マリンフェアリー

國灯闇一

文字の大きさ
18 / 29
Ⅳ章――――二人きりの海

18  ピンチ

しおりを挟む
 首の皮一枚繋がったようだ。
 すっかり暮れてしまったが、風は収まり、穏やかな海を取り戻している。

 折谷の体温も少し改善していた。乾燥した草木に向けて、がむしゃらに石をかち合わせた。原始人の真似事だ。本当にそんなことで火がつくかどうかわからなかったが、他に手はなかった。
 懸命に石をぶつけ続けていたら、本当に火がついてしまった。
 叫ばすにはいられなかった。高々と拳を突き上げ、小学生みたいにはしゃいでしまった。

 洞穴ほらあなに散らばった枝や草は、どうやら上から落ちてきたものらしかった。洞穴ほらあなの天井にできた隙間をよーく見てみると、岩の上にもったりとした木が育っていた。葉っぱはないが、幹や枝はしっかりしていそうだった。
 あれがなかったら、俺たちはきっと助からなかっただろう。岩の隙間から覗く木々を見上げながらウトウトする。

 眠い……。だが寝るわけにはいかない。俺は後ろに目をやる。
 ゴツゴツとした岩盤でフィンを枕にしてぐっすり眠っている。折谷の顔はたき火にあてられた光に染まっている。
 まだ折谷も万全の状態とは言えない。火を絶やさないよう枯れ草や木々をスットクしていた。夏だから温まった空気もある。ここならひとまず雨風もしのげるし、日が昇っても直射日光も避けられる。問題は食料だ。
 まさか、サバイバルをすることになるとはな。無人島と言うには狭すぎる。

 残念ながら岩の上の木々に実はなっていない。たとえ実がなっていたとしても、街灯の高さほどある頂上に登るのは無理だ。何より、怖い……。
 残された方法はただ一つ。釣りだ。目ぼしい枝を見つけ、遭難する前に拾っていたゴミからワイヤーとルアーで工作し、ボロい釣り竿で魚を獲る作戦だ。

 ……かれこれ数時間が経っていると思う。未だ成果なし。
 生き延びられるのか? 俺たち……。

 前途多難のサバイバル生活を強いられ、途方に暮れる。
「んん……」
 くぐもった声を聞き、視線を弾く。折谷は気だるげに体を起こしていた。
「おう! 起きたか!」
 俺は釣りを中断し、帰ってきた飼い主に駆け寄る犬みたいに折谷のそばへ向かった。それだけ折谷が目を覚ましてくれたのが嬉しかった。安心するにはまだ色々残っているが、折谷が自分で起き上がっているのを見ただけで、なんだか救われたような気がした。

 瞼が上がりきっていない折谷の顔が左右に散らされる。
「気分はどうだ?」
「……最悪」
「そっか。ちょっと待ってろ。今、食料を獲るから」
 俺は釣り竿を手に取り、火の明かりに当てられた水面を凝視する。
「……ごめん」
「なんだよ。いきなりしおらしくなって」
「足、引っ張った」
「起きちまったもんはしょうがねえだろ。今は、生き延びることを考えようぜ」

 ゴソゴソと衣擦れの音がしたかと思えば、「ッ……!」と呻きが聞こえてきた。
「おい、まだ安静にしてろよ。動いたって何もしようがねえんだから」
 立ち上がった折谷は壁に手をついていた。当然だろ。溺れかけたうえに流され続けたんだからな。
 折谷はぎこちなく座り、視線を落とす。大人しくなった折谷に安心すると、腹の虫が鳴った。
「はぁ……腹減った」
「それより、水を確保しないと」
「え?」
 折谷は険しい表情で口にする。

「今は夜だからなんとかなってるけど、日が昇れば、厳しくなる」
「ここは日陰だ。どうにかなんだろ」
 折谷はさげすむ視線を突き刺してくる。ご不満らしい。
「なんだよ! 言いたいことがあるならはっきり言え!」
 折谷は仕方ないというテンションで口にする。
「日陰だろうが、暑さは空気を伝って体力を消耗させる。このままじゃあたしたち、熱中症で死んじゃう」

「ええ⁉ どど、どうしよう⁉」
「そんなこと言われても、あたしにわかるわけないでしょ」
「んな殺生なっ! お前、俺よりダイビング経験長いんだろ⁉」
「あたしが知ってるのはダイビングであって、サバイバルの知識はない」
 そうだった。普段から熱中症なんていちいち気にしていなかった。喉乾いたらいつでも飲み物はあったし、クーラーだってたいていの場所にある。それに熱中症なんて縁のない俺には、台風が来てるんだなくらいの風物詩のようなものでしかなかった。

「クソッ、何かねえのか? 手っ取り早く水分を取れるヤツ」
 辺りは石ばかり。コケが生えているけど、口にできるようなもんじゃない。
「こうなったら、海水を飲むしか……」
「塩分濃度が高すぎる。飲んでも体内の水分を余計に使うだけよ」

「や、やっぱダメか。そうだなぁ、んーーじゃあ…………あ!」
「なに?」
「いや、でもそんなこと言ってる場合じゃないし……」
 この案は最終手段として残しておくべきじゃないだろうか。だが、これを他人に提案するのはどうなんだ?
「いい方法でも思いついたの?」
「思いついたには思いついたんだが……」
 俺は苦々しく口を渋る。

「案があるなら話しなさいよ」
「怒るなよ?」
 折谷は困惑しながら注目する。
 俺は慎重に口にした。
「おしっ……」
「それ以上言ったら海に沈める」
「怒るなって言ったじゃん!」
「死ぬかもしれないのにくだらないこと考えないで」
「だから言いたくなかったんだよ~」
 俺は肩を落として釣り竿を引き寄せる。針には何もかかっていない。
 二重に落ち込み、背中を丸くするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...