透き通るほど青い人々よ

國灯闇一

文字の大きさ
42 / 42

Q42話 透き通るほど青い僕らが描いた未来

しおりを挟む
 僕は自身のチャンネルで重大報告と題し、動画を公開した。
 ルミナスの板巳一禅社長から1500万円の募金があったこと。
 板巳社長との対談動画を出すこと。
 有名な社長が出演したこともあり、ネットでも注目された。
 
 知名度の高い社長が出演したことは予想以上に反響が大きかった。
 これまでの視聴回数とは桁違いだった。比例して、募金も増えていった。
 また、誹謗中傷に関わる相談を引き受けると言ってくれた弁護士さんもいた。費用を工面すると名乗り出る人も。応援メッセージを寄せるためのタグまで現れ、様々なメディアに注目された。
 
 それは海外にまで及び、11月11日。日付が変わろうとする時間だった。
 待ちわびた数字、4600万円の目標金額を超えた。
 それと同時に、お祝いのコメントが殺到した。
 僕は部屋の中でひとり叫びそうになった。
 ベッドに転がり、枕に顔をうずめた。
 何度もくじけそうになった。途方もない夢だった。
 いろいろな感情が駆け巡っている間に、僕はそのまま寝てしまった。

 
 目標達成の後処理をこなしていた。
 集めたすべてのお金を中宮のご両親に送金する手続きを終え、視聴者に目標達成したことを報告する動画を撮り、サイトに上げた。
 その後は糸が切れたように放心することが増えた。
 腑抜けているせいで、卵を無駄に割ってしまった。
 夢みたいな時間を置いて、日々が過ぎていく。
 
 一段と寒さがきつくなってきて、そろそろもう1枚中に服を着ようか悩み出していた頃、会長から新しいメッセージが届いた。『急で申し訳ないんだが、明日、学校に来てほしい』とのことだった。
 明日は学校が休みだった。特に予定もなかったので承諾した。


           Z


 学生の本分を全うし、宿題を終わらせて学校へ向かった。
 服はどうしようか悩んだが、制服を着ていった。
 
 電車を乗り、駅に着いて学校へ向かう。
 空が鮮やかに紅く染まり、たなびく雲がほんのりと染まっていた。
 校門が見えてくると、校門に複数の生徒が集まっていた。
 
 あれは、慈善活動部の部員じゃないか?
 僕を見つけるなり、部員が手を振り始めた。
 手作りであろう看板には『平井亮士様はこちらへ』と書かれていた。
 通りすがりの人が珍しそうに見ている。
 どうやら変な目立ち方をしている慈善活動部のところへ向かわなければならないらしい。僕は足早に校門へ向かう。

「ごきげんよう。先輩」
 愛崎さんは嬉々とした声色で迎えた。
「なにそれ。恥ずかしいからやめてくれないか」
「見えやすいように作りましたの。さあ、こちらへ」
 愛崎さんがついてこいと言うので従う。
 
 栄美中学・高校の敷地に入ると、真っすぐ伸びる道がある。その通りの一部が普段とは様子が違った。道路の脇に人が集まっている。いや、並んでいるといった方がいいだろうか。何人もの人が列をしていた。両脇に1列ずつ、互いの列の人と向かい合う形になっていた。そして、僕が来るや否や、拍手と歓声が湧き起こった。
 僕らは優勝パレードみたくなっている道を通っていく。
 おめでとうの声を受けながら第二グラウンドに案内された。そこにもたくさんの人がいて、僕がグラウンドへ来ると、拍手で迎えられた。
 
「やあ、来たね」
 会長が微笑んで待ち受けていた。
「これ、なんなんですか?」
 含みのある笑みを見せて、
「お祝いさ」
 とだけ言うと、僕の体が引っ張られた。
 月代先輩と九内先輩が腕を引っ張り、人だかりの最前列真ん中に僕を立たせる。
「さ、屋上を見るがいい!」
 
 九内先輩が声高々に指し示す。
 学校の壁面に大きなディスプレイが現れる。徐々にディスプレイが鮮明になっていく。その時だった。
「……私は、ずっとこの病気に呪われて生きていかなきゃいけないんだと思っていました」
 中宮の声が降ってくる。
 ディスプレイに中宮の表情が少しずつ浮かび上がっていく。
「でも、そういうのが嫌になって、時々弱音を吐いていました。小さい頃はよく言っていたけど、年齢を重ねていくうちに言わなくなりました。私が苦しんでいる時、頑張ってくれる人たちがいたからです。だから、私は我がままを言ってはいけないんだと、思ってました」
 
 いつだ?
 見た目はちょっと痩せこけているが、病人ってほどじゃない。
 相当前に撮られたのか?
 メイクか? それともホログラム?
「それでもたまに出ちゃって、つい友達に愚痴を吐いてしまいました。本当は私が止めるべきだったんです。一緒に闘うと言ってくれた友達を。だけど、嬉しくなっちゃって……」
 病衣姿でベッドに腰かける中宮。その言葉ひとつひとつがあの時のことを鮮明に蘇らせようとしてくる。中宮の言葉に当てられ、心の底に沈んでいた想いが解けていく。
 
「もし私の願いが叶わなくても、結果を受け入れるつもりでした。みんなが私のために頑張ってくれただけで十分だったから。そう思ってたけど、支えてくれるみんなが闘ってるのに、私が諦めてちゃダメだなって。みんなの手を握るだけじゃ、私とみんなの願いは叶えられないと思いました。私も、みんなと闘う。そう決めました」
 できることなら、君を闘わせたくはなかった。
 僕が的になるようにしたかった。
 中宮の病気をなんとかしたいなんて、僕のエゴじゃないか。そう思ったこともあった。
 
「今日を迎えられたのは、みんなのおかげです。今日まで、信じてきてよかった。みなさん、ありがとうございました。平井君、絶対、病気治すから。また、花見に行こうね」
 満面の笑みを灯す中宮の瞳から一筋の涙が零れた。
 映像が終わり、白い背景に『みんな、ありがとう』の文字が中央で飾られた。
 すると、屋上で発射音が鳴った。空に何かが放たれ、宙に舞い落ちていく。その瞬間、周りからまた割れんばかりの拍手喝采が響いた。
 会長は「平井君」と声をかける。柔らかな仕草で左手を体から少し離して、隣に立つよう促した。
 みんなから少し離れ、向き合うように立つ。僕は集まってくれたみんなに深く頭を下げた。
 温かい労いと拍手を受けて、戸惑いと気恥ずかしさに揺れる気持ちが押し出されるのは、つたない感謝の言葉ばかりだった。
 十数もの時間の後、頭を上げた。
 
 そこには豊かな表情で僕を見つめる人たちがいた。泣いてしまいそうな人や自分のことのように嬉しそうにしている人、めでたい祭りかのように楽しそうにしている人、空から降ってくる雪のような紙吹雪にはしゃぐ人。感極まって泣きそうな状況なのに、なぜだか涙は出なかった。
 嬉しくはあるけど、安堵と達成感がただ全身をめぐる感覚に落ち着けなかった。
 
「君は自分をミネルヴァから見捨てられた才能のない人間だと言ったけど、僕はそう思わない」
 会長は僕の隣に並び、そう声をかけた。会長の見つめる視線の先には、楽しそうにしている人たちがいた。紙吹雪の舞うグラウンドで笑い合う光景が夕焼けに照らされ、瞳に焼けつくようだった。それは4人で花見をした時の光景によく似ていた。
 
「社会はいつだって虚ろな優劣に憑りつかれてしまうものだ。それもまた、人の世のことわりなんだろう。この世界で何が正しいのか、何が誤っているのか、必ずしも解き明かせるわけじゃない。きっと、ミネルヴァは僕らよりそれを知っている。だけど、確かなことがある。君は誰かのために行動し、決断した。そうして、いつしか君は世界をほんの少し動かし、ひとりの人生を変えたんだ。人はそれを才能と呼ぶんじゃないかな?」
 会長は意味ありげに微笑むと、はしゃいでいる人々の下へ歩き出した。
 会長の背中は今まで以上に大きく見えた。僕に才能があるかどうかはわからないが、縁はあったと思いたい。
 
 僕は眩しいほどの光を浴びる光景に目を細め、ゆっくり足を踏みしめた。
 ――――誰もが苦しみや辛さを抱え、哀しみに暮れている。そんな世界が当たり前のようにあふれている。それはずっと変わらないのかもしれない。けれど、そればかりにとらわれていたら、目の前にある心救われる光景すら見えなくなってしまう。
 未来に何が待ち受けているのかなんて、わかりようがない。わからないから、不安ばかり募っていく。こんな世界では、僕らはちっぽけ存在でしかないのだろう。
 誰にも知られず、後世にも残らない、どこかのひとりの人間。そんな印象に残らない透明な人間だったとしても、ほんの少し青をつけられたら、僕らの見る世界くらいはささやかな幸せを描けると思えた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...