幸せの在り処feat.りんごちゃんねる様

古紫汐桜

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突然の別れ

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この日から、少しずつだけどノラと会話をすることが増えた。
いつものように縁側に座って空を見上げるノラに
「ノラ、仕事行ってくる」
と声を掛けると
「行ってらっしゃい」
と返ってくるようになり、帰宅して真っ暗な空を縁側で見上げているノラに
「ノラ、ただいま」
って声を掛けると
「おかえり」
と微笑んで答えるようになった。

 季節が春から夏になり、秋になってもノラはいつもぼんやりと縁側で空を見上げていた。
「ノラ、夜は冷えるよ」
そっと上着を掛けると、俺の手にノラの手を重ねて
「海、ありがとう。海の傍は温かいね」
そう言って微笑んだ。
その時、俺は気付いてしまった。
いつの間にか、ノラを好きになってしまっていたのだと……。
何処の誰かも分からないノラ。
ふらりとこの家を出て行ったら、二度と会えなくなってしまいそうで怖かった。
俺は不安から
「ノラ……お前は一体誰なんだ?」
と聞いてしまった。
するとノラは悲しそうに顔を歪めてしまう。
「あ……ごめん。良いんだ、答えなくても……」
慌ててそう言うと、ノラは申し訳なさそうな顔をして
「ごめん」
とだけ呟いた。
その日、なんとなくギクシャクした空気の中、俺とノラは眠りに着いた。

  翌朝、目が覚めたら、ノラはいつものように縁側に居るもんだと思っていた。
そう思うくらい、ノラは俺の生活の一部になっていた。
でも、その日の朝。
縁側に行ってもノラの姿が無い。
慌てて家中を探しても、ノラの姿は無かった。
ふと気付くと、座卓の上に
『家に帰ります』
とだけ書かれたメモが置かれていた。
慌てて洋服ダンスを開けると、うちに来た時に着ていたノラの服が無くなって居た。
ノラが眠っていた布団はきちんと畳まれていて、その上にノラが来ていた俺の衣類が畳まれていた。
俺はノラが着て居た衣類を抱き締め、泣き崩れた。
俺はいつだって、大切なものを失ってから気が付く。
出ていかれるなら、何者かなんて聞かなければ良かったと、物凄く後悔した。

ノラが何者でも構わない。
ただ、俺の傍にいて欲しかった。

縁側に座って、空を見上げるノラを思い出す。
静まり返った部屋は、無情にも俺が独りになった事を突き付けてくる。
ノラは無口だっけど、それでも気配があるだけで落ち着いた。
ノラを思い出すだけで、涙が溢れて止まらない。
泣いて泣いて、泣き疲れて眠ってしまったらしい。
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