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6章 一滴の酔魔《すいま》
4dbs-第三者の作為
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乳児遺棄事件はいきなり加速した事件解明の糸口もあって、連日ニュースで取り上げられている。
小見川達はカラオケ店に集まっていた。小見川達には未だに動揺が色濃く残っていた。ジブラ柄の壁が取り囲む部屋の中、何も歌うことなく、テーブルに並ぶジュースと軽食をつまんでいた。
「あいつ誰だよ?」
熊田の問いに、誰もが首を横に振った。
「誰も知り合いじゃないのか?」
小見川はみんなに尋ねる。
「俺はてっきりお前がやったと思ってた」
根元は靴を脱いで、ソファーの上であぐらをかいている。
「知ってるわけないだろ。大体、遺体の隠し場所を見ず知らずの他人に教えるわけがない」
「まあ、そうだよな」
「なんなんだよあいつ……」
少し苛立ちを見せて、冷たいメロンフロートを飲む根元。
「この状況、やっぱりまずいよね?」
鹿倉は小見川の顔を見ながら不安そうに尋ねる。
「ああ、あの秋澤とかいう男がなんのために犯人として名乗り出たのか分らない以上、油断できない」
「俺達の敵は警察だけじゃねぇってことかよ……」
熊田は頭を掻き毟る。
「そうとも限らないんじゃないか?」
冴島が唐突に疑問を投げかける。
「え?」
「俺達にとって、遺体を警察に発見されることはマイナスだけど、あの男を警察に行くよう仕向けた奴は、もしかしたら俺達の味方かもしれない」
「どういうことだよ?」
根元は前のめりになって詳しく聞こうとする。
「報道や世間の見方は今、犯人は園田とかいう大学生と交際相手の邦江に向けられている。そうなれば、俺達は犯人候補から消える」
「犯人役を用意することで、警察の目を欺いている?」
熊田の投げかけにゆっくり頷く冴島。
「もし、裏で俺達を助けようとしている人間がいるとしたら、俺達にとっては好都合だ。でも……問題がある」
代わって小見川が話し出す。
「もし敵だった場合、俺達の遺体処理と遺棄場所を知っている人間が少なくとも2人以上いて、全て筒抜けだった可能性がある。それを証言されたら、確実に警察の目が俺達へ向けられる」
「じゃあそいつを止めねぇと……」
「こっちが動いたら逆に危ない。警察の陽動にも警戒する必要がある」
小見川は根元の意見に渋る。
「陽動?」
「今回の会見を忘れたのか? この事件の捜査を担当している刑事の中に、キチガイの刑事がいる。俺達を精神的に追い詰めようとする狡猾な刑事。たぶん、あの貝塚とかいう刑事だ」
「誰だっけ?」
「ほら、あの面白いおじさん」
鹿倉が根元に大雑把な特徴を教える。
「あぁ、あのしわしわスーツ着てたのおじさんか。え? あのおじさんが最大の敵!?」
「おそらく」
「そうか? 大した刑事には見えなかったけど」
根元は疑問を呈する。
「冴島への尋問は一見なんてことない普通の会話だったし、俺の用意した台本通りに言わせてるから問題ないと思う。けど、プロの刑事にどこまで通用するか分らない。俺が気づいてない矛盾点をついている可能性だってある」
「マジかよ……」
根元は落胆し、眉間にしわを寄せる。
「仮に秋澤を操ってる奴が味方だったとしても、奴がどういう方法を取るか分からない以上、ぶっちゃけ足手まといにしかなってない」
小見川は疲労の色を隠さず、ソファーの背にもたれる。
「遺体のDNA型で、犯人候補である冴島と湯藤さんのDNAで親子鑑定をされたら、俺達は犯人確定。ゲームオーバーだ」
グラスの中の氷が音を立て、静かなカラオケボックスに悲しげな空気を作り出す。
「これからどうする?」
熊田は小さな声で問いかけた。
「一番話すべきことはそれだ。こうなった以上、対策を考えないといけない。秋澤の操縦者との接触はしないが、そいつが誰かを突きとめる必要はある」
「突きとめてどうするんだよ?」
「味方なら利用する。敵なら殺す」
小見川は神妙な表情で言った。
「マジで言ってんのかよ?」
熊田はさすがに困惑していた。
「そうするしかない。そうなったら、俺が殺る」
「その時は、俺も手伝わせてよ」
冴島が切なく目で訴えた。
「ああ、頼む。それと、こうなった以上逮捕されてからの確認が必要だ。もし逮捕されたら、口裏を合わせられないように、別個で取り調べが行われると思う。顔も合わさないようになるはずだ」
4人は顔を見合わせ、悲しい表情で目線を落とす。
「いいか。6月24日のこと、冴島は2人の刑事に話したことを話せ」
「分かった」
冴島は大きく頷く。他の3人も首肯する。
「さあ、景気づけに歌おうぜ」
小見川はそう言って、曲を検索できるデンモクやマイクを小さなカゴの中から取り出して促す。
「そうだな」
「最初誰歌う?」
「採点機能はつけようか?」
5人は無理やり元気よく振る舞い、今しかできない自由な生活を思う存分楽しもうとしているようだった。
小見川達はカラオケ店に集まっていた。小見川達には未だに動揺が色濃く残っていた。ジブラ柄の壁が取り囲む部屋の中、何も歌うことなく、テーブルに並ぶジュースと軽食をつまんでいた。
「あいつ誰だよ?」
熊田の問いに、誰もが首を横に振った。
「誰も知り合いじゃないのか?」
小見川はみんなに尋ねる。
「俺はてっきりお前がやったと思ってた」
根元は靴を脱いで、ソファーの上であぐらをかいている。
「知ってるわけないだろ。大体、遺体の隠し場所を見ず知らずの他人に教えるわけがない」
「まあ、そうだよな」
「なんなんだよあいつ……」
少し苛立ちを見せて、冷たいメロンフロートを飲む根元。
「この状況、やっぱりまずいよね?」
鹿倉は小見川の顔を見ながら不安そうに尋ねる。
「ああ、あの秋澤とかいう男がなんのために犯人として名乗り出たのか分らない以上、油断できない」
「俺達の敵は警察だけじゃねぇってことかよ……」
熊田は頭を掻き毟る。
「そうとも限らないんじゃないか?」
冴島が唐突に疑問を投げかける。
「え?」
「俺達にとって、遺体を警察に発見されることはマイナスだけど、あの男を警察に行くよう仕向けた奴は、もしかしたら俺達の味方かもしれない」
「どういうことだよ?」
根元は前のめりになって詳しく聞こうとする。
「報道や世間の見方は今、犯人は園田とかいう大学生と交際相手の邦江に向けられている。そうなれば、俺達は犯人候補から消える」
「犯人役を用意することで、警察の目を欺いている?」
熊田の投げかけにゆっくり頷く冴島。
「もし、裏で俺達を助けようとしている人間がいるとしたら、俺達にとっては好都合だ。でも……問題がある」
代わって小見川が話し出す。
「もし敵だった場合、俺達の遺体処理と遺棄場所を知っている人間が少なくとも2人以上いて、全て筒抜けだった可能性がある。それを証言されたら、確実に警察の目が俺達へ向けられる」
「じゃあそいつを止めねぇと……」
「こっちが動いたら逆に危ない。警察の陽動にも警戒する必要がある」
小見川は根元の意見に渋る。
「陽動?」
「今回の会見を忘れたのか? この事件の捜査を担当している刑事の中に、キチガイの刑事がいる。俺達を精神的に追い詰めようとする狡猾な刑事。たぶん、あの貝塚とかいう刑事だ」
「誰だっけ?」
「ほら、あの面白いおじさん」
鹿倉が根元に大雑把な特徴を教える。
「あぁ、あのしわしわスーツ着てたのおじさんか。え? あのおじさんが最大の敵!?」
「おそらく」
「そうか? 大した刑事には見えなかったけど」
根元は疑問を呈する。
「冴島への尋問は一見なんてことない普通の会話だったし、俺の用意した台本通りに言わせてるから問題ないと思う。けど、プロの刑事にどこまで通用するか分らない。俺が気づいてない矛盾点をついている可能性だってある」
「マジかよ……」
根元は落胆し、眉間にしわを寄せる。
「仮に秋澤を操ってる奴が味方だったとしても、奴がどういう方法を取るか分からない以上、ぶっちゃけ足手まといにしかなってない」
小見川は疲労の色を隠さず、ソファーの背にもたれる。
「遺体のDNA型で、犯人候補である冴島と湯藤さんのDNAで親子鑑定をされたら、俺達は犯人確定。ゲームオーバーだ」
グラスの中の氷が音を立て、静かなカラオケボックスに悲しげな空気を作り出す。
「これからどうする?」
熊田は小さな声で問いかけた。
「一番話すべきことはそれだ。こうなった以上、対策を考えないといけない。秋澤の操縦者との接触はしないが、そいつが誰かを突きとめる必要はある」
「突きとめてどうするんだよ?」
「味方なら利用する。敵なら殺す」
小見川は神妙な表情で言った。
「マジで言ってんのかよ?」
熊田はさすがに困惑していた。
「そうするしかない。そうなったら、俺が殺る」
「その時は、俺も手伝わせてよ」
冴島が切なく目で訴えた。
「ああ、頼む。それと、こうなった以上逮捕されてからの確認が必要だ。もし逮捕されたら、口裏を合わせられないように、別個で取り調べが行われると思う。顔も合わさないようになるはずだ」
4人は顔を見合わせ、悲しい表情で目線を落とす。
「いいか。6月24日のこと、冴島は2人の刑事に話したことを話せ」
「分かった」
冴島は大きく頷く。他の3人も首肯する。
「さあ、景気づけに歌おうぜ」
小見川はそう言って、曲を検索できるデンモクやマイクを小さなカゴの中から取り出して促す。
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