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尚也との再会
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あれから5年の月日が流れ、私は社会人になった。
でも、尚也以上の人には出会えなくて、告白されて付き合っても、キスされそうになる度に尚也を思い出してダメだった。
結局、そこで別れが来てしまう。
私の『時』は、高校2年の春で止まってしまっていた。
そんなある日の事だった。
「葛原さん。この絵の女性って、葛原さんに似てるよね」
そう言って、一枚の絵葉書を手渡された。
その絵には、小さな青い花が咲き乱れる花畑の真ん中で、真っ白いワンピースを着た私が笑顔で手を振っていた。
「これ!何処で手に入れたんですか!」
叫んだ私に、絵葉書を見せてくれた職場の先輩が
「会社の近くの画廊で…。展示会してるよ」
と教えてくれた。
尚也が絵を描く所なんて見た事無いし、尚也じゃ無いのかもしれない。
単なる他人のそら似なのかもしれない。
そう考えながらも、何処か尚也であって欲しいと祈る気持ちで画廊へと足を運んだ。
それはオフィス街の片隅にある、小さな喫茶店と併設した画廊だった。
個展名は『勿忘草~きみと過ごした日々~』
と題され、作者が『N』と書かれていた。
N……やっぱり尚也なんじゃないのか?
もし、尚也がそこに居たら、自分がどうなるのか不安だった。
また、尚也の反応も怖かった。
尚也から拒絶されたら?
他人のフリをされたら?
湧き上がる不安を振り切り、震える手でお店のドアをゆっくりと開いた。
入って直ぐに展示されていたのは、花びらが舞う中で尚也の腕の中で穏やかに眠る私の姿だった。
尚也だ……。
尚也と私が一緒に居る。
溢れる涙を流しながら、私はその絵の前から動けなくなってしまった。
すると
「みちるちゃん?」
驚いた女性の声が聞こえた。
振り向くと、尚也のお母さんが目を丸くして立っていた。
「おばさん!尚也は?尚也は居るんですか?」
叫んだ私に、おばさんは首を横に振ると一枚の紙を手渡した。
『若年性アルツハイマーの青年、Nが描いた世界』
と記された紙に、私は尚也の侵されていた病を知った。
そして、その紙の作者紹介の欄に
『都築尚也 享年21歳』
と記された文字に、私は目の前が真っ暗になった。
するとおばさんはうっすらと涙を浮かべて
「今日ね、あの子の一周忌なの。尚也が会わせてくれたのかしらね」
小さく笑うおばさんに、私の瞳に涙が込み上げてきた。
「あの子ね…言葉を忘れても、ずっとみちるちゃんを描き続けてたのよ。あの子の記憶の中は、笑顔のみちるちゃんだけなんでしょうね」
そう言われて見回した店内の絵は、どれも小さな青い花の中で笑う私の顔が描かれていた。
どの表情も生き生きしていて、今にも語り出しそうな表現力だった。
苦笑いする私、ちょっと不貞腐れた顔をしてから微笑む私。
尚也にとって、私はこう見えていたんだと初めて知った。
でも、尚也以上の人には出会えなくて、告白されて付き合っても、キスされそうになる度に尚也を思い出してダメだった。
結局、そこで別れが来てしまう。
私の『時』は、高校2年の春で止まってしまっていた。
そんなある日の事だった。
「葛原さん。この絵の女性って、葛原さんに似てるよね」
そう言って、一枚の絵葉書を手渡された。
その絵には、小さな青い花が咲き乱れる花畑の真ん中で、真っ白いワンピースを着た私が笑顔で手を振っていた。
「これ!何処で手に入れたんですか!」
叫んだ私に、絵葉書を見せてくれた職場の先輩が
「会社の近くの画廊で…。展示会してるよ」
と教えてくれた。
尚也が絵を描く所なんて見た事無いし、尚也じゃ無いのかもしれない。
単なる他人のそら似なのかもしれない。
そう考えながらも、何処か尚也であって欲しいと祈る気持ちで画廊へと足を運んだ。
それはオフィス街の片隅にある、小さな喫茶店と併設した画廊だった。
個展名は『勿忘草~きみと過ごした日々~』
と題され、作者が『N』と書かれていた。
N……やっぱり尚也なんじゃないのか?
もし、尚也がそこに居たら、自分がどうなるのか不安だった。
また、尚也の反応も怖かった。
尚也から拒絶されたら?
他人のフリをされたら?
湧き上がる不安を振り切り、震える手でお店のドアをゆっくりと開いた。
入って直ぐに展示されていたのは、花びらが舞う中で尚也の腕の中で穏やかに眠る私の姿だった。
尚也だ……。
尚也と私が一緒に居る。
溢れる涙を流しながら、私はその絵の前から動けなくなってしまった。
すると
「みちるちゃん?」
驚いた女性の声が聞こえた。
振り向くと、尚也のお母さんが目を丸くして立っていた。
「おばさん!尚也は?尚也は居るんですか?」
叫んだ私に、おばさんは首を横に振ると一枚の紙を手渡した。
『若年性アルツハイマーの青年、Nが描いた世界』
と記された紙に、私は尚也の侵されていた病を知った。
そして、その紙の作者紹介の欄に
『都築尚也 享年21歳』
と記された文字に、私は目の前が真っ暗になった。
するとおばさんはうっすらと涙を浮かべて
「今日ね、あの子の一周忌なの。尚也が会わせてくれたのかしらね」
小さく笑うおばさんに、私の瞳に涙が込み上げてきた。
「あの子ね…言葉を忘れても、ずっとみちるちゃんを描き続けてたのよ。あの子の記憶の中は、笑顔のみちるちゃんだけなんでしょうね」
そう言われて見回した店内の絵は、どれも小さな青い花の中で笑う私の顔が描かれていた。
どの表情も生き生きしていて、今にも語り出しそうな表現力だった。
苦笑いする私、ちょっと不貞腐れた顔をしてから微笑む私。
尚也にとって、私はこう見えていたんだと初めて知った。
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