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第二Q ザ・レコード・オブ・ジョーズ・グロウス ~合宿編~
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合宿最終日の練習は午前中で終わる予定だ。
今日の練習メニューは体力作りや基礎練習の多かった昨日までとは異なり、朝から五対五の試合形式中心の練習となった。試合形式の練習ではスタメンチームと補欠チームで戦い、チームプレーの確認をしたり調子の上がっている部員をスタメンチームに起用したりして、色々なパターンを試していた。
何戦か戦った後、時間的に本日最後になるであろう試合前のミーティングで、宇佐美は言った。
「己の弱点を見極め、適切に克服することを本合宿のテーマにする……と、俺が合宿前に告げたことは覚えているか?」
部員たちは皆、深く頷いた。
「最後のゲームは実力が均衡するよう、俺の判断で紅白にチームを振り分けた。スタメンも補欠も、それぞれ慣れた連携プレーには頼れなくなるから個人の実力がはっきり確認できる。合宿中にお前たち一人ひとりが少しでも成長したのか、このゲームで見せてほしい」
決して強い口調で話したわけでも怖い顔をしているわけでもないのに、宇佐美から発せられるプレッシャーは、部員たちの肌を突き刺したように思われた。
「時間は四十分ではなく、十分×二セットで行う。試合に出る五人のメンバーの組み合わせは各チームに任せるが、必ず全員が試合に出るように編成すること。なお、保護者の皆様からアイスの差し入れを頂いた。ハーゲンダッツからガリガリくんまで、種類は豊富だ。勝ったチームから好きなアイスを選んでいいぞ。負けたチームはスクワット百回やってから、余ったアイスを食べることになるな」
宇佐美が少しだけ意地悪な笑みを浮かべると、部員たちの間に戦慄が走った。勝者と敗者の境遇差はまるで天国と地獄である。
赤チームだと指示を受けた雪之丞は、早速同メンバーに声をかけた。
「赤チームの皆さん! 気合入れて頑張りましょう!」
「お、いいねえ鳴海! やる気だけなら白チームより勝ってるな!」
雪之丞の士気に赤チームのメンバーは大方好意的だったが、
「……ちっ、鳴海と一緒かよ」
同じく赤チームになった廉は、雪之丞の顔を見ると露骨に嫌そうな顔をして舌打ちをした。
スタメンでは多田、廉、神谷が一緒のチームだった。多田を中心にチーム内で話し合った結果、勝敗に拘っていこうということで、試合に出るメンバーはスタメン三人を固定させ、残り二人を補欠から交代で出場させていく形を取ることになった。
「鳴海。お前のポジションはPFだ。わかるな?」
多田に言われ、雪之丞は「ウス!」と短く返事をした。敵の白チームには、この二日間まるで歯が立たなかったスタメンPFの岡村がいる。試合に出たらマッチアップしなければならないということだ。
鼓動が速くなっていく。自分が緊張しているのがわかった。何も考えずに動いていた最初の試合をすでに懐かしく感じる。入部してから今まで、これまでの人生で間違いなく一番真剣に打ち込んできたバスケットボール。
もしこの試合で、何も結果を残せなかったら? 今までやってきたことはすべて無駄になるのではないか?
そう考えたとき、感じたことのない恐怖が雪之丞を襲った。真面目に、全力で取り組んできたからこその恐怖。
それは雪之丞にとって未知の感情であった。
怯えるなんて、まるで自分らしくない。雪之丞は恐怖を追い払うように右頬を叩いて、気合を入れ直した。
審判を務める久美子が上げたボールをティップオフし、試合が始まった。赤チームは主に多田を中心としたゲームメイクで、試合運びを試みた。多田は決して目立つタイプのPGではないが、周りを活用するのが上手い選手である。今日もいつものように部員各々が持つ最大の実力を発揮させるために、流れを読んだ指示と敵を乱すドリブルでディフェンスに穴を開け、最適なタイミングでパスを出しチームの得点に貢献した。また、多田は仲間がミスしたときのフォローも上手く、抜群のリーダーシップを発揮していた。
神谷はコート内の誰よりもリバウンドを取るCゆえに、赤チームはリラックスしてシュートを打つことができた。それに神谷はゴール下から高確率でシュートを決めてくれる。安心感を持ってパスを集めることのできる頼れる選手だった。
廉は言わずもがな、美しい個人技を中心に、圧倒的な攻撃力で得点を重ねていった。スタメン三人に引っ張られる形で、交代で入る部員たちも実力以上のプレーをしているように見えた。選手たちが上手く噛み合っている印象を受けたまま、試合は赤チームが六点差をつけてリードしていた。
そんな試合をコートの外で見ていた雪之丞は、深呼吸をしながらイメージトレーニングを行っていた。しかし心臓の音が思考の邪魔をして、なかなか上手くいくイメージを持てなかった。
右の手のひらを開いてみると、震えていた。リラックスしなくてはと思っているのに、抱えていた焦りが緊張という形でわかりやすく体に表れた震えは悪化するばかりだった。
今日の練習メニューは体力作りや基礎練習の多かった昨日までとは異なり、朝から五対五の試合形式中心の練習となった。試合形式の練習ではスタメンチームと補欠チームで戦い、チームプレーの確認をしたり調子の上がっている部員をスタメンチームに起用したりして、色々なパターンを試していた。
何戦か戦った後、時間的に本日最後になるであろう試合前のミーティングで、宇佐美は言った。
「己の弱点を見極め、適切に克服することを本合宿のテーマにする……と、俺が合宿前に告げたことは覚えているか?」
部員たちは皆、深く頷いた。
「最後のゲームは実力が均衡するよう、俺の判断で紅白にチームを振り分けた。スタメンも補欠も、それぞれ慣れた連携プレーには頼れなくなるから個人の実力がはっきり確認できる。合宿中にお前たち一人ひとりが少しでも成長したのか、このゲームで見せてほしい」
決して強い口調で話したわけでも怖い顔をしているわけでもないのに、宇佐美から発せられるプレッシャーは、部員たちの肌を突き刺したように思われた。
「時間は四十分ではなく、十分×二セットで行う。試合に出る五人のメンバーの組み合わせは各チームに任せるが、必ず全員が試合に出るように編成すること。なお、保護者の皆様からアイスの差し入れを頂いた。ハーゲンダッツからガリガリくんまで、種類は豊富だ。勝ったチームから好きなアイスを選んでいいぞ。負けたチームはスクワット百回やってから、余ったアイスを食べることになるな」
宇佐美が少しだけ意地悪な笑みを浮かべると、部員たちの間に戦慄が走った。勝者と敗者の境遇差はまるで天国と地獄である。
赤チームだと指示を受けた雪之丞は、早速同メンバーに声をかけた。
「赤チームの皆さん! 気合入れて頑張りましょう!」
「お、いいねえ鳴海! やる気だけなら白チームより勝ってるな!」
雪之丞の士気に赤チームのメンバーは大方好意的だったが、
「……ちっ、鳴海と一緒かよ」
同じく赤チームになった廉は、雪之丞の顔を見ると露骨に嫌そうな顔をして舌打ちをした。
スタメンでは多田、廉、神谷が一緒のチームだった。多田を中心にチーム内で話し合った結果、勝敗に拘っていこうということで、試合に出るメンバーはスタメン三人を固定させ、残り二人を補欠から交代で出場させていく形を取ることになった。
「鳴海。お前のポジションはPFだ。わかるな?」
多田に言われ、雪之丞は「ウス!」と短く返事をした。敵の白チームには、この二日間まるで歯が立たなかったスタメンPFの岡村がいる。試合に出たらマッチアップしなければならないということだ。
鼓動が速くなっていく。自分が緊張しているのがわかった。何も考えずに動いていた最初の試合をすでに懐かしく感じる。入部してから今まで、これまでの人生で間違いなく一番真剣に打ち込んできたバスケットボール。
もしこの試合で、何も結果を残せなかったら? 今までやってきたことはすべて無駄になるのではないか?
そう考えたとき、感じたことのない恐怖が雪之丞を襲った。真面目に、全力で取り組んできたからこその恐怖。
それは雪之丞にとって未知の感情であった。
怯えるなんて、まるで自分らしくない。雪之丞は恐怖を追い払うように右頬を叩いて、気合を入れ直した。
審判を務める久美子が上げたボールをティップオフし、試合が始まった。赤チームは主に多田を中心としたゲームメイクで、試合運びを試みた。多田は決して目立つタイプのPGではないが、周りを活用するのが上手い選手である。今日もいつものように部員各々が持つ最大の実力を発揮させるために、流れを読んだ指示と敵を乱すドリブルでディフェンスに穴を開け、最適なタイミングでパスを出しチームの得点に貢献した。また、多田は仲間がミスしたときのフォローも上手く、抜群のリーダーシップを発揮していた。
神谷はコート内の誰よりもリバウンドを取るCゆえに、赤チームはリラックスしてシュートを打つことができた。それに神谷はゴール下から高確率でシュートを決めてくれる。安心感を持ってパスを集めることのできる頼れる選手だった。
廉は言わずもがな、美しい個人技を中心に、圧倒的な攻撃力で得点を重ねていった。スタメン三人に引っ張られる形で、交代で入る部員たちも実力以上のプレーをしているように見えた。選手たちが上手く噛み合っている印象を受けたまま、試合は赤チームが六点差をつけてリードしていた。
そんな試合をコートの外で見ていた雪之丞は、深呼吸をしながらイメージトレーニングを行っていた。しかし心臓の音が思考の邪魔をして、なかなか上手くいくイメージを持てなかった。
右の手のひらを開いてみると、震えていた。リラックスしなくてはと思っているのに、抱えていた焦りが緊張という形でわかりやすく体に表れた震えは悪化するばかりだった。
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