閉じてしまうので
「俺は宮本海。『うみ』と書いて『かい』だ」
そう言って、そいつの頭を撫でた。
「お前にも名前が無いと不便だなあ~。じゃあ、お前の名前はノラだ!野良猫のノラ」
「ノラ?」
そいつはぽつりと呟くと、硝子玉のような瞳で俺の顔をぼんやりと見ていた。

 あの後、医者が来てノラの体調を確認して、念の為、総合病院で検査を受けた方が良いと言われたけど、ノラが外に出たがらずに現在に至る。
ノラが来てから1週間が経過した。
ノラは毎日、ただぼんやりと縁側で外を眺めている。
何も映さない硝子玉のような瞳で、ただぼんやりと空を見上げている。
「ノラ、飯はどうする?」
休みの日の昼時、ノラに声を掛けるとゆっくりと立ち上がって座卓の前に座る。
これがノラの食べる合図。
インスタントラーメンに野菜を入れただけの物を出すと、ノラがゆっくり俺の顔を見て
「たまご……」
と呟いた。
「あ?」
「たまご入れて」
珍しく要求するノラの言葉に頭をかきながら立ち上がり、冷蔵庫からたまごを持って来ると、キラキラした目で俺の顔を見た。
ジッとラーメンの器を見つめるノラに、俺は溜め息混じりにたまごを割ってラーメンの中に入れてあげる。
「海、ありがとう」
初めて見せた笑顔が、啓太を彷彿させる。
「たまご好きなのか?」
美味そうにラーメンを食べるノラに聞くと
「塩ラーメンには、たまごでしょ?」
って笑った。
「そうか?」
「そうだよ」
初めて会話らしい会話をしたのが嬉しくて、思わず微笑んでノラを見つめていると
「海、伸びるよ」
と言われてしまう。
その後は黙ったままで飯を食ったけど、なんか温かい空気が流れたように感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処理中です...