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りっと

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第二Q ザ・レコード・オブ・ジョーズ・グロウス ~合宿編~

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 紗綾と別れ一人になった雪之丞は、宿舎へ戻る途中で一つの疑念を抱いた。

「……あれ? 俺、バスケ部の皆に鮫から友達を助けたなんて話したっけか……?」

 記憶を遡って昨夜の様子を思い出そうとしながら宿舎の扉を開くと、

「どこ行ってたんだよ鳴海! 大富豪やるからそこ座れや!」

 岡村が雪之丞の足元にトランプを配り始めた。

「やっと来たか鳴海! これで俺もやっとビリから脱出できる!」

「いやいや、多田より弱い奴なんて、そうそういないからね?」

 トランプをしているメンバーの中には、目を充血させている多田と穏やかに微笑む戸部がいた。コートに入れば鬼のような強さを誇るスタメン陣も、普段はいたって普通の高校生だ。年相応に子どもらしく遊ぶし、思春期らしい恋をしている者もいる。たとえバスケで悲願を達成できなくとも、彼らの青春は振り返ってみたときに胸を張って謳歌したと言えるものになっているに違いない。

「ふっふっふ。俺、大富豪得意っすよ?」

 雪之丞は岡村たちのトランプに参戦し、一緒に興じた。

 この合宿でチームメイトとの仲が深まり、皆がどんな性格をしているのか大分掴めてきた。多田はコートの中ではリーダーシップ溢れる主将だが、コートから出ると熱い性格をからかわれる弄られキャラだということ。

 SGの戸部は物腰柔らかな男であるが、眠くなると異常に機嫌が悪くなるということ。

 PGの岡村はコート内外問わず負けず嫌いで、食事の量すら一番になりたがるということ。

 Cの神谷は口数が少ない男だが、いたずら好きな一面もあるということ。

 しかし唯一、嫌味を言う以外に雪之丞に接触してこない廉だけはまだよくわからなかった。

「あれ? そういえば、廉先輩がいないっすね?」

 ふと宿舎を見渡してみたが、廉の姿は見当たらなかった。

「あいつなら、まだ体育館じゃねえか? 休むことも重要だって何度も言ってんだけど、聞きやしねえ」

 岡村が手札から目を離さずに答えた。

「……昨年の夏、一年生にして廉はすでにスタメンだった。プライドが高くて扱いづらい廉は当時の三年とはよく揉めたんだよ。だけど……人一倍責任感が強くてさ。チームが勝てば自分の手柄だと思うし、チームが負ければ自分のせいだと思い込むんだ。自惚れてるだろ?」

 以前、久美子も同じようなことを言っていた気がする。戸部の言葉に、三年生はまるで手のかかる末っ子を見守る兄のような表情を見せた。

 こんな時間まで練習? エースの廉が? 

 自分の努力不足やバスケに対しての意識の甘さを突きつけられているようで、雪之丞は胸がざわついた。

「……あの、俺ちょっと腹が痛いんでトイレ行ってきます!」

 いてもたってもいられなくなった雪之丞が体育館に向かうと、コートには一人で汗を流している廉の姿があった。何度も何度もストップからのジャンプシュートの練習を繰り返す廉からは、扉付近で見ている雪之丞にまで気迫と集中力が伝わってきた。

「……な? 面倒な奴だろ?」

 雪之丞の後を追いかけてきた多田に、肩を叩かれた。

「……でも、ああいう性格は嫌いじゃないっす」

「俺たち三年はインハイ予選で負けた時点で引退だからさ、鳴海みたいにそう言ってくれる奴がいると安心して廉を任せられるよ。……あいつは生意気で敵を作りやすいけど、誰よりもバスケに真剣なうちのエースだ。だからこそ、適当にバスケに取り組む奴を許そうとしない。……鳴海にキツくあたるのも、まだお前を信じられていないからだと思う。だけど俺たちがお前を理解したように、あいつも近いうちにお前を受け入れると思うから」

 廉のバスケに対する姿勢と努力を知った今、素直に尊敬の意を抱いた。廉は才能に胡座をかくことなく、チームの中で一番練習をしている。実力の根拠ははっきりと示されていたのだ。

 雪之丞の努力は、所詮自己満足の範疇でしかなかった。廉を見ていると心の奥に追いやっていた上達への焦りが沸々と蘇り、雪之丞は心臓を強く握り潰される思いだった。


 就寝時間直前に放置していたスマホを確認すると、今日もまた夏希からメッセージが届いていた。

『さすがのあんたもへばってきた? 元気のでる念でも送ってあげようか?』

 今は夏希に返信する余裕が持てなかった。早く寝て明日の練習に備えるために、急かされるように雪之丞は布団を被って睡眠へと逃げ込んだ。
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