本日も晴天なり!

古紫汐桜

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出会いは1匹の猫からだった

幸福屋

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「いらっしゃいませ」
 店内に入ると、明るい女性の声が聞こえて来て、少しホッとした。
店内はこじんまりとした、和風の甘味処だ。
通された席に座ると、メニューにはランチまでやっているらしく、お蕎麦や天丼等のフードメニューまであった。
「いらっしゃいませ。当店は、初めてですか?」
明るく爽やかな声に弾かれるように見上げると、ポニーテールに袴姿の美少女が微笑んだ。
「あ……はい!」
思わず頷くと、美少女はにっこり微笑んで
「そうですか。ご注文は、決まりましたか?」
お水とおしぼりを渡され、手を拭いていると
「それ、レンタルでそのままレンタル会社に返すので、汗、拭いても良いですよ」
と言われ、思わず赤面してしまう。
「じゃあ、注文が決まった頃に又来ますね」
物凄い美少女が微笑んでお辞儀をして席を離れたその時、『ガラリ』と音を立ててお店の引き戸が開いた。
ちょうどお水を口にした俺は、入って来た人物を見て口の中の水を思わず吹き出した。
「お、お客様!大丈夫ですか?」
美少女が慌ててタオルを持って走り寄ると、不機嫌そうに入って来た変態イケメンが俺の顔を見て
「見つけた! お前、此処に逃げ込んだのか!」
と叫んだのだ。
美少女が手渡してくれたタオルを断り
「俺、やっぱり帰ります!」
そう言って、慌てて帰り支度をする俺に
「え? お客様?」
と、美少女が慌てている。
するとイケメンがツカツカと近付き、俺の腕を掴むと
「逃がすと思っているのか?」
って、又、距離感バグった至近距離で言って来た。
(ひゃー! 助けて!!)
と思った瞬間、『バシィっ』と何かを叩く音が聞こえたと思ったら、イケメンが頭を抱えてしゃがみこんだのだ。
イケメンの後ろには、シルバートレイを持った美少女が仁王立ちしており
「お兄! 大切なお客様に、何しているの?」
鬼の形相でそう言うと
「マキさ~ん! お兄の撤去お願いします!」
と、厨房に向かって叫んだ。
すると、やたら野太い声で
「は~い」
の声が聞こえたかと思うと、筋肉ムキムキのマッチョな180cm超えの女装した野郎が現れた。
「????」
戸惑う俺を他所に
「空也~。おいたしたら、ダ・メ・だ・ぞ♡」
と言いながら、めちゃくちゃ痛そうなデコピンをしたのだ。
イケメンは額を押さえ、痛さで動けないらしく蹲ったままだ。
そしてマッチョは俺の顔を見るなり
「あらやだ! 超可愛い子が居るじゃない!」
そう言うと、イケメンを軽々と肩に担ぎ
「空也ったら、あたしって言うモノがありながら!浮気なんて許さないわよ!」
と言いながら、ズカズカとイケメンを連れて厨房へと戻って行く。
「ちょっと待て! 俺はアイツに話が……」
「空也! あたしの前で堂々と浮気するつもり?」
「違う!……っていうか、お前とは何でもないだろうが!」
「キーー! 空也のイケズ!!」
の声の後、ボキボキボキっと骨が折れたような音がして
「ギャーっ!」
と叫ぶ断末魔が聞こえたような、聞こえなかったような……。
俺が恐る恐る美少女の顔を見ると
「あ、大丈夫です。多分、マキさんにハグされただけなので」
と笑顔で答え
「お兄は暫く来られないので、ゆっくりしていってください」
可愛らしい笑顔を浮かべて言っているが、暫くはこっちに来られない状況って事だよな……。
「あははは……」
乾いた笑いを浮かべる俺に、美少女は
「焦らなくたって、又会えるのに……。余程、嬉しかったみたいね」
そうポツリと呟いた。
「え?……」
驚く俺に、美少女はにっこり微笑むと
「お兄がご迷惑をお掛けしたので、何かご馳走させて下さい」
そう言うと
「マキさん。あんな風だけど、作る料理は繊細で美味しいの!食べて行って」
と続けた。
すると厨房から
「ちょっと姫華! 聞こえてるわよ!」
の叫び声が返って来た。
美少女は肩を竦め、ペロリとイタズラが見付かった子供のように微笑んだ。

これが、俺と我妻兄妹との出会いだった。
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