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双子の美精霊

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自然の音を奏でればなんとかなるだろうと思っていたコウは、いまだに開かれることのない詩歌の森の入口を苦笑いで見つめていた
「(やっぱりこういうのじゃ駄目かな?自然の音って綺麗だと思ったんだけど・・・)」
悩んでいると、足元にフワフワした感触が伝わったのを感じて、足元を見る
するとそこには、モコモコの毛の魔物がいた
ガイやリョサイの方を慌てて見ると、二人は武器を抜いていないのでこの魔物が危険な魔物ではない事を理解した、コウがほっと息を吐いて周りを見渡せば、いつの間にか色々な動物や魔物が集まってきていた
「(・・・このまま行けば、上手く詩歌の森が開くかもしれない)」
コウがそんなことを思った瞬間、詩歌の森の中からクスクスと笑う声が聞こえてきた
その声を聞いた瞬間、周りにいた動物や魔物はサッと逃げ出す
そんな姿を目の端で捉えて、来たか・・・とコウは小さく呟いた
《綺麗ね》
《綺麗だわ》
《美しいわね》
《美しいわ》
耳に直接響くように聞こえてきた声は、まるで鈴を転がしたような、軽やかな声であった、二つのよくに通った声が近づいてきたているのが分かる
「来たの・・・」
「つっ・・・」
リョサイとガイの声が聞こえてきたので、コウはそんな二人に向けて静かにするようにと指示を出す、ここで詩歌の森から来る魔物の機嫌を損なう事だけはしたくないのだ
《誰かしら?》
《誰でしょう》
《王子はここにいるの》
《ならきっと、別の人よ》
《誰かしら?》
《誰でしょう?》
耳に直接聞かされる美しい声に気を取られないようにしながら、コウはリョサイとガイの二人に防音癖の壁を作り出す
出なければ、邪魔者だと排除しかねないと思ったからである
美しい声の主は姿を表さずに、ただその声をコウたちの耳にとどけるだけ、なのにコウはその声に魅了されてしまいそうになっていた
「(これは、さっさと姿を現してもらうしかないみたいだ)」
そうしなければこちらの武が悪いと思ったコウは、声の主に向かってなるべく美しいと思われる波長で声をかけた、自らの声でせっかくここまで成功していた作戦を失敗させるわけにはいかないからだ
「美しい声ですね」
コウは初めにそう呼びかける、声の主の機嫌をとるためだ
《あら?》
《あらあら・・・》
二人の女性であろう声は、クスクスと笑う
その時コウは首に何かが触れる感触を感じで、身を固めた
《この子よ》
《この子だわ》
《自然の力を借りたのね》
《それ以外考えられないわ》
《美しかったものね》
《美しかったわ》
触れたのは多分腕だろうと、コウは考えその腕を振り払うことはしなかった
「姿を見せて欲しいのだけれど・・・いいかな?」
なるべく怒りを買わないように話しかける
二人の女性はクスクスと笑うばかりで一向に姿を表さない
「どうしても君たちの姿が見たい、この森の中にいる少年の友達も連れてきているんだ。この子はいなくなった少年を探す為にこんな所まで来たんだよ」
さらにコウが説明を重ね、ガイを指差し近くにいるであろう女性に向かってニコリと笑を浮かべる
《あらあら、美しいこと》
《ワタクシ気に入りましたわ》
《姿を見せてあげましょう》
《ええ、そうしましょう》
コウの背中あたりがキラキラと美しく輝き出す、その光が眩くて目を閉じた瞬間に
コウは自身の頬を優しく撫でる二つの手を感じ取った
「・・・君たちの方が綺麗じゃないかい?姿を見せてくれてありがとう」
その白玉のような細腕を取りコウは体の向きを変えて、先程以上に美しく微笑んだ
《ふふふ、可愛らしいこと》
《本当に、こちらの子も可愛らしいわ》
二人はとても良く似た美少女の精霊であった。
美しく輝き、流れるようにフワリと浮いている翡翠の髪
大きく、まるで海をそのまま移しとったようなサファイアの瞳、小柄な顔に赤く色づく唇
二人の違いと言えば、髪型だけである
その美しさに、コウやガイ リョサイまでもが息を飲んだ
《クスクス、ポケッとしているのも可愛らしいけれど、森の中に入らないでいいのかしら?》
《ふふふ、私たちの美しさに息を飲んでいるのね、森に入れてあげるわよ?》
「・・・入っていいのかい?」
《あら、入りたくなかったらいいのよ、無理矢理にでも連れていくから》
《そうね、だってワタクシ達は貴方を気に入ったのだから》
コウはその言葉に苦笑いをすると、未だに惚けているガイとリョサイを促して、いつの間にか開いていた、森の中に入っていった
双子の美精霊は王子の元につくまで離れないと言ったので、ずっとコウの首あたりにまとわりついていた
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