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Q37話 自己嫌悪と無力感がループしてエラーを吐き出す
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今日、僕はどんな授業を受けただろうか。
ぼんやりと浮かぶ内容はあるが、漠然としている。
何をすればいいだろうか……。
何度目かの問いがベッドに横たわる。
明日、学校がないのは救いだったかもしれない。
こんなに沈んだ気分はいつぶりだろうか……。
ほこりをかぶったセピア色の記憶が掠れた音を立ている。
病弱の母を救えなかった。小学生には荷が重すぎたんだ。
あの頃の僕はミネルヴァさえあれば、なんでもできると思っていた。
ミネルヴァと共に、世界を股に駆けることができる。
どこにでも行けるし、なんにでもなれる。そう信じていた。
だから、僕は母さんの病気だって治せるって信じていた。でも、父親も医者も看護師も、みんな暗い表情で僕を見下ろしてばかりで。必死に訴える僕があまりに哀れで、苦しそうだった。
何か声をかけられた気がするが、どんな言葉だったかは覚えていない。優しくて、哀しい気持ちになったと思う。
母さんは病院のベッドで死を待つことしかできなかった。
あの時からだ。
僕はミネルヴァに失望した。
嫌悪した。憎悪した。僕の大切な人を奪った。
父さんを悲しませた。苦しませた。
僕の家族を壊した。
ミネルヴァと僕自身を信じられなくなった。
僕は、ひとりになった……。
ある朝、父さんは消えていた。
どこへ行ったかもわからない。
捜索はされたらしいが、すぐに打ち切られたと思う。
それから、僕は小学4年まで叔父さんの家で過ごした。
叔父さんと叔母さんは、失意に暮れていた僕を大きな力で包んでくれた。
辛抱強く、僕を見守ってくれた。
しばらく叔父さんの手伝いをして、日々を過ごした。
叔父さんと叔母さんがすごく優しいから、逆に辛かったんだ。
ひどい言葉を言ったこともあった。
なのに、僕を責めもしなかった。
ただ、「俺や母さんを悪く言うのは構わない。だけど、他の人には絶対言わないでくれ。頼む」と言って、僕に頭を下げたんだ。そんな叔父さんと顔を合わせるのが嫌で、僕は無理を言って一人暮らしを始めた。
優しい叔父さんや叔母さんにひどいことを言ってきた僕は、誰かに頼っちゃダメだ。大嫌いなミネルヴァとだけ、いるべきだ。そう自分に言い聞かせていた時期もあった。
結局、僕の一人暮らしは知らないことが多くて、いろんな人に迷惑をかけながら成立していた。
意地になっていた僕の意思を尊重してくれた叔父さんと叔母さんには、感謝しかなかった。
あの時の気持ちと似ているかもしれない。
無力感に打ちのめされた日々。食事を取る元気も消えて、動くことすら億劫だった。
部屋の中でなんらかの動きがセンサーに感知されない時間がある程度続くと、部屋の明かりが抑えられる。僕の意識はちょっとずつ、深いところへ潜っていった。
Z
僕が学校に再登校したのは、5日経ってからのことだった。
ローカルメディアで小さなニュースにもなった。
警察が動くみたいだ。
学校も対応を決めた。
栄美中学校校門前で慈善活動部が率先して行っている募金活動は中止。
中宮凪子の聞き取り調査が終わり次第、栄美高校入学見込みとなっている中宮の処遇の見直しについて、各関係機関から意見を伺い、教育委員会において協議される。
中宮の治療資金調達のための動画配信活動は、中宮の出演を禁止。
僕が出演し、投稿するのは構わないそうだが、控えた方がいいだろうと先生から助言があった。
慈善活動部の愛崎さんには、今度全部取りに行くと連絡を入れた。
愛崎さんはこれ以上力になれなくて残念そうだったが、慈善活動部は十分やってくれた。部活の一環とはいえ、僕は彼女らに厚意に甘えていたのかもしれない。ここまでやってくれて感謝してるとメッセージを送った。
会長とのチャットルームの横に受信の数が表示されている。
チャットルームを開くと、『僕たち生徒会もこれからの対応を考えよう。中宮さんの治療資金調達の方法は他にもあるさ。君だけでどうにかしようと思わなくていい。何かあったら、必ず生徒会に相談するんだよ。いいね?』とメッセージが寄せられていた。
会長に感謝のメッセージを返し、チャットを閉じようとした。
「よ!」
横から、ぬっと僕の視界に入ってきた人物に驚く。
「びっくりした」
奏絵は机の横でしゃがみ、僕の机を占領し出した。自分の腕をクッションにして顔を載せる。自然と見上げる形になり、上目遣いの奏絵が僕を見つめた。
「帰んないの?」
時刻は15時48分。本日の授業が終了し、放課後へ突入していた。
今、教室に残っている生徒は、たいていミネルヴァより助言された学習を履行しているか、時間を持て余してとりあえず残っているかのどちらかだ。
いろんな理由で数日休んでいた生徒は、授業についていけなくなることがある。授業進度と自分の理解度に差ができてしまうとついていけないため、ミネルヴァに勉強を見てもらいながら自習する。成績によっては留年もあり得るからみんな必死だ。
「奏絵こそ、部活に行かなくていいのか?」
「あたしは今日休みをもらってるからいいの」
「何か用か?」
「ん、まあちょっとね。亮士君はこのまま帰るの?」
「そうだな。あ、冷蔵庫の中、空だったから買い出しにいかないと」
「ふーん」
奏絵はニヤニヤし出した。
悪い顔をしていらっしゃる。
「そんじゃ、だいたい暇ってことだよね」
「いや、買い出しが……」
奏絵は僕の言葉を無視して立ち上がる。
「ちょっとあたしに付き合って」
「なに」
「はい。鞄持って立つ!」
奏絵は強引に鞄を持たせ、腕を引っ張られる。
「ちょっ、こけるって!」
「んじゃ、ちゃんと動いて。行くよー」
奏絵も鞄を取ってくると、首根っこをつかまれた子猫みたいに僕を連れていくのだった。
ぼんやりと浮かぶ内容はあるが、漠然としている。
何をすればいいだろうか……。
何度目かの問いがベッドに横たわる。
明日、学校がないのは救いだったかもしれない。
こんなに沈んだ気分はいつぶりだろうか……。
ほこりをかぶったセピア色の記憶が掠れた音を立ている。
病弱の母を救えなかった。小学生には荷が重すぎたんだ。
あの頃の僕はミネルヴァさえあれば、なんでもできると思っていた。
ミネルヴァと共に、世界を股に駆けることができる。
どこにでも行けるし、なんにでもなれる。そう信じていた。
だから、僕は母さんの病気だって治せるって信じていた。でも、父親も医者も看護師も、みんな暗い表情で僕を見下ろしてばかりで。必死に訴える僕があまりに哀れで、苦しそうだった。
何か声をかけられた気がするが、どんな言葉だったかは覚えていない。優しくて、哀しい気持ちになったと思う。
母さんは病院のベッドで死を待つことしかできなかった。
あの時からだ。
僕はミネルヴァに失望した。
嫌悪した。憎悪した。僕の大切な人を奪った。
父さんを悲しませた。苦しませた。
僕の家族を壊した。
ミネルヴァと僕自身を信じられなくなった。
僕は、ひとりになった……。
ある朝、父さんは消えていた。
どこへ行ったかもわからない。
捜索はされたらしいが、すぐに打ち切られたと思う。
それから、僕は小学4年まで叔父さんの家で過ごした。
叔父さんと叔母さんは、失意に暮れていた僕を大きな力で包んでくれた。
辛抱強く、僕を見守ってくれた。
しばらく叔父さんの手伝いをして、日々を過ごした。
叔父さんと叔母さんがすごく優しいから、逆に辛かったんだ。
ひどい言葉を言ったこともあった。
なのに、僕を責めもしなかった。
ただ、「俺や母さんを悪く言うのは構わない。だけど、他の人には絶対言わないでくれ。頼む」と言って、僕に頭を下げたんだ。そんな叔父さんと顔を合わせるのが嫌で、僕は無理を言って一人暮らしを始めた。
優しい叔父さんや叔母さんにひどいことを言ってきた僕は、誰かに頼っちゃダメだ。大嫌いなミネルヴァとだけ、いるべきだ。そう自分に言い聞かせていた時期もあった。
結局、僕の一人暮らしは知らないことが多くて、いろんな人に迷惑をかけながら成立していた。
意地になっていた僕の意思を尊重してくれた叔父さんと叔母さんには、感謝しかなかった。
あの時の気持ちと似ているかもしれない。
無力感に打ちのめされた日々。食事を取る元気も消えて、動くことすら億劫だった。
部屋の中でなんらかの動きがセンサーに感知されない時間がある程度続くと、部屋の明かりが抑えられる。僕の意識はちょっとずつ、深いところへ潜っていった。
Z
僕が学校に再登校したのは、5日経ってからのことだった。
ローカルメディアで小さなニュースにもなった。
警察が動くみたいだ。
学校も対応を決めた。
栄美中学校校門前で慈善活動部が率先して行っている募金活動は中止。
中宮凪子の聞き取り調査が終わり次第、栄美高校入学見込みとなっている中宮の処遇の見直しについて、各関係機関から意見を伺い、教育委員会において協議される。
中宮の治療資金調達のための動画配信活動は、中宮の出演を禁止。
僕が出演し、投稿するのは構わないそうだが、控えた方がいいだろうと先生から助言があった。
慈善活動部の愛崎さんには、今度全部取りに行くと連絡を入れた。
愛崎さんはこれ以上力になれなくて残念そうだったが、慈善活動部は十分やってくれた。部活の一環とはいえ、僕は彼女らに厚意に甘えていたのかもしれない。ここまでやってくれて感謝してるとメッセージを送った。
会長とのチャットルームの横に受信の数が表示されている。
チャットルームを開くと、『僕たち生徒会もこれからの対応を考えよう。中宮さんの治療資金調達の方法は他にもあるさ。君だけでどうにかしようと思わなくていい。何かあったら、必ず生徒会に相談するんだよ。いいね?』とメッセージが寄せられていた。
会長に感謝のメッセージを返し、チャットを閉じようとした。
「よ!」
横から、ぬっと僕の視界に入ってきた人物に驚く。
「びっくりした」
奏絵は机の横でしゃがみ、僕の机を占領し出した。自分の腕をクッションにして顔を載せる。自然と見上げる形になり、上目遣いの奏絵が僕を見つめた。
「帰んないの?」
時刻は15時48分。本日の授業が終了し、放課後へ突入していた。
今、教室に残っている生徒は、たいていミネルヴァより助言された学習を履行しているか、時間を持て余してとりあえず残っているかのどちらかだ。
いろんな理由で数日休んでいた生徒は、授業についていけなくなることがある。授業進度と自分の理解度に差ができてしまうとついていけないため、ミネルヴァに勉強を見てもらいながら自習する。成績によっては留年もあり得るからみんな必死だ。
「奏絵こそ、部活に行かなくていいのか?」
「あたしは今日休みをもらってるからいいの」
「何か用か?」
「ん、まあちょっとね。亮士君はこのまま帰るの?」
「そうだな。あ、冷蔵庫の中、空だったから買い出しにいかないと」
「ふーん」
奏絵はニヤニヤし出した。
悪い顔をしていらっしゃる。
「そんじゃ、だいたい暇ってことだよね」
「いや、買い出しが……」
奏絵は僕の言葉を無視して立ち上がる。
「ちょっとあたしに付き合って」
「なに」
「はい。鞄持って立つ!」
奏絵は強引に鞄を持たせ、腕を引っ張られる。
「ちょっ、こけるって!」
「んじゃ、ちゃんと動いて。行くよー」
奏絵も鞄を取ってくると、首根っこをつかまれた子猫みたいに僕を連れていくのだった。
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