きっと、忘れられない恋になる。

りっと

文字の大きさ
43 / 52
第六話 記憶の操作

6

しおりを挟む
 バイトで忙しい恭矢と部活に精を出す瑛二がゆっくり話せるのは、昼休みしかない。

 瑛二はカツサンドを頬張りながら、紙パックのジュースを飲んでいた。ふて腐れていた時期もあったものの今はすっかり立ち直った瑛二は、バスケ部で人一倍練習しているらしい。

 これまではドライブで切り込んでシュートチャンスを狙うフォワードだった瑛二は、ドライブの切れ味を武器に、視野の広さを生かした司令塔ポジションであるポイントガードに方向転換したことが功を奏し、レギュラーの座も近いかもしれないと言っていた。

「瑛二に相談したいことがあるんだよ。俺、どうしても倒せないひとがいるんだけどさ、どうすればいいと思う?」

「は? ゲームの話?」

「いや、真面目に。そのひとを倒さないと青葉と小泉が悲しむんだけど、俺は一度完膚なきまでにやられてる。しかも、俺はそのときの記憶がまったくない」

「……恭矢、お前大丈夫か? 気持ち悪いぞ」

 真実しか口にしていないのに、気持ち悪いと言われてしまった。

「口は悪くとも、真面目な瑛二くんのことだ。きっと何か素晴らしいアドバイスをしてくれるんだろ?」

「おい、勝手にハードル上げんなよ。……つか、どうしても倒したいなら恭矢一人じゃ無理だろ。助けてくれそうな誰かに頼るしかないんじゃね?」

「……うーん。俺はさー、できれば自分一人の力でなんとかしたいんだよな」

 瑛二は急に噴き出した。

「なんだよ、何がおかしいんだよ?」

「いや、だってさ。恭矢が一人でっていうのは無理だろ。お前はいつだって誰かに優しくして、そんでもって誰かに優しくされて生きてるんだし」

「……そうなのか?」

「自覚ねえのかよ! そうだよ! お前はひとに頼られることは全然気にしないのに、ひとを頼ることは極力しようとしないだろ? でも、それは思い上がりだからな? 無自覚だろうけど、お前は皆に優しくされて生きてるんだ。だから、『一人で』とか勘違いするなよ? 恭矢が助けを請えば、誰だって手を差し出してくれるはずだ」

 そこまで言って照れたのか、瑛二は立ち上がった。

「……だからさ、俺にできることがあれば言ってくれ。いつだって力になるから」

 そのまま教室を出ていった瑛二の背中を見送りながら、瑛二の言う通りかもしれないと思った。現に今も、恭矢は瑛二の言葉に救われている。

 青葉と由宇を救えるなら、手段は選ばない。手を差し伸べてくれるひとがいるなら、戦い方は変わってくる。

 恭矢はある選択と決心をし、あのひとに連絡を取るべく携帯電話を取り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...