サイコラビリンス

國灯闇一

文字の大きさ
11 / 44
3章 汚れた青春

3dbs-汚して手に入れた平穏

しおりを挟む
 放課後、生徒達は部活に励む時間となっていた。

「アルトーレ家のみなさん、お集まりいただき誠にありがとうございます」

 根元はゆっくりとした口調で話しながら、お辞儀をする。ワックスで強引に固めた頭がしっかり頭に張り付き、横に流れている。

「お食事の用意ができましたので、イーティングルームへお集まり下さい」

「今日の朝食、少しお塩が効き過ぎでしたわ」

 少し年季の入ったソファーに座った女子生徒が苦言を申す。

「シェフに伝えておきます」

「今度加減を間違えたら、この家を出ていってもらうわ」

「そう言うなマリア。そんなに不味い飯じゃなかっただろ~」

 おじさん役の男子生徒がなだめる。

「高いお金で雇ってるんだから当然じゃないですか」

 教室の中は殺伐とした空気に包まれていた。

 現在、小見川達2年生が作ったシナリオのワンシーンを練習していた。
 資産家のブランドン・アルトーレが亡くなり、遺産相続の関係で集まったアルトーレ家の親族が訪れていたのは、ブランドンが最期の住処として建てた大きな屋敷だった。
 親族はブランドンの兄と弟、ブランドンの娘、2人の息子。この5人の中には家族を持っている人もおり、屋敷の中にはたくさんの人が招かれているという状況だった。

 それぞれ屋敷に着いたのが昨日の夜。そして今日の午後18時、遺言状が開封されるはずだった。

「なあ、いつになったら弁護士は来るんだ?」

 ブランドンの息子の1人、カルビン役の男子生徒が聞く。

「私には分かりかねます」

 執事役の根元は無表情で答える。

「電話してくれよ」

 イラついた様子で根元に言う1年生の男子生徒。彼はブランドンの弟の息子の役だった。

「連絡先は聞いておりません」

「聞いとけよ~」

「聞いたのですが、お教えできないと言われました」

「は?」

「ブランドン様は、遺産相続の手続きをしていたことすら、誰にも言われておられなかったのです」

「じゃあ、それを知っていたのは、弁護士だけ?」

 ブランドンの弟の妻役の女子学生が戸惑いながら聞く。

「はい」

 根元がそう言った瞬間、押し黙る出演者。それが少しの時を刻んで、カットがかかった。
 緊張が解けて、教室の中にいた部員がせっせと次のシーンの準備に入る。
 根元は気疲れをたずさえて、小見川達の下へ近づく。

「お疲れ」

 小見川が根元に声をかける。

「なんとかなったぁ」

「究極の一夜漬けが成功したな」

 熊田はニヤニヤしながら根元の目の下を指差す。

「何でお前等今回裏方に回ったんだよ?」

「裏方も結構味あるだろ」

 小見川は薄く笑みを見せて言う。

「そうかぁ?」

「小道具作りや衣装作り、脚本、演出。奥が深いんだよ」

 熊田は小見川に同調する。

「鹿倉と冴島もセット運びに回っちゃうし、俺だけ仲間外れかよ」

「何いじけてんだよ」

「そういうんじゃねぇよ」

「後で良い子良い子してやるよ」

「おちょっくってんのかこの野郎!」

 小見川と熊田はいつものように根元をイジって笑い合う。


 小見川達は部活を終えてモノレールに乗っていた。駅を2つ通り過ぎた場所へ行くと、そこには建ち並ぶビル群が軒を連ねる眠らない街がある。流行の物がありふれている街は、若者のいこいの場でもある。

 小見川達は気分転換をしに、ゲームセンターに行こうとしていた。

「お前、何やってんの?」

 熊田は隣に座る冴島の携帯画面を覗き込む。

「ビート・クルセイド」

「お前もやってんの?」

「やってないの?」

「やってないよ。だってそれすげぇギガ食うじゃん」

「そう? 熊田が色々アプリ入れ過ぎてんじゃないの?」

「まあ……」

 急に熊田の歯切れが悪くなる。

「ちゃんと断捨離しなきゃ」

「必要だから入れてんだよ」

「ふふふっ、めんどくさいよね?」

 冴島の隣に座る湯藤さんが熊田の気持ちに同調する。

「だよなぁ」

「AIが発達すれば、そういうのも勝手にやってくれるよ」

 3人の前に立っていた小見川が近未来的な発言をする。

「AIが発達し過ぎたら、俺達ダメ人間になりそうだな」

「根元がこれ以上ダメ人間になったら終わりじゃね?」

「お前それどういう意味だよ?」

「ごめんごめんごめん! 冗談だよ!」

「んほんっ!!」

 横に立っていたおじさんがあからさまな咳払いをする。小見川達は一瞬にして静まり、小見川は小さく「すみません」と謝った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...