本日も晴天なり!

古紫汐桜

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出会いは1匹の猫からだった

再会は突然に

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 結局、あの日は美少女にお願いされるがまま、お店の1番人気だという親子丼セットを食べた。
出汁がきいたタレを吸い込んだ玉ねぎと鶏肉と卵の上に、とろっとろの卵が乗った絶品親子丼と、あのムキムキな筋肉で打ったであろう手打ち蕎麦は、最高に美味かった。
又、食べたいと思ったものの、あの店に行けば漏れなく変態イケメンが着いて来ると思うと、二の足を踏んでしまう。
甘味処というよりも、手打ちそばにした方が絶対に流行るだろうに……と思いなが、ふと、あの美少女とイケメンが兄妹と言うのがなんとなく頷ける。
あの二人の両親も、恐ろしい位に整った顔をしているに違いない。
 そんな事を考えながら、ゴロンと床に寝転んだ。
会社を辞めて1ヶ月。
自宅で引きこもり生活にも飽きてきた。
次の仕事……見つけなくちゃな……。
ぼんやりと天井を見つめていると、天井にシミが現れた。
「ん?」と思って眺めていたら、シミが広がって行って天井から水が漏れて来た。
「な、な、なんだ!」
慌てて部屋を飛び出し、上の階のドアを叩いた。
「すみません!水漏れしてます!」
叫んでみても、何の返事も無い。
走って大家さんの家に行き、ドアを開けて貰った時には既に、天井が抜け落ちて俺の部屋が丸見えになっていた。
「オーマイガー!!」
頭を抱えて叫んだ俺に、追い打ちを掛けるように
「ちょうど、取り壊しをしようと思っていたんだよね」
の大家さんの一言。
かなり老朽化が進んでいた古いアパート。
どうやら、無人の部屋の排水管が壊れて水漏れを起こしたらしい。
住人も、俺と死にそうな爺さんの二人だけになっており、その爺さんも来月には老人ホームに入るらしく、遂に俺は住む家まで失ってしまう。
少ない荷物をリュックに詰めて、夕暮れの公園で途方に暮れて居た時だった。
『チリン』っと澄んだ鈴の音が聞こえて、思わず視線を向けると、和服姿の変態イケメンと、高級そうな猫なのに「タマ」と名付けられた猫の姿が見えた。
変態イケメンは知らない男の前に立つと
「悪しきご縁、断ち切らせて頂きます」
そう言った瞬間、タマが変態イケメンの方に飛んだ。
するとタマの姿が刀に変化したかと思うと、変態イケメンは刀をキャッチするなり男を切り付けたのだ。
「うわぁぁぁ!」
驚いて腰を抜かした俺に視線を向けると
「よぉ! 又、会ったな」
と言ってニヤリと笑うと、切られた男は無傷で『キョトン』とした顔をしている。
変態イケメンが刀を宙に投げると、刀が猫の姿に戻り俺の前に軽やかに着地した。
変態イケメンは腰を抜かした俺に近付き
「お前、いつも腰を抜かしているな」
そう言って笑うと、俺の腕を掴んで立ち上がらせるにそいつに
「あ、あんた、人、人殺し……」
アワアワしながら呟くと
「殺してねぇけど?」
と答え、親指で切り付けた男を指差した。
俺が親指で刺された方に視線を向けると、切り付けられた男は何事も無かったかのように首を傾げながら歩き出した。
「え? だってあんた、さっきの人をその刀で切ったよな?」
「あぁ、切ったな」
「やっぱり! ひ……人殺し……」
「だから、殺して無ぇだろうが!」
イライラしたように言われ、俺の腕を掴んだ。
(俺もられる!)
そう思って目をギュッと閉じていると、突然抱き寄せられて、またもや首筋辺りに鼻先を当てて匂いを嗅ぐと
「やっぱり……あんただ」
と呟いたのだ。
「な、な、な……何すんだよ! この変態!」
「変態?」
眉を寄せて呟いた変態イケメンは、小さく笑うと
「別にあんたを襲ったわけでも無いのに?」
なんて、肩を窄めて言いやがった。
「人の匂いを嗅ぐとか……、信じられない!この人殺し変態イケメンが!」
鼻先を当てられた首を手で隠すようにしながら、数歩後退り変態イケメンと距離を取りながら指差して叫ぶと
「へぇ……、あんたもこの面が好きなんだ」
と、変態イケメンがニヤリと笑って呟いた。
「好きとは言ってない!」
「でも、イケメンって言ったよな?」
「イケメンと好きは違うだろうが!」
そう言い争っていると、変態イケメンが俺の腕を掴み
「まぁ、なんでも良いや。とにかく、俺に力を貸してくれ」
と言い出した。
「はぁ? だ、誰が人殺しの手伝いなんかするかよ!」
「だから、殺して無いだろうが!」
「か……刀で、男の人を切っていたじゃないか!」
そう言いながら、ハタと気付く。
「えぇ! 猫? 刀? 刀が猫で、猫が刀? えぇ!」
パニックになっている俺を、変態イケメンは冷めた目で見ながら
「あぁ……、タマ。おいで」
そう言うと、タマが「にゃ~ん」と鳴きながら変態イケメンの肩に飛び乗った。
「タマは妖刀なんだよ。タマの刀は人に災いをもたらすモノや、悪縁を断ち切る刀なんだ。さっきの男は、ある女性のストーカーだった。何度、警察に警告されても、ストーカー行為を止められない。だから、彼女との縁を断ち切っただけだ」
そう答えたのだ。
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