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第1章 学園1年生前期
クラブ活動2(文化・家庭欄)
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・4月10日(水曜日)
「聞いたわよ、アカネちゃん風華寺の和尚様に勝負を挑んだんだって」
「そうなんですよ。とても強くて一矢報いることも出来ずに惨敗でした」
第四学園情報収集クラブのクラブハウスで授業を終えた後に移動すると、小森田先輩は取材に既にでておりクラブハウスには仁也とアカネの他には受付の本宮先輩だけだった。
「おっはよーう」
猫の獣人であるサガラマ先輩が元気よく挨拶をしながら入口から入ってきた。
「あれあれ、仁也くんとアカネちゃんの新人君たちは小森田兄さんに同行していないんすか?」
「それが小森田先輩が先に取材に行ってしまったみたいで」
「そうなんすか、じゃあ今日は私の取材に同行しちゃうっすか?」
「アオラ先輩はどこの強い人に取材に行くんですか?」
アカネが純粋な瞳でサガラマ先輩に尋ねるが、サガラマ先輩は一瞬キョトンと呆けた顔をしたが、すぐに笑い始めた。
「アカネちゃん、私は小森田兄さんみたいにバトルジャンキーじゃないんすよ。私の取材対象は学園都市の新しい飲食店や雑貨店なんかを取材することが多いっすね」
「え~、小森田先輩が来るまで待ってます」
「アカネちゃんもバトル以外にも興味を持つっす!一緒に行くっすよ!」
「だから、あたしは興味ないんですって、仁也も何か言ってくれよ」
「いや俺はサガラマ先輩の取材に興味があるけど」
裏切られたと言わんばかりに目と口を大きく開けて、対象的にサガラマ先輩は笑顔で頷く。
「はい決定っす、先輩命令でアカネちゃんも取材に同行するっす!はい準備をするっす!」
「は~い」
アカネも口を尖らせながら取材に行く準備をし始めた。
「じゃあマリ姉行ってくるっす」
「行って来ます」
「アオラ先輩、お店ならジムとかが良いな」
「いってらっしゃい」
本宮先輩に見送られながらクラブハウスから出た。
「今日は南居住ブロックに大規模飲食用ビル、イートセブンビルがプレオープンするんで、その取材っすよ~」
「もしかして、七階建てのビルですか?」
「そうっすよ、本当は三月末に開業の予定だったんすけど、工事が少し遅れてしまったんすよ」
喋りながら歩いて行くと、ビルに近づくにつれて人通りも多くなってきた。
「プレオープンで取材許可証や招待券が無いと入れないのに人が多いっすね~」
「これでプレオープンなら明日の三日後のオープンの時にはどれだけのお客さんが来るんですかね?」
「ああ~、良い匂いがしてきたな~」
仏頂面だったアカネもビルから漂って来る匂いを嗅いで表情を緩ませている。ビル前の道路に面している屋台から匂いが漂ってきているようだ。
「今日はイートセブンビルプレオープン日なので一般のお客様は立ち入りが出来ません」
「お疲れ様っす。自分達は取材許可証を貰ってる記者っす。取材をさせて貰いたいっす!」
「お手数ですが入場は、正面に設けましたゲートからお願い致します」
「了解っす。ありがとうございますっす」
目的のビルの周囲は、人が何処からでも入れないように柵が設置され、警備員が等間隔で並んでいた。
サガラマ先輩は警備員に慣れた手つきで取材許可証を見せると、警備員も慣れた様子で指で行き先を指し示してくれたので、素直に指示に従った。
「招待状をお持ちの方、取材許可証をお持ちの方は左の受付でお願い致します」
「第四学園情報収集クラブのサガラマ・アオラと部の後輩の同行者二名っす」
「かしこまりました。本日プレオープンの為に入場者の方には、こちらのゲストホルダーを見える位置にお付けしていただいております」
そう言って受付のお姉さんが渡してきたゲストホルダーを首から下げて、早速中へと入った。
「うっは~、めちゃくちゃ良い匂いっす!!」
「アオラ先輩、あそこの屋台の肉が凄すぎますよ!!」
「いやいやアカネちゃん、先ずは女子らしくそっちのフルーツの屋台っすよ。流石第四学園でも屈指の貿易ギルドの直営店っす。屋外屋台でもその質の高さが伺えるっす」
女性陣二人は互いの意見をぶつけ合って、一歩も譲らないので取り敢えず一旦別れて、三十分後に互いの食べた物を披露し合うことで落ち着いた。
「よーし、和田っちはアカネちゃんと一緒に回って暴走しないように面倒を頼むっす。あと食レポ取材っすから取材費を渡しておくっすけど、ちゃんと取材をするんすよ」
「よっし仁也、一緒に肉の屋台で食いまくろうぜ」
「おい、そんなに引っ張ると」
サガラマ先輩から取材費として、三千円を貰うと突如引っ張られた。
アカネに引っ張られて肉串を扱う屋台へと着き、アカネは二本注文した。
「エアルバードの串焼きお待ちどう」
肉串を焼く店員のお兄さんから一本ずつ串を受け取り、焼きたてで芳ばしい匂いと熱気がこもる串にかぶりついた。
「「うんまーい」」
「良い笑顔だね、サービスするからもう一本いっとくかい?」
「「お代わりもう一本」」
コッテリして甘辛いタレが、淡白だが旨味が深いエアルバードの肉によくあっていて、あっという間に肉串を平らげてしまう。
「気に入って美味しそうに食べている所、悪いんだけど今日のプレオープンではお一人様五本までなんだ。悪いけれど他のお店を回ってみてくれ」
良一が三本目、アカネが五本目の肉串を受け取った際に店員の兄さんが笑顔で告げてきたので、他の屋台も見て回る事にした。
「いや~、一店目からレベルが高かったな。エアルバードって飼育が難しくって出回る数が少ないって話なのに」
「でも美味しかった。値段が一本三百円だけど、あの味で三百円なら安すぎるな 」
それからも二人で様々な料理を食べるとあっという間に取材費が底を尽いたが、二人は自腹で料理を買い進めた。
「アカネ、時間だからサガラマ先輩と合流するぞ」
「りょうはーい」
未だに口一杯に料理を頬張り笑顔のアカネを連れて合流予定の場所へ向かった。
合流場所はビルのエントランスなので屋台群を抜けて行くと、丁度目の前から歓声が湧き上がる。
「あれってグレーテリアマグロだろ」
「あの有名なマグロか!」
「大人でも十センチ程しかないけれど旨味が凄いって話だな。料亭じゃあ一匹五万円だとか」
巨大な水槽の中を小さなマグロがグルグルと回遊している。周りには白エプロンを着た板前らしき人が水槽から掬ったばかりのグレーテリアマグロを絞めて捌いていく。
「プレオープン企画グレーテリアマグロの半身寿司、一貫千円での提供です」
呼び込みを行う男性の声を聞いて、特設ステージの屋台には長蛇の列が出来た。
「仁也、食ってみようぜ」
「いや、あの列に並んだらサガラマ先輩との待ち合わせに遅れるぞ」
「いや、その本人が目の前で列に並んでいるんだけど」
アカネが指差す方向を見ると、確かにサガラマ先輩が寿司の列に並んでいる。サガラマ先輩もこっちに気づいたのか手を振って笑っている。
「ほらな、あの様子だとサガラマ先輩が集合時間に遅れるんだから、先に約束を破るのは先輩出す私達も並んでも小言ですむだろう」
「うーん、まあいいか。俺も食べてみたいし」
一貫千円は軽くなっていく財布には大打撃だが、アカネと一緒に列の最後尾に並んだ。
列は想像以上に順調に進み、二人の前に並んでいた人達が三十分程でさばかれて、仁也達の順番になった。
「お並びありがとうございます。お一人様一貫千円になります」
スタッフに生徒手帳の電子マネーで決済をすると、一貫の寿司が載った皿と箸が渡された。
「早速、食うか」
アカネは言うが早いか、手で寿司を掴み一口で食べた。数度咀嚼し動きが止まったアカネを横目に、一貫千円の価値から恐る恐る寿司の半分を一口食べた。
口に入れ噛んだ瞬間に口一杯に旨味が広がった。まったくクドくない脂の甘みに、マグロの濃厚な味とシャリの絶妙なバランスが整い、単純に美味いといった感想しかなく半分しか食べていなかった筈なのに気づくと皿の上には残っていなかった。
「思わず夢中で食っちまった。我を忘れるってこんな事なんだな」
「ああヤバすぎるな、何だよこれメチャクチャ美味しすぎるんだけど!」
二人で食べたばかりのグレーテリアマグロの感想を言い合っていると突然肩を突かれた。
「二人とも私の事を忘れてないっすか?」
「「先輩!!」」
「まあ、グレーテリアマグロはめちゃんこ美味いっすから分からんでもないっすけど」
「すいません、あまりの旨さの衝撃で」
「確かにでも本番はこれからっすよ」
そう言ってサガラマ先輩はビルの中へと入っていった。
「「「「ようこそイートセブンビルへ」」」」
ビルに入ると綺麗な制服に身を包んだ従業員が並び、元気良い挨拶を送ってくる。
「さて、取り敢えず今日のプレオープンに招待してくれた先輩に挨拶に行かないといけないっす」
「取材許可証で入ったんじゃないんですか?」
「うちみたいな小規模クラブじゃあ、このプレオープンに取材許可証で入る事が出来るのは部長ぐらいっすね。ランクが高すぎるっす」
「ランクって何ですか?」
「正式名は第四学園報道管理委員会取材許可認定証って長いんすけど、私達はランクって呼んでるっす。一から十までのランクの許可証があるっす。記事を書いて発行し、その記事が複数人に読まれたら一ランクっすね」
「じゃあ俺とアカネはまだランク外って事ですよね」
「そうっす。このプレオープンに取材許可証で参加できるランクは六以上っすから。中々の高ランクっすね、ちなみに私のランクは三っすよ」
サガラマ先輩の話を聞きながら奥へと進むと、スイーツパレスと書かれたお店の前に着いた。
「このスイーツパレスの責任者である先輩が、今日のプレオープンチケットをくれたんすよ」
「凄く甘い匂いですね」
「今日のオススメはフルーツパフェか、食間のオヤツには丁度いいな」
三人でお店に入ると中は女性客がそこそこ入っていた。ホールスタッフの女性に案内されて席に着いてから、サガラマ先輩が店長の知人だと伝えて、今日の御礼を伝えたいので会えるか尋ねると、確認しますと返事を受けた。
「いろんな種類のパフェがあるんすね、二人にもこのお店の記事を書いてもらうっすから。気合を入れて食べるんすよ!」
「食レポなんてした事ないですよ」
「完璧な食レポなんて求めてないっすから、二人の素直な感想に、ゴマをすって練りこめばいいんすよ」
「あら、私のお店のデザートはゴマをする必要がないぐらい美味しいわよ」
ウェーブのかかった髪を後ろでまとめた綺麗な女性が話しかけてきた。サガラマ先輩はその声を聞いて慌てて振り返った。
「ちょちょっと待って欲しいっす。今のは後輩に取材の心得を教えていただけで、モーリ先輩の腕の良さは十分に理解してるっす」
「本当かしら?アオラちゃんは結構お調子者な所があるからな~」
「しょんな事を後輩の前で言わないで欲しいっす~」
「分かっているわよ。アオラちゃんをからかってみたくなっただけだから」
サガラマ先輩があたふたしている姿を十分に楽しんだからなのか、モーリ先輩はアオラ先輩のおでこをツンとつついて仁也とアカネを見た。
「アオラちゃんだけかと思ったら、後輩君達を連れてきていたのね。初めまして貿易ギルド【四海通商】第二販売部のモーリ・里田よ」
「第四学園情報収集クラブの和田仁也です」
「同じくホオズキ・アカネです」
「仁也君にアカネちゃんね、二人はもう何か食べてきたの?」
「外の屋台で肉串やグレーテリアマグロのお寿司を食べました」
「めちゃくちゃ美味しかったです」
「グレーテリアマグロは調達部が力を入れていた食材だからね。私もオマケで食べさせてもらったことがあるけど本当に美味しいのよね。あの口に入れた瞬間に旨味の脂がとろける感じが最高なのよね」
モーリ先輩が長々とグレーテリアマグロについて語り出したのを黙って聞いていると、後ろで三つのパフェを持ったウエイトレスさんがオロオロしていた。
「マネージャー、パフェが溶けちゃいます」
「おっと語りすぎたみたいね」
モーリ先輩が喋るのをやめて、机から一歩離れた。
「お待たせいたしました。季節のフルーツパフェです」
オロオロしていたウエイトレスさんが仁也達の机の上にパフェを三つ置いた。
「これは私からのプレゼントだよ。この店のオススメのパフェだ。じっくり味わって良い記事を書いてね」
そう言ってモーリ先輩はウエイトレスと一緒に奥へ帰っていった。
「全くモーリ先輩には困ったもんっす」
「バイタリティに溢れた人ですね」
「そんなことよりパフェを食っちまおうぜ!」
「そうだね」
それから三人は黙々とパフェを食べ進めた。季節のフルーツということで苺がふんだんに使われて、その甘酸っぱさがクリームやアイスの甘さと絶妙に合わさり、感想を口に出すのが惜しいと思う程の美味しさであった。
一番最初に食べ終わったのはアカネ、続いて仁也にサガラマ先輩とスプーンを置いたが、余韻に浸って暫くは誰も喋らなかった。
「こんなに美味いパフェは初めてだ。ちゃんとオープンしたら通い詰めることになりそうだな仁也」
「確かに凄く美味しかったな」
「二人とも互いに言うぶんにはそれで良いっすけど、記事にするときには美味かっただけだと記事じゃないっすよ」
それから三人は他のデザートを一品ずつ食べて、スイーツパレスを後にした。
「聞いたわよ、アカネちゃん風華寺の和尚様に勝負を挑んだんだって」
「そうなんですよ。とても強くて一矢報いることも出来ずに惨敗でした」
第四学園情報収集クラブのクラブハウスで授業を終えた後に移動すると、小森田先輩は取材に既にでておりクラブハウスには仁也とアカネの他には受付の本宮先輩だけだった。
「おっはよーう」
猫の獣人であるサガラマ先輩が元気よく挨拶をしながら入口から入ってきた。
「あれあれ、仁也くんとアカネちゃんの新人君たちは小森田兄さんに同行していないんすか?」
「それが小森田先輩が先に取材に行ってしまったみたいで」
「そうなんすか、じゃあ今日は私の取材に同行しちゃうっすか?」
「アオラ先輩はどこの強い人に取材に行くんですか?」
アカネが純粋な瞳でサガラマ先輩に尋ねるが、サガラマ先輩は一瞬キョトンと呆けた顔をしたが、すぐに笑い始めた。
「アカネちゃん、私は小森田兄さんみたいにバトルジャンキーじゃないんすよ。私の取材対象は学園都市の新しい飲食店や雑貨店なんかを取材することが多いっすね」
「え~、小森田先輩が来るまで待ってます」
「アカネちゃんもバトル以外にも興味を持つっす!一緒に行くっすよ!」
「だから、あたしは興味ないんですって、仁也も何か言ってくれよ」
「いや俺はサガラマ先輩の取材に興味があるけど」
裏切られたと言わんばかりに目と口を大きく開けて、対象的にサガラマ先輩は笑顔で頷く。
「はい決定っす、先輩命令でアカネちゃんも取材に同行するっす!はい準備をするっす!」
「は~い」
アカネも口を尖らせながら取材に行く準備をし始めた。
「じゃあマリ姉行ってくるっす」
「行って来ます」
「アオラ先輩、お店ならジムとかが良いな」
「いってらっしゃい」
本宮先輩に見送られながらクラブハウスから出た。
「今日は南居住ブロックに大規模飲食用ビル、イートセブンビルがプレオープンするんで、その取材っすよ~」
「もしかして、七階建てのビルですか?」
「そうっすよ、本当は三月末に開業の予定だったんすけど、工事が少し遅れてしまったんすよ」
喋りながら歩いて行くと、ビルに近づくにつれて人通りも多くなってきた。
「プレオープンで取材許可証や招待券が無いと入れないのに人が多いっすね~」
「これでプレオープンなら明日の三日後のオープンの時にはどれだけのお客さんが来るんですかね?」
「ああ~、良い匂いがしてきたな~」
仏頂面だったアカネもビルから漂って来る匂いを嗅いで表情を緩ませている。ビル前の道路に面している屋台から匂いが漂ってきているようだ。
「今日はイートセブンビルプレオープン日なので一般のお客様は立ち入りが出来ません」
「お疲れ様っす。自分達は取材許可証を貰ってる記者っす。取材をさせて貰いたいっす!」
「お手数ですが入場は、正面に設けましたゲートからお願い致します」
「了解っす。ありがとうございますっす」
目的のビルの周囲は、人が何処からでも入れないように柵が設置され、警備員が等間隔で並んでいた。
サガラマ先輩は警備員に慣れた手つきで取材許可証を見せると、警備員も慣れた様子で指で行き先を指し示してくれたので、素直に指示に従った。
「招待状をお持ちの方、取材許可証をお持ちの方は左の受付でお願い致します」
「第四学園情報収集クラブのサガラマ・アオラと部の後輩の同行者二名っす」
「かしこまりました。本日プレオープンの為に入場者の方には、こちらのゲストホルダーを見える位置にお付けしていただいております」
そう言って受付のお姉さんが渡してきたゲストホルダーを首から下げて、早速中へと入った。
「うっは~、めちゃくちゃ良い匂いっす!!」
「アオラ先輩、あそこの屋台の肉が凄すぎますよ!!」
「いやいやアカネちゃん、先ずは女子らしくそっちのフルーツの屋台っすよ。流石第四学園でも屈指の貿易ギルドの直営店っす。屋外屋台でもその質の高さが伺えるっす」
女性陣二人は互いの意見をぶつけ合って、一歩も譲らないので取り敢えず一旦別れて、三十分後に互いの食べた物を披露し合うことで落ち着いた。
「よーし、和田っちはアカネちゃんと一緒に回って暴走しないように面倒を頼むっす。あと食レポ取材っすから取材費を渡しておくっすけど、ちゃんと取材をするんすよ」
「よっし仁也、一緒に肉の屋台で食いまくろうぜ」
「おい、そんなに引っ張ると」
サガラマ先輩から取材費として、三千円を貰うと突如引っ張られた。
アカネに引っ張られて肉串を扱う屋台へと着き、アカネは二本注文した。
「エアルバードの串焼きお待ちどう」
肉串を焼く店員のお兄さんから一本ずつ串を受け取り、焼きたてで芳ばしい匂いと熱気がこもる串にかぶりついた。
「「うんまーい」」
「良い笑顔だね、サービスするからもう一本いっとくかい?」
「「お代わりもう一本」」
コッテリして甘辛いタレが、淡白だが旨味が深いエアルバードの肉によくあっていて、あっという間に肉串を平らげてしまう。
「気に入って美味しそうに食べている所、悪いんだけど今日のプレオープンではお一人様五本までなんだ。悪いけれど他のお店を回ってみてくれ」
良一が三本目、アカネが五本目の肉串を受け取った際に店員の兄さんが笑顔で告げてきたので、他の屋台も見て回る事にした。
「いや~、一店目からレベルが高かったな。エアルバードって飼育が難しくって出回る数が少ないって話なのに」
「でも美味しかった。値段が一本三百円だけど、あの味で三百円なら安すぎるな 」
それからも二人で様々な料理を食べるとあっという間に取材費が底を尽いたが、二人は自腹で料理を買い進めた。
「アカネ、時間だからサガラマ先輩と合流するぞ」
「りょうはーい」
未だに口一杯に料理を頬張り笑顔のアカネを連れて合流予定の場所へ向かった。
合流場所はビルのエントランスなので屋台群を抜けて行くと、丁度目の前から歓声が湧き上がる。
「あれってグレーテリアマグロだろ」
「あの有名なマグロか!」
「大人でも十センチ程しかないけれど旨味が凄いって話だな。料亭じゃあ一匹五万円だとか」
巨大な水槽の中を小さなマグロがグルグルと回遊している。周りには白エプロンを着た板前らしき人が水槽から掬ったばかりのグレーテリアマグロを絞めて捌いていく。
「プレオープン企画グレーテリアマグロの半身寿司、一貫千円での提供です」
呼び込みを行う男性の声を聞いて、特設ステージの屋台には長蛇の列が出来た。
「仁也、食ってみようぜ」
「いや、あの列に並んだらサガラマ先輩との待ち合わせに遅れるぞ」
「いや、その本人が目の前で列に並んでいるんだけど」
アカネが指差す方向を見ると、確かにサガラマ先輩が寿司の列に並んでいる。サガラマ先輩もこっちに気づいたのか手を振って笑っている。
「ほらな、あの様子だとサガラマ先輩が集合時間に遅れるんだから、先に約束を破るのは先輩出す私達も並んでも小言ですむだろう」
「うーん、まあいいか。俺も食べてみたいし」
一貫千円は軽くなっていく財布には大打撃だが、アカネと一緒に列の最後尾に並んだ。
列は想像以上に順調に進み、二人の前に並んでいた人達が三十分程でさばかれて、仁也達の順番になった。
「お並びありがとうございます。お一人様一貫千円になります」
スタッフに生徒手帳の電子マネーで決済をすると、一貫の寿司が載った皿と箸が渡された。
「早速、食うか」
アカネは言うが早いか、手で寿司を掴み一口で食べた。数度咀嚼し動きが止まったアカネを横目に、一貫千円の価値から恐る恐る寿司の半分を一口食べた。
口に入れ噛んだ瞬間に口一杯に旨味が広がった。まったくクドくない脂の甘みに、マグロの濃厚な味とシャリの絶妙なバランスが整い、単純に美味いといった感想しかなく半分しか食べていなかった筈なのに気づくと皿の上には残っていなかった。
「思わず夢中で食っちまった。我を忘れるってこんな事なんだな」
「ああヤバすぎるな、何だよこれメチャクチャ美味しすぎるんだけど!」
二人で食べたばかりのグレーテリアマグロの感想を言い合っていると突然肩を突かれた。
「二人とも私の事を忘れてないっすか?」
「「先輩!!」」
「まあ、グレーテリアマグロはめちゃんこ美味いっすから分からんでもないっすけど」
「すいません、あまりの旨さの衝撃で」
「確かにでも本番はこれからっすよ」
そう言ってサガラマ先輩はビルの中へと入っていった。
「「「「ようこそイートセブンビルへ」」」」
ビルに入ると綺麗な制服に身を包んだ従業員が並び、元気良い挨拶を送ってくる。
「さて、取り敢えず今日のプレオープンに招待してくれた先輩に挨拶に行かないといけないっす」
「取材許可証で入ったんじゃないんですか?」
「うちみたいな小規模クラブじゃあ、このプレオープンに取材許可証で入る事が出来るのは部長ぐらいっすね。ランクが高すぎるっす」
「ランクって何ですか?」
「正式名は第四学園報道管理委員会取材許可認定証って長いんすけど、私達はランクって呼んでるっす。一から十までのランクの許可証があるっす。記事を書いて発行し、その記事が複数人に読まれたら一ランクっすね」
「じゃあ俺とアカネはまだランク外って事ですよね」
「そうっす。このプレオープンに取材許可証で参加できるランクは六以上っすから。中々の高ランクっすね、ちなみに私のランクは三っすよ」
サガラマ先輩の話を聞きながら奥へと進むと、スイーツパレスと書かれたお店の前に着いた。
「このスイーツパレスの責任者である先輩が、今日のプレオープンチケットをくれたんすよ」
「凄く甘い匂いですね」
「今日のオススメはフルーツパフェか、食間のオヤツには丁度いいな」
三人でお店に入ると中は女性客がそこそこ入っていた。ホールスタッフの女性に案内されて席に着いてから、サガラマ先輩が店長の知人だと伝えて、今日の御礼を伝えたいので会えるか尋ねると、確認しますと返事を受けた。
「いろんな種類のパフェがあるんすね、二人にもこのお店の記事を書いてもらうっすから。気合を入れて食べるんすよ!」
「食レポなんてした事ないですよ」
「完璧な食レポなんて求めてないっすから、二人の素直な感想に、ゴマをすって練りこめばいいんすよ」
「あら、私のお店のデザートはゴマをする必要がないぐらい美味しいわよ」
ウェーブのかかった髪を後ろでまとめた綺麗な女性が話しかけてきた。サガラマ先輩はその声を聞いて慌てて振り返った。
「ちょちょっと待って欲しいっす。今のは後輩に取材の心得を教えていただけで、モーリ先輩の腕の良さは十分に理解してるっす」
「本当かしら?アオラちゃんは結構お調子者な所があるからな~」
「しょんな事を後輩の前で言わないで欲しいっす~」
「分かっているわよ。アオラちゃんをからかってみたくなっただけだから」
サガラマ先輩があたふたしている姿を十分に楽しんだからなのか、モーリ先輩はアオラ先輩のおでこをツンとつついて仁也とアカネを見た。
「アオラちゃんだけかと思ったら、後輩君達を連れてきていたのね。初めまして貿易ギルド【四海通商】第二販売部のモーリ・里田よ」
「第四学園情報収集クラブの和田仁也です」
「同じくホオズキ・アカネです」
「仁也君にアカネちゃんね、二人はもう何か食べてきたの?」
「外の屋台で肉串やグレーテリアマグロのお寿司を食べました」
「めちゃくちゃ美味しかったです」
「グレーテリアマグロは調達部が力を入れていた食材だからね。私もオマケで食べさせてもらったことがあるけど本当に美味しいのよね。あの口に入れた瞬間に旨味の脂がとろける感じが最高なのよね」
モーリ先輩が長々とグレーテリアマグロについて語り出したのを黙って聞いていると、後ろで三つのパフェを持ったウエイトレスさんがオロオロしていた。
「マネージャー、パフェが溶けちゃいます」
「おっと語りすぎたみたいね」
モーリ先輩が喋るのをやめて、机から一歩離れた。
「お待たせいたしました。季節のフルーツパフェです」
オロオロしていたウエイトレスさんが仁也達の机の上にパフェを三つ置いた。
「これは私からのプレゼントだよ。この店のオススメのパフェだ。じっくり味わって良い記事を書いてね」
そう言ってモーリ先輩はウエイトレスと一緒に奥へ帰っていった。
「全くモーリ先輩には困ったもんっす」
「バイタリティに溢れた人ですね」
「そんなことよりパフェを食っちまおうぜ!」
「そうだね」
それから三人は黙々とパフェを食べ進めた。季節のフルーツということで苺がふんだんに使われて、その甘酸っぱさがクリームやアイスの甘さと絶妙に合わさり、感想を口に出すのが惜しいと思う程の美味しさであった。
一番最初に食べ終わったのはアカネ、続いて仁也にサガラマ先輩とスプーンを置いたが、余韻に浸って暫くは誰も喋らなかった。
「こんなに美味いパフェは初めてだ。ちゃんとオープンしたら通い詰めることになりそうだな仁也」
「確かに凄く美味しかったな」
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