セキワンローキュー!

りっと

文字の大きさ
11 / 60
第一Q 隻腕の単細胞

10

しおりを挟む
 入部二日目。体育館の半分を使用している女子バスケ部の中に、紗綾の姿を見つけた。

 紗綾は肩まである髪を一つに縛り、Tシャツにハーフパンツという姿でストレッチをしていた。決して色気のある格好ではないはずなのに、白い肌やふくらはぎにはどこか掻き立てられるものがある。

「いい……!」

 雪之丞が紗綾の姿に興奮していると、

「おー。今年は珍しいタイプの一年が入ってきたなー」

 いつの間にか隣にいた知らない男が、雪之丞を見て目を丸くしていた。

「……はあ、そっすか?」

 白髪混じりの黒髪をワックスで固めている男は、四十代くらいだろうか。悪気はなさそうなため露骨に突っかかることはしなかったが、左腕をじろじろ見られて気分が悪い。不審感を抱きつつ男の顔を見ていると、多田が「集合!」と声をかけ雪之丞の周りに部員を集めた。

「な、なんすか多田先輩! 俺、なんかしましたか!?」

「いやいや、お前じゃなくて。……鳴海の隣にいる方はな、ウチの監督だ。お前もちゃんと挨拶しろ」

「か、監督っすか!?」

 男は白い歯を見せ、部員たちを見回した。

「昨日は急な残業が入ってしまってな、一年生にとっては初めての練習だったのに来られなくて悪かった。俺は男子バスケ部監督の宇佐美うさみだ。沢高OBでもあるが、練習が好きな方ではなかったし、筋トレなんかはいつもやりたくないと思ってきた。そんな俺が、どうしてわざわざ厳しい練習をさせると思う?」

 急に質問を振られた雪之丞だったが、自信たっぷりに答えた。

「試合で勝ちたいからっす!」

 雪之丞の返答に、宇佐美は大きく頷いた。

「そうだな。皆そう思っているから、練習していると思う。だけど、もっと単純に考えてみてもいいと思うんだ。バスケを本当に好きになるためには、ある程度の実力が必要になる。そうすると、やっぱりキツい練習をしなくちゃ実力はついてこないし楽しくなれないんだ。俺は今も抱えている『もっと練習していれば、あのとき勝てたかもしれない』なんて後悔をお前たちにはしてほしくない」

 宇佐美はそこで一旦区切り、再び笑った。

「厳しい練習の中に、楽しさを見い出せる選手になってほしいと願う。一年生諸君、ようこそ沢高バスケ部へ!」

「「ウス!」」

 部員全員の返事に意思の統一を感じとったであろう宇佐美は、満足そうに頷いた。

「俺の職場は決して忙しい職場ではないんだが、急な残業が入った日は練習に来られないことだけ勘弁してくれ。それから……一年の中にはミニバスから続けている上手い奴もいるだろうが、先輩たちは想像しているよりもはるかに上にいると考えておいた方がいい。まあ、まずは高校バスケのレベルを知ってもらおうと思う。今からゲームをやるから、よく見ておきなさい。そして各々、何かを感じとってほしい」

 そう言って宇佐美は二、三年だけ集めて指示をし始めた。こんなに早く実戦形式で先輩たちのプレーを見られるとは思っていなかった一年生たちは、予想もしていなかった展開にざわついていた。バスケの試合を生で見たことのない雪之丞もまた、気分が高揚して思わず大声を出していた。

「おお、試合かあ! ……つか、バスケの試合って何分でやんだっけ?」

「高校バスケの試合は、一クォーター十分の試合を四回繰り返すのよ。鳴海、あんたはわたしの隣にいなさい。ルールを教えてあげるから」

 そう言って、久美子は雪之丞に一冊の本を手渡した。表紙には『誰でも最初は初心者! 簡単にわかるバスケットボール』と書かれてある。

「あんたに宿題よ。これを読んで、インハイ予選までにバスケのルールを覚えること。とりあえず今日は、基本的な最低限のルールだけ説明するからね」

「あざっす! 助かるっす! 久美子先輩にはマジで感謝します!」

 雪之丞が素直に感謝の意を口にすると、久美子は少し照れたように咳払いをした。

「じゃあ早速、基本中の基本から説明するわ。ボールを持ったまま三歩以上歩くと『トラベリング』、ドリブルして一度止まってからまたドリブルすることを『ダブルドリブル』といって、反則になるわ。これくらいは知ってた?」

 雪之丞はかぶりを振った。

「……まあ、これからだしね。あとは試合を見ながら教えていくから」

「あざっす!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

ボクとセンセイの秘密

七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。 タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。 一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。 なので関西弁での会話が多くなります。 ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...