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第二Q ザ・レコード・オブ・ジョーズ・グロウス ~合宿編~
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ゴールデンウィーク初日、五月二日。
今日から二泊三日で毎年恒例・男女合同の沢高バスケ部短期合宿が行われるため、雪之丞たちバスケ部は七時半に体育館に集まっていた。
ハーフラインを境にネットで二つに分けられたコートの向こう側を見ると、肩まである黒髪を一つに結び、誰かと談笑している紗綾の姿が見えた。
先輩たち曰く、この合宿は直前に控えたインターハイ予選を勝ち抜くための実力の底上げを目的とした相当きつい合宿らしいのだが、雪之丞は胸を躍らせていた。
その理由は実に不純。女子バスケ部と合同ということは、紗綾と一緒だからである。つまり、彼女と接近する大チャンスなのだ。
「集合!」
心なしか普段より凛とした多田の掛け声で、男子バスケ部は宇佐美の周りに集まった。宇佐美は部員全員の顔を見回し、
「まず何よりも最初に言っておくことは、この合宿は女子も一緒だが間違ってもハメを外さないようにということだ。何しに来ているかよく考えて行動するように」
雪之丞をはじめ、若干浮ついていた者たちに釘を刺した。
「俺が合宿で力を入れたいのは、個人単位でのレベルアップだ。チームプレーの連携も勿論重要だが、個々の力が不甲斐ないようではインターハイ出場には遠く及ばないだろう。一人ひとりが己の弱点を見極め、克服することを本合宿のテーマにしようと思う。例年通り、かなり厳しい練習になるから覚悟してほしい」
宇佐美の脅しにも似た発言に、一年生の顔には不安の色が浮かんだ。
「今日のタイムスケジュールはホワイトボードに書いておくから、確認しておくように。八時から練習を開始するから、八時までは各々自分の課題をどう克服するのか考えてなさい。では、一旦解散!」
自由時間を与えられた部員たちは、軽くシュートを打ったりストレッチをしたりしながら、それぞれの弱点と向き合っていた。
「久美子先輩、俺の課題ってなんでしょうね?」
できていないことが多すぎて何を課題と言っていいのかわからなかった雪之丞は、久美子に相談してみた。
「……さしあたり、全部?」
「……やっぱ、そっすか?」
この合宿、相当気合を入れる必要がありそうだった。
◇
ホワイトボードに記載されていた練習メニューは、普段とは内容が異なっていた。
「げ!? 体力作りのメニューが、激増してやがる……」
普段の練習メニューだけでも十分きついというのに、合宿では体を苛め倒すことを目的とした鬼のようなメニューが組まれていた。バスケに必要なフィジカルを鍛えるために欠かせない練習とはいえ、過酷な練習を好む者は希少だ。雪之丞だけではなく、皆がげんなりとした表情を浮かべた。
そんな中、廉は雪之丞に向かって嘲るように言った。
「鳴海、嫌なら帰っていいんだぜ? 不快な奴が視界から消えるのは歓迎だ」
「……上等っすよ。さあ多田先輩! 早速練習始めましょう! 俺は廉先輩よりやる気がありますよ!」
煽られたことでより一層闘争心をむき出しにする雪之丞を見て、廉は舌打ちをした。
八時から始まった練習は、ランニング、フットワーク、筋トレと続き、二時間かけてようやくボールを持たない練習が終わった。一年生はすでに疲労しきっているし、ニ、三年生でもぐったりしている部員も見受けられる中、スタメン陣はさすがであった。
勿論、疲れていないといえば嘘になるのだろうが、他の部員たちよりも体力が上回っていることは間違いなく、それを顔に出さない演技力もまた尊敬に値するものであった。
鬼のような体力作りメニューの次は、ドリブルからのレイアップシュート、ストップからのジャンプシュートの練習だった。紗綾の指導と毎日の個人練習を重ね、人並み程度にドリブルができるようになった雪之丞は、今では個別練習ではなく全体練習に参加することを許されていた。
シュート練習は好きなのだが、成功率はまだまだ低い。ゴールのすぐ近くで打つシュートということもあって「決めて当たり前」と言われるレイアップシュートですら、雪之丞にとっては難関だった。
今日も一本も決められないまま試行錯誤していると、何やら宇佐美と話していた久美子に呼び出しをくらった。
「さあ鳴海、今から個人メニューよ」
「……え、また別練習っすか?」
せっかく全体練習に混ざれるようになったのにと、肩を落とした。
「ポジティブに考えなさい。早くちゃんとしたスキルを身につけてほしいって思われているってことは、監督から戦力として期待されているってことじゃない?」
久美子がウインクしながらボールを手渡してきた。思わず宇佐美を見ると、雪之丞の視線に気づいた彼は口角を上げて頷いた。
「さあさあ、なんでも言ってください! 今ならなんだってできる気がするっす!」
気分一転、雪之丞は興奮気味に久美子に笑顔を見せた。
「ふふ、いい心がけじゃない。インハイ予選まで時間がないこの状況で、初心者かつ片手しか使えないあんたには、取得すべきプレーの優先順位を考えて指導をすることに決めたの。鳴海の指導はわたしが監督から一任されているから、しっかりついてくるのよ!」
久美子を信頼している雪之丞は、彼女に師事することに対して不満は一つもない。
「ウス! よろしくお願いしゃす!」
今日から二泊三日で毎年恒例・男女合同の沢高バスケ部短期合宿が行われるため、雪之丞たちバスケ部は七時半に体育館に集まっていた。
ハーフラインを境にネットで二つに分けられたコートの向こう側を見ると、肩まである黒髪を一つに結び、誰かと談笑している紗綾の姿が見えた。
先輩たち曰く、この合宿は直前に控えたインターハイ予選を勝ち抜くための実力の底上げを目的とした相当きつい合宿らしいのだが、雪之丞は胸を躍らせていた。
その理由は実に不純。女子バスケ部と合同ということは、紗綾と一緒だからである。つまり、彼女と接近する大チャンスなのだ。
「集合!」
心なしか普段より凛とした多田の掛け声で、男子バスケ部は宇佐美の周りに集まった。宇佐美は部員全員の顔を見回し、
「まず何よりも最初に言っておくことは、この合宿は女子も一緒だが間違ってもハメを外さないようにということだ。何しに来ているかよく考えて行動するように」
雪之丞をはじめ、若干浮ついていた者たちに釘を刺した。
「俺が合宿で力を入れたいのは、個人単位でのレベルアップだ。チームプレーの連携も勿論重要だが、個々の力が不甲斐ないようではインターハイ出場には遠く及ばないだろう。一人ひとりが己の弱点を見極め、克服することを本合宿のテーマにしようと思う。例年通り、かなり厳しい練習になるから覚悟してほしい」
宇佐美の脅しにも似た発言に、一年生の顔には不安の色が浮かんだ。
「今日のタイムスケジュールはホワイトボードに書いておくから、確認しておくように。八時から練習を開始するから、八時までは各々自分の課題をどう克服するのか考えてなさい。では、一旦解散!」
自由時間を与えられた部員たちは、軽くシュートを打ったりストレッチをしたりしながら、それぞれの弱点と向き合っていた。
「久美子先輩、俺の課題ってなんでしょうね?」
できていないことが多すぎて何を課題と言っていいのかわからなかった雪之丞は、久美子に相談してみた。
「……さしあたり、全部?」
「……やっぱ、そっすか?」
この合宿、相当気合を入れる必要がありそうだった。
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ホワイトボードに記載されていた練習メニューは、普段とは内容が異なっていた。
「げ!? 体力作りのメニューが、激増してやがる……」
普段の練習メニューだけでも十分きついというのに、合宿では体を苛め倒すことを目的とした鬼のようなメニューが組まれていた。バスケに必要なフィジカルを鍛えるために欠かせない練習とはいえ、過酷な練習を好む者は希少だ。雪之丞だけではなく、皆がげんなりとした表情を浮かべた。
そんな中、廉は雪之丞に向かって嘲るように言った。
「鳴海、嫌なら帰っていいんだぜ? 不快な奴が視界から消えるのは歓迎だ」
「……上等っすよ。さあ多田先輩! 早速練習始めましょう! 俺は廉先輩よりやる気がありますよ!」
煽られたことでより一層闘争心をむき出しにする雪之丞を見て、廉は舌打ちをした。
八時から始まった練習は、ランニング、フットワーク、筋トレと続き、二時間かけてようやくボールを持たない練習が終わった。一年生はすでに疲労しきっているし、ニ、三年生でもぐったりしている部員も見受けられる中、スタメン陣はさすがであった。
勿論、疲れていないといえば嘘になるのだろうが、他の部員たちよりも体力が上回っていることは間違いなく、それを顔に出さない演技力もまた尊敬に値するものであった。
鬼のような体力作りメニューの次は、ドリブルからのレイアップシュート、ストップからのジャンプシュートの練習だった。紗綾の指導と毎日の個人練習を重ね、人並み程度にドリブルができるようになった雪之丞は、今では個別練習ではなく全体練習に参加することを許されていた。
シュート練習は好きなのだが、成功率はまだまだ低い。ゴールのすぐ近くで打つシュートということもあって「決めて当たり前」と言われるレイアップシュートですら、雪之丞にとっては難関だった。
今日も一本も決められないまま試行錯誤していると、何やら宇佐美と話していた久美子に呼び出しをくらった。
「さあ鳴海、今から個人メニューよ」
「……え、また別練習っすか?」
せっかく全体練習に混ざれるようになったのにと、肩を落とした。
「ポジティブに考えなさい。早くちゃんとしたスキルを身につけてほしいって思われているってことは、監督から戦力として期待されているってことじゃない?」
久美子がウインクしながらボールを手渡してきた。思わず宇佐美を見ると、雪之丞の視線に気づいた彼は口角を上げて頷いた。
「さあさあ、なんでも言ってください! 今ならなんだってできる気がするっす!」
気分一転、雪之丞は興奮気味に久美子に笑顔を見せた。
「ふふ、いい心がけじゃない。インハイ予選まで時間がないこの状況で、初心者かつ片手しか使えないあんたには、取得すべきプレーの優先順位を考えて指導をすることに決めたの。鳴海の指導はわたしが監督から一任されているから、しっかりついてくるのよ!」
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「ウス! よろしくお願いしゃす!」
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