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第一Q 隻腕の単細胞
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「じゃあ、まずは準備運動をしてからランニングだ! 一年はニ、三年の動きを見てウォーミングアップの流れを覚えるように!」
多田の指示で部員たちは円になり、それぞれ準備運動を始めていった。先輩たちの動きを見ながら屈伸していた雪之丞に、誰かが声をかけてきた。
「おい。鳴海だっけ?」
振り向くと、目鼻立ちの整った中性的な顔の男が立っていた。顔のわりに筋肉がついた体つきをしている彼は、おそらく女子からの人気が高いタイプだろう。
「ウス。自分が鳴海っす」
「俺は二年の藤ヶ谷廉だ」
「ウス。よろしくお願いし……」
雪之丞が頭を下げようとした、そのときだった。
「バスケをナメんじゃねえぞ?」
廉は怒りを隠さない声色で告げ、雪之丞を睨みつけた。喧嘩を売っているような廉の態度に腹が立った雪之丞は、彼を真正面から睨み返した。
「別に、ナメてるつもりはないっすけど?」
「片手しか使えない初心者なんて、冗談にもなってねえよ。ウチは誰だってスタメンになりたくて努力してんだよ。かわいそうぶって特別に贔屓してもらって、お情けで試合に出られると思うなよ? 主将は熱くて情に脆い人だからやる気がある奴は誰でも歓迎する方針みてえだけど……俺は、お前の存在を認めねえからな」
廉を一発殴ってやろうかという感情が湧き上がったが、自分から手を出すなんて信念に反すると理性が働いた。それに、ここで手を出してしまってはバスケ部にはいられなくなるだろう。紗綾とお近づきになるどころか、バスケをしている彼女を一度も見ないまま退部になるなんて、阿呆の極みである。
このクソ野郎と胸中で悪態をつきつつ、雪之丞は廉に近づいた。
「……あんたの言い分はわかりましたよ。ただ、俺が辞める理由にはならないっすけどね」
「わかんねえ奴だな。吠え面をかく前に逃げ出した方がお前のためだって言ってんだよ」
一触即発の二人が再び体育館内をざわつかせていると、
「まーたお前は! 初日から喧嘩すんな! 二年になったんだから少しは大人になれ!」
多田が飛んできて廉を連れていった。あの言い方から察するに、どうやら廉は一年の頃からトラブルメーカーのようだ。
藤ヶ谷廉。雪之丞は彼の顔と名前をしっかり脳裏に刻みつけた。そして片手ではバスケができないと言った彼に、いつか目にもの見せてやると決意を固めた。
「よーし、とりあえず三十分走るぞ! 二列に並んで声出ししながら走るが、一年は周回遅れになっても構わない! とにかく最後まで走りきることを目標についてこい! いくぞ!」
多田の声を皮切りに、部員は一斉にスタートを切った。
「沢高―ファイ!」「「オウ!」」「ファイ!」「「オウ!」」
掛け声を出す順番はローテーションで回ってくるようだ。初めの方は一年生も声を出しながらついていったが、二、三年生のペースは予想よりもはるかに速かった。十週目を回る頃には一人、二十週目には三人、三十週目を回る頃には雪之丞を除いた一年生は皆、周回遅れとなっていた。
スタミナに自信のあった雪之丞は声を出しながら得意気に足を動かしていた。片手だけで売られた喧嘩に勝ち続けるために、日頃から熱心に体を鍛えてきた甲斐があったというものだ。
ようやく三十分が経ちマネージャーが笛を鳴らした瞬間、雪之丞以外の一年生はその場に座り込んだ。
多田の指示で部員たちは円になり、それぞれ準備運動を始めていった。先輩たちの動きを見ながら屈伸していた雪之丞に、誰かが声をかけてきた。
「おい。鳴海だっけ?」
振り向くと、目鼻立ちの整った中性的な顔の男が立っていた。顔のわりに筋肉がついた体つきをしている彼は、おそらく女子からの人気が高いタイプだろう。
「ウス。自分が鳴海っす」
「俺は二年の藤ヶ谷廉だ」
「ウス。よろしくお願いし……」
雪之丞が頭を下げようとした、そのときだった。
「バスケをナメんじゃねえぞ?」
廉は怒りを隠さない声色で告げ、雪之丞を睨みつけた。喧嘩を売っているような廉の態度に腹が立った雪之丞は、彼を真正面から睨み返した。
「別に、ナメてるつもりはないっすけど?」
「片手しか使えない初心者なんて、冗談にもなってねえよ。ウチは誰だってスタメンになりたくて努力してんだよ。かわいそうぶって特別に贔屓してもらって、お情けで試合に出られると思うなよ? 主将は熱くて情に脆い人だからやる気がある奴は誰でも歓迎する方針みてえだけど……俺は、お前の存在を認めねえからな」
廉を一発殴ってやろうかという感情が湧き上がったが、自分から手を出すなんて信念に反すると理性が働いた。それに、ここで手を出してしまってはバスケ部にはいられなくなるだろう。紗綾とお近づきになるどころか、バスケをしている彼女を一度も見ないまま退部になるなんて、阿呆の極みである。
このクソ野郎と胸中で悪態をつきつつ、雪之丞は廉に近づいた。
「……あんたの言い分はわかりましたよ。ただ、俺が辞める理由にはならないっすけどね」
「わかんねえ奴だな。吠え面をかく前に逃げ出した方がお前のためだって言ってんだよ」
一触即発の二人が再び体育館内をざわつかせていると、
「まーたお前は! 初日から喧嘩すんな! 二年になったんだから少しは大人になれ!」
多田が飛んできて廉を連れていった。あの言い方から察するに、どうやら廉は一年の頃からトラブルメーカーのようだ。
藤ヶ谷廉。雪之丞は彼の顔と名前をしっかり脳裏に刻みつけた。そして片手ではバスケができないと言った彼に、いつか目にもの見せてやると決意を固めた。
「よーし、とりあえず三十分走るぞ! 二列に並んで声出ししながら走るが、一年は周回遅れになっても構わない! とにかく最後まで走りきることを目標についてこい! いくぞ!」
多田の声を皮切りに、部員は一斉にスタートを切った。
「沢高―ファイ!」「「オウ!」」「ファイ!」「「オウ!」」
掛け声を出す順番はローテーションで回ってくるようだ。初めの方は一年生も声を出しながらついていったが、二、三年生のペースは予想よりもはるかに速かった。十週目を回る頃には一人、二十週目には三人、三十週目を回る頃には雪之丞を除いた一年生は皆、周回遅れとなっていた。
スタミナに自信のあった雪之丞は声を出しながら得意気に足を動かしていた。片手だけで売られた喧嘩に勝ち続けるために、日頃から熱心に体を鍛えてきた甲斐があったというものだ。
ようやく三十分が経ちマネージャーが笛を鳴らした瞬間、雪之丞以外の一年生はその場に座り込んだ。
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