セキワンローキュー!

りっと

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第一Q 隻腕の単細胞

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 休憩を挟んだ後、ようやくボールを使った練習が始まった。

「次はドリブルシュート! 適当に左右に分かれろ!」

 多田が指示すると、部員たちはハーフライン上で二手に分かれた。右側にいる部員は右手でドリブルをし、そのまま下からゴールにボールを放り投げる形でシュート。打ち終わったら次は左に移動する。左側にいる部員はその逆のプレーを行う。つまり、左右交互にゴール下までドリブルしてシュートを打つ練習のようだ。

「つか、なんだ? あのシュートは?」

 バスケのシュートといえば遠くから放ってリングに通すものという先入観のある雪之丞は、下から軽く置いてくるような形のシュートに首を傾げた。

「あれはレイアップシュート。基本中の基本になるシュートよ」

 男臭い体育館の中で突然聞こえた女の声に驚く雪之丞の隣には、フットワークの際に鬼のように休みなく笛を吹き、雪之丞たちを苦しめていたマネージャーが立っていた。

 彼女の顔を見るとあのキツさが思い出され、思わず顔を顰めてしまった。

「なによその顔? わたしはマネージャーの浅香久美子あさかくみこ。二年生だし、お姉さまって呼んでね」

 ポニーテールを揺らしてウインクを決めた久美子は、やや丸顔なものの目力があり、長い睫毛とグラマラスな体が印象的な色気を感じさせる女性だった。

「ウス。よろしくお願いしゃす、お姉さま」

「ちょっと、冗談なんだから突っ込んで来なさいよね! ……まあとにかく、初心者のあんたはここから別メニューなの。こっちに来て」

 久美子に連れられてコートの隅っこに移動させられた雪之丞は、ボールを持たされた。

「ちょっと見てて」

 そう言って久美子は腰を落とし、その場でボールをつき始めた。ダム、ダムと、ボールが床に叩きつけられる音が、規則正しく聞こえてくる。

「これを正確にできることがドリブルの基本であり、脱初心者への第一歩よ。いい? まともにできるようにならないと、皆の練習には合流できないと思ってちょうだい」

 一人だけ別練習を命じられた雪之丞は、重大なことに気がついてしまった。

「……そ、それは大きな山っすね……!?」

 トレーナーを着ていても胸元の二つの山が目立つ久美子だが、彼女が動くことで山は更なる大きな揺れを起こし、大変刺激的な光景になるということだ。

「そうね。最初の課題としては大きな山になるでしょうね……って、見てるところが違う気がするんですけど?」

「いやいや! ちゃんと見ています! とても素敵です!」

「……まあ、いいわ。いい? ボールの落下地点を定めて、正確につくこと。慣れてきたら前後にV字を描くようにつく動きも入れていくこと。……はい、わたしと同じようにやってみて」

 指先でボールを自在に操る久美子の動きは見ている分には単純で簡単そうに見えるのに、いざやってみるとボールは生き物のように雪之丞の意思に関係なくあっちにいったりこっちにいったりして、まるで思い通りにならなかった。

「む、難しいっすね、これ」

「でしょ? こんな風に、ボールを自在に操る練習をハンドリングって言うの。ドリブル、パス、そしてシュートの基本になるからしっかり練習しておきなさいね」

「ウ、ウス!」

「いつでもどこでもできるハンドリングを教えておくわ。暇があれば常にボールに触る習慣をつけておくといいわよ」

 久美子が手本としてやってみせたのは、片手でボールの中心を掴むように弾くハンドリングだった。リズミカルに上下に動くボールは、久美子が自由自在に操っていることの証左である。

「……久美子先輩って、バスケやってたんですか?」

「小、中はね。膝を悪くしちゃって、選手として続ける道は諦めたんだけど……でも、片手だけでバスケを始めようとするあんた見て、諦めるのは早かったかなあって思った」

 久美子は少しだけ悔やんでいるかのように、ボールを撫でた。

「後悔する必要なんてないっすよ。久美子先輩がマネージャーやってなかったら、俺というスター選手の初コーチはできなかったんですから」

 雪之丞が不敵に笑うと、久美子はきょとんとした後、豪快に笑った。

「……そうね。それじゃあいっちょ、ガッツリしごいてやりますか!」

 久美子は雪之丞の背中を強く叩いて、目を輝かせた。
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