サイコラビリンス

國灯闇一

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4章 獣の共鳴

7dbs-boss

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 曇天は雪を降らし、東京の地に1センチの積雪を観測。いつもランナーが走る公園は閑散かんさんとしていた。石滝公園の公衆トイレの出入り口は『清掃中』のパネルが置かれ、封鎖されている。
 公衆トイレの中に3人の男がいる。貝塚と増古、そして……。

「寒いんですけど」

 眼鏡をかけた長谷川はブルブルと体を震わせて愚痴を零す。

「じゃあさっさと調べてくれ」

「人使い荒いですよ貝塚さん」

 パーマをかけた髪をかき上げる長谷川は白い手袋をつけて、1つ1つの個室トイレを調べていた。

「ここで本当に産んだんでしょうか? あまりにもリスクが高すぎますよ」

 増古はトイレを見回しながら感想を漏らす。音が反響しやすく、石滝公園の利用者は少なくない。そこから考えても、コソコソ出産する場所としては適していない。そう判断するのは容易かった。

「そうだな。もしかしたら、妊娠から出産までは無計画だったのかもしれんな」

「途中から計画を立てた?」

「そう。協力者が加入したとかな」

 貝塚は洗面台にもたれる。

「協力者。証拠隠滅の?」

「ああ。これがもし、乳児殺人及び遺棄事件だとしたら、ダンジョンのボスがいるんだろうな」

「ダンジョン?」

「迷宮のボス」

 貝塚はほくそ笑んで、長谷川の様子をうかがいに行く。
 個室トイレの中は旧式の便器だった。便器は綺麗に磨かれているが、タイルにはしつこい黒い汚れがついている。公衆トイレ独特の匂いに鼻を緊張させる。

「ワイフ」

「その呼び方やめて下さいよ~」

 長谷川は口を尖らせる。

「そこのレバーとタイルも調べろ」

「それ最初に言ってくれません?」

「これ終わったらおでんおごってやる」

「マジっすか!? おっしゃ」

 貝塚はこいつちょろいなと思い、ニヤつく。

 後日、石滝公園の公衆トイレで採取した微粒物質を検査した結果――――。

 本田課長は眉間にしわを寄せて科捜研からの書類に目を通し終え、前に立つ増古と貝塚を睨む。課長は書類をデスクに放って、椅子の背にもたれかかった。

「やってくれたな」

「捜査してもよろしいですか?」

 課長は渋い顔になる。

「分かった以上やらざるを得ない。貝塚、お前は必ずこの事件を解決しろ」

「お任せ下さい」

 貝塚は薄く笑みを浮かべて言った。
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