38 / 60
第三Q 生き様を証明せよ
8
しおりを挟む
後方に吹っ飛んだ雪之丞を千原は罵倒した。
「鳴海てめえ! なんだその弱っちい拳はよ!? 俺をナメてんのかあクソが!?」
「……バーカ! お前なんか汚くて舐められるかよ!」
雪之丞はそう返すだけで精一杯だった。憤る気持ちも、負けてたまるかという気持ちもあるのにどうにも拳に力が入らないのだ。
気がつけば一方的な喧嘩となっていた。思うように体を動かせないうえに判断力まで低下していた雪之丞は、喧嘩の立ち振る舞いすらもわからなくなっていたのだ。 再び千原の前蹴りで転ばされると、千原は雪之丞の胸倉を掴んで持ち上げた。
「……こんなてめえを倒しても、なんの意味もねえんだよ!」
千原は血走った目で雪之丞を見下ろし、怒りを露にした。そんな千原とは対照的に、雪之丞は死んだ魚のような感情のない目で千原を見上げた。
「……お前はさ、俺みてえな左手のない男と喧嘩して面白いかよ? さっさとやっちまえよ、クズ野郎が」
雪之丞がそう口にした瞬間、本日最大の一撃を食らった。千原の石頭が雪之丞の額に大きな衝撃を与えると同時に、地面に叩きつけられた。
「俺はなあ! 右手一本しかねえくせに筋の通った喧嘩をしていたてめえをすげえと思った! 本当に強い男だと思ったから、今まで拘ってきた! 絶対倒してやろうと思ってきたんだぞ!? 今更くだらねえこと言ってんじゃねえ!」
感覚神経を通して、脳味噌が受けたダメージは甚大であることを訴えてくる。口の中は血の味がして、体中がひどく痛む。少し前までこれが当たり前の日常だったのに、雪之丞はいつの間にか、自分がスポーツマンとして生活していたことを知った。
体を起こし、馬鹿みたいに拳でしか気持ちを伝えられない不器用な男を見た。千原は額を赤くしながら、雪之丞を睨みつけている。
――右手一本でも前向きにやってきたことは、大吾も紗綾も傷つけていた。
だから雪之丞は、生き方を間違えたのだと思った。人生を否定されたと思った。だけど、そんな自分に拘る人間もいるのだ。
「……左手がなくても、バスケはできるよな?」
「バスケ? 知らねえよ! てめえは右手と頭突きと蹴りだけで、散々俺と喧嘩してきただろうが!」
答えを聞いた雪之丞は、何も言わずに千原に渾身の頭突きをかました。あえて一番ダメージを負っている額で攻撃をしたため、痛みは当然自分にも返ってくる。割れるような痛みに顔を顰めながらも、雪之丞は無理して白い歯を見せた。
「……まさか、お前の言葉に救われるとはね。鳴海雪之丞、一生の不覚だ」
頭突きの余波でまだふらついている千原の腹に膝蹴りを入れ、地面に尻をつかせた。感謝こそすれ、容赦はしない。雪之丞は千原の左頬に抉るようなストレートを入れた。鼻血で千原が咳き込む中、雪之丞は先にやられた仕返しと言わんばかりに、彼の胸倉を片手一本で持ち上げた。
「まあとりあえず、ありがとよ。でも、それとこれとは話が別だ。やられた分はやり返す」
二人はとても青春映画にはなりそうにない、汚い喧嘩を再開したのだった。
「鳴海てめえ! なんだその弱っちい拳はよ!? 俺をナメてんのかあクソが!?」
「……バーカ! お前なんか汚くて舐められるかよ!」
雪之丞はそう返すだけで精一杯だった。憤る気持ちも、負けてたまるかという気持ちもあるのにどうにも拳に力が入らないのだ。
気がつけば一方的な喧嘩となっていた。思うように体を動かせないうえに判断力まで低下していた雪之丞は、喧嘩の立ち振る舞いすらもわからなくなっていたのだ。 再び千原の前蹴りで転ばされると、千原は雪之丞の胸倉を掴んで持ち上げた。
「……こんなてめえを倒しても、なんの意味もねえんだよ!」
千原は血走った目で雪之丞を見下ろし、怒りを露にした。そんな千原とは対照的に、雪之丞は死んだ魚のような感情のない目で千原を見上げた。
「……お前はさ、俺みてえな左手のない男と喧嘩して面白いかよ? さっさとやっちまえよ、クズ野郎が」
雪之丞がそう口にした瞬間、本日最大の一撃を食らった。千原の石頭が雪之丞の額に大きな衝撃を与えると同時に、地面に叩きつけられた。
「俺はなあ! 右手一本しかねえくせに筋の通った喧嘩をしていたてめえをすげえと思った! 本当に強い男だと思ったから、今まで拘ってきた! 絶対倒してやろうと思ってきたんだぞ!? 今更くだらねえこと言ってんじゃねえ!」
感覚神経を通して、脳味噌が受けたダメージは甚大であることを訴えてくる。口の中は血の味がして、体中がひどく痛む。少し前までこれが当たり前の日常だったのに、雪之丞はいつの間にか、自分がスポーツマンとして生活していたことを知った。
体を起こし、馬鹿みたいに拳でしか気持ちを伝えられない不器用な男を見た。千原は額を赤くしながら、雪之丞を睨みつけている。
――右手一本でも前向きにやってきたことは、大吾も紗綾も傷つけていた。
だから雪之丞は、生き方を間違えたのだと思った。人生を否定されたと思った。だけど、そんな自分に拘る人間もいるのだ。
「……左手がなくても、バスケはできるよな?」
「バスケ? 知らねえよ! てめえは右手と頭突きと蹴りだけで、散々俺と喧嘩してきただろうが!」
答えを聞いた雪之丞は、何も言わずに千原に渾身の頭突きをかました。あえて一番ダメージを負っている額で攻撃をしたため、痛みは当然自分にも返ってくる。割れるような痛みに顔を顰めながらも、雪之丞は無理して白い歯を見せた。
「……まさか、お前の言葉に救われるとはね。鳴海雪之丞、一生の不覚だ」
頭突きの余波でまだふらついている千原の腹に膝蹴りを入れ、地面に尻をつかせた。感謝こそすれ、容赦はしない。雪之丞は千原の左頬に抉るようなストレートを入れた。鼻血で千原が咳き込む中、雪之丞は先にやられた仕返しと言わんばかりに、彼の胸倉を片手一本で持ち上げた。
「まあとりあえず、ありがとよ。でも、それとこれとは話が別だ。やられた分はやり返す」
二人はとても青春映画にはなりそうにない、汚い喧嘩を再開したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる