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第二Q ザ・レコード・オブ・ジョーズ・グロウス ~合宿編~
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十六時を過ぎると雪之丞は個別練習を一旦切り上げ、全体練習に合流するように指示を受けた。
ボールキープの能力が著しく低い分、雪之丞は他の選手よりも素早い次行動への判断力が求められた。ボールを持ったら囲まれる前にパスを出すのか、ドリブルで抜くのか、シュートを打つのか。それらの判断を瞬時に自分でできるようにならなければ、あっという間にボールを取られてしまう。
それなのに、雪之丞は経験不足から圧倒的に判断が遅く、また実力的に行動の選択肢が少ないために、敵を有利にさせてしまうのだった。
「だからあ! 違うって言ってるだろ!? 足を使ってコースを塞ぐんだよ!」
「う、ウス! すみません!」
ディフェンスも同様だ。左手で守れない分人一倍足を動かせと宇佐美や多田をはじめ他の部員からも口を酸っぱくして言われた。体力に自信があっても、バスケの動きができなければ使い物にならないことを痛感する。ミスした内容をさらい問題点を浮き彫りにしてからゴール下でのブロック練習を重ねたし、マンツーマンでの守り方を徹底的に指導されてから繰り返し反復練習をした。
しかし練習してできるようになったつもりでも、いざ実戦になると思うように体が動かせなかった。雪之丞は何度も抜かれ、何度も止められ、何度も怒鳴られた。
そういった学ぶことの多い全体練習の中でも、雪之丞が最も衝撃を受けたのはリバウンドだった。雪之丞のマッチアップとして対戦させられたのは、スタメンPFの岡村である。
岡村と雪之丞は背丈は大して変わらないのだが、その実力差は歴然としていた。リバウンド勝負になると必ず競り負け、ボールを取られた。岡村はリバウンドしやすい位置に入るのが速く、そこに侵入しようとしてくる敵がいたら力で追い払ってしまう。つまり、岡村はブロックアウトが抜群に上手い選手だったのだ。
久美子との練習では対人でのブロックアウトの練習ができなかったため、敵がいるのといないのとではリバウンドの難易度がこんなにも変わるものだとは思っていなかった。
雪之丞はこの日、まぐれの数本を除いて岡村からリバウンドを取らせてもらえなかった。
◇
「合宿一日目終了! あざっした!」
「「した!」」
部員全員で体育館に頭を下げ、合宿初日の練習は終わった。一秒でも早く寝転がりたいところだが、一年生は体育館の掃除をしてから食堂に来るように言われている。
「食事の準備はしなくていいのかな? 中学のときの合宿だと、一年が掃除も食事もやらされたんだけど……」
雪之丞と一緒にモップがけをしながら、貞本は疲弊しきった顔で呟いた。
「久美子先輩がいらねえって言ってたし、いいんじゃね? それにしても楽しみだよなー! 久美子先輩、何作ってくれるんだろな?」
「鳴海、よく食欲あるな。俺、もうヘトヘトで食べられる気がしないよ……」
「何もったいないこと言ってんだよ。美人女子マネの手料理って、部活の醍醐味って感じでわくわくしねえか? 定番のカレーか? ジューシーな唐揚げか? いやいや、味の染みた和食かもなー!」
久美子の手料理に思いを馳せつつ、胸を躍らせリズミカルにモップがけに励んだ雪之丞の幻想にも似た期待は、斜め上の方向に裏切られることになった。
掃除を済ませ鼻歌を歌いながら食堂に向かうと、久美子と、藤ヶ谷廉ファンクラブリーダーの名塚と、コック服を着たシェフたちが皿を並べていた。
「な、なんだ……? つか、なんだこの飯。すげえ美味そう……!」
白米に味噌汁は勿論、効率よくエネルギー摂取をするために蜂蜜をかけたヨーグルト、疲労の回復を手伝うビタミンB1が含まれている豚肉など、タンパク質の摂取を中心とした一汁十菜のアスリート向けの完璧な夕食だった。昼は各自弁当持参だったので気がつかなかったが、これは合宿中の部員にとってはとても恵まれた食事である。
口を開けてテーブルの上に並べられた夕食を見ていると、
「合宿とか遠征で自炊しないといけないときは、名塚さんの家が全面サポートしてくれるからね。そりゃ頭も上がりませんて」
エプロン姿の久美子が、名塚に向かって拝む仕草をしてみせた。
「すげえ美味そうっすけど……でも俺、久美子先輩の手料理を期待していたから、ちょっと残念っす」
「あら、可愛いこと言うわね。わたしはお皿の準備をしただけよ」
「子どものお手伝いっすね」とからかおうとも思ったが、面倒なことになりそうだったので自粛しておいた。
部員全員が席に着いたのを確認した名塚が、手を叩いて視線を集めた。
「名塚家自慢のシェフが、腕によりをかけて作った夕食ですわ! トレーニングを終えてから三十分以内に食べるのがアスリートの基本です! さあ、どんどん召し上がってくださいませ!」
「「あざーっす! いただきます!」」
部員たちはテーブルの上に並べられた皿に、一斉に手を付け始めた。
「うっま! なんだコレ!?」
おにぎり一個なら三秒で食べられる特技を持つ程、早食いに定評がある雪之丞だ。用意された食事のあまりの美味しさに、周りを驚愕させるペースで食べ物を消化していった。
「そうでしょ? 名塚さんのおかげでこんなに美味しくて健康的な食事ができるもんだから、毎回食事の時間が楽しみでしょうがないのよ」
名塚家特製ドレッシングをかけたサラダを齧り、久美子は満足そうな顔をした。
ボールキープの能力が著しく低い分、雪之丞は他の選手よりも素早い次行動への判断力が求められた。ボールを持ったら囲まれる前にパスを出すのか、ドリブルで抜くのか、シュートを打つのか。それらの判断を瞬時に自分でできるようにならなければ、あっという間にボールを取られてしまう。
それなのに、雪之丞は経験不足から圧倒的に判断が遅く、また実力的に行動の選択肢が少ないために、敵を有利にさせてしまうのだった。
「だからあ! 違うって言ってるだろ!? 足を使ってコースを塞ぐんだよ!」
「う、ウス! すみません!」
ディフェンスも同様だ。左手で守れない分人一倍足を動かせと宇佐美や多田をはじめ他の部員からも口を酸っぱくして言われた。体力に自信があっても、バスケの動きができなければ使い物にならないことを痛感する。ミスした内容をさらい問題点を浮き彫りにしてからゴール下でのブロック練習を重ねたし、マンツーマンでの守り方を徹底的に指導されてから繰り返し反復練習をした。
しかし練習してできるようになったつもりでも、いざ実戦になると思うように体が動かせなかった。雪之丞は何度も抜かれ、何度も止められ、何度も怒鳴られた。
そういった学ぶことの多い全体練習の中でも、雪之丞が最も衝撃を受けたのはリバウンドだった。雪之丞のマッチアップとして対戦させられたのは、スタメンPFの岡村である。
岡村と雪之丞は背丈は大して変わらないのだが、その実力差は歴然としていた。リバウンド勝負になると必ず競り負け、ボールを取られた。岡村はリバウンドしやすい位置に入るのが速く、そこに侵入しようとしてくる敵がいたら力で追い払ってしまう。つまり、岡村はブロックアウトが抜群に上手い選手だったのだ。
久美子との練習では対人でのブロックアウトの練習ができなかったため、敵がいるのといないのとではリバウンドの難易度がこんなにも変わるものだとは思っていなかった。
雪之丞はこの日、まぐれの数本を除いて岡村からリバウンドを取らせてもらえなかった。
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「合宿一日目終了! あざっした!」
「「した!」」
部員全員で体育館に頭を下げ、合宿初日の練習は終わった。一秒でも早く寝転がりたいところだが、一年生は体育館の掃除をしてから食堂に来るように言われている。
「食事の準備はしなくていいのかな? 中学のときの合宿だと、一年が掃除も食事もやらされたんだけど……」
雪之丞と一緒にモップがけをしながら、貞本は疲弊しきった顔で呟いた。
「久美子先輩がいらねえって言ってたし、いいんじゃね? それにしても楽しみだよなー! 久美子先輩、何作ってくれるんだろな?」
「鳴海、よく食欲あるな。俺、もうヘトヘトで食べられる気がしないよ……」
「何もったいないこと言ってんだよ。美人女子マネの手料理って、部活の醍醐味って感じでわくわくしねえか? 定番のカレーか? ジューシーな唐揚げか? いやいや、味の染みた和食かもなー!」
久美子の手料理に思いを馳せつつ、胸を躍らせリズミカルにモップがけに励んだ雪之丞の幻想にも似た期待は、斜め上の方向に裏切られることになった。
掃除を済ませ鼻歌を歌いながら食堂に向かうと、久美子と、藤ヶ谷廉ファンクラブリーダーの名塚と、コック服を着たシェフたちが皿を並べていた。
「な、なんだ……? つか、なんだこの飯。すげえ美味そう……!」
白米に味噌汁は勿論、効率よくエネルギー摂取をするために蜂蜜をかけたヨーグルト、疲労の回復を手伝うビタミンB1が含まれている豚肉など、タンパク質の摂取を中心とした一汁十菜のアスリート向けの完璧な夕食だった。昼は各自弁当持参だったので気がつかなかったが、これは合宿中の部員にとってはとても恵まれた食事である。
口を開けてテーブルの上に並べられた夕食を見ていると、
「合宿とか遠征で自炊しないといけないときは、名塚さんの家が全面サポートしてくれるからね。そりゃ頭も上がりませんて」
エプロン姿の久美子が、名塚に向かって拝む仕草をしてみせた。
「すげえ美味そうっすけど……でも俺、久美子先輩の手料理を期待していたから、ちょっと残念っす」
「あら、可愛いこと言うわね。わたしはお皿の準備をしただけよ」
「子どものお手伝いっすね」とからかおうとも思ったが、面倒なことになりそうだったので自粛しておいた。
部員全員が席に着いたのを確認した名塚が、手を叩いて視線を集めた。
「名塚家自慢のシェフが、腕によりをかけて作った夕食ですわ! トレーニングを終えてから三十分以内に食べるのがアスリートの基本です! さあ、どんどん召し上がってくださいませ!」
「「あざーっす! いただきます!」」
部員たちはテーブルの上に並べられた皿に、一斉に手を付け始めた。
「うっま! なんだコレ!?」
おにぎり一個なら三秒で食べられる特技を持つ程、早食いに定評がある雪之丞だ。用意された食事のあまりの美味しさに、周りを驚愕させるペースで食べ物を消化していった。
「そうでしょ? 名塚さんのおかげでこんなに美味しくて健康的な食事ができるもんだから、毎回食事の時間が楽しみでしょうがないのよ」
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