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第二Q ザ・レコード・オブ・ジョーズ・グロウス ~合宿編~
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土日は一日練習となるため、沢高バスケ部の休みは毎週月曜日と定められている。
バスケ部員がそれぞれ自由に過ごす、月曜日の放課後。ファストフード店で雪之丞の対面に座っている夏希は『誰でも最初は初心者! 簡単にわかるバスケットボール』を開いて、コホンと咳払いをした。
「じゃあ、バイオレーションの種類いくよ。……三秒ルール」
「攻撃チームのプレーヤーは、相手のバスケット下の制限区域内に三秒以上留まってはいけない」
「五秒ルール」
「……スローインでパスを出すまでに五秒以上かかってはいけない。フリースローで審判からボールをもらってからは、五秒以内にシュートを打たなければならない」
「それだけ?」
「……えっと、あるいはボールを持っている状態で、パスもドリブルもせずに五秒間留まっていてはいけない」
「オーケー。八秒ルールは?」
「あー……なんだっけ、ボールを持った時点から八秒以内に、ボールをフロントコートに入れなければならない?」
「じゃあ最後、二十四秒ルール」
「……攻めているチームはボールを持った時点から、二十四秒以内にシュートを打たなければならない! どうよ!?」
「……合格!」
夏希が指で作ったOKマークを確認した雪之丞は、大きく息を吐いた。これで一応、バスケットボールの基本的なルールは覚えたはずである。
「しんどかったー! 頭から何度煙が出たことか……付き合わせてわりいな、夏希」
入部して以来ずっと、ルールを覚えるための手伝いをしてくれた夏希に礼を告げた。夏希は雪之丞が久美子から渡されていたルールブックを片手に頬杖をつきながら、
「毎度毎度付き合わされるもんだから、わたしまでバスケのルール覚えちゃったわよ。さーて、目的は達成したわけだし? 誠意を見せてもらおっかな!」
「え、なんだよ。脱げばいいのか?」
「わたしゃどこの悪代官よ。シェイクでも奢ってもらおうかなって言ってんの! ストロベリーがいいな」
「安上がりな女だな。いくらでも買ってやるよ」
雪之丞はレジに並んで、ストロベリーシェイク五個と自分のハンバーガー三個を購入した。夏希は甘いものが大好物のくせにまるで太らないのが不思議である。胸を中心にもう少し肉がつけば安藤智絵里ちゃん風の俺好みのスタイルになるのにと、夏希に怒られそうなことを思いながら席に戻ろうとすると、夏希が茶髪で色の黒い男に絡まれているのが見えた。
「ねえねえ、今からどっか遊びに行こうよぉー! 女子高生ってさあー、ドライブとか好きじゃん?」
人を見かけで判断するのは良くないが、風貌や話し方から男は非常に軽薄な人間に思われた。夏希は完全無視を決め込んでいるようだが、男はなかなか根性を見せてしつこく声をかけ続けていた。
「俺、一緒にいると楽しいってよく言われるんだよねー! 君のことも絶対楽しませてあげる自信あるよーん!」
夏希は男に目もくれず、スマホを弄っている。
「お? ママに今日は遅くなるって連絡してるのかなー? 俺、あっちの方も自信あるから超頑張っちゃうぜー!」
男がウインクを決めながら夏希の手を握ろうとしたとき、
「そうか。でも残念だったな、こいつと遊んでもお前が楽しいことなんか何もねえぞ?」
雪之丞は男の肩を掴んだ。男は凄みながら振り返ったが、雪之丞の顔を見た途端「冗談だよん」とヘラヘラと笑いながら去っていった。雪之丞の大きな体と目つきの悪さは、こういうときだけ役に立つ。
「……あんたが遅いから、面倒なことになったんだけど?」
「はあ? 俺のせいかよ」
「ジョーがヤンキーだの不良だのチャラ男だのを引き寄せるオーラを放ってんのが悪いのよ。売られた喧嘩は買う? みたいな挑戦的な姿勢っていうのかな。そういうの気をつけないと、いつか痛い目に合うんだからね」
八つ当たりを受けながら機嫌の悪そうな夏希の前にシェイクを並べると、「多すぎ!」と呆れたように笑われた。
「ヘーヘーすみませんねえ。……でもよ、お前の格好にも責任はあるぞ? そんな露出の激しい服なんか着やがって」
夏希が着ている肩が大きく開いているグレーのニットワンピは裾が短く、細い太腿の大部分は見えているし、耳にはピアス、腕にはブレスレットを重ね、目を中心に化粧もしている。雰囲気からは身持ちの固い女には見えないだろう。
「……これはねー、目つきの悪いあんたに合わせてやってんのよ。わたしが大人しい美少女だったら、一緒にいるだけでイジメみたいな構図になっちゃうでしょ?」
言われてみれば、雪之丞が左手を失って絡まれることが増え、喧嘩が絶えなくなってきた頃と同時期に夏希は派手になっていった気がするが、どうせ自分の格好を正当化するための詭弁だろう。そう思った雪之丞は溜息を吐いた。
「余計なお世話だっつの。つか、美少女ってどこにいんだよ?」
「うっさいわね。……でもやっぱり、軽く見られがちなのは面倒だわ。あーいうの、しょっちゅうあるし」
夏希は男が去っていった方向を見ながら、唇を尖らせた。
「実際はバリバリの処女なのにな」
「実は違うって言ったら、どうする?」
夏希の言葉に、雪之丞は少しだけ不快な気持ちになった。
「……え、マジか? ……考えもしなかったけど……」
「けど?」
「……少し、嫌かもしれん」
そう答えると、不思議と夏希は嬉しそうに微笑んだ。
「ふーん。そうなんだ? じゃあ、初体験はジョーにあげようか?」
「おい、やっぱ処女なんじゃねえかよ! もらってやってもいいけど、お前に勃つかどうか不安だな」
夏希に向こう脛を蹴られた。思わず声をあげるくらい、強力な一撃だった。
「いってえな! ……お前、そういうこと口にするから軽いって思われるんじゃねえの?」
「安心して。こんな冗談、ジョーにしか言わないから」
それは今の関係を壊しかねない重大発言にも思われたが、本気にして夏希にからかわれるのも面倒だと思った雪之丞は適当に流すことにした。
「俺はお前のことは裏の裏まで知ってるからな。そう簡単に騙せると思ったら大間違いだぞ」
「裏の裏って表じゃん、馬鹿。……まあ、そうかもしれないけれど、ジョーにもわかってないことはあると思うわよ」
「そうかあ?」
「そうよ。……はい、もうこの話は終わり! ていうか、シェイク五個とか飲めるわけないじゃん!」
口ではそう言いつつも笑ってストローを咥える夏希を見ながら、雪之丞は少し冷めてしまったハンバーガーを頬張った。
「ねえ、洛央高校との練習試合って五月十六日よね? わたしも見に行くわ、笑いに」
「てめえ。部活動に勤しむいたいけな少年を笑いにくるとは、どういう了見だよ」
「ウソウソ、応援しに行くって。ここまで付き合ってあげたんだから、頑張りなさいよ!」
夏希は読み込んだ本を片手に、白い歯を見せた。
バスケ部員がそれぞれ自由に過ごす、月曜日の放課後。ファストフード店で雪之丞の対面に座っている夏希は『誰でも最初は初心者! 簡単にわかるバスケットボール』を開いて、コホンと咳払いをした。
「じゃあ、バイオレーションの種類いくよ。……三秒ルール」
「攻撃チームのプレーヤーは、相手のバスケット下の制限区域内に三秒以上留まってはいけない」
「五秒ルール」
「……スローインでパスを出すまでに五秒以上かかってはいけない。フリースローで審判からボールをもらってからは、五秒以内にシュートを打たなければならない」
「それだけ?」
「……えっと、あるいはボールを持っている状態で、パスもドリブルもせずに五秒間留まっていてはいけない」
「オーケー。八秒ルールは?」
「あー……なんだっけ、ボールを持った時点から八秒以内に、ボールをフロントコートに入れなければならない?」
「じゃあ最後、二十四秒ルール」
「……攻めているチームはボールを持った時点から、二十四秒以内にシュートを打たなければならない! どうよ!?」
「……合格!」
夏希が指で作ったOKマークを確認した雪之丞は、大きく息を吐いた。これで一応、バスケットボールの基本的なルールは覚えたはずである。
「しんどかったー! 頭から何度煙が出たことか……付き合わせてわりいな、夏希」
入部して以来ずっと、ルールを覚えるための手伝いをしてくれた夏希に礼を告げた。夏希は雪之丞が久美子から渡されていたルールブックを片手に頬杖をつきながら、
「毎度毎度付き合わされるもんだから、わたしまでバスケのルール覚えちゃったわよ。さーて、目的は達成したわけだし? 誠意を見せてもらおっかな!」
「え、なんだよ。脱げばいいのか?」
「わたしゃどこの悪代官よ。シェイクでも奢ってもらおうかなって言ってんの! ストロベリーがいいな」
「安上がりな女だな。いくらでも買ってやるよ」
雪之丞はレジに並んで、ストロベリーシェイク五個と自分のハンバーガー三個を購入した。夏希は甘いものが大好物のくせにまるで太らないのが不思議である。胸を中心にもう少し肉がつけば安藤智絵里ちゃん風の俺好みのスタイルになるのにと、夏希に怒られそうなことを思いながら席に戻ろうとすると、夏希が茶髪で色の黒い男に絡まれているのが見えた。
「ねえねえ、今からどっか遊びに行こうよぉー! 女子高生ってさあー、ドライブとか好きじゃん?」
人を見かけで判断するのは良くないが、風貌や話し方から男は非常に軽薄な人間に思われた。夏希は完全無視を決め込んでいるようだが、男はなかなか根性を見せてしつこく声をかけ続けていた。
「俺、一緒にいると楽しいってよく言われるんだよねー! 君のことも絶対楽しませてあげる自信あるよーん!」
夏希は男に目もくれず、スマホを弄っている。
「お? ママに今日は遅くなるって連絡してるのかなー? 俺、あっちの方も自信あるから超頑張っちゃうぜー!」
男がウインクを決めながら夏希の手を握ろうとしたとき、
「そうか。でも残念だったな、こいつと遊んでもお前が楽しいことなんか何もねえぞ?」
雪之丞は男の肩を掴んだ。男は凄みながら振り返ったが、雪之丞の顔を見た途端「冗談だよん」とヘラヘラと笑いながら去っていった。雪之丞の大きな体と目つきの悪さは、こういうときだけ役に立つ。
「……あんたが遅いから、面倒なことになったんだけど?」
「はあ? 俺のせいかよ」
「ジョーがヤンキーだの不良だのチャラ男だのを引き寄せるオーラを放ってんのが悪いのよ。売られた喧嘩は買う? みたいな挑戦的な姿勢っていうのかな。そういうの気をつけないと、いつか痛い目に合うんだからね」
八つ当たりを受けながら機嫌の悪そうな夏希の前にシェイクを並べると、「多すぎ!」と呆れたように笑われた。
「ヘーヘーすみませんねえ。……でもよ、お前の格好にも責任はあるぞ? そんな露出の激しい服なんか着やがって」
夏希が着ている肩が大きく開いているグレーのニットワンピは裾が短く、細い太腿の大部分は見えているし、耳にはピアス、腕にはブレスレットを重ね、目を中心に化粧もしている。雰囲気からは身持ちの固い女には見えないだろう。
「……これはねー、目つきの悪いあんたに合わせてやってんのよ。わたしが大人しい美少女だったら、一緒にいるだけでイジメみたいな構図になっちゃうでしょ?」
言われてみれば、雪之丞が左手を失って絡まれることが増え、喧嘩が絶えなくなってきた頃と同時期に夏希は派手になっていった気がするが、どうせ自分の格好を正当化するための詭弁だろう。そう思った雪之丞は溜息を吐いた。
「余計なお世話だっつの。つか、美少女ってどこにいんだよ?」
「うっさいわね。……でもやっぱり、軽く見られがちなのは面倒だわ。あーいうの、しょっちゅうあるし」
夏希は男が去っていった方向を見ながら、唇を尖らせた。
「実際はバリバリの処女なのにな」
「実は違うって言ったら、どうする?」
夏希の言葉に、雪之丞は少しだけ不快な気持ちになった。
「……え、マジか? ……考えもしなかったけど……」
「けど?」
「……少し、嫌かもしれん」
そう答えると、不思議と夏希は嬉しそうに微笑んだ。
「ふーん。そうなんだ? じゃあ、初体験はジョーにあげようか?」
「おい、やっぱ処女なんじゃねえかよ! もらってやってもいいけど、お前に勃つかどうか不安だな」
夏希に向こう脛を蹴られた。思わず声をあげるくらい、強力な一撃だった。
「いってえな! ……お前、そういうこと口にするから軽いって思われるんじゃねえの?」
「安心して。こんな冗談、ジョーにしか言わないから」
それは今の関係を壊しかねない重大発言にも思われたが、本気にして夏希にからかわれるのも面倒だと思った雪之丞は適当に流すことにした。
「俺はお前のことは裏の裏まで知ってるからな。そう簡単に騙せると思ったら大間違いだぞ」
「裏の裏って表じゃん、馬鹿。……まあ、そうかもしれないけれど、ジョーにもわかってないことはあると思うわよ」
「そうかあ?」
「そうよ。……はい、もうこの話は終わり! ていうか、シェイク五個とか飲めるわけないじゃん!」
口ではそう言いつつも笑ってストローを咥える夏希を見ながら、雪之丞は少し冷めてしまったハンバーガーを頬張った。
「ねえ、洛央高校との練習試合って五月十六日よね? わたしも見に行くわ、笑いに」
「てめえ。部活動に勤しむいたいけな少年を笑いにくるとは、どういう了見だよ」
「ウソウソ、応援しに行くって。ここまで付き合ってあげたんだから、頑張りなさいよ!」
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