サイコラビリンス

國灯闇一

文字の大きさ
12 / 44
3章 汚れた青春

4dbs-干渉

しおりを挟む
 散々ゲームセンターで遊び、気の済んだ小見川達は深まった夜の街からベッドタウンへ帰ろうとしていた。

「もうちょっとでジャックポットだったな」

 冴島は落胆している。

「おかしくね!? 5番と8番のラッシュだったぞあれ。なんであの2つの台だけジャックポット出るんだよ」

「だよなぁ。ジャックポットチャンスも俺達の台よりも倍は出てるよ」

「いや! 3倍は出てたな」

 根元と冴島は競馬に負けたおじさんのたわむれを演じている。それを遠目に見ている4人は苦笑いを浮かべていた。

「湯藤さん。1つ聞いてもいいか?」

「なに?」

 小見川は少し真剣な表情で聞く。

「お腹に身ごもってる時、誰にもバレなかったのか?」

「うん。意外と、バレなかった。学校や体育も……生理があってとか、風邪気味とか言って休んだし。お腹が少し大きくなっても、直接聞けないでしょ? 赤ちゃんができたのなんて」

「確かに。冗談ぽく聞けるかもだけど、いざってなると難しいかもな」

 熊田は渋い表情をする。

「それに、思ったより大きくならなかったから、ちょっと便秘気味的な感じで言えば誤魔化せそうだったし」

「でも、ずっと休んでたらおかしいと思われるんじゃないか?」

 熊田が疑問を投げかける。

「ずっと休んでたわけじゃないよ。妊娠して5ヶ月目くらいまでは普通に学校に通ってたし」

「父親にもバレなかったのか?」

「うん。特に聞かれなかった」

「それがどうかしたの?」

 鹿倉は怪訝けげんに問う。

「いや、思い返したんだけど、もしバレるならそこからボロが出る可能性もあると思ってな」

「え?」

「もし、湯藤さんが休んだことを不審に思う人間がいたら、調べようとする人が現れてもおかしくはない」

「そうか? 考え過ぎだろ」

 熊田は楽観的に捉える。小見川は熊田の言うことも一理あると思い、それ以上は何も言わなかった。

「愛美」

 湯藤の名前を呼ぶ声。それが冴島の声でないことはすぐに分かった。小見川達の視線を集めた人はすらっとした中年男性だった。

「誰?」

 根元が小声で冴島に問う。

「愛美のお父さん」

「へ~」

 根元は率直に若そうな父親だなと思った。

「お友達?」

 爽やかに着こなしたネイビースーツ姿の湯藤の父親は、ちょっとカッコよかった。

「うん」

「愛美の父親です」

 湯藤の父親は頭を下げた。

「みんな仲良くしてくれてありがとね」

「いえ……」

「冴島君もありがとね」

「あ、はい」

 冴島は少し緊張しているように見えた。

「みんな送ろうか?」

「あ、いや。悪いんで、自分達で帰ります」

 小見川はぎこちない笑顔で答える。

「遠慮なんてしなくていいのに。ま、友達同士で帰りたい時もあるか。さすがに全員は乗せられないし」

「はい」

「気を付けてね」

「ありがとうございます」

 小見川は会釈する。

「じゃあね」

「……うん」

 冴島と湯藤は名残惜しそうに別れを告げる。カップルってこういうものなのかと、密かに興奮している鹿倉と根元、熊田。
 しかし、小見川はその様子が別れを惜しむ寂しさとは違うような気がしていた。
 2人は少し見つめ合った後、湯藤は父親と一緒に路肩に止まっているATR4のブラックの車に向かった。

「高そうな車だな」

 熊田は感嘆する。

「湯藤のお父さんって何やってんの?」

「IT企業に勤めてるって聞いたことある」

 鹿倉は根元の問いに答える。

「IT……」

 根元は湯藤の父親に羨望の眼差しを向ける。

「お金には困らないほど収入あるらしいよ」

「へ~! すげぇな」

 小見川は冴島の背中を見つめていた。小見川は自分の知らない2人の関係に、漠然とした悲しみを覚えた。

 テスト期間となり、生徒達の間で勉強への集中度が少しだけ高まる。その頃、小見川達の間で別のことが頭をつついていた。

「小見川君」

 鹿倉は学生鞄を背負って教室に入ってきた小見川に声をかける。鹿倉の後ろには根元達もいた。

「おはよう」

 少し眠そうな小見川は挨拶をする。

「ちょっといいか?」

「ん?」

「他の場所で話そう」

 熊田は周りを気にしながらそう言った。小見川は険しい表情になる。


 小見川達は誰もいない特別教室の前の廊下に移動した。

「これ見て」

 小見川は鹿倉に携帯画面を見せられる。ネットの動画配信サービスで投稿された動画だった。
 空に立ち昇る灰色の煙。その煙は山の中にある古めかしい廃墟の中から出ていた。動画を撮っている場所は山の見える遥か遠くからだと推察できた。

「まずくない?」

 鹿倉は不安げに聞く。

「大丈夫だよ。再生回数も1000くらいじゃないか。誰も気にしてないよ」

「そうかな?」

「あそこに残っているもので、俺達に辿りつけるものは何1つない。気にし過ぎだ」

「そっか……。そうだよね。ちょっと不安になって」

 鹿倉は安堵の笑みを見せる。

「さ、戻ろう」

 小見川達は教室に戻り始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...