モブは転生ヒロインを許さない

成行任世

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「これが私とルイ様の婚約に関する書類一式、こちらはアルバ帝国との交易に関する書類です。こちらはルイ様がご学友である王太子殿下に直接説明し王家にも了解を得ております」

「そ、そうか…」

「そしてこちらはジェノス帝国との交易廃止に関する書類です。既に国王陛下のサインはいただいているので、後はお父様のサインをいただければ提出して終わりですわ」

勝手なことを、と怒鳴るほどガランも無能ではない。愛息子を亡き者にしたと立証でき、事実上ライラは犯罪者としてトワイライト王国が持て余している案件である、とは度々耳にしている。それもそうだろう。セネル家の断行によりジェノス帝国との交易を見直した各所がその関税の高さと他国への高額転売という実態を知り、国王陛下も具体的に交易の在り方を見直しているらしい。
ハーヴィ家はライラの国外追放を申し出たが、国を混乱させた罰として領地を没収され一族郎党ジェノス帝国へ逃れたと言う。とはいえ、トワイライト王国と他国が直接交易を始めれば、ジェノス帝国に頼る国は減ることは目に見えている。既にジェノス帝国では内乱が散発しているようだ。

「………お前がこんなに仕事が早いとはな」

ガランは溜息を吐いた。リュカの死後腑抜けていた間に、リリスはセネル家だけでなく国をも変えてしまった。婚約者を得て美しくなったと噂されるようにまでなった。

「リュカが優秀な跡取りとして成長してくれればいいと思っていたのに、リリスに継がせることになると思わなかった」

「お兄様の良い所も悪い所も見ていましたから、要領が良いでしょう?」

リュカにばかり勉学を強要し、領地運営に付き添わせていた。その間リリスはナーシャと共に穏やかにのんびりと過ごしており、ガランにとっては政略結婚の道具でしかなかったはずだった。

「勿論私ひとりではできませんが、至らない所はルイ様が補ってくださるので心配は無用ですわ」

「信頼しているんだな、ルイ殿を」

「婚約者であり、戦友ですもの」

リリスは後ろを振り返る。扉を背に立って控えていたルイは、嬉しそうに頬を緩ませた。

「ご挨拶が遅れましたことお許しください、お義父様」

「まだ君に父と呼ばれるのは不服なんだが…」
「あら、我がセネル家を救ってくださった立役者ですよ?」

「頭では分かっていても、こればかりは簡単に納得できないものなんだよ…」

理想の相手であることは間違いない。政略結婚としても、人柄としても。ガランもルイのことは評価している。だから反対する意思はない。

「ふふ、お父様は寂しいんですよ。ちょっと喧嘩している内にリリスが恋人を作ってしまって」

ナーシャは嬉しそうにリリスとルイを見る。子供の成長は早いとは言うが、意思表示が少なく波風を立てることを嫌っていたリリスが自分の意思で未来を決めていく姿に、誇らしいような微笑ましいような、温かい気持ちになった。
それはきっとガランも一緒だとナーシャは思う。でもだからこそ、リリスの成長が自分達親ではなく、ルイの存在による所が大きいことが、素直に受け入れられないのだ。

「すまなかったな、リリス」

「え?」

「情けないが、リュカを亡くして初めて知ったよ。リュカの可能性を狭めていたことも、リリスがこんなに行動力のある子だったことも」

「…いいんです、お父様。実際、私ひとりでは成し遂げられませんでしたわ。お父様やお母様、セバスやメイド達、それにルイ様がいたからこそ、私は強くあれたんです」

リリスは困ったように笑う。

「お父様が今も昔も私を可愛がっていたことは、ちゃんと自覚しておりますわ」

「リリス…」

「それがこれからはルイ様に代わるだけですもの」

「え?」

「安心してください、お義父様。リリス嬢のことは私が生涯幸せにしてみせます」

ガランの感動も束の間、リリスとルイは笑顔で手を取り合う。あらあら、と微笑むナーシャとは裏腹に、ガランは目を見開きショックを受けた。せっかく娘との意地の張り合いが終わったと言うのに、娘はもう父の愛情を欲していない。
リリスは未来を見据えている。ルイと歩むこれから先を。セネル家の新たなる門出を。

「書類を提出したら早速アルバ帝国へ参りましょう。我が家の優秀な執事が候補地を挙げております」

「ふたりでの旅行は初めてですわね」

「ちょ、ちょっと待て。ふたりで?どこに行くんだ?」

「アルバ帝国に我が家の直営店を構えて新事業を立ち上げようかと思っておりますの。その店をファーライト家に任せれば、我が家もファーライト家も潤いますわ」

リリスは扉を開けた。父との蟠りも解け、もう憂いはない。これからはルイとふたりでセネル家を、そしてあわよくばファーライト家と協力して国を巻き込んで盛り立てていくことだけを考えれば良い。

「行ってきますわね、お父様」

「安心してください、お義父様。リリス嬢の身は私が責任を持ってお守りします」

「そ、そそそそそういう問題じゃない!私はまだ可愛い娘を手放したくないんだよー!」

ガランの叫びも虚しく扉が閉まる。くすくすと笑ったリリスとルイは、手を取り合ってセネル家を後にした。
きっとこれから先も色々なことがあるだろう。だがきっと、ふたりなら乗り越えられるから。



fin.
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