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4章 獣の共鳴
6dbs-細い糸を手繰り寄せる
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歩いて10分。女子高生と男はカレー専門店に入った。貝塚と増古は向かいにあるビルの中に入り、階段を上る。階段の踊り場にある大きな窓からカレー専門店の出入り口が見えるのを確認し、背を向けて留まる。
「寒さは凌げるな」
貝塚はポケットからカイロを出して手を温める。
「今日は冷え込むらしいですよ」
「温もりも欲しくなるわな」
階段を下りてくる派手な洋服を身に纏った女性達に白い目を向けられる。貝塚と増古は同時に窓へ視線を移した。ヒールの音が遠ざかる。
「ここキャバあんの?」
「知らなかったんですか?」
「何でお前知ってんだよ?」
「さっき看板見ましたし」
「今度行ってみるか。お前も行く?」
「いえ、遠慮しておきます」
「あっそ」
30分ほど経つと、2人が店から出てきた。貝塚と増古も移動を開始した。待ちくたびれた貝塚と増古は、気を引き締めて尾行する。
それは5分も経たないうちに終わった。近場にあったラブホテルに2人は入っていった。
「5分経ったら行こうか」
「はい」
2人が受付を済ませる頃合いを推測し、店の前で時間を潰す。
時計をチラチラ見ていた増古は5分が経過したことを告げて、2人は入店する。
「いらっしゃい……ませ」
受付にいた店員は2人を見て絶句した。
「違うから」
貝塚は真顔で店員の勘違いを正す。
「警察です」
貝塚は警察手帳を見せた。
「さっき受付をしたお客さんの部屋番号は?」
貝塚は素っ気なく質問する。
「何なんですか突然」
店員は困惑する。
「先ほどのカップルの女性は未成年です。児童買春の恐れがあるので、協力して下さい」
「そんなこと言われてもねぇ~」
店員は不審げな目を貝塚と増古に向ける。
「さっきの本物ですかぁ? 他のラブホで警察だって名乗って部屋に押し入った男がいたって聞くんだよねぇ。わざわざ警察手帳まで用意して。んで、警察だって名乗った男は実は浮気された彼氏でさ、店員にマスターキーで部屋を開けてもらって、浮気してる現場に乗り込んで浮気相手をボコボコ。収集つかなくなって本物の警察呼んで一応収まったけど、その後の部屋の清掃はもう大変だったってさ。俺はそんな面倒事に巻き込まれたくないんだよねぇ~」
貝塚は腰に手を持っていくと、いきなり銃を出して店員の顔に突きつけた。
「これで本物だって分かった?」
虚ろな目で店員を脅す。店員は軽く両手を挙げて体を強張らせる。
「分かった、分かったから……」
店員は急いでカウンターの下に身を屈めてゴソゴソする。貝塚は銃をしまい、カウンターの中に入って店員の側に近寄る。
店員はマスターキーを見つけてカウンターを出ようとしたが、貝塚に腕を掴まれ、怯えた表情で静止する。貝塚は店員の手にあるマスターキーにゆっくり手を伸ばし、掴んだ。
「あんたはここで仕事してていいよ。鍵は後で返すから」
貝塚は怪奇さを思わせる表情でそう囁いて、マスターキーを取りカウンターを出る。
「怖がらせて申し訳ありません」
増古はそう言い残し、貝塚の後を追った。
「イカレてるよ。あいつ……」
店員は声を漏らして震えた。
会社員の男は青少年健全育成条例違反の疑いで逮捕となった。決定的だったのは、お金を渡した所が小型カメラに撮影されていたことだった。
協力者の女子高生には貝塚のポケットマネーから謝礼金を渡して、「これ以上協力は要請しない。二度と援交なんてやるな」と念を押して別れた。
この件が世間に明るみとなったことで、会社員の男が勤めていたベンチャー企業は謝罪に追われた。
そして、貝塚と増古は厳しい表情の課長に呼び出されていた。
「ラブホテル【カルメン】から苦情が入った。刑事にいきなり銃口を向けられたってな」
本田課長は立ち上がり、デスクの前に立ち尽くす貝塚と増古の周りをゆっくり歩き出す。
「誰がやったのか……。聞く必要はないよな? 貝塚」
「申し訳ありません」
「お前が捜査一課のエースで、警視総監のお気に入りじゃなきゃ、すぐクビだぞ」
課長は深いため息をつき、2人の斜め前で向き直る。
「2人とも金森氏宅強盗殺人事件からは外れてもらう。貝塚は1ヶ月の自宅謹慎だ。異論はないな?」
「はい」
「はい……」
「下がっていいよ」
「失礼します」
2人は会釈して、自分達のデスクに戻る。
「どうします?」
「聞くわけねぇだろ」
「でも、手に入れましたね。糸口を」
「ああ、明日にでも行ってみよう」
「はい」
会社員の男は複数の女子高生達と買春を行っていた。彼女達に、知り合いが妊娠したと耳にしたことはないか聞いた。
稀に大学生が妊娠したという微笑ましい話くらいしか聞けなかった。ただ、1つだけ気になることがあった。
6月か7月くらいと、ある女子高生は言っていた。石滝公園の公衆トイレで赤ちゃんの泣き声を聞いたという。最初はお母さんがおむつを替えているところで赤ちゃんが泣き出してしまったのだと思ったそうだ。
だが、赤ちゃんの泣き声は男子トイレから聞こえてきたのだ。シングルファーザーならあり得る話だ。
ただ赤ちゃんの声はどこかか細く、元気がないような声色だったそうだ。不思議に思ったが、警察には通報することはなかった。
貝塚と増古はその証言に賭けることにした。
「寒さは凌げるな」
貝塚はポケットからカイロを出して手を温める。
「今日は冷え込むらしいですよ」
「温もりも欲しくなるわな」
階段を下りてくる派手な洋服を身に纏った女性達に白い目を向けられる。貝塚と増古は同時に窓へ視線を移した。ヒールの音が遠ざかる。
「ここキャバあんの?」
「知らなかったんですか?」
「何でお前知ってんだよ?」
「さっき看板見ましたし」
「今度行ってみるか。お前も行く?」
「いえ、遠慮しておきます」
「あっそ」
30分ほど経つと、2人が店から出てきた。貝塚と増古も移動を開始した。待ちくたびれた貝塚と増古は、気を引き締めて尾行する。
それは5分も経たないうちに終わった。近場にあったラブホテルに2人は入っていった。
「5分経ったら行こうか」
「はい」
2人が受付を済ませる頃合いを推測し、店の前で時間を潰す。
時計をチラチラ見ていた増古は5分が経過したことを告げて、2人は入店する。
「いらっしゃい……ませ」
受付にいた店員は2人を見て絶句した。
「違うから」
貝塚は真顔で店員の勘違いを正す。
「警察です」
貝塚は警察手帳を見せた。
「さっき受付をしたお客さんの部屋番号は?」
貝塚は素っ気なく質問する。
「何なんですか突然」
店員は困惑する。
「先ほどのカップルの女性は未成年です。児童買春の恐れがあるので、協力して下さい」
「そんなこと言われてもねぇ~」
店員は不審げな目を貝塚と増古に向ける。
「さっきの本物ですかぁ? 他のラブホで警察だって名乗って部屋に押し入った男がいたって聞くんだよねぇ。わざわざ警察手帳まで用意して。んで、警察だって名乗った男は実は浮気された彼氏でさ、店員にマスターキーで部屋を開けてもらって、浮気してる現場に乗り込んで浮気相手をボコボコ。収集つかなくなって本物の警察呼んで一応収まったけど、その後の部屋の清掃はもう大変だったってさ。俺はそんな面倒事に巻き込まれたくないんだよねぇ~」
貝塚は腰に手を持っていくと、いきなり銃を出して店員の顔に突きつけた。
「これで本物だって分かった?」
虚ろな目で店員を脅す。店員は軽く両手を挙げて体を強張らせる。
「分かった、分かったから……」
店員は急いでカウンターの下に身を屈めてゴソゴソする。貝塚は銃をしまい、カウンターの中に入って店員の側に近寄る。
店員はマスターキーを見つけてカウンターを出ようとしたが、貝塚に腕を掴まれ、怯えた表情で静止する。貝塚は店員の手にあるマスターキーにゆっくり手を伸ばし、掴んだ。
「あんたはここで仕事してていいよ。鍵は後で返すから」
貝塚は怪奇さを思わせる表情でそう囁いて、マスターキーを取りカウンターを出る。
「怖がらせて申し訳ありません」
増古はそう言い残し、貝塚の後を追った。
「イカレてるよ。あいつ……」
店員は声を漏らして震えた。
会社員の男は青少年健全育成条例違反の疑いで逮捕となった。決定的だったのは、お金を渡した所が小型カメラに撮影されていたことだった。
協力者の女子高生には貝塚のポケットマネーから謝礼金を渡して、「これ以上協力は要請しない。二度と援交なんてやるな」と念を押して別れた。
この件が世間に明るみとなったことで、会社員の男が勤めていたベンチャー企業は謝罪に追われた。
そして、貝塚と増古は厳しい表情の課長に呼び出されていた。
「ラブホテル【カルメン】から苦情が入った。刑事にいきなり銃口を向けられたってな」
本田課長は立ち上がり、デスクの前に立ち尽くす貝塚と増古の周りをゆっくり歩き出す。
「誰がやったのか……。聞く必要はないよな? 貝塚」
「申し訳ありません」
「お前が捜査一課のエースで、警視総監のお気に入りじゃなきゃ、すぐクビだぞ」
課長は深いため息をつき、2人の斜め前で向き直る。
「2人とも金森氏宅強盗殺人事件からは外れてもらう。貝塚は1ヶ月の自宅謹慎だ。異論はないな?」
「はい」
「はい……」
「下がっていいよ」
「失礼します」
2人は会釈して、自分達のデスクに戻る。
「どうします?」
「聞くわけねぇだろ」
「でも、手に入れましたね。糸口を」
「ああ、明日にでも行ってみよう」
「はい」
会社員の男は複数の女子高生達と買春を行っていた。彼女達に、知り合いが妊娠したと耳にしたことはないか聞いた。
稀に大学生が妊娠したという微笑ましい話くらいしか聞けなかった。ただ、1つだけ気になることがあった。
6月か7月くらいと、ある女子高生は言っていた。石滝公園の公衆トイレで赤ちゃんの泣き声を聞いたという。最初はお母さんがおむつを替えているところで赤ちゃんが泣き出してしまったのだと思ったそうだ。
だが、赤ちゃんの泣き声は男子トイレから聞こえてきたのだ。シングルファーザーならあり得る話だ。
ただ赤ちゃんの声はどこかか細く、元気がないような声色だったそうだ。不思議に思ったが、警察には通報することはなかった。
貝塚と増古はその証言に賭けることにした。
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