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「ケンゴロウ……!」
ハクはケンゴロウに駆け寄りました。ケンゴロウの体にはくっきりと爪痕が深く刻まれ、右の羽は折れていました。
「イザラメ! オウギさん! ケンゴロウがいた!」
激しく揺れた草からイザラメとオウギが出てくると、二羽とも驚愕を顔に貼りつけました。
「ケンゴロウ!」
「ああ、なんてことだ」
「まだ息はある」
「ここで治療はできない」
オウギは険しい顔をして言いました。ケンゴロウが呼吸をするたびに体は大きく鼓動していました。息は掠れ、目は閉じられていました。何度も声をかけますが、か細くうめくだけでした。状態を見る限り、ケンゴロウは自力で動けそうにありません。
「ケンゴロウを運ぶには二羽いないと無理だ」
オウギは悩ましい表情で唸りました。
「今はこの草に身を隠せているから見つからずに済んでいる。だが、早々身を隠せる場所があるわけでもない。運よくここまでこれたが、怪我を負っている雀を運んでいる場合じゃ話が違う。二羽が一羽の雀をしょっていれば目立つだろう」
「じゃ、他のみんなへ知らせに……」
「救援を呼んでいる時間はない」
見上げれば、複数の鷹の影がちらついていました。監視の目を潜るのは一筋縄ではいかなさそうです。距離も近く、いつ見つかってもおかしくありませんでした。
「くそッ、どうすればいい!」
三羽は押し黙ってしまいました。
重苦しい空気の中、ハクはブルブルと震えていました。それは恐ろしい状況にあったからでもありましたが、ハクの頭によぎった考えが余計に体を震わせたのでした。
「ハク?」
ハクは顔をこわばらせ、衰弱していくケンゴロウを見つめていました。イザラメは、前にもこんな風に固まってしまうハクを見たことがありました。しかし、ハクの瞳からわずかに滲んでいる恐れを隠せるほどの強い覚悟を感じたのです。ハクは誰に言うともなく声を発しました。
「僕がおとりになる」
オウギとイザラメは瞠目しました。
「無茶だ! 二羽もいるんだぞ。出ていったら確実にお前は死ぬぞ!」
「そうだ。ここは鷹が諦めるのを待って……」
オウギはイザラメの意見に賛同しますが、ハクの意思は固いようでした。
「でも、このままいたら全員危ないじゃないか! それなら、少しでも助かる方法に、僕は懸けるよ」
ハクは二羽の制止を振り切って、飛び立ってしまいました。
「ハク!!」
ハクは灰色の空を見上げました。
二羽の鷹が広大な空を泳いでいます。まだ気づいていないようでした。ハクは電線の下をスイスイと抜けていきます。目に入る死角を使いながら飛んでいくと、庭木に留まりました。鼓動を早めた心臓が伝えてくる震え。毛が逆立つような感覚にクラクラしそうでした。
大きく呼吸を一つ。
……群れに守られていた頃はただ怯えているだけでした。
親の後ろに隠れて、不安ばかり。ただついていくことしかできませんでした。
おとりになる大人の雀のことなんて、考えたことがありませんでした。
今ならわかります。こんなにも怖くて、勇気がいることなんだと。
ですが、不思議と体のこわばりはほとんどありませんでした。きっと、誰もがささやかな願いを思い、小さな体で向かいゆくのでしょう。
ハクはバッと大きく羽を広げました。自身を鼓舞するように羽を広げたハクは、小枝を蹴って勢いよく飛んでいきました。
遥か上空で気高い様を見せつける鷹を見据え、ぐんぐん迫ります。ハクは慎重に鷹との距離を測っていました。一定の距離を保ちながら少しずつ鷹の視界に入っていきます。
ハクはケンゴロウに駆け寄りました。ケンゴロウの体にはくっきりと爪痕が深く刻まれ、右の羽は折れていました。
「イザラメ! オウギさん! ケンゴロウがいた!」
激しく揺れた草からイザラメとオウギが出てくると、二羽とも驚愕を顔に貼りつけました。
「ケンゴロウ!」
「ああ、なんてことだ」
「まだ息はある」
「ここで治療はできない」
オウギは険しい顔をして言いました。ケンゴロウが呼吸をするたびに体は大きく鼓動していました。息は掠れ、目は閉じられていました。何度も声をかけますが、か細くうめくだけでした。状態を見る限り、ケンゴロウは自力で動けそうにありません。
「ケンゴロウを運ぶには二羽いないと無理だ」
オウギは悩ましい表情で唸りました。
「今はこの草に身を隠せているから見つからずに済んでいる。だが、早々身を隠せる場所があるわけでもない。運よくここまでこれたが、怪我を負っている雀を運んでいる場合じゃ話が違う。二羽が一羽の雀をしょっていれば目立つだろう」
「じゃ、他のみんなへ知らせに……」
「救援を呼んでいる時間はない」
見上げれば、複数の鷹の影がちらついていました。監視の目を潜るのは一筋縄ではいかなさそうです。距離も近く、いつ見つかってもおかしくありませんでした。
「くそッ、どうすればいい!」
三羽は押し黙ってしまいました。
重苦しい空気の中、ハクはブルブルと震えていました。それは恐ろしい状況にあったからでもありましたが、ハクの頭によぎった考えが余計に体を震わせたのでした。
「ハク?」
ハクは顔をこわばらせ、衰弱していくケンゴロウを見つめていました。イザラメは、前にもこんな風に固まってしまうハクを見たことがありました。しかし、ハクの瞳からわずかに滲んでいる恐れを隠せるほどの強い覚悟を感じたのです。ハクは誰に言うともなく声を発しました。
「僕がおとりになる」
オウギとイザラメは瞠目しました。
「無茶だ! 二羽もいるんだぞ。出ていったら確実にお前は死ぬぞ!」
「そうだ。ここは鷹が諦めるのを待って……」
オウギはイザラメの意見に賛同しますが、ハクの意思は固いようでした。
「でも、このままいたら全員危ないじゃないか! それなら、少しでも助かる方法に、僕は懸けるよ」
ハクは二羽の制止を振り切って、飛び立ってしまいました。
「ハク!!」
ハクは灰色の空を見上げました。
二羽の鷹が広大な空を泳いでいます。まだ気づいていないようでした。ハクは電線の下をスイスイと抜けていきます。目に入る死角を使いながら飛んでいくと、庭木に留まりました。鼓動を早めた心臓が伝えてくる震え。毛が逆立つような感覚にクラクラしそうでした。
大きく呼吸を一つ。
……群れに守られていた頃はただ怯えているだけでした。
親の後ろに隠れて、不安ばかり。ただついていくことしかできませんでした。
おとりになる大人の雀のことなんて、考えたことがありませんでした。
今ならわかります。こんなにも怖くて、勇気がいることなんだと。
ですが、不思議と体のこわばりはほとんどありませんでした。きっと、誰もがささやかな願いを思い、小さな体で向かいゆくのでしょう。
ハクはバッと大きく羽を広げました。自身を鼓舞するように羽を広げたハクは、小枝を蹴って勢いよく飛んでいきました。
遥か上空で気高い様を見せつける鷹を見据え、ぐんぐん迫ります。ハクは慎重に鷹との距離を測っていました。一定の距離を保ちながら少しずつ鷹の視界に入っていきます。
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