セキワンローキュー!

りっと

文字の大きさ
19 / 60
第二Q ザ・レコード・オブ・ジョーズ・グロウス ~合宿編~

2

しおりを挟む
 ゴールデンウィーク初日、五月二日。

 今日から二泊三日で毎年恒例・男女合同の沢高バスケ部短期合宿が行われるため、雪之丞たちバスケ部は七時半に体育館に集まっていた。

 ハーフラインを境にネットで二つに分けられたコートの向こう側を見ると、肩まである黒髪を一つに結び、誰かと談笑している紗綾の姿が見えた。

 先輩たち曰く、この合宿は直前に控えたインターハイ予選を勝ち抜くための実力の底上げを目的とした相当きつい合宿らしいのだが、雪之丞は胸を躍らせていた。

 その理由は実に不純。女子バスケ部と合同ということは、紗綾と一緒だからである。つまり、彼女と接近する大チャンスなのだ。

「集合!」

 心なしか普段より凛とした多田の掛け声で、男子バスケ部は宇佐美の周りに集まった。宇佐美は部員全員の顔を見回し、

「まず何よりも最初に言っておくことは、この合宿は女子も一緒だが間違ってもハメを外さないようにということだ。何しに来ているかよく考えて行動するように」

 雪之丞をはじめ、若干浮ついていた者たちに釘を刺した。

「俺が合宿で力を入れたいのは、個人単位でのレベルアップだ。チームプレーの連携も勿論重要だが、個々の力が不甲斐ないようではインターハイ出場には遠く及ばないだろう。一人ひとりが己の弱点を見極め、克服することを本合宿のテーマにしようと思う。例年通り、かなり厳しい練習になるから覚悟してほしい」

 宇佐美の脅しにも似た発言に、一年生の顔には不安の色が浮かんだ。

「今日のタイムスケジュールはホワイトボードに書いておくから、確認しておくように。八時から練習を開始するから、八時までは各々自分の課題をどう克服するのか考えてなさい。では、一旦解散!」

 自由時間を与えられた部員たちは、軽くシュートを打ったりストレッチをしたりしながら、それぞれの弱点と向き合っていた。

「久美子先輩、俺の課題ってなんでしょうね?」

 できていないことが多すぎて何を課題と言っていいのかわからなかった雪之丞は、久美子に相談してみた。

「……さしあたり、全部?」

「……やっぱ、そっすか?」

 この合宿、相当気合を入れる必要がありそうだった。

          ◇

 ホワイトボードに記載されていた練習メニューは、普段とは内容が異なっていた。

「げ!? 体力作りのメニューが、激増してやがる……」

 普段の練習メニューだけでも十分きついというのに、合宿では体を苛め倒すことを目的とした鬼のようなメニューが組まれていた。バスケに必要なフィジカルを鍛えるために欠かせない練習とはいえ、過酷な練習を好む者は希少だ。雪之丞だけではなく、皆がげんなりとした表情を浮かべた。

 そんな中、廉は雪之丞に向かって嘲るように言った。

「鳴海、嫌なら帰っていいんだぜ? 不快な奴が視界から消えるのは歓迎だ」

「……上等っすよ。さあ多田先輩! 早速練習始めましょう! 俺は廉先輩よりやる気がありますよ!」

 煽られたことでより一層闘争心をむき出しにする雪之丞を見て、廉は舌打ちをした。

 八時から始まった練習は、ランニング、フットワーク、筋トレと続き、二時間かけてようやくボールを持たない練習が終わった。一年生はすでに疲労しきっているし、ニ、三年生でもぐったりしている部員も見受けられる中、スタメン陣はさすがであった。

 勿論、疲れていないといえば嘘になるのだろうが、他の部員たちよりも体力が上回っていることは間違いなく、それを顔に出さない演技力もまた尊敬に値するものであった。

 鬼のような体力作りメニューの次は、ドリブルからのレイアップシュート、ストップからのジャンプシュートの練習だった。紗綾の指導と毎日の個人練習を重ね、人並み程度にドリブルができるようになった雪之丞は、今では個別練習ではなく全体練習に参加することを許されていた。

 シュート練習は好きなのだが、成功率はまだまだ低い。ゴールのすぐ近くで打つシュートということもあって「決めて当たり前」と言われるレイアップシュートですら、雪之丞にとっては難関だった。

 今日も一本も決められないまま試行錯誤していると、何やら宇佐美と話していた久美子に呼び出しをくらった。

「さあ鳴海、今から個人メニューよ」

「……え、また別練習っすか?」

 せっかく全体練習に混ざれるようになったのにと、肩を落とした。

「ポジティブに考えなさい。早くちゃんとしたスキルを身につけてほしいって思われているってことは、監督から戦力として期待されているってことじゃない?」

 久美子がウインクしながらボールを手渡してきた。思わず宇佐美を見ると、雪之丞の視線に気づいた彼は口角を上げて頷いた。

「さあさあ、なんでも言ってください! 今ならなんだってできる気がするっす!」

 気分一転、雪之丞は興奮気味に久美子に笑顔を見せた。

「ふふ、いい心がけじゃない。インハイ予選まで時間がないこの状況で、初心者かつ片手しか使えないあんたには、取得すべきプレーの優先順位を考えて指導をすることに決めたの。鳴海の指導はわたしが監督から一任されているから、しっかりついてくるのよ!」

 久美子を信頼している雪之丞は、彼女に師事することに対して不満は一つもない。

「ウス! よろしくお願いしゃす!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

ボクとセンセイの秘密

七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。 タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。 一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。 なので関西弁での会話が多くなります。 ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...