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prologue
しおりを挟む金の刺繍が施されたカーテンの皺をなぞりながら、シャーロットは手首の痛みに耐えていた。ドレスがボロボロになっても、四肢がミミズ腫れで真っ赤になっても、鞭打つ手を止めない義母は余程自分が憎いらしい。癇癪を起こした子供のように罵声を浴びせ、その美しい顔を歪ませて、必死に訴えるのだ。
「どうしてお前なの!メアリーの方が美しく、器量も良いというのに…っ!」
「そうよ!この出来損ないが聖力持ちなんて認められないわ!その力を私によこしなさい!」
使用人達は遠巻きに見ているだけだった。母を失った次女と、第二夫人と長女のこのやり取りは、最早日常の光景として定着している。誰も夫人や長女を止めようとしない。
「お前なんか…!」
「きゃ!?」
耐えていた声が漏れた。憎悪に燃える瞳を最後に、シャーロットは意識を手放した。閉ざされた瞳から一筋の赤が流れている。
息を上げて振り下ろしていた鞭を漸く止めて、第二夫人リリアンはメアリーを抱きしめた。
「あぁ、可哀想なメアリー。こんなに美しいのに、無能な妹のせいで王太子妃になれないなんて!こんなこと、許されることじゃないわ!」
「お母様…。えぇ、私もそう思うわ。この子に王妃なんて務まるわけがないもの」
ふとメアリーは護衛を見た。その腰に提げられた剣とは別に、短剣を帯びている。その短剣が、自分を呼んでいるような気がして、メアリーはふらふらと近づいた。驚きつつも、メアリーの動向を見守る護衛から、短剣を抜き取る。
「メアリー様…?」
「そう…そうよ。この子が王妃なんて務まらないわ。それなら、こんなのはどうかしら?」
「メアリー…?」
「こんな役立たずなんて、いらないわ」
メアリーは口端を上げた。歪んだ笑みを浮かべて、シャーロットの胸元に短剣を突きつける。止める者はいなかった。止められる訳がなかった。いつかこうなるのではないか、と使用人も護衛達も全員が予期していたから。まさかそんなことするはずがない、と思っても、それを成そうとするのがメアリー・ディライトというお仕えすべきお嬢様なのだ。
歪んだメアリーを暫し見つめて、リリアンはハッとする。そして、慌ててメアリーの手を取った。
「待ってメアリー。それなら、この子を利用しましょう?」
「利用?」
メアリーから短剣を受け取り、シャーロットの眼前に短剣を滑らせる。
「そう…そうよ。この子が可愛いメアリーの代わりに祈ればいいのよ」
白い瞼を持ち上げて、光のない紫色の瞳に、容赦なく短剣を走らせた。眼球から血が溢れる。
ひっ!と思わず悲鳴を上げたメイドを、リリアンは睨みつけた。
「こんな傷物、公爵家の恥よ。処分して、メアリーのために祈らせるしか、使い道がないゴミだわ」
「お、お母様…?」
「貴女が神子になるのよ、メアリー」
母娘は、笑っていた。
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