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第三Q 生き様を証明せよ
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千原との喧嘩で負った傷は、頑丈な雪之丞とて一日で治るものではなかった。
翌朝、痛む体を引きずって通学路を歩いていると紗綾に待ち伏せされていた。
「あれ、紗綾先輩? おはようございます」
「おはよう。一緒に学校行こ?」
紗綾と一緒に学校に向かって歩き出すと、多くの視線を浴びることになった。目立たないが美少女である紗綾と、顔を腫らした左手のない雪之丞が一緒にいると、嫌でも注目を浴びてしまうようだ。好奇心で向けられる不躾な視線に紗綾が不快な思いをしないよう、雪之丞は周りを威嚇しながら歩いた。
「……昨夜はありがとう。でもね、やっぱりわたし、ジョーのために何かしたいなって気持ちは変わらなかったの」
やはりそうきたか。責任感が強い彼女のことだ、そう簡単に受け入れてはくれないと思っていたが、なかなかしぶとい。
「いや、だからそういうのはいらないって、言いましたよね?」
「なら、お詫びじゃなくてお礼って考えて欲しい。お願い、なんでも言って。なんでもするから」
「え? な、なんでも……?」
あんなことやこんなことも? 雪之丞の脳内で桃色の想像が働いた。
「……ジョー?」
「あ、いや! 誰もいない教室でとか、そんなこと考えてませんよ!?」
「教室?」
「なんでもないっす!」
紗綾はじっと雪之丞の目を見つめて逸らさない。不埒なことを考えてしまった罪悪感もあり、ついに雪之丞は根負けした。
「……わかりました。じゃあ紗綾先輩には、インハイ予選が始まるまで俺の練習に付き合ってもらいます!」
紗綾は口をぽかんと空けた。
「くっくっく……どうすかこの罰は!? 朝から晩まで俺の監督をするなんて、気が狂いそうになるでしょう? でも嫌とは言わせないっす! 泣いても付き合ってもらいますよ!」
わざとらしい悪役のような口ぶりで突っ込みを待つ雪之丞に対して、紗綾は困ったように呟いた。
「……あの、問題があるんだけど」
「言ってみたまえ」
「別に嫌じゃない場合でも、罰になるの?」
今度は雪之丞がぽかんとする番だった。不意打ちの言葉に反応が遅れてしまったが、
「……うむ、罰だ。精々励みたまえ」
そう言ってニヤリと笑うと、紗綾もまた笑顔を見せてくれた。その表情を見て、やはり彼女には暗い顔や泣き顔よりも断然、笑顔の方が似合っていると思った。
「っていうか、もう性格を変えようとする必要もないですし、もっと昔みたいに感情を顔に出した方がいいっすよ! 今みたいに、楽しいときは笑う! その方が健康的っす!」
「……うん、いきなりは無理かもしれないけど、少しずつそうなるようにしていきたいな……ジョーは今のわたしは、好きじゃない?」
「え? ……いや、俺は……」
もし告白するならば、絶好のフリだった。めったにない好機にすかさず好意を口にしようとした雪之丞だったが、自分の気持ちに引っかかりを覚えて口を閉ざした。
紗綾に惹かれて、バスケを始めた。
バスケで日本一になって紗綾にいいところを見せ、告白しようと頑張ってきた。
だけど今は違う。たとえば紗綾がバスケ部を辞めたとしても、自分はバスケを続けるだろう。今の雪之丞はバスケットボールというスポーツに心から夢中になり、心から愛して、心からの夢を抱いているからだ。
「……俺は、たぶん……」
紗綾に抱いていた恋心はきっと、本物だった。
今も紗綾を可愛いと思うし、また昔みたいに遊びたいし、幸せになってほしいとも思う。
だが遊ぶのは二人っきりでなくても構わないし、自分以外の誰かが彼女を幸せにしてくれるなら、それでいいとも思っている。
だけど、あいつは――。
あいつは俺が、幸せにしてやりたい。
「……ジョー? どうしたの?」
ぼうっとしていた雪之丞は、慌てて返事をした。
「な、なんすか?」
「……ごめんね、変なこと聞いて。それと、その……図々しいかもしれないんだけど、もう一つお願いがあるの……敬語は使わないで、名前で呼んでほしい」
年上の人に敬語を使わないというのは雪之丞の信念に反するものだったが、こんなに可愛らしいお願いをされたら断れない。
「……わかった。んじゃ、ミサ」
「紗綾がいいな」
「我儘だな! ……ったく、今日からまた改めてよろしくな、紗綾!」
雪之丞がそう言うと、紗綾はもう一度可愛らしい笑顔を浮かべた。
翌朝、痛む体を引きずって通学路を歩いていると紗綾に待ち伏せされていた。
「あれ、紗綾先輩? おはようございます」
「おはよう。一緒に学校行こ?」
紗綾と一緒に学校に向かって歩き出すと、多くの視線を浴びることになった。目立たないが美少女である紗綾と、顔を腫らした左手のない雪之丞が一緒にいると、嫌でも注目を浴びてしまうようだ。好奇心で向けられる不躾な視線に紗綾が不快な思いをしないよう、雪之丞は周りを威嚇しながら歩いた。
「……昨夜はありがとう。でもね、やっぱりわたし、ジョーのために何かしたいなって気持ちは変わらなかったの」
やはりそうきたか。責任感が強い彼女のことだ、そう簡単に受け入れてはくれないと思っていたが、なかなかしぶとい。
「いや、だからそういうのはいらないって、言いましたよね?」
「なら、お詫びじゃなくてお礼って考えて欲しい。お願い、なんでも言って。なんでもするから」
「え? な、なんでも……?」
あんなことやこんなことも? 雪之丞の脳内で桃色の想像が働いた。
「……ジョー?」
「あ、いや! 誰もいない教室でとか、そんなこと考えてませんよ!?」
「教室?」
「なんでもないっす!」
紗綾はじっと雪之丞の目を見つめて逸らさない。不埒なことを考えてしまった罪悪感もあり、ついに雪之丞は根負けした。
「……わかりました。じゃあ紗綾先輩には、インハイ予選が始まるまで俺の練習に付き合ってもらいます!」
紗綾は口をぽかんと空けた。
「くっくっく……どうすかこの罰は!? 朝から晩まで俺の監督をするなんて、気が狂いそうになるでしょう? でも嫌とは言わせないっす! 泣いても付き合ってもらいますよ!」
わざとらしい悪役のような口ぶりで突っ込みを待つ雪之丞に対して、紗綾は困ったように呟いた。
「……あの、問題があるんだけど」
「言ってみたまえ」
「別に嫌じゃない場合でも、罰になるの?」
今度は雪之丞がぽかんとする番だった。不意打ちの言葉に反応が遅れてしまったが、
「……うむ、罰だ。精々励みたまえ」
そう言ってニヤリと笑うと、紗綾もまた笑顔を見せてくれた。その表情を見て、やはり彼女には暗い顔や泣き顔よりも断然、笑顔の方が似合っていると思った。
「っていうか、もう性格を変えようとする必要もないですし、もっと昔みたいに感情を顔に出した方がいいっすよ! 今みたいに、楽しいときは笑う! その方が健康的っす!」
「……うん、いきなりは無理かもしれないけど、少しずつそうなるようにしていきたいな……ジョーは今のわたしは、好きじゃない?」
「え? ……いや、俺は……」
もし告白するならば、絶好のフリだった。めったにない好機にすかさず好意を口にしようとした雪之丞だったが、自分の気持ちに引っかかりを覚えて口を閉ざした。
紗綾に惹かれて、バスケを始めた。
バスケで日本一になって紗綾にいいところを見せ、告白しようと頑張ってきた。
だけど今は違う。たとえば紗綾がバスケ部を辞めたとしても、自分はバスケを続けるだろう。今の雪之丞はバスケットボールというスポーツに心から夢中になり、心から愛して、心からの夢を抱いているからだ。
「……俺は、たぶん……」
紗綾に抱いていた恋心はきっと、本物だった。
今も紗綾を可愛いと思うし、また昔みたいに遊びたいし、幸せになってほしいとも思う。
だが遊ぶのは二人っきりでなくても構わないし、自分以外の誰かが彼女を幸せにしてくれるなら、それでいいとも思っている。
だけど、あいつは――。
あいつは俺が、幸せにしてやりたい。
「……ジョー? どうしたの?」
ぼうっとしていた雪之丞は、慌てて返事をした。
「な、なんすか?」
「……ごめんね、変なこと聞いて。それと、その……図々しいかもしれないんだけど、もう一つお願いがあるの……敬語は使わないで、名前で呼んでほしい」
年上の人に敬語を使わないというのは雪之丞の信念に反するものだったが、こんなに可愛らしいお願いをされたら断れない。
「……わかった。んじゃ、ミサ」
「紗綾がいいな」
「我儘だな! ……ったく、今日からまた改めてよろしくな、紗綾!」
雪之丞がそう言うと、紗綾はもう一度可愛らしい笑顔を浮かべた。
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