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第三Q 生き様を証明せよ
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いつの間にか眠ってしまったらしい。瞼を開いた雪之丞が夢と現実の間でぼうっとしていると、自分が何やら柔らかいものに触れていることに気がついた。
「……あ、起きた?」
頭上から降ってくるように聞こえてくる声。ふと頭を動かすと、眼前に夏希の顔があった。
「おはよ。ジョー、めっちゃ気持ち良さそうに寝てたから起こせなくって」
「……うおあ!?」
どうやらあのまま眠りこけてしまった挙句、膝枕までされていたようだ。雪之丞は反射的に飛び跳ね、夏希から距離をとった。
夏希と目が合うと、弱音を吐いて甘えた自分を思い出して瞬時に顔が熱くなった。いくら長い付き合いといっても――いや、長い付き合いだからこそ恥ずかしいのかもしれない。
雪之丞から解放された夏希は立ち上がり、気持ちよさそうに背伸びをした。
「さーてと! あんた超汗臭いし泥とかついてたから、わたしも着替えなくちゃ……って、あはは! なに―? 照れてんの? ジョーのそんな顔見るのって新鮮!」
「……ちっ。なんだよ、そんなに俺をからかうのが楽しいかよ」
ふてくされたように唇を尖らす雪之丞とは対照的に、夏希はなんだかご機嫌だった。
「そうね。やっぱそういうことだったのかって、確信しちゃったからね」
「はあ? どういう意味だよ」
夏希は「さあね」と言ってはぐらかし、鼻歌を歌った。自分ばかり意識するのも悔しくなった雪之丞は、いつも通りの態度で接することに決めた。
「そうだ。夏希、まだ着替えるなよ。ちょっと付き合ってもらう」
「え? 今から?」
「おうよ。ケツは熱いうちに打てって言うだろ?」
「……鉄って言いたいの?」
「……おう。だから俺の代わりに、LINE送っといてくんね?」
今日一日の締めくくりに、雪之丞は固めた決意を一秒でも早く伝えたいと思った少女を呼び出すことにした。
突然の呼び出しにも応じてくれた紗綾は、怪我で腫れている雪之丞の顔を見て目を丸くした。
「……ジョー、どうしたのその顔……?」
「まあ、お気になさらず。決闘を申し込むとかじゃないんでご安心を」
雪之丞は紗綾の連絡先を知っている夏希に頼み、『銀杏公園にきて欲しい』というメッセージを送ってもらったのだ。
「本当は大吾もいればベストなんだけど、あいつとは俺が一対一でケリをつけてくる。だからとりあえず先に、二人に言っておこうと思って」
公園の外灯を背に立つ雪之丞は、夏希と紗綾の顔を交互に見てから、まるでスポットライトを浴びるスター選手さながらに右手を高らかに挙げて宣言した。
「俺はバスケで日本一になる男だ。だからもう喧嘩はしねえ!」
今までは舐められたくない一心で、売られた喧嘩は買ってきた。だが喧嘩をすれば、右手に怪我を負ってしまいバスケに支障が出るかもしれない。
それに雪之丞が喧嘩をすることで、チーム一丸となってインターハイ出場を目指して汗を流しているバスケ部が謹慎処分を受ける可能性もある。勝つために真剣に練習しているチームメイトに、迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
雪之丞は紗綾に近づき、真正面から彼女の色素の薄い瞳を見つめた。
「紗綾先輩。これからはもう、過去のわだかまりはナシでいきましょう。俺は先輩がミサだって知らなかった。大吾がバスケをやっているなんて知らなかった。それでも今、バスケをやっている。それでいいじゃないっすか」
今もなお罪悪感に囚われている紗綾の心を救うために、真っ直ぐな気持ちを伝えた。
しばらくの沈黙を経て、目を伏せていた紗綾がようやく顔を上げた。
「……ごめんなさい。まだ完全に切り替えられない。……今のわたしは、ジョーに償いたいって気持ちばかりで……」
「償うとか、そんなつまんない気持ちで側にいられたくないっすけどね。好きだから一緒にいたいって言われた方が、俺はずっと嬉しいっす」
「……え?」
何の気なしに言った言葉だったが、紗綾の白い頬に朱が散ったのを見て、雪之丞は自分が大胆な発言をしたことに気がついた。
「あ、いや、そういう意味じゃなくて……少しずつでいいので、過去のことは忘れて欲しいってことで、えっと……」
気まずい空気に困惑していると、夏希がわざとらしく咳払いをした。
「……ねえ、わたしの存在を忘れてない?」
「わ、忘れてねーよ!」
紗綾は神妙な顔つきで夏希を見て、申し訳なさそうに呟いた。
「……ごめんね、夏希」
「ううん、謝らないで! わたしはこれから全力でいくつもりだよ。だから、これからはお互い遠慮なしでいこうね!」
夏希は紗綾に向かって爽やかな笑みを浮かべた。二人は目を合わせて何やら心を通わせているように見えるが、彼女たちのやり取りをまるで理解できない雪之丞は不満気に小首を傾げた。
「はあ? おい夏希、どういう意味だよ?」
「さあ? これから頑張らないとなって、思っただけ」
「なんだよそれ。紗綾先輩、教えてください!」
「秘密」
「おいおいおい。俺がふてくされたら大変だぞ? 泣いちゃうぞ?」
「あんたが泣いても可愛くないから効果ないわよ。さ、ミサちゃん帰ろー」
腑に落ちない雪之丞だったが、二人が楽しそうにじゃれあいながら笑い合うのを見て、まあいいかと思った。過去のわだかまりをなくし、これからまた四人で一緒に遊びたい。そんな希望が見えてきたことに、強い喜びを覚えたからだ。
この望みを叶えるためにはあと一人、まだ過去に拘っている男を何とかする必要がある。
昨日よりもずっと美しい星空を見上げながら、雪之丞は気合を入れ直した。
「……あ、起きた?」
頭上から降ってくるように聞こえてくる声。ふと頭を動かすと、眼前に夏希の顔があった。
「おはよ。ジョー、めっちゃ気持ち良さそうに寝てたから起こせなくって」
「……うおあ!?」
どうやらあのまま眠りこけてしまった挙句、膝枕までされていたようだ。雪之丞は反射的に飛び跳ね、夏希から距離をとった。
夏希と目が合うと、弱音を吐いて甘えた自分を思い出して瞬時に顔が熱くなった。いくら長い付き合いといっても――いや、長い付き合いだからこそ恥ずかしいのかもしれない。
雪之丞から解放された夏希は立ち上がり、気持ちよさそうに背伸びをした。
「さーてと! あんた超汗臭いし泥とかついてたから、わたしも着替えなくちゃ……って、あはは! なに―? 照れてんの? ジョーのそんな顔見るのって新鮮!」
「……ちっ。なんだよ、そんなに俺をからかうのが楽しいかよ」
ふてくされたように唇を尖らす雪之丞とは対照的に、夏希はなんだかご機嫌だった。
「そうね。やっぱそういうことだったのかって、確信しちゃったからね」
「はあ? どういう意味だよ」
夏希は「さあね」と言ってはぐらかし、鼻歌を歌った。自分ばかり意識するのも悔しくなった雪之丞は、いつも通りの態度で接することに決めた。
「そうだ。夏希、まだ着替えるなよ。ちょっと付き合ってもらう」
「え? 今から?」
「おうよ。ケツは熱いうちに打てって言うだろ?」
「……鉄って言いたいの?」
「……おう。だから俺の代わりに、LINE送っといてくんね?」
今日一日の締めくくりに、雪之丞は固めた決意を一秒でも早く伝えたいと思った少女を呼び出すことにした。
突然の呼び出しにも応じてくれた紗綾は、怪我で腫れている雪之丞の顔を見て目を丸くした。
「……ジョー、どうしたのその顔……?」
「まあ、お気になさらず。決闘を申し込むとかじゃないんでご安心を」
雪之丞は紗綾の連絡先を知っている夏希に頼み、『銀杏公園にきて欲しい』というメッセージを送ってもらったのだ。
「本当は大吾もいればベストなんだけど、あいつとは俺が一対一でケリをつけてくる。だからとりあえず先に、二人に言っておこうと思って」
公園の外灯を背に立つ雪之丞は、夏希と紗綾の顔を交互に見てから、まるでスポットライトを浴びるスター選手さながらに右手を高らかに挙げて宣言した。
「俺はバスケで日本一になる男だ。だからもう喧嘩はしねえ!」
今までは舐められたくない一心で、売られた喧嘩は買ってきた。だが喧嘩をすれば、右手に怪我を負ってしまいバスケに支障が出るかもしれない。
それに雪之丞が喧嘩をすることで、チーム一丸となってインターハイ出場を目指して汗を流しているバスケ部が謹慎処分を受ける可能性もある。勝つために真剣に練習しているチームメイトに、迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
雪之丞は紗綾に近づき、真正面から彼女の色素の薄い瞳を見つめた。
「紗綾先輩。これからはもう、過去のわだかまりはナシでいきましょう。俺は先輩がミサだって知らなかった。大吾がバスケをやっているなんて知らなかった。それでも今、バスケをやっている。それでいいじゃないっすか」
今もなお罪悪感に囚われている紗綾の心を救うために、真っ直ぐな気持ちを伝えた。
しばらくの沈黙を経て、目を伏せていた紗綾がようやく顔を上げた。
「……ごめんなさい。まだ完全に切り替えられない。……今のわたしは、ジョーに償いたいって気持ちばかりで……」
「償うとか、そんなつまんない気持ちで側にいられたくないっすけどね。好きだから一緒にいたいって言われた方が、俺はずっと嬉しいっす」
「……え?」
何の気なしに言った言葉だったが、紗綾の白い頬に朱が散ったのを見て、雪之丞は自分が大胆な発言をしたことに気がついた。
「あ、いや、そういう意味じゃなくて……少しずつでいいので、過去のことは忘れて欲しいってことで、えっと……」
気まずい空気に困惑していると、夏希がわざとらしく咳払いをした。
「……ねえ、わたしの存在を忘れてない?」
「わ、忘れてねーよ!」
紗綾は神妙な顔つきで夏希を見て、申し訳なさそうに呟いた。
「……ごめんね、夏希」
「ううん、謝らないで! わたしはこれから全力でいくつもりだよ。だから、これからはお互い遠慮なしでいこうね!」
夏希は紗綾に向かって爽やかな笑みを浮かべた。二人は目を合わせて何やら心を通わせているように見えるが、彼女たちのやり取りをまるで理解できない雪之丞は不満気に小首を傾げた。
「はあ? おい夏希、どういう意味だよ?」
「さあ? これから頑張らないとなって、思っただけ」
「なんだよそれ。紗綾先輩、教えてください!」
「秘密」
「おいおいおい。俺がふてくされたら大変だぞ? 泣いちゃうぞ?」
「あんたが泣いても可愛くないから効果ないわよ。さ、ミサちゃん帰ろー」
腑に落ちない雪之丞だったが、二人が楽しそうにじゃれあいながら笑い合うのを見て、まあいいかと思った。過去のわだかまりをなくし、これからまた四人で一緒に遊びたい。そんな希望が見えてきたことに、強い喜びを覚えたからだ。
この望みを叶えるためにはあと一人、まだ過去に拘っている男を何とかする必要がある。
昨日よりもずっと美しい星空を見上げながら、雪之丞は気合を入れ直した。
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