水鏡~千年の時を越えて、今、再び動き出す悲恋~

古紫汐桜

文字の大きさ
70 / 119
第四章

翠としての始まり

しおりを挟む
 あの日から、翡翠は名を翠と改めた。
頼政が鬼ヶ村を探し、友頼の生家の周りを根絶やしに探していると噂が流れた。
鬼ヶ村を移すことになり、豪鬼たちは数日前に散り散りに村を後にした。
誰もいなくなった村で、友頼は翠と二人で過ごしていた。

 月日が流れるにつけ、翠は女性であった記憶が薄れて行った。
残っているのは、友頼への切ない恋慕だけ。
どうせなら、全て消え去れば良いのに……と、翠は思っていた。

いつも一定の距離感を保たれ、向けられているその背中は果てしなく遠い。
「翠……もし行きたい場所があるなら、行って良いんだよ」
友頼はいつしか、全てを諦めた瞳をするようになっていた。
何度か友頼の生家で暮らしたが、その度に送られてくる刺客たち。
 そんな中、時々届く風の噂で、頼政が鬼狩りと称して罪のない人を殺していると聞いた。
きっと……翡翠を探しているのだろう。

「若様……私はずっと、あなたと共に……」
翠が傅き言うと、友頼は寂しそうな笑顔を浮かべるだけだった。
「結局、私は……翡翠を不幸にしか出来なかった。
なぁ……翠、きみは不幸ではないか?」
ポツリと呟いた言葉は、真っ青に広がる青空の中に、何度、溶けて消えただろうか──。
翠はそんな友頼の背中を、ただ黙って見守ることしか出来なかった。

友頼にしつこく送られてくる刺客を、翠は友頼に黙って始末していた。
一人殺す度、翡翠の記憶が消えていく──。
調度良い……
あんなひ弱な女の記憶など、無い方がマシだ。

翠はいつしか、感情というものを失っていった。
そんなある日の事だった。
「翡翠さん?」
翠が人里を歩いていると、ふいに声を掛けられた。
女性は身なりが良く、右手には5歳くらいの子供を連れていた。
「どなたかと、お間違いではないですか?」
ニッコリ微笑んで答えた翠に
「あら……本当だ。何でかしら? 
あなたが知り合いの女性に見えたの
ごめんなさいね」
その女性はそう答えると、頭を下げた後に首を傾げた。
「母上、お知り合いの方ですか?」
「いいえ。頼久さんの乳母だった方に、面差しが似ていたの」
会話がもれ聞こえ、翠は弾かれたように振り向いた。
すると、人混みの中から
「晶様、ぼん、探しましたよ」
すっかり大人びた顔をした三郎太が現れたのだ。
「ごめんなさいね、三郎太。頼久さんが、あの簪を見たいと言うものだから……」
穏やかに笑う晶の手には、桜が彫られた簪があった。
「母上は、桜の花がお好きだから……」
「ぼんは、本当に晶様が好きだな」
優しく笑う三郎太に、頼久は笑顔を浮かべ
「うん!母上と三郎太が、大好きだよ」
と答えた。
翠はぼんやりと、自分には縁が無い幸せな空間を眺めていた。
すると、そんな翠を三郎太はハッとした顔で見ると、母子に何か話して頭を下げると、足早に近付いて来た。

「お久しぶりです、翡翠様」
疑うこともなく、三郎太は頭を下げた。
翠が顔を逸らし
「他人の空似だろう。私は男だ……」
と答えると
「私は翡翠様が女性……とは言っておりませんが……」
と続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

処理中です...